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 槃瓠が服従したという一報は、望たちが手当てを受けている間に星守からも、そして伝令の兵からも伝えられた。

 花朝節の参加者たちは、恐怖から解放され、好奇の目を向ける先を今か今かと待ち構えていた。それ以外、することがない。

 兵たちの鎧の金属が触れ合う音が、次第に大きくなる。カポカポとゆっくりとした歩みで馬は人垣の間を進んでいった。

 最も注目を集めるのは勿論、槃瓠とそれを従わせたという第二王子。そして、否応なしにその腕の中にいる人物にも、視線が集中する。主に、同じ年頃の娘たちから。

 ――あれはどなた? なぜあそこに?

 無理もない。しっかりと第二王子の腕に抱かれ、あまつさえそこで眠ることを許されているのだから。変わりなさいよそこ、という心の叫びが口から漏れてしまっても仕方ない。

 不躾な視線は、後方でひとり馬に乗る蘭にも向けられる。蘭は先行する二人にどうということもなく、いつもと変わらぬ様子で馬を進めている。観客のように、嫉妬を見せる様子はない。娘たちは首を傾げた。

 ――攫われた娘を乗せてるだけなんじゃないかしら。

 そう結論づけかけたが。聡い者は状況証拠と噂を結びつける。

 ――でもあれ星冠よ、噂の殿下秘蔵の花じゃないの?

 娘たち、そして子を妃にと目論む親たちは、混乱する。そんな声にも、望は腕に抱えた者の顔を隠すことなく、むしろ堂々と進んでいった。その風格に、感嘆のため息がそこかしこから聞こえた。

 一行は、王の待つ天幕に向かう。中では王とその寵姫が出迎えた。

「よくぞ戻った」

 ちら、と槃瓠に向ける眼差しは冷えたもの。

「あの化け物がこれか。わしらに牙を向けるとは、首を落とされても文句は言えぬぞ」

「恐れながら陛下。花神はかつて晶華建国の折に従えた最大勢力の一族の神と聞いております。それを我ら星神の下につけ、祭祀を掌握することで名実ともに臣下に置いたのだと。その花神の祭祀で処罰を行うのは、愚弄にはなりますまいか。怪我人は出たものの、死者は出ていないと聞いておりますし、何より彼は忠誠を誓っています。陛下であれば温情を与え、徳を示されるものと思い、連れてまいりました」

 ふむ、と王は顎髭を撫でる。横で、ごもっともとでも言うように何度も頷く妃の様子を横目で見た。彼女の体調や機嫌がいいと、彼も嬉しくなる。

「そなたのいうとおりだ。我が徳は怪物や鬼も従えるものである。そなたにも後で褒美をとらせよう」

「今いただけませんか。私が連れてきた娘以外いりませぬ」

 望は天幕の外で百合に預けてきた蝋梅のほうに、目線をやる。事の顛末も、それが誰であるかも、王には報告が行っている。馬上で、自分が選ぶのは彼女なのだと宣言でもするかのように戻ってきたことも。

「頑固者めが。そのように怪物に傷つけられた者など、相応しくない。だいたい、妻の代わりとして取られたのだろう」

 王は不機嫌さを隠そうともしない。しかし望は臆さず返した。

「私は彼と勝負をし、そして勝ちました。つまり彼女は私のものです。そして彼女の負傷は、我らをひとり守ろうとした時のもの。戦場においては勲章となるべきものです。傷を気にされるのであれば、余計にその責任を取るべきではありませんか」

 よく口の回る。そう王は息をついた。脳裏にちらつく星冠を振り払う。

「星守見習いであれば、星守の許可も必要であろう。どちらにしても後にせよ」

 手で追い払うような仕草する王に、望は礼をしてその場を後にした。

 


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