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Witch and Vampire  作者: 和上奏
一章
15/15

買い物3

しかし、あれから1時間経ったが、2人が出てくることはなかった。


「(遅い。)」


女性の買い物は時間がかかると聞くが俺には理解が出来ていなかった。


「(第一、俺が店を出た時に商品は選び終えていたはずだ。何を迷っているのか...。)」


「ところでナイト様は何を買われたのですか?」


「ん?ああ、お茶かな。」


今俺は時間を潰すために雑貨屋の近くにある店で茶を飲んでいるところだ、というより「だった」の方がいいのかもしれない。

今は茶を提供する店の席に座ってはいるが、随分前に数人の女性に話しかけられ、今に至る。

頼んだ時は温かかった茶も、今はポットの中で冷えてしまっている。


自分で言うのもあれだが、俺は多くの人に顔を知られている。「美形な役人」として。

決して自慢ではない。

この町の見どころとして、有名なのだと聞いたことがある。

橋で仕事をしているため、会える確率も高いからだろうか。


先のお見舞いの件といい、多くの人と面識があるのもそうだが、実はこの町の半分以上は俺の家、ヴァント家の土地である。

橋付近や主要道路である国道などは国の所有物だが、多くの店が建ち並ぶ町の中心はヴァント家のものだ。

土地代として定期的に金を徴収していることもあり、ヴァント家はかなり裕福だ。

「給料が平均よりも高い仕事に就いておきながら土地代もなんて、どんだけ金を貯め込めば気がすむのだ」と言われそうだが、家の土地が多い分町の整備もヴァント家が作業員を雇い行なっているので、そういった不満は今の所無いらしい。

少なくとも俺は聞いたことがない。


多くの場合、町の整備は近隣の住民や商店の者が行う。

一応各町には長がいて、国から町のお金として毎年給付される。

なかなかの金額らしいが、整備費、防衛費、他にも災害時の食費や用品費なども全てこの金で賄わなければならない。

そう考えると、あまりにも足らない。

この町では、橋こそ国が費用を出して整備をしているが、広く太い国道は町に給付された金で整備を行わなければならない。

多くの者がやってくるこの町は、毎日内地の方から、隣国からも多くの荷馬車がやってくる。

沢山の荷物を乗せて帰っていくため、重さに耐えきれず道が傷み易くなっている。

走り易くするという理由から、国道には煉瓦を敷き詰めているが、よく割れるため毎週一つ以上は煉瓦を交換している状態だ。

そのため国道の出費が半端でない。

給付金の三分の一を占めていると言っていい。

また、この町は多くの観光客を呼び寄せるための催し物が多い。

その費用と国道費を合わせて給付金は既に半分。

当初は「やめた方がいい」という意見が多かったそうだが、実際内地や隣国からも人が訪れ、観光客数が数倍になったという結果が出てしまった。

催し物を行えば自分の給料が増える代わりに使える給付金が少なくなる。

行わなければその逆。

天秤にかけたら、どちらの方を選ぶなんて分かりきったことだ。

催し物用の商品も多数製作され、更に売上は伸びたことで反対する者は居なくなった。

残りの半分は、災害時のための費用とされている。

以前までは町の整備費と半々だったが、川の氾濫という大災害により、災害時の費用が重要視された。

整備費はというと、当時の町の長がヴァント家に「土地代を多く払うので、町の整備費を肩代わりして欲しい」と頼んだそうだ。

詳しくは知らないが、その時のヴァント家は町に恩があったらしく了承した。

そういうわけで、現在もヴァント家が整備費を払っている。

ちなみに防衛費は、国境である橋を守るために国が直接管理しているため必要無いと判断された。

万が一暴動などがあった場合は、災害用の費用で賄うらしい。

起きたことは無いらしいが。


ちなみに金額設定の要因としては、人口、町の周囲の環境、物の流通具合などなど、色々あるらしいが全て公表はされていない。

だが、防衛費があまりかからないことや、町民が他の町に比べて裕福であることから、他の町よりは少ないらしい。定かではないが。


話は戻って、俺は地主として、町の役人として毎度催し物の開会式に呼び出される。

他の町の催し物に行ったことはあまり無いので役人が居るか分からないのだが、俺は居たところで特に何もしないので「居る必要性が分からない」と長に言ったら上手くかわされてしまった。

しかし頼まれる以上、無下にできない。

一度ミズルに頼んだが、「目立つことはやりたくない」と断られてしまった。

催し物に出る度に毎度毎度召使が写真を撮ってくれているが、テープカットをしている俺の写真ばかり増えていく。


そういうわけで、俺の顔を知っている人がどんどん増えているのだろうと思う。

女性の間で写真の取引がされているという話をジルから聞いたときは笑ってしまった。

冗談だと思っていたからだ。

実際に写真を見たときは思わず飲み物を吹き出したが。


「ナイト様はどちらにお住まいなのですか?」


「ん?町の奥の方だよ。」


今俺の近くに座って話しかけてくる女性達は、全く面識が無い。

あまり見かけない顔なので、この町の者ではないのだろう。

俺の回答一つ一つに「まあ!」やら「そうなのですか!」と大きく反応をしてくるので、少々話しづらい。

と、ここで俺は女性達が皆同じ袋を持っていることに気づいた。


「えっと、お嬢様方は何を買ったのかな?」


「きゃあ!お嬢様方ですって!」


お嬢様だけでこんなに盛り上がるとは...。

俺が苦笑すると、1番近い女性が咳払いをした。

他の女性達が顔を見合わせて小さく笑った。

1人の女性が口を開いた。


「ドレスです。今度、教会主催の舞踏会が開かれるそうです。」


「教会の舞踏会?」


「はい。100年に一度だということで、結婚出来る年齢に達している未婚の女性全員に招待状が送られているはずです。」


うちの屋敷にいる女性のほとんどは未婚だと聞いていたが、そんな話は全然知らなかった。


「どこの教会から?」


「たしか...王都の教会だったかと。うろ覚えなので名前は言えませんが...。」


王都の教会には、学校を卒業した後一度だけ行ったことがある。

相当大きかったはずだ。

未婚の女性がこの国にどの程度いるのか知らないため、舞踏会が本当に出来るのか知らないが。


「パートナーとは一緒に?」


「連れても、連れてこなくてもどちらでもいいと。」


「男性に招待状は?」


「いえ、友人に聞きましたが、送られている男性は今の時点でいませんでした。」


なんとも不思議な舞踏会である。

相手がいない女性は、女性同士で踊れというのだろうか。

いや、それは無いか。

それとも、王都で勤めている男性のお見合いも兼ねているということなのだろうか。

後でテラに聞いてみよう。


「お嬢様方にパートナーは?」


「まあ、それは不躾な質問ですよ。」


やってしまったと思った。

しかし、眉をひそめて口に人差し指を当てる女性を他の女性達が見てくすくす笑っていた。


「そうだな、すまない。」


小さく頭を下げると、眉をひそめた女性が笑った。


「大丈夫です。皆いますから。」


「お嬢様方はお綺麗だから、きっと素敵な男性だろうな。」


内心ほっとしながら微笑みつつそう言うと、女性達は頰を赤らめて、手を顔の前で振った。


「綺麗だなんてそんな...。」


「ナイト様より素敵な男性なんていないですよ。」


と、ここで雑貨屋からあの2人が出てきた。

俺はポットに残っていた茶をコップに淹れて飲み干すと、おもむろに立ち上がった。


「お嬢様方、楽しいひと時をありがとう。良い一日を。」


置いてあった荷物を持って歩きながら俺は女性達に手を振る。


「いえ!ありがとうございました!」


女性達も席から立ち上がり礼をした。



女性達が顔を上げると、ナイトは雑貨屋の前にいる女性2人と話していた。

すると女性達はナイトが持っている袋に気づいた。


「あら、あれって...。」


「ナイト様も買ってらしたのね。」


「あの女の子へのプレゼントかしら?」


「きっとそうよ。」


女性達は顔を見合わせて微笑むと、彼女達も違う店に行くために店を出て行った。


「私、お付き合いして初めて2人で出かけたことを思い出したわ。」


「まあ、私もよ!」


そんな会話をしながら。


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