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 月が皓々と夜空を照らしている。満月とまではいかないが、ぷっくりと膨らんできたそれは、星よりも大きな存在感で夜空に君臨する。

 昨夜までは、それが緊張感をもたらすものであったが、ひと段落したことで、警戒心は和らいだ。もっとも、あの猫を宮殿へと送り込んだ者は、尻尾すらつかめていないのだが。

 積まれた書類をひと山片付け、望は伸びをする。さすがに今日は疲れた。あまり無理をせずに明日に回そう。そう思って立ち上がろうとすると、扉を叩く者がいた。

「義母上、これは珍しいですね」

 珍客の訪問に、望は姿勢を正す。

 訪問者である王妃・柘榴は、艶やかな宝石のように笑んだ。流行の髪型に編み上げ、流行の衣を纏い、香を漂わせている。彼女とその取り巻きこそが、今の宮殿の流行の最先端であり、ここ数年、その先頭を走ってきた者だ。こんな遅い時間でも、ぬかりはない。

 それは、連れてきた女官も同じだ。そのたゆまぬ努力こそが、彼女を王妃の座に押し上げた。

「遅くまで大変ですね。昨夜、噂の猫を捕まえたばかりだっていうのに」

「ええ、まあくだんの件で滞ってしまった部分がありますので。どうかされましたか」

「ふふふ。これは何でしょう」

「――許可証、ですか」

 見慣れたものだ。星守の塔への立ち入りを王から許可されたもの。望も、日々蝋梅のところへ訪れるのに携帯している。が。

「よく見て、時間のところ。日を跨いでいるの。つまり、お泊りできてしまうというわけ」

 おとまり。

 口の中で反芻して、望は固まる。望の行先など、一ヶ所しかない。

 蝋梅の部屋に。お泊り。

「蝋梅と言ったかしら? 一緒に解決したのでしょう。昼間は政務の補佐で、ねぎらえていないのではなくて?」

 はあ、と半ば上の空で望は返す。既に寝衣の蝋梅が彼の脳内に描かれていた。表情が緩みそうになるのを必死で耐える。

「陛下はそのあたりちょっぴり疎くていらっしゃるから、お願いしてきたの。それに私は、女官たちを統べる者。お礼をすべき立場だわ。彼女たちの不安を取り除いてくれて、そして脅威から守ってくれてありがとう。彼女にも、そう伝えて」

「はい」

 浮かんでくる蝋梅の姿をひとまず置いておいて、望は頷く。許可証を受け取ると、柘榴は淡く笑った。

「愛し合うものたちが共にいられないなんて、おかしいですものね」

(……まだ、そういう仲じゃないんだけどな)

 ひらひらと、衣を軽く翻して出てゆく王妃を見送って、望は許可証に目を落とす。

 今はまだ、これがないと会えない。愛し合っているのだと、胸を張って言えない。早く、早く。胸に焦燥がつのる。星空の中に、溶けてしまいそうなあの姿。それを思うと、許可証を持つ手につい力が入る。それに気づいて、大きく息を吐いた。

 とにかく今は、彼女が待ってくれている。無くさないように丁寧に折りたたむと、懐に入れた。

「……それより、手ぶらでいくのも何か悪いよな。ええと……」

 望が慌てて自室に戻ろうとすると、今度は別の声に呼び止められた。


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