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 塔の上層は、中の者でも滅多に立ち入ることはない。

 そこは星守の為の場所であり、彼女の聖域でもある。だから、外部の者が入れるのは、その手前まで。そのぎりぎりのところに、会談の場は設けられた。

 星守は部屋の最奥のそのまた簾の向こうにいて、顔を見せない。その前には星守補佐が最後の砦であるかのように座っていた。

 向かいには槃瓠が大人しくお座りの体勢をとっている。あれから様子は落ち着いているらしいと、蝋梅は望に話してくれた。自ら呪いを封じるべく、瞑想に耽っているのだとか。

 その槃瓠に、菊花は改まった様子で尋ねた。

「さて槃瓠、檀のことを詳しく聞かせてほしい」

 槃瓠はゆっくりと瞬きをした。辛い記憶もあるだろうが、と補足する菊花に、かぶりを振る。

「旦那さまは、私が杜鵑さまを妻に望んでいることを知った夜、手のものに私を鞭で打ち据えて捨ててくるよう命じました」

 静かな、低い声だった。そこへはもう、怒りは滲んでいない。

「痛みに必死に耐えて、傷も癒えたころ、杜鵑さまが都に行くと風の噂で聞き、私は山で慟哭しました。呪いました。やりようのない思いに暴れ周り、傷が疼き始めたころ、まどろみの中で彼女を見たのです」

 槃瓠は思い起こすように顔を上げ、目を細めた。

「神の御使いのように、彼女は降り立ちました。檀と名乗ったその女は、不思議な力に溢れていて、そしてそれに自分が気圧されているのがわかりました。彼女は言いました。あなたの怒りはもっともだ、私があなたの思いを、叶えてあげる、と。気づけば私の怒りは呪いに姿を変え、膨れ上がっていたのです。意識はほとんどありませんでした。旦那さまに怪我を負わせても満たされなかった私は、杜鵑さまを求めて彷徨いました。しかし、私は既に巨体で目立ちます。討伐隊の矢を受けながら身を潜めていたところ、再びあの声が聞こえたのです。こちらへ、と。暗闇の中、私の足は疾風のようでした。そうして開けた先にあなたがたがいらっしゃったのです」

 菊花は眉間に皺を寄せ、聞き入っていた。思案しているのか、次の言葉が出てこない。

「あれから何かわかったのですか」

 水仙がおそるおそる尋ねると、この最後の砦は大きく息をついた。

「いや、何も。触れた呪いの感覚から、我ら星の神由来でないことはわかる。だが、本体から切り離されてしまっていたから、大元までは辿れなかった。呪いは誰にでも持ちえる力だ。特別なものではない。それこそ人間でもな」

 水仙は横の百合と顔を見合わせた。人間がその抱えた怨念から怨霊や祟りを起こす神となることはままあることだ。

「人間をあたるのは骨が折れるからな。まずは女性神で、槃瓠のいた地の神をあたってみたが、該当はなさそうだった」

「伝承を漁るのでしたら、私たちもお手伝いします」

 見習いたちの言葉に、菊花はようやく眉間の皺を緩めた。


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