いや、欲しがったのは俺だった。
更に5日が過ぎた。
腕の痛みより、心の痛みが酷い。
俺は塞ぎ込んでいた。考えないと、自分で決めたから、考えなくて済むなんて、簡単な訳ではないのだ。
ふとした事で、人の死と自分の無力が後悔の念になって流れ込む。俺の中身が、本当に6歳だったらよかったのに。
両親は、今日もその事については、何も言ってこなかった。
昼過ぎに、ぼうっとして、何も考えずに家の外に出た。花壇に綺麗な花が咲いていた。紫色の小さな花が沢山咲いていた。小さな蜂が飛んでいる。
大きく息を吸い込むと、なんとなく走り出した。ひたすら、走って走って、見たことのないところまで。どれだけ走ったか分からなかったが、結構、走った気がする。
自分では、気がついていなかったが、入ってはいけないと注意されている森の入り口まで来ていた。
大きな岩があった。
結構大きい、俺の身長より大きい。大人でも、1人では動かせないんだろうな。
岩の上によじ登って、腰かける。一人で、ぼんやり空の雲を見上げる。
雲を見ながら、あの瞬間を思い出す。
あれは、なんだったのか。
アクアボールではない、別の魔法が、無詠唱で発動したのは間違いない。父さんに言うべきか?
禁忌の魔法だったりするとどうなるんだろう。情報が足りなさすぎる。分らないことだらけだ。自分が無知であることを知るということが、最初の一歩だみたいな、話を読んだ気がする。なんとかいう哲学者…、駄目だ、名前が思い出せない。
俺の手は、あの時どんな風にしたんだろう。
指を伸ばして手を拡げる、掌に魔力を、全身の魔力をじっくりと溜める。
感じる。
身体中から集まって手の中を何かが、いや、魔力の塊が蠢いている。
そうだ、そしてこう。
俺は右手を突き出して、岩に向かって叫ぶ。
「おまえが、死ねっ。」
ゴウッという、音が響く。
見えた。
魔力の渦が、俺の掌から放射され岩を、というか空間を削りとった。掌を頂点に、長さ5メートル、直径3メートルぐらい、いやもっとあるだろうか。円錐型に岩は削り取られていた。
これは、やばい。
いや、喜ぶ事なのか?
駄目だ、間違って暴発させたら、死人がでる。
優れた魔術師である、父さんに相談するしかない。
って言うか、なんで6歳にこんな能力つけるんだよ。オーバースペック過ぎだろ。
いや、欲しがったのは俺だった。
そう、無意識に。
この力が無ければ、死んでいた。
俺は何事もなかったように、その日を過ごし、寝る前に父さんの部屋に行った。ドアをノックして、返事も待たずに入る。少し驚いたような表情、そして、いつもの優しい父さんの顔になる。
「どうしたんだい、レイ。」
「お話しが2つあります。」
俺は、父さんの横に密着するように座り、そして洗いざらいぶちまけた。ルルのことがどうしても納得できないこと。それから、目の前で困っている人を守る為にもっと強くなりたいこと。泣きながら話したからだろう、途中から自分でも何を言っているかわからなかった。父さんに上手く伝わらなかったかも知れない。
ただ、かなり後で分かることだが、父さんは俺が思ってるより、優しくて、大きかった。
頭を撫でられた。
「レイの気持ちは、よくわかった。」
そう言って微笑んでくれた。
なんだか、胸がスッとした。転生する前に何かで読んだ気がするが、人間は泣くことで辛さを乗り越え我慢できると言った内容だったと思う。
どうやら、本当のようだ。