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回り道

作者: するめいか

 人生で初めての高校受験。私はどの高校を受験すべきなのか非常に悩んだ。

 中学はごくごく普通の公立校に通っており、成績もさほど悪くない。頑張り次第では進学校にも通うのも夢ではないと先生にも言われた。


 しかし、私には来年の春に高校生の制服を着ている姿が未だに思い描けない。

 受験はまだ半年後のことであるが、その半年で人生の基盤が決まるのかと思うと急に不安になってきた。


 だから私は未来の私に直接話を聞いてみることにした。

 未来の私にその学校の印象だとか、この学校に入ってよかったことなんかを聞いてしまえば私の不安は解消される。

 無駄な道を選んで後悔しないためにもここは私にとって最善の道を知っておきたかった。


 「A校? A校はやめときな。どうせ落とされるから」

 まず市立の中でも一番の進学校であるA校を受験した私に話を聞いてみた。

 どうやら未来の私はA校を受験してまんまと落とされたらしい。今では当時滑り止めだった私立校に通っているそうだ。

 これはいい話を聞いた。もしこのままA校を受験していたら私は行きたくもない学校に通わされるところだった。

 私と同じように滑り止めでそこを受けた人も一緒に通うことになるだろうし、そんな人たちと同じレベルと見られるのも嫌だからA校を受験するのはやめよう。惨めな私にはなりたくない。


 「B校に入るつもりならそれ相応の覚悟は必要だよ。A校とはあまり偏差値は変わらないけど、授業のレベルはA校よりも遙かに高い。テスト期間になったら最低でも夜中の2時まで勉強しないとみんなについて行けないし、とても楽とはいえないかな」

 A校がだめならばB校にしようかと未来の私に話を聞いてみたらあまりいい返答は帰ってこなかった。

 B校は普通の高校とはひと味もふた味も違う高専なのであまり前向きに検討はしていなかったが、高専で生き残って行くには想像以上大変らしい。卒業する頃にはクラスの約半分が単位が足りなくて学校を退学しているのだそうだ。

 やめよう。絶対にこの学校に進学するのはやめよう。

 そこまでしてその学校に入りたかったわけでもないし、これではまともな高校生活を送れなくなってしまう。

 無理に入って勉強についていけなくなったら元も子もないし、もっと楽な学校を選ぼう。


 「C校には絶対に入らない方がいいよ。クラスでも成績は上の方だけど周りは馬鹿ばっかりだし、この学校にきてよかったと思えることもあまりないかも。強いていうなら、卒業まで成績上位をキープしていたら地元の銀行に就職が決まるってぐらいかな」

 A校よりもB校よりも偏差値は少し下なC校に通っている私に話を聞いてみた。

 C校なら授業のレベルもあまり高くなく、勉強に追われたりせずに充実した高校生活を送っているそうだ。

 しかし、C校に入学したからには大学進学は諦めた方がいいらしい。

 クラス上位3名以内に入っていれば地元の銀行に就職は決まるらしいが、その他の生徒の就職先は保証されていない。あまり偏差値の高くないC校では自分のなりたい職業になることは難しいのだそうだ。

 未来の私は地元の銀行に就職を狙っているらしいが、それが本当に私のやりたいことなのかと聞かれるとたぶん違うと思う。

 別に将来の夢なんてないし、やりたい業種さえ決まってないのだが、いずれ私の中にもやりたいことが見つかるときが来ると思う。

 そのときに泣く泣く将来の夢を諦めるぐらいならば今のうちになんにでもなり得る高校を選んだ方がいいように思えた。





 翌年の春。無事に受験生活を終わらせることができた私たちは新たな学校生活に胸を躍らせ、桜並木の下で集合写真を撮ることになった。

 この三人で集まるのもこれで最後。中学生活を締めくくる思い出の一枚である。

 「あかりちゃんは明日からA校に行くことになるんだよね。いいなー、私も一緒の学校がよかった。二人とは頭の出来が違う私には無理な話だけど」

 「そんなこと言わないでよ。みつきちゃんも今回の受験、すごく頑張ったじゃない。夏の学力診断テストのときにはE判定だったところに主席で入学してたでしょ。ものすごい進歩だよ」

 「へへ、人生で初めて本気を出してみました。ほんとは三人一緒っていうのがよかったけど、新しい学校に行っても私らしく明るくやっていくよ」

 「うん。それでこそみつきちゃんだよ。お互い頑張っていこうね」

 二人はどうやら違う高校に通うらしく、それぞれ違った制服を着ている。

 あかりは私が行こうとしていたA校に進学するようだが、ゆづきの着ている制服は平均よりもちょい上ぐらいの高校に行くらしい。

 ゆづきは昔から勉強が苦手でクラスでも最下位に近い順位だったのに、死ぬ気で猛勉強して今の高校に入ったのだろう。

 あれほど勉強を嫌っていたゆづきが高校に進学すると言い出した時にはどうしようかと思ったが、無事に入学できた今ではゆづきの頑張りに拍手喝采を送るほかなかった。

 「それにしても驚いたよ、まさかみどりが県外の高校を受験してたなんて。道理で受験の話をしたがらないわけだ」

 「ギリギリまでその高校を受けるか悩んでたし、二人に心配させたくなかったからね。合否が分かるまで黙っておきたかったんだ」

 「もう、みどりのケチ」

 私が着ている制服は隣の県にある公立高校。あれほど未来の私に話を聞いて回ったが、けっきょく市内の高校には進学しないことにした。

 この制服も昨日届いたばかりで裾もかなり余裕がある。二人から中学時代の思い出に写真を撮ろうって言われたときに焦って準備したものだったが、この日に間に合ってくれて本当によかった。

 もしあと一日でも遅ければ私だけ中学の制服で写真を撮ることになっていたのかと考えるとぞっとする。

 二人は新しい高校の制服を着ているのに私だけこれまで着ていた制服で写真に残るのはなんとしても避けたかった。

 「それじゃあ撮るよ。はい、チーズ」



 その日の記念写真は今でも私の部屋に飾ってある。

 私にとって最初で最後の高校生活。忘れられるわけがない。



 あれからもう十年。私の時間は高校受験からずっと止まったままだった。

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