俺と姉貴とジャガイモと
俺は最近、退屈していた。毎日毎日、同じ時間に起きて、飯食ってゲームして、飯食って寝て、飯食って…。いい加減飽きてきた。何か刺激が欲しい…。ぞくぞくするけど、わくわくすること。毎食の塩味のポテチじゃない。ブラックペッパー味のポテチでもない。俺はポテチ以外の刺激を、食料を求めていた。でも、こういう時に限って何もない。一縷の望みをかけて冷蔵庫を開ける。目の前に広がるのはジャガイモの海…。
「違うだろおおお!!」
勢いよく引き出しを閉めた。
もう嫌なんだ…。何故、姉は毎週毎週、飽きもせず俺にジャガイモを持ってくるんだ…。そりゃ、一人暮らしを始めた頃はジャガイモばかり食べていた。差し入れに人参を持ってきた日には料理を作る気も失せて、白米に人参を刺したこともあった…。
だが、いい加減ジャガイモは飽きた。ポテチもかつては背徳の味だった。しかし、今では顔馴染みの親友みたいになった。例えるなら隣の家の田中さん。例えるなら、スーパーで毎日見かける可愛いバイトの子。例えるなら毎回、家の前を通るたびに吠えてくる中山さん家の犬…。
いい加減、許してくれ…。俺が何をしたと言うんだ…。膝を抱え、月を見上げる。何故か目に熱い何かが込み上げてきた。ゴシゴシと目をこすりポテチに手を伸ばす。ポリポリと食しながらあれこれ考えていると、ふと一つの可能性に気がついた。もしかして、これはポテトの呪いなのか!?いや…。ポテチの神様が俺に下した試練なのかもしれない。この究極の試練を乗り越えた先に俺のポテチライフが待っているのではないか…!!
「何バカな妄想しているの?」
そんな事を考えていると頭の上から姉の声がした。
「姉さん、来たの!?」
「来たわよ!まったく、全然気がつかないんだから…。ほら、ご飯作って持って来たの。レンジで温めれば直ぐに食べられるわよ。」
得意げにタッパーを見せびらかす。
「自慢するほどのこと?それ、どうせ母さんの手作りだろ?見りゃわかるよ。」
「可愛くないわね…!一応、あんたの健康を思ってバランスとか考えたんだからね。」
「はいはい。」
そんな会話をしているうちに、みるみる食卓は鮮やかになっていった。
「いただきます。」
元気な声が部屋に響く。久しぶりの飯の味…。うまい…!うまいぞおおおお!!!ガツガツとカツ丼を食べる。さっきとは違う涙が込み上げてきた。
「生きててよかった…!俺、今幸せだよ。」
「そらあ良かった。…それより、あんた、それ美味しいでしょ?それだけは私の手作りなんだ。」
姉がドヤ顔をしながら俺の食べているグラタンを指差す。それと同時に俺の腹は痛みを覚え始めた…。
「…姉貴、何しやがった…。」
「へ?別に?野菜を切って茹でてソースかけただけだよ?」
俺は床を這いながら胃薬を探す。思い出した…。俺が週末にかけて家にジャガイモしか残さない理由…。それは、姉が料理をしようなどと思わないようにするためだった。姉の作る料理は恐ろしい。いつだったか、ところてんを作ってくれた時があった。作るといっても、タッパーから水を抜いて皿に移すだけの単純な作業。しかし、完成品はところてんではない何かの味がした…。
その日の夜、俺は鶏が鳴く時間までトイレにこもっていた。