1.英雄は、令嬢に生まれ変わる
新作始めました。なるべく毎日更新したいと思います。
よろしくお願いします。
彼は、リュンデブルム王国の第2王子として生まれた。
母親の身分こそ高くは無いが、文にも武にも恵まれ、大切に育てられてきた。
その彼の運命が変わったのは、15の時。3歳上の王太子である兄が流行病で急逝し、ついで父王も亡くなった。
そんなリュンデブルム王国を周辺国が狙うのは当然で、国境では、小競り合いが続いた。
そんな中、彼は彼を支持する仲間と共に立ち上がり、動揺する貴族達を抑え、国の根幹を建て直し、ついには、リュンデブルムを狙う周辺三国を倒して、リュンデブルム帝国を興した。
彼が22歳の時だ。国境を守り、更に領土を広げた彼を人々は英雄と讃えた。
彼は政治を皇帝中心から、議会中心へと変えるなど、様々な改革を打ち出した。
そして、45歳で彼は短い一生を閉じた。
******
「はっ!」
心静かに死んだはずなのに、ベッドの中で目を覚ました。見覚えの無い部屋である事に戸惑いを覚える。
確か、狩りに出かけて、足を滑らせたはずだが、ここは何処だろう?
何処かの宿に運ばれたか?
とりあえず、部屋の外に出てみようとベッドを降りようとして、
「よいちょ。」
と、声が出てしまった。
よいちょ?なんだ?妙に声が高いし、床に足が届かない。無理をしたら、ドタッと床に頭から落ちてしまった。
慌てて人が入ってきて、体を支えてくれた。
「ミレーニア様、お怪我はありませんか?」
ミレーニア?自分の名前は、ルイジェリアなのだが?
入ってきたほっそりした侍女に抱えあげられて、ベッドに戻され、自分が別の者になっている事を認識した。
「わたち、なんちゃい?」
何故かまともに喋ることもできない。
「あら、ミレーニア様は、おふたつですよ。」
「ふたちゅ?」
「そうです。」
「ミレーニア?」
「そうですね。さあ、もう少しお休みください。まだお熱がやっと下がったばかりですよ。」
「ミレーニア、おねちゅ?」
「はい。目が覚めた事をお母様にお伝えして参ります。ゆっくりお休みください。」
布団の上をポンポンとして、侍女は部屋を出て行った。
自分はどうやら2歳児の女の子らしい。元の自分は死んだのだろうなぁ。かなり痛かった記憶がある。
その後、泣き濡れた母親らしき女性と涙を滲ませる男性が現れ、私を抱きしめて泣き出した。
話の感じでは、高熱で危うかったらしい。
中年男の意識が残ってしまっているのは、神の悪戯なのだろうか。
*****
周りの話に耳を傾けていたら、自分の置かれている立場が、段々と分かってきた。
名前は、ミレーニア・ドルイド。侯爵家の長女で、ひとつ違いの兄様がいる。雨の中、庭を走り回った挙句、肺炎を起こして死にかけたらしい。中々のお転婆だ。
現在2歳。
試してみたら、魔法の素養はありそうだった。ありがたい。前世では、魔法剣士として戦ってきたので、その戦闘スタイルは維持したい所だ。
今の懸念事項は、幼女の体に、前世と合わせて47歳の男が入っている点だろう。まあ、まだ2歳なので、徐々に慣れるとは思うが、そう、思うのだが、今、心配しても仕方がないのだが、男性と結婚するのが可能なのだろうか?
ちょっと自信が無い……。
あと、考え方が分別臭い。やはり外と中との45歳ギャップは、大きい。早く育ちたいが、中年になりたいわけじゃない。今回は、国を守らなければならないという責任感を持つ必要がないのだから、人生を楽しみたいじゃないか。
とりあえず、幼女生活を立派に過ごそう。
私は、握りにくいペンを握りしめて、今後のスケジュールを書き上げようとした。
そして、当然、しくじった。
誰も幼児にペンを持たせてはくれないし、先のついていないペンを貸してもらっても上手く握れなかったのだ。
さて、この幼女だが、なかなかに可愛い。ふわふわと柔らかくて少し癖のある金髪、湖の底のような青いまあるい瞳。
将来は美人間違いなしだ。
今はぷよぷよのほっぺたは、自分で触っても気持ちがいい。時折、母様や父様が頬ずりしてくれるのだが、楽しくて、キャッキャと笑ってしまう。
ひとつ違いの兄様は、父様のように私を抱き上げるのが目標だそうだが、今は無理なので、悔しそうにギュッと抱きしめてくれる。それも嬉しくて、やはりキャッキャと喜んでしまう自分が少し不思議だ。
どうやら精神が外観に引きずられているようだ。
順調に育っていった5歳の誕生日に、私を衝撃的な出来事が襲った。
誕生日の朝、父様が1人の少女を連れて来た。
16歳だと言うその少女は、騎士服を身につけ、腰に細身の剣を帯びていた。
「ミレーニア、お前の専属騎士だよ。」
「私の専属?」
「そうさ。これから外出する事もあるだろう。そういう時は、必ず彼女を連れて行くようにね。」
「今の騎士様達は?」
そう、既に私を護る騎士達が何人もいる。夜も私の部屋の前で警護をしてくれている。
これ以上、必要無いように思うのだ。
勿論、育てば魔剣士としての前世の実力で、護衛は不要になるだろう。
「勿論、彼らも今まで通り勤めを果たすよ。」
「じゃあ、どうして?」
「それはね、お前の婚約者が決まったからだ。」