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翌日、宣言通りに菊花は、分厚い教本を手に蝋梅の元を訪れた。体の気の巡りという基礎の基礎から話を始める。ひとしきり座学を終えると、蝋梅はずっと気になっていたことを口にした。
あの呪いは、誰が何のために?
「わからない」
菊花は険しい表情で答えた。
「殿下から移し取ったものであることはわかった。しかし、誰が呪ったものかまでは、わからない。それこそ、呪い返しでもして、相手に反応が出るのを見ない限りはな。しかし、この塔の人間は、悪意ある呪いを禁じられている。地道にはねのけてゆくしかない。もっとも、王族は煌びやかな分、悪意を集めやすい。そういったものの集合体の可能性もある。それは解決のしようがない」
「――あれは、あまり心地のいいものではありません」
だろうな。と菊花は深く息を吐いた。沈黙が、二人の間に流れる。
その間、菊花が蝋梅の星冠を見つめているのが、持ち主である蝋梅にはわかった。その先の言葉を継ぐのを、躊躇っているように見えるのも。しかし、ついに指導教官は口を開いた。
「その星冠、円形ではなく北斗の形をしているのは、何か意味があるのだろう。もしかしたら、破邪に特化していて、我々には感知し得ないものも感じられるのかもしれん。でなくば、未熟なうちから災厄を引き受けることなどできん」
七つだけ。柄杓の形に結ばれた鉱石は、簪のように斜めに浮いている。ここに来て見た他の者の星冠は、光輪に鉱石が散りばめられたものばかりだ。
「そなたのことは、星守様が殿下を占っていた時に見つけた。星はな、いくら発する光が強くとも、遠いものであればあるほどこの場からは見えにくい。未来から届く光だからだ。そしてその輝きや動きは、変わりゆくこともある。それでも、これは殿下にとって意味のある星になると。そう思って自分で見つけてくるように告げたのだそうだ。少しの間でよい。殿下のこと、頼めぬか。つらいことを頼むのかもしれない。けれど」
蝋梅は、言葉の途中で頷く。
「私は、こうすることしか知りませんから」