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◆プロローグ◆



 自我が生まれる瞬間に、いつも私は“またか”と感じる。


 生き物によって自我を得る時間には差があるものの、草食動物はかなり早い方だと思う。理由は至極簡単で、生まれてすぐに立ち上がらないと死ぬからだ。


 そのせいか毎日何かしらのスリルと隣り合わせで生きるから、割と真面目に天寿を全うしようと奮闘してしまう。何より生き残ることに飽きる程よいタイミングで寿命が尽きるのが良い。


 毎度毎度、全然次に経験を生かせない生き物に転生させられる“私”は、そもそも自我が希薄だ。自分が自分であるという心地がまるでない。いつも気づけば始まっていて、慣れると終わる。これの繰り返しだ。


 最初に自分がまた転生をしたのだと気付いたのは五歳の頃。庭にある池に翼に矢が刺さった鴨がやってきたことで、前世の悲しい最後を思い出してしんみりしてしまった時だろう。


 結局その鴨は私が野生に戻してしまえば、すぐに死んでしまうから可哀想だと両親に訴えて、私のペットになった。


 その当時は元同族を救えたことに安堵し、暢気に話し相手になってもらおうと思っていたのだけれど……それが後々面倒を呼び込む体質に繋がるなどとは、この時はまだ知る由もなかった。


 今世の私の見た目は前回人間だった頃の記憶を遡れば、如何せん目が死んでいるとしても、美しいと評しても良いかもしれない。濃い栗色の髪に、琥珀色の切れ長な目。ただいつも半眼なのは、表情筋が働いていないせいもあるのかもしれない。


 しかし今までの転生でこんな特典がついたのは初めてだったので、考えてみたらその時点でおかしかったのだ。


 一つ目は今世で与えられた私の役所。頭に【没落】の二文字がくっついた子爵家のご令嬢という、なかなかに悪い意味で愉快なポジション。没落した理由がお人好しすぎた先代と先先代のせいなのは、せめてもの救いだ。これでただの浪費癖がある悪人では割に合わない。


 そして二つ目は良く言うとするならば、言語能力のチートと表現しても良いものか迷うような代物で……。


 そんな奇妙な能力が発露した当初は、小鳥とお喋りが出来る夢見がちな子程度で容認されていたものが、そのうち猫だって犬だって馬だって――と、どんどん許容範囲から離れていけば、人間誰しも気味悪く思うのが普通だと思う。


 おかしな娘の能力だって、使いようではそれなりにお金を生み出せるにも関わらず、決して貴族的なことに使おうとはしなかった。だから私の微妙な言語能力チートは、小鳥達が教えてくれる台風情報や、イナゴの大量発生の情報、干魃の情報収集などに使われるだけ。


 主にこの二つ目の特典のせいで口さがない貴族達からは、陰で“先見の魔女”と呼ばれることになったのだ。それでも人が良すぎる父は私に不自由をさせまいと懸命に働いてくれるから、領地の中は平和そのもの。


 残念ながらすでに記憶の中にしかいない母も、私の能力をとても褒めてくれる人で。毎日私に『あの小鳥は何を歌っているの?』と訊ねてくれるような、人間としては最上級に位置する人格を持った優しい人だった。


 そんな聖人二人の元に爆誕してしまったのだから、人間味の薄い私でも、少しは報いたいと玉の輿を狙って婚約者探しをしていたのだけれど……。戦績はこれまでのところ、十八戦全敗。全くもって良いとこなしだわ。


 すでに年齢は結婚適齢期の十八で、若さを売りに出来るのも精々あと一年。気の良い父は「無理に結婚を焦らなくても、お前のその素敵な能力を喜んでくれる人のところに嫁げれば良いさ」と暢気なもの。


 だからせめてこの見目が維持できている間に、どこかのエロ爺の後妻にでも収まって資金援助を受けつつ、実家には一族の中から養子を――……と意気込んでせっせとと夜会に出向くのよ。

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