ゲームをはじめたのですが……?
リメイク前の「世界を旅するゲームなのに始まりの国から出られないのですが?」1話~11話までを再校正してまとめたものです。
元作品を読んだことのある方は飛ばしても差し支えることはありません。
次の話からは大きくストーリーが異なります。
数十年たったこの世界ではたくさんの分野が発展した。
どんな小さな工場も全自動が基本的になり、[人造人間]や、[クローン]ができている。
もちろんVRゲームも例外ではなく、進歩しているのだが…
あまり著しくはなかった。
動きがかなり制限されるため、ジャンルは大体がレール型シューティング、動きが大きくないシュミレーションに限られていた。
また、会話をフォントで出すと現実味が損なわれるためNPC【ノットプレイヤーキャラクター】をフルボイスにしなければならない。
という風潮が追い討ちをかけて、開発側の大きな負担となっていた。
しかし、とあるベンチャー企業に突然現れ、姿を消したプログラマーは一つのゲームを残した。
それは、[Free travelers]【フリートラベラーズ】である。
とうとうこの[ゲーム]が[もう一つの世界]となる時が来たのです。
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「なあ、たっくん、聞いてる?」
目の前でしつこいぐらい話しかけているのは、幼馴染の笠見 真隆。
男子の割にはきれい好きで意外と女子に人気がある。
悪いところといえば、とにかく頭が悪い。
べつに大して賢くもない俺が言うのもなんだけど、クラス平均85点のテストで
5点取るぐらいだからなー。
ちなみにおれはちょうど平均点ぴったりだった。
その時は、散々からかったものだ。5年前、小6の話だからまだ懐かしむほど昔の話ではないのだけれど。
「ああ聞いてましたよー」
「本当かなー、じゃあたっくんはどうする?」
俺はわからないのをごまかし、逃げるように目をそらした。
「やっぱ聞いてないじゃん。通常版と特別版どっちにするかっていう話だっただろう?
特別版は値が張るけどゲーム内特典が付くらしいし」
「いつの間にか買うのが決定になってるけど…」
「えーっ、そこから聞いてなかったのか。うとうとしながら、買うって言ってたよね。
値段も通常版なら本体込みで9000円だし」
俺はいつの間に買うなんて言ってしまったんだ。眠くなってから返事してたけどさ。
まあ言っちゃったのは仕方ないな。
「じゃあ俺は通常版を買うぞ」
「じゃあ僕も通常版を…と言いたいところだけど特別版にするよ。たっくんには負けたくないし」
「そうか」
彼は、ずいぶん前から負けず嫌いな所がある。
そんな休み時間のやり取りがあった後、
学校から家に帰った俺は親が寝ているベッドの横をすり抜け、パソコンの前に座った。パソコンはお父さんの部屋にしかないから、容易く使う事はできないが……。まあ、今日ぐらいはいいだろう。もうそろそろ起きるだろうからな。
「あれを買うのが決まったのはいいもののどんなゲームか知らないしホームページを見てみるか。」
見てみると早々に、『VRMMOついに実現』という煽り文句とともに広大なBGMが流れてくる。
書いていた情報をまとめると、日本限定発売で地球六個分ぐらいのマップがあり、
5億人同時接続ができ外国語も自動で翻訳してくれるらしい。
…あいつぐらいに脳筋じゃないか。
個人的に、高スペックなら高スペックなほどいいわけじゃないと思っているからな。
必要な機能と、不必要な機能は、ゲームによって違う。
MMOに多いAUTOプレイも、某街づくりゲームに搭載しても…っていう話と同じだ。
まず、たったのゲームなのに地球六個もやりこむ人がいるのだろうか?
それはまだいいんだ、日本限定発売なのに外国語自動翻訳や5億人同時接続いらないんじゃないか?
まだ日本の人口1億人だし、ゲームのために引っ越す人がいると思わないからな。
才能の無駄遣いも行き過ぎると哀れに思える。
まあそうはいっても、面白そうだったので、急いで自転車をこいで買いにいった。
通販はあるけど、最近は店のほうが安いことが多い。
通販も、昔みたいに配送に三日かかったり、荷物が届かないようなことがなくなって使いやすくなったりはするけど。
そんな時代でも、未だにクソゲーが生み出されている。
とりあえず、このゲームがクソゲーじゃないことを祈るしかない。
そんなことを考えていると、「建栄、帰ってきてたのか」
「ただいま。そういえば父さんもうそろそろ仕事だよ?」
俺の父さん【水下俣季】(みずしたまたひで)は、機械に仕事をとられ、夜勤になっていた。
(【機械電力制限法】によって電気の制御を名目に、深夜の機械労働は禁止されており、多くの労働者が、深夜に働いている。)
「わかった、すぐ起きる」
「今日の晩ご飯は、もう用意できてるから」
「ありがとう」
そう短く言うと、眠そうに重い腰を上げた。
日が沈んだにも関わらず、彼の一日はまだ始まったばかりなのだ。
初期設定を済ましたり、彼とたわいない話をしたりそんな日々を過ごしていると、とうとう【Free travelers】の公開日になった。
「あっという間だったな。まるで一文しかたっていないみたいだ」
自分で言った一文という単位に首をかしげながら窓の外を見る。
「この街もずいぶん変わったな」
いつの間にか日本の人口も増え、たくさんの外国人が引っ越してきたため、
才能の無駄遣いだったはずの機能がしっかり機能するらしい。
そういえば、この家にも何人か外国の人があいさつに来ていたな。
ゲーマーばっかりだと思ったら、意外と普通の人も来ているのだからかなり驚いた。
あの伝説のプログラマーはこれを想定していたのだろうか。
まあそれは置いておいて、「彼」がもうキャラメイクを終えてゲームの中らしいし、俺も早くいかないと。
早速、ヘルメットのようなヘッドセットをかぶり、ついていたソフトを差し込むと、その場に倒れるように五感がなくなり、意識が飛んで行った。
「ようこそ、<freetrabelers>の世界へ。ニックネームの入力をお願いします」
と無機質ながらも棒読みを感じさせないような、<音声合成>の声が聞こえた。
「んーとそれじゃ……カーケイで」
いつもニックネームに使っている名前だ。
俺の名前の【空下健栄】≪からしたけんえい≫の、
名字の初めの文字、名前の初めと終わりの文字をぬいた、か、け、いに伸ばし棒をつけた形だ。
え、ネーミングセンスがないって?俺にネーミングセンスを求めても無駄だよ。ほっといてくれ。
こういうのは開き直るしかないんだ。センスは生半端じゃ鍛えられないんだから。
「カーケイさんでよろしいでしょうか?」
「それでお願いします」
「次に種族の設定です」
「今なれる種族は人・エルフ・ドワーフの3種類で能力も異なります。今伝えられるのはこれだけです」
つまり直感やイメージで考えろって言うことか。
イメージが湧かない。
エルフは耳がとんがっているとかそんなところかな?
取り敢えず無難そうな人でいっか。
「わかりました。人でよろしいですね?」
「はい、というか心の中読んでますか?」
「正確に言えば頭の中という事になりますが、心を読んでいます。逆に話しかけてくる方が珍しいですから」
ただの音声合成なのに感情をもって笑っているように感じた。
「それではカーケイさん、まずステータスを決めます」
「現実の世界のからだの能力バランスで決める方法と、自由に振り分ける方法があります。前者の方はボーナスポイントがあります」
「それじゃあ現実の世界のからだのほうでお願いします」
「わかりました。測定をします、動かないでください」
少しぞっとした感覚になった後、
「測定が終わりました。早速確認されますか?」
んー、どうしようかな?
楽しみは後でゆっくりと確認したいし、彼が待っているから早く終わらせるか。
「今は大丈夫です」
「わかりました。それでは、<free trabelers>の世界をお楽しみください。」
言い終わってないのに食い気味で言われてしまった。
まあ心が読めるなら会話する必要もないからか。
時間が押していたのかもしれないな、次の人もあるし。
と思っていた矢先、目の前が白くなったかと思うとベッドらしいところで寝ころんでいた。
とりあえず動けるか試してみるか。
お、普通に思った通りに動ける。違和感は少ない。
クソゲーだと違和感がすごいからな。
彼からもらったメールだと、アルバント広場にいるらしいし行ってみるか。
外に出てみるとマンションの廊下のようなところだった。
その隣にはカルリア・アール マテリア・ヒュウリなどの、知らない名前がずらりと20人ほど並んだ名札があった。
公式の事前発表によるとプレイヤー全員が個人スペースを持っているらしい。
「あっ、そんなことより早くいかなきゃ」
そう言って1階のフロントの自動ドアをくぐった。
03
外に出てみると、魔法と科学が融合したような近未来的な世界が広がっていた。
「<free trabelers>なんていうから中世的なものを想像したけど違うんだな」
「あら、旅人さんかしら」
「まあそうですけど」
はっきり言ってプレイヤーかNPCか区別がしにくい。
運営のNPCも人間として扱ってほしいという意識の表れだろう。
「そうだったら、チュートリアルをしに管理局に行ったら?」
「すみません、友達が待っているので」
「そうだったのね、場所はわかる?案内するわよ」
「アルバント広場らしいんですけど…」
女性は困ったように首を傾げた。
「この町にそう言ったところはないけどねー……
もしかしたら種族が違わない?
種族によってリスポーン場所が違うんだけど」
こうして、俺は急いでメールを確認すると
必ず種族はエルフにするように書かれていた。
そっと覗いてきていた女性が、
「このゲームはキャラの再作成ができないから、移動して合流するしかないわね。
だいじょうぶ。エルフの町は近いから丸1日あったら合流できるわよ。多分。」
肩をたたいて励ましてくれた。
「ありがとうございました。」
とため息交じりに女性にチップを渡しメールを打ち込んだ。
「これからどうするかなぁ。」
合流する予定の「彼」(ちなみにキャラクタネームはバンボーらしい。)とは会えないし、
とりあえず、あの人が言っていたようにチュートリアルをしにいくか?
考えてみたらまだステータスを確認できていないし、一回確認してみるか。
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NAME カーケイ LV1 JOB trabeler
SKIL 〈解析〉
STR 18
CON 14
POW 23
DEX 21
SIZ 0
INT 14
LUK 20
STR・筋力 武器のダメージの増加
CON・体力 HP<ヒットポイント>SP<スタミナポイント>の増加
POW・精神力 魔法対抗力増加 器用度の増加
DEX・敏捷性 回避力、先制力の増加 反応速度ボーナス
SIZ・体格 NPCの初期評価、説得力にボーナス 命中力の増加
INT・知性 魔法の与ダメージの増加 思考速度にボーナス
【ボーナスと増加】
増加はその行動の結果(結果点)に増加分の数値(増加点)を足します。(出た数値を実績点とします)
ボーナスは、ブレイヤーの精神に干渉して、その能力を高めます。(干渉点)
そのため、増加点は一定ですがボーナスは一定ではありません。
またクリティカルは、干渉点のみ2倍になります。
まとめると、実績点=干渉点+増加点(一定)
干渉点={結果点(不定)+ボーナス点(不定)}×2(クリティカル)です。
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うんまあ、バランスがいいな(SIZから目を背けながら)
まあ大体10は越えているからな。(SIZ除く)
なんて現実逃避をしている暇はなかった。
なんというか通行人COMから変なものを見るような目で見られている。
SIZ0ってそんな嫌われるのか。なんだかショック。
でも、あの人には嫌われていなかったけどな。
COMにしか効果がないのか。
ちょっとした心の傷を抱えたまま、チュートリアルをしに管理局へ向かった。
……さて、とりあえず管理局に行こうとしたのはいいけれど、
このゲーム、マップがない。
そして俺は迷っている。
ということは、周りの人に聞くしかないのだ。
普通なら大丈夫なんだが、今の俺はSIZが0なのである。
座っているだけで不審な目をされるのに、話しかけでもしたら通報されかけない。
だからと言って、ずっと迷子でいたら困る。
そうだ、交番に行こう。まだ警察官ならちゃんとした対応をしてくれる。
と思っていたのだけれど。
「なんだ、自首でもしにきたのか?」
これはひどい、SIZ0恐ろし過ぎてきついな。
この人が悪いのではない。SIZが悪いのだ。
NPCに嫌われプレイか、ドMしかしない…いや、ドMでもしないな。
《【警察出頭】の称号を獲得しました。それに伴い、スキル【正直】と【不審】を獲得しました。
最初の発見者のため、【発見者】の称号とそれに伴うスキル【発見】を獲得しました。》
「自首をしに来たわけではないから!」
「すまん、出頭だな。名前と指名手配された時期を……」
「ほんとに、出頭じゃないから」
これは話にならないな。
「そうか。いったいなんの用だ?」
「迷っているんですけど」と言ったとたんにインベントリに地図・ファンナールの町カルナット地区が入っていた。
「ありがとうございます」とだけいって足早に出ていった
「NPCに何かを期待したのがダメだったかな?」
自然に言い方は緩いが、凄く恨みも含んでいるような口調になっていた。
しばらく静かになり、口があいたと思うと愚痴が止まらない、どうしてかは自分自身でもわからない。
まるでシステムによって怒らされている感じだった。
とにかく、ひどい言われようだった。
入って早々犯罪者扱いだったし愚痴っても許されるよな?
まあ、称号が手に入っているから、まだ、ましな方だな。
いや、<警察出頭>ってどう考えても、不名誉称号だからマイナスなんじゃないか。
とりあえず詳しく確認して見るか。
<警察出頭>に初期スキルの<解析>を使ってみると、
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<警察出頭>
警察官の友好度がマイナスになっている状態で、交番や、警察署に立ち寄った証
【正直】
本当のことをNPCに伝えると、友好度にブーストがかかる。
【不審】
NPCの初期友好度、NPCとの会話後の思考速度にマイナス補正がかかる。友好度がプラスのNPCには、マイナス補正が切れ、信用度が上がる。
<発見者>
何らかのものを一番初めに、見つけた証
【発見】
システムによって設置されている、ギミックの発見に思考ボーナス。
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NPCにさらに嫌われるようになった。
もう嫌われてるし大きな問題はないがな。
むしろ仲良くなったら友好度が上がりやすくなるのは、いいな。
思ったよりマイナススキルじゃなくてよかったっていう所だ。
そうして、ギリギリ始めの場所が写っているぐらいで肝心の管理局は写っていないぐらい小さな地図を見ながら始めの場所に向かって歩いた。
こうして無事に帰ってこれたのはいいけど、スタート地点に戻ってきただけなんだよな。
ついさっきログインしたばかりであろう人が、次々と出てきている最中だった。
テンションが上がっている人、あまりの完成度に興奮している人、VRに慣れていなくて、酔ってしまった人。さまざまな人がごった返していた。
自分の部屋に帰るのは厳しそうだなとそう思いその場から離れた時だった。
「あら、まだいたのね。」
初めに話しかけてきたあの人がいた。
「そこらを歩いていたんですよ。迷子になって戻ってきました。」
「迷子にしては、帰ってくるのが早かったわね。」
「交番で地図をもらってきたんです。」
女性は目を大きく見開いて、
「珍しいわよ、それ。」
「早く厄介払いがしたかったから渡されたんだと思います。」
「よっぽどSIZがひくいのかしら?」
「そうです、0なんですよ」
「あら、VITが0なら、初期好感度-80になるわね。ちなみにVIT5で好感度0よ。」
「そんなに低いんですか!」
「大丈夫、5時間ぐらい話し掛け続けたらプラスになるわよ。」
最初と同じように女性はいたずらをした子供のように微笑んだ。
「ありがとうございました。」
「あと、フレンド申請しておいたからいつでも呼んでくださいね。」
右上の端に見えるウィンドウに、
〔ユミナル・サラナ NPCからフレンド申請が届きました。〕
不思議と違和感無く出てきた。
「ユミナルさん、NPCだったんですね。」
一回NPC説も考えていたけどSIZの効果がなかった時に、その線は捨てていた。
「まあね。それと、この世界の人には、下の名前で呼んだ方が良いわよ。それじゃあ、良い旅を!」
サラナさんが大きく手を振って見送ってくれた。
さあ、今度は人の流れにのって迷わないように行こうか。
06 SIZ0のチュートリアル
人混みに紛れようと思ったら人混みから俺を避けて来る。
俺に矢避けの加護でも付いたかな?
…ぐすん。おのれSIZ許すマジ。
それでもさすがに行き先を変える人はいなかったようで、無事に管理局についた。
「これが、管理局か……」
周りの建物よりも少し古そうな、最近発展した町の大きな市役所といった感じだ。
列に並んで待っているんだが俺が並ぶと、数人が
「お先にどうぞ」
といって順番を譲ってくれる。優しい世界だな。
…ぐすん。おのれSIZ許すマジ。
話を聞くとプレイヤーにも少し嫌なオーラを感じるらしい。
ぼっち…、いやソロプレイ必須か。孤高の戦士にでもなろうか。
意外と地味に、かっこいいと思うしな。
「次の方どうぞ」
俺の番が来たようだ。
隣の受付の人がこちらを向いて、電話らしきものをしているが気にしないでおこう。
「チュートリアルをうけn」
「お出口はあちらになります。」
薄々こんな気もしていたが、やっぱりひどい。
「おしえていただきたいことg」
「ヘルプをご確認ください。お出口はあちらになります」
これを8時間繰り返すのか。地獄かな?
「ちょっと君、こっちに来てもらおうか」
急いで駆けつけてきた、前に会った警察官に、声をかけられた。
「何で俺が?」
「いいから、早く来なさい」
手錠をかけられ、俺はまたあの交番に連れていかれた。
「今日から、お前は体感1ヶ月間拘束される。まあ、安心しろ。
時間加速の魔方陣がかかっているから、実質30分だ」
「それはわかりましたけど、罪名は?」
「営業妨害、不退去罪、強要罪が、報告されているが弁明はあるか?」
…地味に否定しずらいな。間違ってはいないけどなにか違うような感じ。
「しているけど、していませんから」
「何を言っているか訳わからねぇよ」
言っておいてなんだが自分でもよくわからないや。
「まあ、とりあえずお前にとってもデメリットばっかりじゃないんだぞ。
労働作業として、簡単な錬金、木工、鍛治の練習がこっちの30分で一ヶ月分できるし、
食事、睡眠もいらないから、何にも邪魔されずにできるぞ。
監視係の俺も、こっちの30分で1ヶ月の給料をもらえるし、
まさにwin-winの関係じゃないか」
なるほど、それを聞いたら悪く無い気がしてきた。最後の部分に興味はないがな。
「わかりました。諦めてさっさと捕まりますよ」
「よし、こっちにこい」
警官は、裏のドアをあけながら俺の手を引っ張る。
「強く引っ張り過ぎです!俺の腕が取れますよ」
「そうか、やさしめに掴んだはずなんだがな」
これが、優しめならば、相当力は強いだろう。
NPC恐ろしいな。喧嘩なんぞした日には、
あまりのショックでリアルの方でも永眠してしまいそうだ。
「さあ、ここだ。」
そこは、魔法陣が書いてあるだけでただ広いだけの何もない部屋だった。
何もなさ過ぎて何もコメントできない。そんな部屋だ。
「まずは。これを渡さないとな」
《レシピ本錬金の心得、木工の基礎、鍛冶のすゝめ、初心者生産キットを獲得しました。》
早速、<解析>を使うか。
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錬金の心得
スキル<錬金術>とその派生スキルを一つ獲得する。
木工の基礎
スキル<木工>とその派生スキルを一つ獲得する。
鍛冶のすゝめ
スキル<鍛冶>とその派生スキルを一つ獲得する。
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「チュートリアルで渡されるはずのものだ。
本来なら、選択できるんだがここに合わせて、こちらで選ばしてもらった。
普通より、一個多いからな。それで勘弁してくれ」
一つ多くもらえるなら、文句を言うつもりもないかな。
それよりも、少し態度が柔らかくなってきた気がする。
今のところ、このゲームで一番会話している人だからな。
そう思うとなんだか急に寂しくなってきそうだ。
まあとりあえず、スキルを<解析>するか。
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<錬金術> 乾燥、加湿ができるようになる。
<聖錬術>
成分の分離に特化。薬の生産に適している。
古人の夢であるエリクサーも作れるかもしれない。
<錬丹術> 物質の変質に特化。劇物の作成に適している。
東の大国の人々が夢に見た仙丹も作れるかもしれない。
<錬金術Ⅱ> 正統進化。バランスの取れたオールラウンダー。
鉄を金に変える力を持つ賢者の石も作れるかもしれない。
<木工> 木材や、木材の制作物に対する<解析>を強化する。
<家具製作> 家具の製作に特化。
家具は人を癒しHPの回復を助けるだろう。
<木彫> 小物や、芸術的な木の加工に特化。
美しさは人の心を動かせるはず。
<大工> 大型の物の製作に特化。
木の建物は火に弱いが、温もりを感じさせてくれる。
<木工Ⅱ>正当進化、バランス型
いいとこどりだが、上達には骨が折れるだろう。
<鍛冶> 鉱石や、鉱石の制作物に対する<解析>を強化する。
<武具> 武具の製作に特化。
金属を武器に変え、力を与える。
<防具> 防具の製作に特化。
金属を防具に変え、人を守る。
<鍛錬> 武具、防具の修繕、強化に特化。宝石の扱いに長ける。
長く使われた武器や防具に再び、力を与える。
<鍛冶Ⅱ> 正当進化、バランス型。
いいとこどりだが、上達には骨が折れるだろう。
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うーむ、書いていること云々のまえに、厨二っぽさが気になる。
それはどうでもいいか。
他の人が選ばなさそうなのを選ぶだけだ。
不人気職は意外と強いっていうのはお約束だからな。
【<錬丹術><木工Ⅱ><鍛治Ⅱ>を獲得しました。】
結局、錬丹術以外正統進化に落ち着いた。
どれが人気だとか、初心者にはわからないや。
時間だけはあるから、うまく活かさないと。
09
交番生活一日目だ。できることからやるしかないな。
「あの、材料ってどこにあるんですか?」
「とりあえず、これを使え。
足りなかったら、また追加で渡すからな。でも、余ったらちゃんと返せよ。」
そういって五本の丸太と、拳四つ分ぐらいの大きさの銅を
アイテムボックスから取り出していた。
早速、<解析>をしてみるか。
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中丸太(スギ)
中にかなり水分がこもっている直径20cm程度の木材。
乾かせばよりよく使えるかもしれない。
銅鉱石
純度はかなり低いため直接物を作ることは難しい。
一回インゴットにするとよいかもしれない。
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随分と親切なんだな。
それじゃあ、指示通りにやってみるか。
アイテムボックスから初心者生産キットを取り出し、錬金術の鍋の形に変形させる。
この中に丸太を入れて…この後どうすればいいんだろう?
『錬金術を使用しますか?』
Yesと念じると謎の力で鍋の下に火が付く。
『加湿なら、水を入れてください』
乾燥させるからパスしてっと。
そうしてじっと眺めていると、丸太がピキッと言って中央の方が割れてしまい、
『乾燥に一部失敗しました』
そんなアナウンスが流れた。
何もしなかったのがダメだったかな?とりあえず、解析をしないと…。
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割れ目の入った中丸太(スギ)(気乾状態)
何らかの原因で乾燥に失敗し、目回りが割れてしまった木材。
耐久力は少し落ちるが、生材の時よりは、かなり使えるだろう。
原因は様々だが、大体は乾燥のしすぎによる、外温との違いである。
もっと早く乾燥を止めるか、外温との差を小さくするべきだろう。
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この、熱そうな中に手を突っ込むのか。大丈夫かな?
木材を取りだそうと木材に触れると、急激に手がかなり熱くなる。
『状態異常〈低温やけど〉|(軽度)になりました』
ビックリして手を離すが、手がヒリヒリする。
「生産キットの中に、耐熱手袋が入っているぞ」
あの警官さんが、少し呆れがちに言った。
……もう少し早く言ってほしかったかな。何も考えてなかった自分が悪いのだけれど。
「ほら、手を出せ。」
警官さんに言われるがまま手を差し出すと、
「この者の傷を癒し給え。《キュアバーン》」
「ありがとうございます!」
魔法がファンタジーっぽくていいとか、魔法のネーミングが安直だとかそんなことよりも、
仕事だからといっても、SIZ0の自分を気にしてくれたことが本当に嬉しくなった。
「さて、どうするかな」
することと言えば、失敗した木材の乾燥と、銅のインゴット作成か……
やっぱり、先に乾燥を終わらせるかな。
PCDAサイクルは大切にしたいからね。
また木材を入れて、一回じっくり観察してみる。
『<乾燥>に一部失敗しました』
早すぎないかな。これ?
生産キットに入っている温度計を、恐る恐る近づけてみる。
示された温度は…
1000℃。
「絶対にこの温度計壊れてるだろう。
もしこれが本当なら、これで溶けてない鍋って何でできているんだろうな?」
ファンタジー的な力だろうか。そんなことを鉄にしか見えない鍋を見ながらつぶやいた。
そんなことを言っていると、少し席を離れていた警官さんが、扉を開けて戻ってきた。
「あっついな。スキルを使っている人はある程度熱が吸収されているけど、周りはそうじゃないんだからな」
気をつけるんだぞ。とあまりの暑さにまた戻っていった。
これぐらいの温度なら、金属も何とかなるか?
耐熱手袋をつけて木材を取り出し、銅鉱石を入れてみる。
すると、液体にならなかったものの、色が黒くなり鍋の底にへばり付く。
おそらく、酸化して酸化銅になったのだ。
……いつの間に俺は科学実験をしていたのだろう?
「こうなったら、どうにもならないな」
スキル<錬金術>をきり、鍋の火を止める。
その瞬間、とんでもない高温が俺を襲う。
「あっつい!ほんとに熱い。蒸発しそうだ。助けてくれ!」
急いでドアを開けようとするが、開かない。
鍵でもかかっているのだろう。
捕まっているのだから冷静に考えると当たり前だが、
そんなことも考えれずにひたすらにドアを叩く。
それでもドアが開くことはないまま、
『称号【高温に耐える者】を獲得しました』
そんなアナウンスを受けながら、意識をそっと落とした。
『キャラクターネーム・サーケイは、高熱により、死亡しました。30秒後に、強制リスポーンします。
また、いずれかのスキルがレベル15になるまでデスペナルティはありません』
やっぱりこんがり上手に焼けちゃったか。
それは仕方ないとして、
見た感じあの部屋にあった魔法陣はなく、ここに時間加速はかかってない。
ということは……
「釈放だぞ」
と警官さんがにやりと笑いながら言う。
「あんまり嬉しくないな」
まだしたいことはたくさんあったし、もう少し居たかったかも。
「もう一回はいるか?」
そっと牢屋を指して問われる。それも悪くないな……
「生産抜きでな」
「ちょっと、それは話が違うんじゃないですかね」
1ヶ月なにもできないのは本当にただの地獄だ。
「冗談だよ。とりあえず、このままだとこの先困るだろうからレグル・パースの名において身分を証明するって言う文書を渡しておく。
問題をおこしたら、俺の責任にもなるんだから、気を付けろよ。」
「ありがとうございます!」
『称号【昨日の敵は今日の友】【更正済み】を獲得しました』
こんな時でも、【解析】は忘れない内にしなきゃ。
 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄
【昨日の敵は今日の友】
24時間以内に、友好度がマイナスだった人の友好度をプラスにする。
まだまだ関係はこれからだ。
友好度がプラスのNPCの友好度をブーストする。
【更正済み】
治安維持組織(警察・軍)の人の友好度がマイナスであったが、友好度がプラスになった証
この称号は、いかなる場合でも他人に知られることはない。
好きな基礎スキルを好きなタイミングで獲得できる。
 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄
渡された紙を受け取り、交番から出ていく。
「もう、戻って来るなよ。」
そんな常套句で見送られながら。