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魔女の切望

作者: ミント

「と、とにかく、お主の村で一番顔の整った男を連れてこい! 話はそれからじゃ! 」


 魔女は怒り狂った様子でカヌイを怒鳴りつけた。


 魔女がどうしてカヌイを怒鳴りつけるまでに至ったのか、時は遡る。



 むかしむかしある村に、カヌイというブッサイクな少年がいた。


 とある夏の暑い日、カヌイの住む小さな村では物凄く悪質な病が流行した。


 その病は当時の医療技術では治療する術がなく、村の人達は次々と倒れてしまった。


 数日経つと100人近くいた村の人口は20人まで減り、歩ける者は遂に1人だけとなった。


 その病気になっても歩ける者こそが、カヌイである。


 カヌイは村のみんなを助けるべく、村近くの洞窟の奥に住んでいると噂の魔女に会いに出かけた。


 暗い洞窟にロウソクもなしに入ったカヌイは、その無駄に高い運動能力とサバイバル能力のおかげでなんとか洞窟の奥まで辿り着くことができた。


 そこには噂通り、魔女の家らしき小屋があった。


「ごめんください」


 カヌイが玄関に向かって声を掛けると、小屋の中から「入りなさい」と声が聞こえた。


「お邪魔しまぁす」


 カヌイは遠慮なく扉を開け、中に入る。


 中に入ると、白髪の汚い黒ローブを羽織った老婆が立っていた。


 老婆は飄々とした態度で部屋に入るカヌイに対し、訝しげな表情を浮かべ、


「こんなところへ何用じゃ? 」


「はい、実は村で病が流行ってまして。貴方に助けて欲しくて来たのです」


「ほう」


 カヌイの話を聞き、額に青筋を浮かべて怪訝な表情をする魔女。


「それで終わりか? 」


「え? あ、はい」


「そうか」


 魔女は呆れ混じりにため息を吐き、


「帰っておくれ」


「な、何故ですか! 」


「お主が気に入らん」


「そ、そんなぁ……」


 直球な言葉で非難されたカヌイは、目に見えてわかりやすく落ち込んだ。


 そんなカヌイに魔女は少し戸惑いつつ、


「お主の話はなんというかその、自分勝手すぎるのじゃ」


「えっと、それはどういう……」


 本気で分からないと言った顔のカヌイ。そんなカヌイに気後れした魔女は曖昧な態度で、


「こんな事を本当は言いたくはなのじゃがな……その、お主の村を助けても、わ、わしに得が一つもないじゃろう? 」


「な……! 」


 カヌイはこの世の悪を初めて見たかのような、純粋な驚きの面様で魔女を見つめ、


「それでも人間ですか!? 」


「わしゃ魔女だよ! 」


「ま、まじょ!! 」


 ひえぇ……マジョ、コワイ。


 カヌイは部屋の隅で縮こまってしまった。


「何故わしがその様な目で見られんとならんのじゃ! おかしいであろう! 」


「ひぃぃ」


 ブルブルと震え、親指の爪を噛むカヌイ。


 そんなカヌイの様子を見ると、まるで自分が悪人に仕立て上げられたような気分になり、ますます腹が立ってくる魔女。


 しかし、このままでは村に魔女の悪名を広められかねない。そう考えた魔女は努めて優しい笑顔を作り、


「その、別にお金とかそういうのをよこせと言っている訳ではないのじゃよ? ただわしのささやかな願いを叶えてくれば、それだけで良いのじゃ」


「そ、それは一体どういったものでしょう……? 」


「そうじゃな。たとえば、男……とか」


「男を食べるのですか!? 」


「違うわ! わしはずっと1人でここにおったから、顔の整った男とお話しして癒されたいだけで……」


「村を助ける為に、男を差し出せとは……! なんて凶悪な……」


「わしの話を聞かんか! 」


「ひいぃ」


 男を食べる凶悪な魔女の言葉にカヌイは聞く耳を持たず、色々な妄想を膨らませて萎縮してしまった。


「と、とにかく、お主の村で一番顔の整った男を連れてこい! 話はそれからじゃ! 」


 魔女は怒り狂った様子でカヌイを怒鳴りつけた。


「えっと……その……」


 魔女の言葉を理解することができたカヌイは恐る恐る顔を上げ、


「村で一番顔が整った男は病で動けないので、連れてくる事はできないのです」


「な、なんと……」


 病を治さないと望みが叶わないと知った魔女は、押し黙ってしまう。


 正直、先に男を愛でたい。10年以上もの間、人と会話をしてこなかったので結構我慢の限界だったのだ。


 けれど仕方ない、村に行って病を治した後で男を愛でるか……いいや待てよ。


 もしその男がブサイクだったらどうしよう。


 「……」


 それはなんというか、治し損ではないか……?


「に、2番目も連れて来れぬのか? 」


「あ、2番目なら大丈夫です」


「そうか! ……ゴホン、なら連れてこい」


 カヌイの言葉に嬉しくなって思わず歓喜の声をあげてしまったのを少し恥ずかしく思い、軽く咳払いをして誤魔化す魔女。


 そんな魔女にカヌイは自慢げな顔で、


「……というのも実は、私が2番目なのです」


「な、なんじゃと……? 」


 魔女は新しい魔法術式を発見した時よりも驚いた後、品定めをするようにマジマジとカヌイを見つめ、


「ふむ、話はここまでじゃ。帰っておくれ」


「そ、そんなぁ。何故ですか! 」


 地べたを這いずり魔女にしがみついて問い掛けるカヌイ。


「知らん! 鏡に聞け! 」


「まさか、鏡は話ができるのですか? 」


「あぁ、すぐに答えをくれるじゃろう」


「わかりました! 帰って病の治し方を聞いてみます! 」


 そう言って、快活にカヌイは帰っていった。


 魔女は鏡を見つめる。


「わしは今日も美しい……」


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