12
さて名が決まったところで、と星守は目配せする。菊花は即座に立ち上がると、少女を二人連れて戻ってきた。
「水仙、それに百合だ。彼女たちはきみとそう歳が変わらない。共に切磋琢磨するとよい」
そう紹介された二人は、早速蝋梅を自室に案内した。塔の中は、位が高い者の居室が上に上がっていくようになっていて、三人は一番下の階層だった。
「外から来たのね、いらっしゃい」
水仙と名乗った少女は、朗らかに笑う。
「私はここの城下の出。百合は貴族の出なの。だから、もっと遠いところを知らなくて。いろいろ教えて欲しいわ」
そう言われても、蝋梅が知る世界と言えば、小屋の中と災厄の起こる箇所くらいなものだ。しかしそれを知るのは望と星守、そして菊花くらいのものだろう。
蜥蜴の種類でも答えるべきかと口を開きかけると、ついてきていた望が助け舟を出した。
「彼女はここでの暮らしがどんなか知らない。比較のしようがないんだ。慣れてくれば少し思いつくかもしれない」
それもそうですねと、二人は頷く。が、恐る恐る水仙が口を開いた。
「あのう、殿下、申し上げにくいのですが、ここには王族や限られた貴族が許可を受けてからでないと入れないんですよ。ましてや、個人の居室ときたら、いくら殿下でも」
「蝋梅の部屋の入室許可なら、永続的に星守さまからもらったよ。約束したからさ」
「約束?」
「友人になるんだ」
水仙と百合は、望を、蝋梅を見、そして互いに顔を見合わせる。
「友人、ですか……」
「今日はゆっくり休め。また明日来るよ」
そう言って、望は部屋を後にした。扉が閉められ、足音が完全に遠ざかると、百合は困ったように首を傾げる。
「殿下、いいのかしら」
「何かまずいことでも?」
蝋梅が尋ねると、百合はうーんと唸って先を続けた。
「こんなこと言うのは気が引けるんだけど。陛下が星守の塔の関係者から距離を置いてるから、王太子殿下も殿下も、これまで滅多に近寄らなかったのよ」
(それじゃあ余計に、何日もつのかな)
彼の言った、“友人”ごっこは。
星守の命である以上、また連れてきてしまった手前、何日かは来るだろう。けれど。煌びやかな宮殿。ちらと見えた豪奢な以上の女官たち。その中に混じった小石に、それほど価値を見出せるだろうか。しかも、足の遠ざかっていた場所で。
蝋梅は息をついた。これまで小屋に閉じ込められていた生活とは、何もかもが違う。水仙はそれを察したようで、
「私たちも、続きは明日にしましょう。ちょっと疲れてるみたいだし」
と、軽く室内を案内して去っていった。