6.素敵な贈り物
レイモンド王子がお見舞いに来るという先触れが届いたのは、昨日。
今朝は、早くから起きて、身支度を整えた。薔薇で作ったリボンが可愛らしくてアクセントになっている。
ちなみにこのリボンは兄様の手作りで、指先の器用さを育てる為に必要なのだそうだ。
執事が案内してきたレイモンドは、冬なのに腕いっぱいの薔薇の花束を抱えていた。
「見舞いだ。」
「ありがとうございます。凄く綺麗です。」
「我が温室の花だ。」
王子様専用の温室があるらしい。さすがは王室だと感心してしまった。
「それからこれは、お守りだ。身につけていろ。」
レイモンド王子が取り出したのは、木を象ったペンダントで、木の実のように小さい石が飾られている。
色は様々で、同じ色は一つもなかった。
「殿下、凄く綺麗です。」
「名前で、」
「はい?」
「我々は婚約者なのだから、名前で呼び合おう。」
すっかり興味のない王子からの提案に、私の気持ちは引いているが、逆らう訳にもいかない。
「で、では、レイモンド様。」
「レイでも、良いぞ。」
いきなりの愛称呼び?無理無理無理!!
「あ、でも……」
「ならば、敬称無しのレイモンドで良い。ミレーニア。」
「はい。レイモンド。」
「うん。」
レイモンドが帰った後、ミレーニアは、貰ったペンダントをじっと見ていた。
「可愛いペンダントですね。」
確かに見た目はミレーニアに似合いそうな可愛らしさだ。ユーステアもそう思ったから、言ったのだろうが……
これはなかなか凄い。小さい石だが、これだけの数の石を揃えるのは大変だったろう。
見た目は石だが、これは魔法石。自分の魔力を石のように固めたものだ。その魔力に魔法を付加する事ができる。
誰かに作らせたのだろうが、もしあの王子が作ったとしたら、彼は魔法の天才だろう。私でも作れたのは10歳を越してからだった。
そう言えば、以前彼に絵本を貰ったことがある。可愛らしい絵が描かれていて、今でも書棚に残してあるが、あれも手作りだった。まさかな……。
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レイモンドは、帰りの馬車の中で、ミレーニアが自分の事をレイモンドと呼んでくれた声を思い出しながら、幸せな気分に浸っていた。
彼女に渡したペンダントは、誕生日プレゼントにと、一年前からコツコツ作ってきたものだった。
小さい石の色も考えながら作るのは楽しかった。小さいので、魔法の制限回数は低いが、2回魔法攻撃を防ぐ。2回物理攻撃を防ぐ。2回毒を浄化する。などなど、身を守るために必要な魔法を詰め込んだ。
土台の木の部分も宝石職人を城に招き、1ヶ月かけて作った自信作だ。
「今度はもう少し大きい物を作れるようになりたいな。次は髪飾りはどうだろう。ねぇ、リンク、どう思う?」
向かい側に座る侍従に問いかけると、残念そうな顔を返された。
「ドルイド令嬢を前にしても、それぐらいお話しできるようになると良いですね。」
「仕方ないだろ?ミレーニアは可愛すぎるんだ。」
「はあ。」
「私だって、もっと話をしたいと思っている。」
「このままでは誤解されますよ。」
「誤解?」
「嫌われていると。」
「まさか!心を込めた贈り物もしている。」
「あぁ、年齢不相応の手作りの品ですね。」
「そうだ。」
「殿下の手作りとはお考えにならないと思います。」
「……そうなのか?」
「普通はそうです。」
あんなに精巧なものを10歳に満たない、それも王子が手作りすると、誰が考えると思うだろう。
全く、この人は……。
「でも、私は、私が作ったものをあげたいのだ。」
「それを悪いとは言いません。ただお渡しになる時、手作りだとお伝えした方がよろしいかと。」
「そ、それは、恥ずかしいではないか。」
真っ赤になる王子が可愛いとは思うのだが、何とも残念な方だという気持ちが大きい。リンクは、ドルイド子息に今度こっそりと、後押しをお願いせねばと思った。
「殿下、男たるもの、もっと意志を強く持たねばなりません。分かりますね?」
「そうだな。お前の言う通りだ。」
「分かっていただけて良かったです。」
良かった。言えば分かって頂ける。この方は賢い方なのだからと、リンクは、胸を撫で下ろした。
そして、レイモンドは……
そうだな。リンクの言う通りだ。自分の実力ではここまでと諦めてはならなかった。
もっと、もっと良いものを作ってミレーニアに捧げなくては。
もっと高みを目指さねば。リンク、お前の言う通りだ。
意志を強く持ち、妥協しないようにする。
忠告をありがとう。
と、思っていた。
リンクの気持ちが届いていないことは、どちらも気づかないまま、夜は更けていった。