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 母が死んでから、状況は一変した。

 悪い夢ばかり見るのだ。それは怪異に出会うものだったり、自分も含めた誰かを失うものだったりで、泣きながら目を覚ますことも少なくない。魂を分けた兄弟は、さも当然だと言わんばかりに突っぱねた。

「自分だけが、悲しんでいると思うなよ」

 それらが積み重なって、疲弊してゆく。星に縋ったのは、そんな時だった。助けてほしいのは、こちらの方。

 あのか細い手を取ってから、つきものが落ちたように身体は軽くなった。

 ――殿下も、何か恐れているものがありますか。

 ある、とはいえなかった。精一杯の虚勢で。手を繋いでいると思っていた。けれど、本当は繋がれていたのかもしれない。

 朝、うんざりするほど重い頭と心は、彼女に会うことで解消される。

 もっとも、それもしばらくしてから兄に指摘されて気づいたのだが。彼女は意図的にかはわからないが、守ってくれている。

 彼女の言ったとおりだ。俺は自分に利益があるから彼女を手元においている。彼女を閉じ込めていた村人たちと、何ら変わりはない。ただ、決定的に違うのは、胸に身を焦がすような思いが生まれていること。

 あの夜も。一晩共に眠ったあの夜。久しぶりによい夢を見た。苦もなく目を開けると、白い朝日を浴びて、輪郭をきらめかせている彼女がいて。つい、手を伸ばしてその境界に触れる。

「蝋梅」

 吸い寄せられそうになるのを、理性を総動員して止める。早く、早く自分のものにしたい。

 ゆっくりと、瞼が開く。

「殿下、お目覚めですか。よく眠れましたか」

 それは、今まさに目覚めた様子ではなく。

 おそらく、彼女は金華猫を送り込んできた黒幕の存在を危惧して呼んだのだ。すぐに守れるように。

(蝋梅にとって、俺は守るべき人、友人だ。そこを打破しないと、本当の意味では手に入らない)

 “良い夢”は、未だ遠く。


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