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二十年後<映画・演劇脚本>

作者: 三雲倫之助

遊び人・正和が生前唯一したよいことが地獄から此の世に戻される理由となる。

    二十年後<映画・演劇脚本>


          作・三雲 倫之助


   「二十年後」登場人物表


秀一(小学生の時)、僥雲・秀一の法名(三十六歳)

学(小学生の時)、学(三十六歳の時)

悪ガキ一、悪ガキ二、悪ガキ三

坊主一(二十三歳)、坊主二(二十五歳)

小僧

住職(六十五歳)

釈迦

妙信尼(四十)

酔客一、酔客二、酔客三

妙信白蛇(妙信尼の化身)

タイ人ソープ嬢(二十四)

土産物屋の店主

チンピラ(二十三)

野次馬、野次馬二、野次馬・女 、野次馬・女

学ガマ(学の化身)

タイ人ソープ嬢の父

タイ人ソープ嬢の弟一、二

タイ人ソープ嬢の母、赤ん坊

ソープ嬢(日本人)(二十九)




○町の路地

悪ガキ一、二、三が金城秀一を追いかける。

捕まえて秀和の首根っ子を押さえる。

秀一、泣きそうになる。

悪ガキ一 「アホ一番のアホ一。

 ほらこの棒で秀一と書いてみろ。お前、小六になっても、名前を書けないなんて、やっぱ、町一番のアホ一だな。

悔しかったら書いてみろ」

悪ガキ二 「ほら、書いてみろ」

悪ガキ三 「ほら、書いてみろ」

秀一、大声を上げる。

耳をふさぐ。

そこへ学がやってくる。

悪ガキ一を押しのける。

悪ガキ一、よろけながら立ち上がる。

学 「止めろ、お前たちはまた弱い物いじめか」

悪ガキ一 「なんだ、なんだ、女風呂覗いて、風呂屋のオバサンに平手を喰わされたドスケベは黙ってろ。

 お前には人を叱る権利などない。

 早く、窓から女風呂を覗いてこい。

 カワイイ子がいなくなるぞ、このヘンタイ」

学、悪ガキ一を押し倒し、馬乗りになる。

右手を挙げて、悪ガキ一を殴ろうとする。

秀一、学に掴みかかり、押し倒す。

悪ガキ一、呆気に取られる。

学、驚いて、秀一を見る。

秀一、泣く。

秀一 「なぜ乱暴をする、オレはお前を友達と思っていた。乱暴するとこいつらと同じだぞ、同じだぞ。

 オレは悔しいぞ、悔しいぞ」

学と悪ガキ一、同時に秀一を見る。きょとんとなる。

学 「今日だけは許してやる、二度と秀一に構うな。いいか、今度見かけたらぶっ殺す・

悪ガキ一、身を起こしながら、尻のほこりを払う。

悪ガキ一 「こんなアホ、誰が相手にするか。オレたちまでアホになる」


○学の家の前(三年後)

秀一、学の家の前から呼ぶ

秀一 「学、学、いないのか、学」

学、戸を開けて出てくる。

学 「秀一、なんだ珍しいな、お前から来るなんて」

秀一 「オレ、寺に行って坊主になる、身一つでいけるからさ。

 七人姉弟の長男だから、一人でも少ない方が家も助かるしさ。

 オレ、行くことにした。だから学に言いに来た」

秀一は俯き涙を堪える。

学 「そうか行ってこいよ。

 でも苦しかったら、戻ってこいよ」

秀一、駆け去る。

秀一 「さようなら」

学、右手を挙げて、ずっと秀一を見送る。

学 「読み書きが苦手な秀一に坊さんは勤まるのか。

 でも秀一の家は貧乏子だくさんだからな」


○満願寺(出家して二十年後)

来る日も来る日も、僥雲(ぎよううん)は境内を朝から晩までせっせせっせと掃き続ける。


○寺の渡り廊下

僥雲の後輩の二人の若い坊主が足を止めて、僥雲を見る。

坊主一 「あれが俗名、一番秀でたで秀一、法名、僥雲様で、この寺に来て二十年になるとか。

 私は僥雲様が掃除をしているところしか見たことがありません。僥雲様のお経を聞いたことがありますか」

坊主二、指を口に当てる。

坊主二 「まあ、私もありませんが。

それを言ってはなりません。

 庭の掃除をしなくとも済むのも、ご不浄の掃除をしなくても済むのも、僥雲さんがいるからでございます」

坊主一 「それは私も敬服するところでございますが、二十年いても、三百字も満たない般若心経さえ覚えてはいないのです、これはどうみても、僧としてはやばいでしょう。

 しかしこれも天才、僥雲様の所以ですな」

二人とも含み笑いをして、掃除をする僥雲を見て、声を出して笑う。

坊主二 「天才はそれだけでは終わりません。

 自分の法名・僥雲とは漢字では書けず、ひらがなで書くのがやっとのこととか。これは他言しないで下さい。プライバシーの侵害とかになるかもしれませんので」

二人とも再び大笑いしながら廊下を歩いてゆく 。


○寺の境内

僥雲は境内を掃き清め、本堂へゆく。僥雲 「今日は早く終わったことだし、最近、見たことのない大日如来のご本尊に手を合わせに行こう。夕暮れまでにはまだ時間がある」

僥雲、箒を片手に寺に向かう。


○寺の廊下

僥雲、足早に廊下をゆき、本堂に入る。ご本尊が見える。

僥雲正座して、手を合わせるがお経が思い浮かばない。

僥雲 「ああ、情けない、お経が浮かばない、お経が上げられない、ああ、情けない」

僥雲、合掌し、目を閉じる。

うとうとして、眠ってしまう。


○夢の中

如来の微笑の母に抱かれた、雲の上にいる、白蓮の花が咲き乱れている。

なぜか一匹のガマガエルが蓮の葉に止まっている。


○本堂

僥雲、足をご本尊に向けて大の字に眠り、絶頂の微笑み。

小僧、本堂へ入ってくる。

笑う。

一目散に走り出す。


○住職の部屋

住職が読み物をしている。

小僧、入ってくる。

小僧 「和尚さん、大変でございます。

 あの僥雲がとんでもないことを」

小僧、住職の手を取り部屋を出る。


○本堂

住職、坊主、本堂に入り、立ち止まり、眠っている僥雲を見る。

住職、鬼の如くの形相。

どしどしと畳を踏みつけて近づき、手に持った扇子で二三度、僥雲の額を叩く。

僥雲、跳ね起きて、住職の顔を見て、ぶるぶる震え、涙が溢れる。

住職 「僥雲よ、僥雲

 お前はよくもよくもご本尊の前で惰眠を貪ったな。それに重ね重ね汚いお前の足を向けるとは。

 この寺の末代までの恥、獅子身中の虫。

 出て行け、即刻出て行け、この罰当たり目が」


○寺の裏門(夕暮れ)

住職と托鉢姿の僥雲が裏門の外と内側で立っている。

住職、厳しい顔をする。

住職 「僥雲よ、一つだけ頼みがある。

ここで二十年も修行したとは、けして言わないでくれ。

 その意味はお前がよく分かるはずだ。

 けして他言するな、誓ってくれ。

 難しい話じゃないからな、分かってくれ」

僥雲 「御仏に誓い、けして他言はいたしません」

住職 「分かった、それだけだ。

 もう行け」


○門前町

お土産屋の前で、僥雲、お経を唱える。

僥雲 「ナムダイニチニョライ、ギャーテイ、ギャーテイ、ボジソワカー、ハラソーギャーテイ」

店の主人がハタキを片手に飛び出してくる。

店主 「このクソ坊主、バカにするなよ、内は檀家だよ、簡単なお経は分かるんだよ。

 あっち、行け、早く行け、水を掛けるぞ」

僥雲、とぼとぼと立ち去る。


僥雲・独白 『私はアホだ、それを忘れてはならない。覚えきれないお経を聞かされて、誰が喜ぶだろうか、有り難く思うだろうか。

 私は願掛けし、私の思いを人々に伝える、それがお経を覚えられぬ坊主の本懐だ』


○某風俗街(夜)

破れ衣にやせ細った僥雲が錫杖を右手に左手で道行く人を拝んで、呼びかける。

僥雲 「あなた様は心が清らでございます、有り難いことでございます」

酔客一とキャバ嬢が足を止めて罵倒する。

酔客一 「このバカ、アホたれ、くそぼうず。こっちが楽しんでいる所に、冷や水をかけるバカがどこにいる。犬ころじゃないんだぞ。

 こっちに葬式はないんだよ、焼き場にでも行けよ」

酔客一、五円玉と十円玉を選び、僥雲の顔に投げつける。

酔客一 「これでも心が清らかか、ふざけやがって」

酔客一、鐘を拾う僥雲を右足で押し倒し、腹を蹴る。

酔客一 「ああ、すっきりした」

僥雲、何事もなかった香のように起き上がり、お金を拾い立ち上がる。

忙しい通りを少し歩く。

僥雲 「あなた様は心が清らかでございます、有り難いことでございます。

 あなた様は心が清らかでございます、有り難いことでございます」

ソープ嬢、立ち止まって、僥雲を睨み付ける。

ソープ嬢 「お金で買われるアタイへの皮肉かい。ああ、そうともさ、そうともさ、アタイは体を売ってるさ。男をとっかえひっかえ、それで稼いでいる女さ」

ソープ嬢は僥雲の顔へ自分の顔を近づけて、唾をかける。

僥雲、怯まず、精一杯唱える。

僥雲 「あなた様は心が清らかでございます、有り難いことでございます」


○同風俗街の別の通り(夜)

遊び人の格好の学が人混みの中で、女性を品定めしながら、笑い、ぶつぶつ言って歩いている。

学 「日は落っこちて又這い上がる、何が光陰矢の如しだ、遊んで一生、馬車馬みてえに汗をたらたらたらと、それでも同じ一生、遊ぶに勝るものはなし、遊ばにゃ損、損

 棚からぼた餅、鴨ネギ。鴨ネギ、ホイホイホイ」

前方に、紫の衣に白頭巾の豊満なボディの妙信尼が尻を揺らして歩いている。

学、妙信尼の尻を見ながら喜びを噛みしめる。

学 「年は三十の五、六……。茹で卵の殻を剥いた白き艶のつるりつるりの滑らかお肌、これこそ地獄に美人。

 こんなにラッキーでいいのか、拝まなければ末代まで祟る。

 神々しいご尊顔が俺を呼んでいる、わざわざ極楽浄土のヘブンから、テンキュウベリマッチ、ユアウエルカムの希なる出会い」

学、小走りして、妙信尼の前に出る。

土下座して、見上げる。

学 「比丘尼様、比丘尼様、我を救って下さい、どうか、我を救って下さい。

 此の生き馬の目を抜くこの世はまさに生き地獄、鬼ばかりでございます。

 私はこのままでは自殺します、死んでしまいます。

 どうか、お助け下さい」

学、拝む。

「(声を張り上げて)南無観音菩薩南無観音菩薩」

酔客一らの足が止まり、野次馬の人だかり、学と尼を見てざわめきが起こる。

野次馬・男 「どうした、どうした」

野次馬・女 「男が、尼さんになにか頼んでいるわ」

野次馬・女二 「あの男、自殺するとか、しないとか」

野次馬・男二 「どうせなら、今死ねばいいのに、尼さんもいるんだから。

 いい見物だぜ」

妙信尼、気が動転し、目を丸くし、顔を赤らめる。

妙信尼 『(親鸞の声)善人なおもて往生をとぐ、

 況や、悪人をや』

妙信尼、しばらく考える。

妙信尼 『遊び人でも、人の子だ、善人なをもて往生をとぐ、況んや遊び人をや。

 さて、この男、救いを求める顔には見えない、苦悶の欠けらも見えない、だがたまに見せる笑い顔は赤ん坊のようだ。

 どうしたことか、胸がときめき出家前の十七八の、おぼこ娘にでも戻ったような、ほっといてはおけぬ心持ちに…。

 変だ、実に変だ、仏に帰依する此の私がこんな遊び人に心を動かされるとは、南無三南無三……あー情けなや、情けなや。

 南無不動明王、南無大日如来』

妙信尼、我に戻る。

「(突っ慳貪に)これこれこれ、人目も気にせず、大袈裟な、立ちなさい。

 話があるのなら、私の(いおり)で聞きましょう」

妙信尼、踵を返し、すたすたと歩き出す。学、しめしめと立ち上がり、ズボンの埃を払い、涼しい顔で妙信尼の尻を眺めながら妙信尼について行く。

妙信尼、足を止める。

妙信尼 「こんなに近づくな。

 お前はほんとに見え透いた嘘をぺらぺらと言う。

 閻魔に舌を抜かれ、地獄の煮え滾る釜に投げ込まれるぞ、それでもいいのか。

 どうして御仏に使える私を担ごうとする、言ってみろ」

学、驚いた様子。

学 「庵主様庵主様、滅相も御座いません。

 天地神明、この真心にかけて、我が観音菩薩歓喜仏(かんぎぶつ)庵主様にかけて誓います。

 ガクは遊び人では御座いますが、嘘らしい誠は吐いても、嘘で固めたこの世でも、好いたご婦人に誠らしい嘘は口が裂けても言いません。

 たとえ地獄の鬼に煮え湯を飲まされようと言えません、絶対言いません」

妙信尼、眉を顰め、学を見る。

妙信尼 『口八丁の色男、八割の疑心、蔑んでも、二割の誠を垣間見える、男の顔を一瞥すれば、二割の誠が胸の奥で段々と膨らみ、頭はのぼせ、胸が締め付けられる。

 この高鳴りはなんだ。

 ああ、恐ろしいおぞましい。

 私をお試しか、お試しか。

 大日如来様』

妙信尼、我に戻る。

妙信尼 「比丘尼が遊び人と並んで立てば、あらぬ噂を立てられる。

 町の外れに私の庵がある、そこで話そう。

 お前は連れには見えぬように後から付いて来い、何の因果でお前のような浮かれ者と出くわしたのか、身震いがする」

妙信尼は右手の数珠を握り回しながら、歩き出す。


○竹里庵

寂れた風景に、竹里庵があり、庭に梅の古木あり。

妙信尼が戸を開け入り、学が後から入る。


○竹里庵の中

粗末な庵の中、不動明王が祀られている。経本の横に手垢の付いた歌集が置かれている。

学 『オレが転がり込んだ中で、一番粗末。

 狭い上に、すっからかん、これでよく辛抱するものだ。何を考えているんだ。

 橋の下の浮浪者のビニールシートの家の方がまだ物はある。

 だが不動明王だけが漆塗りで贅沢な、これで腹の足しにでもなると言うのか。拝めば拝むほど腹が減る、まさに難行苦行。

 何を楽しみにに生きているのだ。この比丘尼は。

 ああ、こんなに熟した体を持ちながら。ああ、宝の持ち腐れ、尼にダイアモンド』

妙信尼、ちゃぶ台の前に坐る。

妙信尼 「坐りなさい、泥棒も入らぬあばら屋、金目のものは有りません。

 的が外れたか、さっさと坐れ、目障りだ」

学、中に入り、ちゃぶ台の前に坐る。妙信尼の体を上から下へ一気に見定める。

学 『実に美しい、落ち着いた女性の色気が隠し味、浮世を離れた白百合の楚々とした香り、奥ゆかしき、まさにエロの極み、

鴨が葱をおんぶして、これまた珍品、皿までも喰いたくなるこの艶めかしい姿、形。

 これを逃せば、女殺しのガクの一生の恥、男の恥』

学、笑みを浮かべる。

学 「私の名前は、まなぶ、ですがガクと呼んで下さい。

 庵主様のお名前は」

 妙信尼 「(呆れながら)妙信尼、妙信だ」

学 「実にいいお名前で」

妙信尼 「お前はほんとにいい加減な男だな」

学 「妙信様、遊び人でも、家へ招けば客でございます。

 世間ではお茶ぐらい出すものです」

妙信尼、湯飲みから欠け茶碗に接ぐ。学、一口飲む。

学 「ただの水ではありませんか」

妙信尼、笑顔になる。

妙信尼 「僧でもない貴方にお布施するほど、此の庵は裕福では有りません。見てお分かりでしょうが、お前が布施をすれば別だが」

学 「一期一会の出会いです、まさに水も甘露、結構なお点前でございます」

 学、茶道の作法で茶碗を置く。

学 『華道、茶道の師範ともお付き合いの経験あり、和歌が専門の准教授とも経験ありだ、掃除のおばちゃんともお付き合い、門前の遊び人お経を覚えますだ』

妙信尼 『こいつ良家の落ち零れか』


○竹里庵の庭(午前五時半)

学、庭を丁寧に掃除し始める

学 「今日から二週間掃除してからの、お楽しみ、インテリ好みの妙信様、今しばらくのお待ちを」

学、にやにや笑う。

庵の戸口の陰から、中を窺う。

学 「まだ起きてないようだ」

犬の遠吠えの真似をして、妙信尼が起きるのを知ると、慌てて箒を取り、庭の掃除をする。

大きなくしゃみをする。

妙信尼、訝しげにそっと戸を少し開けて、覗く。

妙信尼 「何を血迷ったのか、あの碌でなしが、庭掃除とは。奇妙だ、あいつの掃除の仕方は様になっている。

 分からん」

学、奇麗に掃除を済ませて、立ち去る。

妙信尼 「分からん、なぜ私に声を掛けない。褒められたくはないのか」


○竹里庵の庭(翌日の午前五時半)

学、庭を掃く。

庵の戸に近づき、中を窺う。

カラスの鳴き声の真似をする。

大きなくしゃみをする。

妙信尼、起きてくる。

戸を少し開けて覗く。

学、庭掃除をしている。

妙信尼 「分からん、なんで庭掃除をしている。

 私の仏法へのひたむきな姿に打たれて、心を入れ替えたか。

 甘い甘い、あんな遊び人がコロッと変わるものか。

 しかし、なぜ掃除なのか。

 なぜ、何も告げずに帰るのだ。

 分からん」


○竹里庵(十二日後の午前五時)

妙信尼、戸を少し開けて、学が来るのを待つ。

学が来て、庭の掃除をする。

ちらっと戸を窺い、戸の隙間があることを知る。

妙信尼 「それにしてもよく続くものだ。

 なぜだ、分からん」

掃除を終えて、梅の木に紙を結び立ち去る。

妙信尼、戸を開けて、梅の木に近づき、紙を取って開く。


○紙に書かれた短歌

「風をいたみ

 岩うつ波の

  おのれのみ

 くだけてものを

  思ふころかな」

妙信尼「風が激しく、岩に打ち付ける波が砕ける。同じように、あの人がつれないので、この頃は私だけが心が砕けるほどにもの思いをする。

 なぜ、あの遊び人がこのような古い、源重之の短歌を知っている。なぜ俵万智の「サラダ記念日」ではないのだ。

 なぜあのアロハシャツの遊び人が短歌などと、風流を解するのだ。

 分からん、私の心まで分からなくなる」


○竹里庵(それから三日後の夜)

妙信尼、夜も眠れず、不動明王に、お経を開け続け、目に隈ができる。

妙信尼 「三日もなぜ来ない、なぜかは知らぬが胸が締め付けられる」

不動明王に向かって妄念を断ち切るために大きな声で念仏を上げる。

学、庵の戸を開けていきなり入り込み、妙信尼の膝に頭を着けて、泣き出す。

妙信尼、知らぬ間に夢心地で学の頭を撫でている。

妙信尼 「どうした、泣いてばかりでは分かりませんよ」

学、涙に濡れた顔を上げ、妙信尼を見つめる。

学 「妙信様と会わずに別れようと思いましたが、日増しに妙信様への思いは募るばかり。

 それで矢も盾もたまらずここに来てしまいました、妙信様。

 今日を最後と決めました」

 妙信尼が考える時を与えず、抱きついて、二人とも倒れる。

妙信尼 「いけません、学さん、いけません、学さん」

二人は一夜を共にする。


○某風俗街

僥雲、木枯らしが吹く、真昼の辻に立って、声を上げる。

僥雲 「あなたさまはお心が清らでございます、有り難いことでございます」

 ほとんどの行人は足を求めず、見もせず通り過ぎる。

わずかの人は足を止め、罵倒する。

バーのマダム 「あのアホ坊主、見て御覧よ、今日も客も引かぬのに立ちん坊だ。

 何が楽しくて生きているのか。

 あたしが犬ころなら石の地蔵と間違えて、片足上げて小便引っ掛けるだろうさ」

酒の配達人 「確かにアホだが坊主だ、珍しいな。

 こんな所へ健全な坊主が来るか、いかれている、危ないな、変質者じゃないか」

酔客三 「しかし、いつも同じ事ばかり繰り返すばかり、たまには歌でも歌ってサービスすればいいものを」

三人とも大笑いをする。

バーのマダム、財布から小銭を取り出し、放る。

バーのマダム 「拾いなよ、ただで金を貰うんだから、それぐらいはしないと」

僥雲 「あなたさまはお心が清らでございます、有り難いことでございます」

僥雲、小銭を丁寧に拾い上げる。

三人に向かって合掌する。

酔客一 「これは世にも珍しい立派なアホだ」


○同(冬の夜)

人だかりの辻に立つ。

人の通りが二つに裂けて、どよめきと罵声が飛ぶ。

顔の崩れたやせ細ったタイ人のソープ嬢がビニール傘を杖代わりによろめきながらふらふらとやってくる。

酔客一 「あれはタイのソープ嬢だ、生きたままでは無縁墓地にも捨てられないと、『ハワイランド』の店長が言っていた」

ホステス 「シッシッシッ、こっちへ寄るな、化け物が、あっちへ行け」

酔客二 「ああ、何でも奇病難病の不治の病で、誰も手が付けられないで、このお荷物が」

チンピラ 「困ったものだ、色街であの醜い顔を晒されたら、男共が尻尾を巻いて、逃げてしまう、こちらの商売、上がったりだ」

声だけ 「この疫病神」

声だけ二 「疫病神」

酔客一 「役立たずのお前はここにはもう必要ないんだよ、とっとと消えろ、汚い」

声だけ三 「海に身投げしろ」

ホステス 「そうよ、お前のような奴が生きてて何になる」

野次馬 「そうだ、死ね、死ね、疫病神」

チンピラ 「もう用はないから、タイにとっとと帰れ」

僥雲、タイ人のソープ嬢の前に出て、錫杖を放し、合掌する。

僥雲 「あなたさまはお心が清らでございます、有り難いことでございます」

タイ人ソープ嬢の目に僧の合掌する姿が映る。

慌てて、ひれ伏して合掌する。見える左目から涙がこぼれ落ちる。

酔客一 「こいつは汚い病気だぞ、何が清らかだ、前世は犬畜生か、悪党だ、その因果がこの姿だ」

野次馬・男一 「この女は罰当たりだ、だからこの様さ」

声だけ 「そうだ、そうだ。

 そうでなければ、どうしてこの女だけが、化け物になる」

僥雲、錫杖を蹴り飛ばし、数珠を引きちぎり、ずだ袋から経本を取り出し、地面に放る。

僥雲「エエエ、エイ」

僥雲、経本を踏みつぶす。

群衆はどよめいて、束の間怯み、再び罵倒を始める。

バーのマダム 「この女が清らかなら、お前の嫁にして、面倒を見るがいいさ」

チンピラ 「それは名案だ、お前の女にすればいい、できればだがな」

酔客一 「お似合いのカップルだ。結婚式場はどこだ、祝儀ははずむぜ」

僥雲、四方を鬼の形相で見回し、赤子のように微笑(みしよう)し、シャムの女郎を抱き上げて、立ち去る。


○某風俗街

妙信尼、学を探して風俗街をさまよい歩く。学と似た男の腕を捕まえる。妙信尼 「これ、学殿、会いたかったぞ」

男後ろを向く。

妙信尼 「済みません、人違いでした」

男、睨み付けて、手を払い去る。

妙信尼、さまよい続ける。

妙信尼 「初めての一夜以来、二ヶ月も来ない、それにこの風俗街にもいないとは、病気でもしたのではないか。

 胸騒ぎがする」


○大蛇ヶ(おろちがぬま)

ホームレスの立てたブルーシートの掘っ立て小屋に僥雲がタイのソープ嬢を抱えてはいり、横にする。

汚れた毛布を掛ける。

ソープ嬢の横に坐り、見つめる。

僥雲 「哀れな子だ」

僥雲の涙がソープ嬢の顔に落ちる。

壁の隙間から風が吹いてくる。

僥雲、腐臭が鼻を突き、ソープ嬢から顔を背ける。

僥雲 「命果てようとする病のこの子から顔を背けるとは薄情な、鬼畜に劣る。

 私の念仏はウソか、心が清らかでございます。

 私の念仏に嘘は無い、これこそが私と人と仏を繋ぐただ一つの誠の数珠。

 このタイの子の身の上が異国にて、我が身の上に降りかかれば、どうするだろうか、私ならば、我が身と人を恨んでは死ぬだろう。

 しかし、私は苦しみを避けて安穏と仏の甘露ばかりのみ追い求めて、貪り飲むは僧侶の恥曝し」

 僥雲は布施で貰ったお結びを一かじりし、水を飲み、かみ砕いた物を口移しでタイの子に与える。

僥雲、たじろぐ。

僥雲 「病気がうつるのではないか」

僥雲、涙を零す。

僥雲 『私は一字の経も覚えられないバカだが、人が苦しめば我も苦しむ、人が悲しめば私も悲しむ、アホ一と子供の頃から笑われた愚かな僧侶のアホの一念。

 たといこの身が腐れようと、恐れはしない、逃げない、悔やまない。

 あの世でも御仏のお庭のお掃除が出来るのを望むだけだ』

タイの子、目を開け、頬笑む。

タイ人ソープ嬢 「ウレシイです。私が初めて、好きになった人。

 私はもうあの世へ行きます、一人にしないで下さい、抱きしめて下さい」

僥雲 「おなごを抱けば女犯(によぼん)になる。僧侶の奈落への大罪だ」

僥雲 『この子、十四五で女衒(ぜげん)に売られた身の上だろう、家が貧しいからだ、この子に何の罪も無い。

 おなごであれば国は違えども、好きな人と添い遂げて、子をもうけ、笑いが絶えぬ家を作るのが夢だろうに、細やかな望み、それさえ打ち砕く、人の生きる営みの悲しみだ。

 今の際に生まれて何も得ずに死ぬには、この子は余りに若い』

僥雲、横たわりタイの子の髪を掻き上げて、額を撫でて、頬笑みて見詰めれば。僥雲 「あなたはきれいだ」

  僥雲、横になり、唇に淡いキスをしてタイの子を抱きしめた。

タイ人ソープ嬢 「(タイの言葉で釈迦の御言葉)

 遠いもの、近いもの、目に見えるもの、目に見えないもの、すでに生まれたもの、今より生まれようとするもの、生きとし生けるもの、全てが幸せであれ」

タイの子、息果てる。

僥雲、声を出して泣く。


○某風俗街(夕方)

学、野球帽を目深に被り、女を品定めしながら、通りを回遊する。

チンピラ 「大蛇ヶ沼の掘っ立て小屋であのアホ坊主と化け物のソープ女が心中したらしい。

 みんな急げ、急げ」

チンピラ、走ってゆく。

学、走ってゆく。

十五人ほどが走り出す。


○大蛇ヶ沼

掘っ立て小屋の前に救急車が二台止まっている。

見物人、四十名ほど。

担架でタイの子が運ばれる。

学、皆の前に立つ。

僥雲が担架で運ばれる。

学 「皆、よく聞いてくれ、ソープ嬢とあの坊さんの心中だ。好いた惚れたの極みだ、叶えられない恋の花道だ、それに敬意を払おうではないか。二人の葬式費用にカンパしてくれ」

学の声が聞こえ、僥雲、目を開けて、涙を零す。

学、野球帽を取り、逆さまに下に置いて、五千円を入れる。チンピラも入れる、次々とカンパしていく。

救急車がサイレンを鳴らして出て行く。

チンピラ、警察官に話しかける。

チンピラ 「あの二人はどんな死に方をしていたんですか」

警察官 「坊さんが病気の女性を抱きしめて死んでいた。

 救急救命士の話だと、女性は病死、坊さんは衰弱して、ほとんど餓死の状態だったらしい。

 でもな、二人とも楽しそうに笑っているような顔をしているんだ。

 不思議なことだ」


○某風俗街(心中事件から七日後)

学、女性を求めて歩き回っている。

○同(同日同時)

妙信尼、学とは別の通りを憑かれたかのように学を探し回っている。

妙信尼 「あいつはどこで何をしているのだ。あの一夜を境に来なくなるとはどういうことだ。

 私を捨てた報いを受けさせてやる、思い知らせてやる。

 ああ、それでも学様が好きで好きでたまらない、どうしても断ち切れぬ。

 薄情者の学様」

妙信尼、頭を抱えて、ああああーと叫ぶ。

道行く人が立ち止まり妙信尼を見る。○同(一時間後)

交差点で学が妙信尼を見て、踵を返すが、妙信尼が見つけ、走って寄ってきて学の腕を掴む。

妙信尼 「やっと会えました、病気でもしたのかと心配していました」

学 「体だけは丈夫なもので」

妙信尼 「ここは寒いので私の(いおり)に参りましょう、そこでゆっくり楽しく過ごしましょう」

学 『オレは一人でも多くの女と寝たいのだ。お前はもういい。

 知り合いから話を聞けば、毎晩ここらをうろついてオレを捜し回っていたとか。ストーカーだ、逃げなければ』

 学、閃いて、笑顔。

学 「妙信様、今夜は面白いところで過ごしましょう」

妙信尼 「妙信とお呼び下さい」

学、顔が曇る。

学、歩きだす。

妙信尼、手を取り歩き出す。


○大蛇ヶ沼

腕を組んだ学と妙信尼、ブルーシートの掘っ立て小屋の前で立ち止まる。学 「ここは一週間まえにソープ嬢と坊さんが心中したところです。ここは人も近づきませんから、思う存分語りましょう」

妙信尼 「学様はそのような趣味もお持ちで、とろけるような夜になりそうです、わくわくします」

学、驚く。

学 『気味が悪いと愛想づかしされて、ハッピーエンドでお別れのはずだったが』

妙信尼、学の手を握り、笑いながら掘っ立て小屋に入る


○極楽

幾千万の色取り取りの花びらが舞い落ち妙なる音と平安に満ちている。

釈迦、ひれ伏す僥雲の手を取り立たせる。

釈迦 「何を案じている、そちはよく三宝に帰依したことを、私が誰よりも知っている。そちは現世に未練はなかろう」

僥雲「(恐縮して)滅相もございません。

 あの哀れなタイの子はどこへいかれましたか、お釈迦様」

釈迦 「あの子は色欲穢土の苦界(くがい)より咲き(いず)る白蓮の花、地獄に堕ちようはずがない」

僥雲 「そうでございます、そうでございます。

 親兄弟のために我が身を沈めたる、健気な子で御座います」

僥雲、涙を流す。

釈迦 「僥雲よ、悟っても泣けるのか」

僥雲 「私はこの世で一番愚かな僧で、悟りなど開けるはずもありません」

釈迦は微笑し、僥雲を一瞥して、足下へ右手を垂らす。


○水紋

○緑の大地と田んぼ

父と男児二人と苗を植え、手を休め東の空を見る。

白鷺が飛んでいる。


○ 極楽

釈迦と僥雲が下を見ている。

釈迦 「僥雲よ、あれがあのシャムの女人の親姉弟ぞ。

 田を買い、家を建て、二親も、二人の弟も腹を空かせる事もない。

 飢えた虎の親子に我が身を与えたると同じ功徳をあの女人は積んだ。

 我はタイの子に真っ先に尋ねた。


○極楽(前日)

釈迦とタイの子がいる。

釈迦が顔に手をやると、病が癒え元の顔になる。

釈迦 「そちの願いを成就させん、それを告げよ」

タイの子 「我と果てしお坊様を蘇らせ給え」

釈迦 「ではそう致そう。

 それではそちの望みをもう一つ告げよ」

タイの子 「我が古里へ飛び立つ翼を持つ、白鳥にして下さい」


○緑の大地と田んぼ

田んぼに父と子、三人。

母親、田んぼの向こうの家で赤ん坊をあやす。

弟一 「お父、姉さんは東の国で幸せになっているよね」

弟二 「当たり前だ、姉さんはお金持ちに嫁いだ。だからこの田んぼも買えた」

父は東の空に合掌する。

上空から白鷺が舞い降りて三人の父と子を見る、赤ん坊と母親を見る。


○極楽

 釈迦と僥雲が並んで立っている。

僥雲 「けなげな子で御座います」

釈迦 「僥雲よ、哀れな話だが、あれが女殺しのガクの成れの果て。其方とタイの女子が息果てた場所で密会し、妙信尼が青酸カリのカプセルを口に含んでガクに飲ませ、自らも飲み、無理心中。

 生と死の狭間、中有で妙信は白蛇に、僥雲は蝦蟇となったなれの果てを見るがよい」


○中有

薄暗い蓮の沼にたくさんのガマ。白蛇となった妙信尼は沼の縁の岩に

とガマとなった僥雲は蓮の葉の上にいる。

ガマの鳴き声

沼の縁の岩の上、白蛇がとぐろを巻いて一際大きイボ面の蝦蟇を赤目らんらん睨み付けている。

妙信白蛇 「怨んでも、憎んでも、一度は好きになった男、もう一度聞こう、

『この私を今でも好きか』

 よい返事なら元の姿に戻してやる」

学ガマ「何度聞こうとも、嫉妬深い、キモいお前など誰が好きになるものか。

 ガマはこれでも案外楽しいものだ。

 (ガマの鳴き声)」

学ガマ、隣の蓮の葉へ行く。

学ガマ 「(あね)さん、お一人で、あなたみたいなベッピンを放って置くとは、ここの沼の男の目は節穴か。

 絹のイボの滑らかさ、その大きな目、星が二つ三つと輝いて、吸い込まれんばかりきれいなイボが魅力的、一度お相手を」

雌ガマ 「あなたこそ、素敵。

一度だけでいいのかしら、後で後悔しない」

一部始終を喰い入るように見る妙信白蛇、怒り込み上げ、気炎をあげて、沼に飛び込み、学ガマを巻きつけ、ぐいぐいと締め上げて殺そうとする。

 

○極楽

釈迦と僥雲が佇んでいる。

釈迦 「白蛇となりし妙信尼がガマとなった学を絞め殺し、飲み込めば、二人ともこの現世へ戻ることはできずに、奈落の底へ落ちるのみ。

 僥雲よ、如何せん」

僥雲 「女人を抱きし、この破戒僧の僥雲、お経の一つも諳んじきれない僧でさえも奈落へは行かず。

 ならば、お慈悲を二人に施し給え、生きて娑婆に戻し給わんことを願い奉る」

釈迦 「妙信を庇うは同じ僧籍にて分かる、だが学は色を好んで、比丘尼を色香に迷わせたのじゃぞ。それに風俗街ではそなたは気付いたが、学はなんども辻に立つそなたを見たものの、気づかなかった。

 竹馬の友のそなたを忘れた薄情者ぞ。

 汝、何故(なにゆえ)、学を庇い立てす、僥雲よ」

僥雲 「色を好むは罪なれど……。

 しかし、しかし、あの学は縁もゆかりも無い病のタイの子と乞食坊主の心中に、供養してやれと野次馬に先駆けて小屋の前に金を置いたのは学で御座います。

 今わの際に耳にした学の声に救われたのです。

 竹馬の友のアホ一の秀一だからではありません。

 如何に見栄張るためにやったとしても、見ず知らずの一銭の得にもならぬ死人の毒矢を真っ先に抜いたのは学でございます。

 それに比べれば、女も人でございます、俗人の女好きは取るに足らぬ些細なことでございます」

僥雲は五体投地をする。

僥雲 「どうか、二人を救って下さい」

釈迦 「僥雲よ、

 世間はお前のような尊い聖が現れようと気付きもしないで、却って蔑みのみを呉れるのみ。

 僥雲よ、さぞやお前も口惜しかろう、次に生まれし時は文殊菩薩の知恵具わりて、弘法大師にも勝る知恵を授けよう」

僥雲 「それはなりません、なりません。

 私は七度生まれようとも、愚かな僥雲で、辻に立ちて皆に伝えたいのでございます

『あなた様は心が清らでございます、有り難いことでございます』と」

釈迦 「僥雲よ、お前の私欲無きこと海の如きを知りて、その菩薩の願いを叶えなければなるまい。

 僥雲よ、蓮の花びらを二枚取りて放下(ほうげ)せよ、そうすれば、二人の口に入りて、蘇り、互いを忘れん」


○中有

沼の上より白い蓮の花びらがきらきらと輝き舞い落ち、妙信尼白蛇と学、ガマの口に入る。


○大蛇ヶ沼

掘っ立て小屋の中、学と妙信尼が同時に眠りから覚める。

妙信尼、横を向いて、学を見て飛び起きる。

妙信尼 「なぜ、わたしはここにおる。

 比丘尼を手込めにしようとは罰当たりな碌でなしが、私に何かしたのではないだろうな、このケダモノが」

学 「とんでもない、何を好きこのんで抹香臭い、縁起でもない尼といるのか、オレにもさっぱり分からない。

 それにここは坊さんとソープ嬢が心中した場所だ。ますます、分からなくなる。

 酒も飲んでないのに、こうなるとは一生の不覚。

 何かに取り憑かれたのか」

妙信尼 「何をまじめにウソを語るのだ、この痴漢が」

学 「オレが痴漢なら、お前を裸にしているだろう。服を着ているではないか。

 それにな、お前の顔とボディは俺の好みじゃないんだよ。それがどうしてお前なんかと一緒にいたかだ、分からん」

 妙信尼、頭巾を被りなおし、衣の裾を整えて、学の頬を思い切り叩く。

そそくさと立ち去る。

学、右手で頬を触り、呆気に取られる。

学、小屋を出て、商店街へ向かう


○商店街の大通り(昼近く)

学、人混みの中を女の品定めをしながら歩く。

不動産屋の社長夫人らしき女が着飾って歩いている。

学、伸びをして、婦人の前に出る。 振り向いて、ポケットから「バラとひょっとこ」のハンカチを取りだした。

学 「お待ち下さい、ハンカチを落としました。

 違いましたか。

 これはとんだ失礼を、お茶などどうですか、お嬢さん」

学、頬笑む


FIN

竹馬の友、僥雲によって地獄から救われて生き返るが、改心するかと思われたが、女を見るや尻を追いかける。

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