どうしようもないことは、きっと、どの世界にもあるんだろう。
村の蟻退治から、一週間が過ぎた。
左腕は、だいぶ良くなった。曲げる時に、まだ少し痛むが、生活には支障がない。
あの時、倒れていた人は、女の子のお母さんで、戦っていた人は、お父さんだった。お母さんはあの時点で、すでに亡くなっていた。お父さんも、腕からの失血が原因であの後、亡くなったそうだ。
俺は、帰りが遅いことを心配したお手伝いのミーリアさんに助けられた。
家を出て、少し歩くと巨大蟻(正式名称ジャイアント・ロックアント)に左腕を咥えられて、宙づりになっている俺を見つけたそうだ。その時は、もうだめだと思ったらしい。なんといっても、二人でお留守番中に、大事な跡取り息子が死んでしまうなんて、お手伝いとしたら責任を取らされかねない大問題である。
そういう意味では、ミーリアさんにも本当に悪いことをした。
蟻が死んでいることが不思議だったそうだが、俺のことしか、頭になかったそうだ。兎に角、蟻の死骸から俺をおろして、すぐに自分の身に着けていたエプロンを破いて俺の左腕の付け根を縛って止血し、村の集会に出ていた俺の両親を呼びに走ったそうだ。母さんならなんとかできると思って必死で走ってくれたらしい。
俺は、何度も感謝の言葉を伝えた。
ミーリアさんも一緒に泣いて喜んでくれた。
泣いていたあの子は、ルルという名前で、村の少し貧しい農家の娘だったようだ。ご両親には借金があったようで、田畑も全部その返済のために売られて、そして、ルルも奴隷として売られることになった。
俺は納得がいかなかった。
彼女を奴隷にする為に、助けた訳じゃなかった。
しかし、6歳の俺にはどうしようもなかった。
この世界にきて、初めての挫折というか、敗北感、それも心の底から。俺は、勝ったように見えて、実際には負けていた。
ルルが連れていかれるところも、何も見ていない。ただ、気が付けば村から居なくなっていた。
やはり、この世界でもお金は大事なことを痛感してしまった。そのことを理解していても、それを両親に言うのは、不味い気もする。転生者だとばれることは、問題だろう。
あまりに辛すぎるので、俺はこのことについて考えるのを止めた。
どうしようもないことは、きっと、どの世界にもあるんだろう。
そして、道を間違えれば、自分もそうなることを肝に銘じておくべきだと、自分に言い聞かせた。それが、6歳の俺の一番記憶に残った辛い思い出だった。