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7.まずは財産



財産を増やすには、色々な方法が考えられる。


ミレーニアは、まだ6歳だが、前世の記憶はたっぷりある。とはいえ、勝手に外に出る事のできる年ではないし、拉致未遂事件以降、監視が厳しい。


そこで考えたのは、何処でもできる執筆だ。

この国で、最近人気のある小説ジャンルは英雄物と恋愛物。

ミレーニアは、ルイジェリアの頃、彼を題材にした小説が大当りしたことを覚えている。

大当りした原因は、実物が居た為でもあるが、あれは物語として読んでも面白かった。


「ユーステア、お前、ルイジェリアを主役にして書いた小説を覚えているか?」

「勿論です。私の愛読書でしたから。」

「あれは、この世界でも人気になると思うか?」

「思います。」

「私は、あれをこの世界で出版しようと思う。」

「真似て書くんですか?」

「いや、そのまま一言一句変えずに本にする。」

「それ、盗作ですよね?」

「作家本人がいないのに、誰が盗作だと訴えるんだ?」

「あ、そうですね。」

「だろう?」

「さすがです!」

「私が書くから、お前は、出版元に売りこめ。」


私達は、お互いの目を見て頷くと、役割を果たすべく、働いた。

私は、昔から記憶力が良い。見たものをそのまま覚えるのが特技だった。それが役に立つ。


私は、記憶のままにペンを走らせ、ユーステアは、それを目をつけておいた出版元に売り込んだ。

予定通り、小説は、大人気。舞台化までされる人気となった。



「意外に簡単だったな。」

「そうですね。2作目はどうしますか?」

「次か?」

「恋愛小説は、どうですか?」

「6歳児が書くのか?」

「英雄ものだってそうでしょう?」

「うーん。」


少し考えてみると返して、記憶の底を探ってみた。

妻の愛読書は恋愛小説ばかりだったし、私は戦術書と魔導書ばかり読んでいた。

たまに人気の本だと妻に勧められて読んだ本は甘ったるくて、恥ずかしくなるようなもので、周りには、その本を見習って欲しいという奥方様の気持ちです、等と言われたのも、今では懐かしい。


そう考えると、魔導書が売れるかと言うと、微妙かもしれない。専門書なので、一部の人間には、貴重な書物となるだろうが、そういう書物は、書いた人間の素性を明らかにしないと売れないものだ。


ここは、恥ずかしさを我慢して、やはり恋愛小説を書くべきだろうか?



******



ルイジェリア様の一代記が、またこの世界で読めた事にユーステア、いや、ターニャは、万感の思いだった。


憧れて、憧れて、必死に腕を磨き、戦功をあげ、何度も死にかけながらも、頑張って、お側に近づいた。

ルイジェリア様に何処までもついて行きたいと思う人間は山のようで、負けないように日々腕を磨き続けた。


ルイジェリア様の本は、毎晩寝る前に繰り返し読んだので、ボロボロになり、何度も買い換えた。


亡くなった時は、信じられなくて、自死しようとして、奥方様に止められた。生きていたくなかった。

自分の目指す目標を失って、どう生きていいのか分からなかったのだ。


その後、ある村で、子どもを魔物から守って、相打ちで倒して死んでしまったが、未練は何も無かった。

そのせいだろうか、次の生でも何となくやりがいも無くて、何に対しても興味を持てなかった。


事故で死んで、また新しい生を始めた時は、神を呪った。だが、今は、毎晩神に感謝を捧げている。

昔の英雄としてのルイジェリア様ではなく、ミレーニア様という幼い少女の姿であっても、お側にいるだけで、幸せになれる。


今世は、絶対に自分より先に死なせはしないと、心に誓うユーステアだった。



******



ルイジェリアの小説を持ち込んだ出版元から、新作の催促が来ているとユーステアから伝えられた。


「そうは言うが、何を書けば良いのだろうか?」

「そうですね。あれ、あれはどうですか?」

「あれとは何だ?」

「シルバードラゴンの物語です。」

「ああ。」


かつての世界には、魔物が跋扈し、殆どの人間は一生に一度も目にすることはなかったが、ドラゴンも存在した。


シルバードラゴンの物語とは、あの世界で絵本にもなるお伽噺だ。シルバードラゴンと、ある一人の少年の出会いと触れ合いの物語。


子供の頃、大好きだった絵本だ。ドラゴンがかっこよくて、少年が羨ましくて、自分もドラゴンに会いたいと憧れたものだった。

ただ、絵本には描かれなかった少年の身の上は、詳しく書かれた原作小説では、悲惨なものだった。



口減らしで山に捨てられた少年が、山で小さな羽の生えた生き物を見つける。酷く怪我をしているその生き物は少年を警戒して彼に噛み付くのだが、彼は噛みつかれてもその生き物を自分の服を裂いて手当してやるのだ。


彼が捨てられた時に持っていたものは、一切れのパンと、小さな水筒の水だけ。


少年はそれをその生き物に与えて、手当する。二日たち、生き物は、元気を取り戻し、彼から去って行く。

そして、少年は食べるものも飲むものも無く、山を進むが、力尽きて倒れてしまう。


その姿を生き物は、木の上からずっと見ていて、倒れた少年を自分の住処に連れて行き、それから一人と一匹の暮らしが始まる。


生き物は、シルバードラゴンで、少年に剣を教え、生きる術を与えた。大人になった少年は、自分の住んでいた村が魔物に襲われそうになっている事を知る。


「お前を捨てた人間の村をどうして救おうとするんだ?魔物は強い。お前が死んでしまうかもしれないのに。」


そういうドラゴンに、青年は笑って答える。


「捨てたのは仕方がなかったからだ。僕は恨んだ事など無いよ。それに捨てられなかったら、あなたに会えなかった。感謝しているぐらいだ。」


青年は、ドラゴンに別れを告げて、村に戻り、魔物と戦った。最後の魔物を死力を尽くして倒した時、ドラゴンが迎えに来て、息絶えそうなのに、幸せそうに微笑む青年を連れて、飛び去っていく。



その最後の挿絵が、とても綺麗で、切なかった。


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