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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そっと吐き出した煙の先に

作者: すのどろ

こちらでは初めて投稿します。

もしよろしければ、読んでみてください。

今日も今日とて出社。車の窓を少し開け、吸い込んだ煙を吐き出した。車からの景色は瞬く間に移り変わり、まわりの車を置き去りにして行く。しれっと灰を外に捨て、再び吸う。


「はぁ、うめぇなぁ、タバコ」


そっと呟いた声は風に掻き消された。

ウィンカーを出し、車線変更。車と車の間を縫うように走らせ、タバコと共に快感を得る。遅刻の事実を忘れるかのようにタバコを吸い、およそ30分の道のりをその半分程度で走破する。少々、いやかなりかもしれないが車を乱雑に止め、スマホとカギだけをポケットに、タイムカードの所までダッシュ。ギリギリ7時になる前にタイムカードをきれたが、1時間半の遅刻。

自分が悪いとはいえ、憂鬱な気分になりながら課長のところまで走り、深々と頭を下げる。


「すみませんでした!」


「ハハ、早かったね。次は気をつけてね」


笑いながら許してくれたが、おそらく次はないだろう。

再び走って担当の場所へ行き、他の先輩にも頭を下げる。

他の人も笑いながら許してくれた。

先輩で1つ下の友達……と呼べるかは分からないが、その人からは、凄い心配していたとのこと。

最初はこう言ってくれても、4を超えると、またか……となるので注意しなければならない。

1度も遅刻しちゃいけない、なんてことはおいといて。



雰囲気は温かいが、夏と冬の2季しかないのがこの職場の何点らしい。まだ冬を経験してないので、先輩からの話を聞いて判断するしかないのだが、おそらく、40度越えが当たり前の夏の真逆でクソ寒いのだろう。先輩はよく環境手当が欲しいと言っている。

まぁ、工事現場よりはマシかもしれないけど。



同じことの繰り返しな職場なだけあって、早い人は俺の倍くらいのスピードで終わらせていく。まぁ、先月入ったばかりの新人ではあるのでまだまだこれから……だと思う。思いたい。


「今日も暑いですね、早く空きになりませんかね」


先程の友達(?)である芳田さんに愚痴るかのように言われた。


「前の職場も油使ってて暑かったんですけど、ここは予想以上に凄いですね……。ここまでとは思いませんでした。」


そんな7月中旬のある日のこと。


遅刻した時間分伸び、16時。仕事が終わった。いや、終わったというと語弊がある。遅番の人に残りを任せ、先に上がる。帰り支度を整えて外で一服して帰るともう17時。明日の事を考えると、もう2、3時間もすれば寝なくてはならない。のだが、なんとなく寝れない気がして、明日も遅刻したらどうしようかと思うと、余計に寝れそうにない。


「公園で風に当たってくるか」


そう呟くと、タバコと財布、スマホを持って、歩いて数十秒の公園に向かう。近くの自販機でジュースを買い、ベンチに腰をかける。


「あー、どうすればこの遅刻癖治るかなぁ……」


はぁ、と重いため息1つ、煙と共に吐き出し、横になる。

同棲してくれる彼女なり、シェアハウスしてくれる友達なりいれば起こしてくれるかもしれん。などと馬鹿なことを思いながら目を閉じる。

前の職場のこと、これからのことを考えると嫌になる。

金が欲しい。

彼女が欲しい。

人間不信を治したい。

遅刻癖を治したい。

時間が足りない。

助けて欲しい。

疲れた。もう嫌だ。

死にたい。消えてしまいたい。

怖い、恐い、この負の渦から救い出して欲しい。

涙が一筋零れた。

たかが21歳の分際で何を……と思うかもしれないが、それが俺だ。どうしようもない、何も出来ない、そんな想いを涙とタバコにのせ、起き上がる。

が、ゴツンとおでこに何か硬いものが当たった。

まわりを見渡しても、近くには何も無い。


「いったぁ」


聞こえてきた声に、下を向くと、ちょっと古いような制服を着た、おそらく女子高生であろう子が頭をおさえて蹲っていた。髪は黒く、多少ボサボサしているものの、整えれば綺麗かもしれない。


「あー、えーと、すまない、大丈夫だろうか」


超えを掛けても、うぅ、と唸りながら頭を抱えて蹲るだけで、なんの返答もない。

女子への免疫のない俺には、これ以上なんて声をかければいいのか分からない。少しわたわたしながら「えー、あー」と口にし、おそらくうるさかったのだろう、頭を抱えた女子高生が、顔半分を膝に隠し、俺を睨んでいた。


「……えーと」


「痛いです。慰謝料払ってください」


「いや、えぇ……そこにいる方が悪いんじゃ……」


「ダメです。女の子の顔に傷がついたんですよ?」


頭と頭がぶつかったくらいで、余程の石頭じゃない限りは傷なんてつかないだろうし、事実、傷ついているようにはみえない。だが、それを言ってはいけないのだろう。


「金ないからラーメンでいいか」


「いえ、私を貴方の家に住まわせて頂ければそれで結構です」


何をとんでもないことを言い出すのだろうか、この子は。

見ず知らずの男の家に上がりこもうとするなんて……家出少女だろうか。

そんなのラノベでしかみたことも聞いたこともないんだが。しかも、こんな温かい地域で。


「なに、家出でもしたの?」


「まぁ、そんな感じです」


「親との喧嘩なら送ってやるから帰れ」


そう口に出したことをすぐに後悔した。少女がその目に光るものをみせた上に、顔を酷く歪ませていたからだ。


「喧嘩なら良かったです」


体罰、だろうか。こんなこと、あるんだな。たぶんそれが本当なのだろう。いや、本当かどうかは嘘をついた。他人なんざ知らん。


「家に住まわせて頂くんですし、事情は話さないとですよね……」


え、家に来るのは確定なの?と思いながらも、少女は涙声で話し出した。


「私は、物心ついた時から両親に体罰を受けて育ってきました。小2の頃、その両親が事故で死んで、私は心底喜びました。天罰がくだったんだ、と。それから親戚の家に預けられたのですが……」


「そこでも、か。友達や先生、警察には?」


「無理ですよ。友達なんていませんし、大人なんて信用できません」


いや、俺も大人なんだけど……と口に出しそうになったが、寸前で留めた。口は災いの元だからな、うん。


「もう、こんな運命なのかな……」


とめどなく溢れる涙。

こんな時、抱きしめるなり慰めるなりすればいいんだろうが、俺はそれを躊躇した。

単純に怖かったのと、俺が抱きしめたところで……って感じで。


「君がそう思うのならそうなのだろう。だが、早いうちに大きな不幸になれば、それに値する幸福がやってくると思わなければやっていけない、生きていけない。つか自殺しようとは思わなかったのか?」


俺が言えたものではないが、死は楽になれる。


「そう思ってここまでやってきましたけど、もう、限界でした……。自殺も、何度も試みましたが、怖くて、ダメでした……」


月明かりに照らされた彼女の表情は、今思うことではないと分かってはいても、とても綺麗で美しかった。

高校時代好きで、今でもたまに想う少女が霞んでしまうほどに。


「まぁ、事情は分かった。暫く、気の済むまで家に居るといい。その代わりと言っちゃなんだが、家事でもしてくれるとありがたい」


下心がないと言えば嘘になる。でも、俺はこの少女を放ってはおけなかった。ほんの1部だけ、ほんの欠片ほどなら気持ちが分かるから、というのもあるのかもしれない。


「ありがとうございます。家事をしろというならお任せください。それでも足りなければ、私を好きにして頂いても構いません」


そうして、俺と家出少女の突然な同棲モドキが始まった。




「あ、私は月那と言います。氷杜月那」


何故俺なのか、何故許可したのかは自分でも分からないが、月那の笑顔はとても輝いていて、少し寂しそうだった。


ちなみに、俺のアパートに来た瞬間、「え、きたな」と言われたのはまた別の話。


「ところで、なんて呼べばいいですか?ご主人様」


メイド服の購入を検討しておこうか。

面白かったらブックマークと相応の星評価、どこが良くてどこがダメかの感想など、頂けると嬉しいです。


それなりに人気が出れば続きを書きたいと思います。

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