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Witch and Vampire  作者: 和上奏
一章
13/15

買い物

こちらは前掲載サイトから加えた話になります

ソラと約束した次の日は、生憎雨で、お出かけは中止になった。

と言っても、その日はテラからの許可も出なかったので、結局行けなかったのだが。

なので、その1日を使って俺が学校について説明をした。

本当は誰かに頼むのでもよかったのだが、クラは朝から屋敷に居らず、俺も暇だったのでちょうど良かった。


ソラは書くのはあまり経験が無いと言っていたが、本を読んでいたこともあり、ペンの持ち方を数時間練習したところ、スラスラと文も書けるようになった。

話を聞く限り、喋り方が普通と違うこと以外は、一般教養も本を読んでいたおかげで、問題は無さそうだった。


「そういえば昨日、あいつに話をしたら、学校の件は大丈夫だという返事が来た。」


「ふむ。それでは、我も試験を受けて、入学ということが出来るのだな?」


「ああ。」


ソラには軽く説明しただけだが、学校は学区ごとに区切られている。

その為、貴族の子供も平民の子供も、一緒の学校に通うことになる。

しかし、学校に入るまでの間に積み重ねてきた教養には、やはり差がある。

そのため、学校の中には学力に応じてクラス分けがされている。

大きく分けて、上中下の3つだ。


上のクラスになればなるほど、良い仕事に就けると言われている。

上クラスは卒業後に就きたい仕事の内容に合わせた授業が行われる。

そういうクラスに入る子どもの多くが医者や役人を目指す。

また、上のクラスになればなるほど貴族の子どもが多い。

だが、これらの仕事は一般の仕事よりも給料が高く、高確率で貴族になれる可能性が高い為、平民の子どもも貴族になるために懸命に勉強をする。

上クラスは専門的で丁寧な授業が売りでもあるため、人数には上限がある。

そのため、二ヶ月に一度行われる試験でクラスが毎回変動する。

おかげで試験二週間前なんて、空気がピリピリしているどころでは無い。


ちなみに、飛び級は半年間首席を取り続けると、飛び級のための試験を受けることができる。

それに受かると飛び級ができる。

しかし、飛び級した学年で上クラスに居続けるのも難しいため、多くの生徒は首席を取り続けていても、飛び級はしない。


ちなみに俺は1番上のクラスを飛び級制度を使って首席で卒業した。

おかげで今は職の安定した役人だ。


話は戻って。

ソラの編入時期はちょうど試験と時期が被るらしいので、結果次第ではいきなり上クラスに入ることも出来ると言われた。

しかし、ソラとの会話で、教養はあるが俺にとっての常識がソラにとっては常識では無いことが判明したので、今説明しても訳がわからなくなるだろうから、そういった説明はしないことにした。

まあ、詳しいことは編入する時に直接されるだろうから、大丈夫だろう。


「もう行く学校も決まっているから、明日必要な物でも買うか。」


「町に行くのか?」


「そうだな。町の手前まで来て戻るのもなんか嫌だろ。」


「買い物か!楽しみだ!」


ソラは嬉しそうだが、俺は少々面倒だった。

その理由は、お見舞いの時もそうだが、俺の知り合いが町に多い為でもある。



次の日は快晴で、テラからの許可も出たので、ソラと町へ行くことになった。

付き添いということでテラも居て、3人で、だが。


朝食を摂った後、着替えて準備をすることにした。


ソラはテラから貸してもらった、シンプルな紺色のワンピースで行くらしい。

テラは仕事着で行くようだ。

俺もズボンとシャツに着替えて、行こうとしたところで、テラに髪の毛を整えた方が良いと言われたため、鏡の前で髪を梳かしている。


髪の毛くらいどうでもいいだろう、と言いたくなったが、そんなことを言ったら「じゃあ私がやります。」と言い出しそうなので、言わなかった。

テラは髪を梳かすだけで数十分かかる。


「こんなもんでいいか...。」


ブラシを置いて、部屋を出て行こうとした時、クラに出くわした。

珍しく、カラスではなく人の姿だった。


「そっちの姿でいるなんて珍しいな。

何かあるのか?」


「まあ、ちょっとね。」


クラは軽く笑いながら言葉を濁した。


「ナイトはお出かけ?」


「ああ。クラは来ないのか?」


珍しいもの、新しいことに目がないクラは、一人で町へよく出かける。

今日も一緒に行くかと思っていた。


「あー。今回は行けないや。ごめんね。」


「そうか。わかった。」


クラは俺が言い終わらないうちに行ってしまった。

忙しいみたいだ。

昨日も何か用事があったようだが、まあ、言わないということは俺には関係のないことか、あまり聞かれたくないことなのだろう。

あまり気にしないことにした。


玄関へ向かうと、ソラが何度も姿見で自分の格好を確認していた。


「待たせたな。」


「なあ、本当に大丈夫か?」


テラは気づいたが、ソラは俺が来たことに気づいていないようだ。

何度もくるくると回りながら、テラに確認をしている。


「ええ。大丈夫ですよ。」


そう言って、テラはソラの肩をとんとんと叩いた。

ソラは俺に気づくと、スカートをぱんぱんと叩いてこちらを向いた。


「我は準備万端だ!ナイトも準備万端か?」


左手を腰にあて、自分の胸を右の拳でとんっと叩きながら言った。


先程まで何度も格好を確認しておいて、準備万端ということで良いのか、と思ったが言わないでおいた。


「準備万端」という言葉は昨日覚えたらしく、事あるごとに使ってくる。

小さい子供みたいで、面白かった。


「ああ。行こうか。」


俺は軽く笑いながらドアを開けた。


「「行ってらっしゃいませ。」」


屋敷にいる召使ほぼ全員が作業を止め、俺たちに向かって礼をする。


「行ってくるよ。」


俺は軽く手を振って、テラも礼をして、ソラもテラを真似て軽く礼をした。

さて、町に出発だ。


この国は、いくつもの町や村が集まっている。

そのうちの1つがこの川の国境の町、「サンディー」だ。

町が小さいのと店が多いため人口はあまり多くないが、隣の国の物は大抵ここから広まっていくので、国の中では最先端のモノが多くある。

そのため、観光地として有名だった。


俺の屋敷はサンディーと隣町との境の森にある。

森を抜けると、橋に向かう坂道の三本の太い道路があり、その道路沿いに多くの店が並んでいる。

橋に着くと大きな関所があり、そこで俺は仕事をしている。

近くには大きな広場があり、そこで定期的に大きな催し物が開催される。


屋敷から橋まで数キロあるため、普段は馬車で行くのだが、今回は町を見て回るために、少し疲れるが歩くことにした。


森を歩きながらソラに町の説明をした後、俺はある事を思い出した。


「そうだ。ソラ、自分が魔女だということは周りには言わない方がいい。」


「何故だ?

それにナイトの周りの者は、ナイトがヴァンパイアだと知っている。」


「それはうちの屋敷にいるやつだけだ。

それに屋敷の者たちには、俺がヴァンパイアだということは公言しないように雇う時に契約書にサインしてもらっている。

だから、この間来た人達の多くは、俺がヴァンパイアではなく、人間だと思っている。」


ソラは眉間にしわを寄せて、首を傾げた。


「何故言わないのだ?」


「ヴァンパイアってだけで、見る目を変える奴が世の中にどれだけいるか知っているか?」


ソラは首を振った。


「ヴァンパイアは人間とは違う。

魔法も使うし、血を吸わないと生きていけない。

ヴァンパイアが誕生した時、ずっと昔のことだが、そいつが虐殺事件を起こしたというのは有名な話だ。

そのことに恐怖を感じている人は少なからずいる。」


それに、ヴァンパイアの間で有名な話がある。

ある村で一人のヴァンパイアが人間として暮らしていた。

その男は人間の女と結ばれ、幸せな毎日を築いていた。

勿論女は、男がヴァンパイアだと知っていて、男も毎週女から血を貰っていた。

しかし、ある時近所の者が、男が吸血しているとこを偶然見てしまった。

その者は、男が女を襲っているのだと勘違いした。

多くの者は二人が結婚しているのは知っていた。

だが、身近な者がヴァンパイアだとは考えてもいなかっため、そのことへの恐怖の方が優ってしまった。

そして、次の日その話は村中に広がり、村の人々は女を助けるという勝手な思い込みで男を女から引き離し、男を追放した。

というものだ。


少し前、全て血を吸われて亡くなっている人間が発見されるという事件が発生した。

捜査の結果、ヴァンパイアの仕業では無かったことが判明したが、その間、遠い国では魔女狩りのようなものもあったと聞いたことがある。


「それに、魔女もそうだが、魔力を多く持つ者ほど、幸運が訪れると言われている。

それに肖ろうとする奴は、何が何でも手に入れようとするんだ。」


この時、小さくソラが反応した。

俺はこの話をやめることにした。

溜息をついて頭を掻く。


「まあ、お互い知らないでいた方がいいこともあるってことだ。

だから俺は周りにはヴァンパイアだ、と言わない。

もしソラが誰かに、魔女だからっていう理由で襲われた時、俺がいつも助けられるとは限らない。

それに、ソラはこの町から離れなくてはいけなくなるかもしれない。

だから、ソラも周りには内緒にしておいてほしい。」


ソラは少し考えた後、小さく頷いた。


「我もナイトと別れるのは悲しい。

わかった。言う通りにしよう。」


俺も小さく頷いた。


この町には俺以外にもヴァンパイアはいる。

全員は把握していないが。

そいつらが悪い奴らだとは言い切れないが、ソラは魔女だ。

ヴァンパイアにとって、魔女という存在はメリットがあまりにも大きい。

そのため、ソラに何をするかわからない。

だから、あまり周りに知られたくなかった。


「そういえば、この間付けてたコンタクトっていうのはずっとつけていても痛くないのか?」


「あれか?目が痛くなったからやめた。」


「え。」


ぎょっとして、ソラの肩を掴み、顔を覗き込んだ。

だが、何度見てもソラの目は青かった。

その様子に、ソラはくっくっと笑った。


「だから代わりに変幻の魔法を自分の目にかけたんだ。」


「あ、なんだ。そういうことか。」


ほっとしてテラを見ると、彼女も笑っていた。

確かに考えてみれば、出かける前にテラとずっと格好を確認していた。

目が赤かったら、テラが気づくはずだ。


俺は咳払いをして、少し歩行速度を速めた。


「早く行くぞ。」


二人はまだくすくすと笑いながら、俺の後ろを小走りでついてきた。



森を抜けて少し歩くと、町へ延びる太い道が見えてきた。

三本の中から、真ん中の道を選び、また歩く。


少し早めに屋敷を出た為、多くの店は開店準備中だ。

だが、ソラは周りをキョロキョロと見渡しながら歩いていた。


「すごい色鮮やかだ。」


詠嘆を漏らしながら、そう呟いた。

この道は服飾店が多く立ち並ぶ。

ショーウィンドウには様々な服が飾られていた。

女性向けの商品が多いため、結果的に鮮やかになる。


「後で何か好きなやつを買うか。」


「ナイトのか?」


「いや、ソラのだ。流石に自分の服が無いのは面倒だろう。」


今着ているソラの服だって、テラのだ。

ずっとテラから服を借りるわけにもいかないだろう。

しかしソラは顔を曇らせた。


「物を買うには金を使うと聞く。

我は金など持っていない。」


「俺が払うからいい。」


だが、ソラは首を横に振る。


「我はナイトから多くの物を貰っている。

服まで貰うのは気が引ける。」


「けど、ソラは一文無しだろ?」


「うっ...しかし、ナイトに何もあげれていない。」


食い下がるソラに、俺は溜息をついた。


「じゃあ、これは貸しだ。

俺が困った時にソラの手を借りるから。

それでいいだろ?」


「しかし...」


「じゃあ、屋敷にいる皆が困ってる時も手を貸してやればいい。

これでその話はおしまいだ。」


俺がそう言うと、ソラは何も言わなくなったが、ソラは少しだけムッとした顔をしていて、テラはその様子を見て少しだけ笑っていた。


坂がなだらかになってきた頃、橋が見えてきた。


「あれが、国境の橋。

ブラッタ大橋だ。」


橋の麓には大きな門があり、その脇にある関所で入国の手続きを行う。

門は敵の侵入を食い止める為だとか言われているが、橋が出来た頃に、川を挟んだ隣国と本国は親和協定を結んでいる為、そういう目的で使われたことは無い。

一応夜中は閉まっているが、関所に役人がいない為だ。

夜中に来た訪問者の為に関所内にはベッドが設置されているが、警備員の仮眠室として使われることが多い。


ちなみに、川沿いには高い柵などは設置されていない。

景観を守る為でもあるが、隣国との距離は相当長く、陸地から水面の距離もかなり離れている為、必要無いと判断された。

また、川の中腹には多くの危険生物がいるとの報告がある為、よっぽどの馬鹿でない限り、川に逃げようとする奴もいない。


「あそこがナイトの職場か?」


ソラが橋を指して言う。


「まあそうだな。

正しくはその隣にある建物だが。」


もう門は開いていて、警備員がいるのが見える。

声をかけに行こうか悩んでいると、警備員の方から声をかけられた。


「あ!ナイトさん!体はもう大丈夫ですか?」


どうやら今日の当番はザンとジルらしい。

案の定ジルが走って行こうとして、ザンに止められていた。

俺は二人の方へ向かうことにした。


「ああ。もう大丈夫だ。」


「じゃあ、今日から出勤ですか?」


嬉しそうに聞くジルにテラが答えた。


「いえ。主にはもう二日程度休んで頂きます。」


「だそうだ。悪いな。」


俺は苦笑いをしながらジルに答えた。

あからさまに肩を落としたジルにザンが小突く。


「ナイトさんだって大変なんだ。もう少し我慢しろ。」


「ところで、ミズルの様子はどうだ?」


「あまり見ていません。忙しそうとしか...。」


「そうか...。会った時に、俺の代わりにありがとうと伝えておいてくれ。」


「わかりました。」


会話を終えると、ジルがソラに気づいた。


「あれ、ナイトさん。こちらの方はどなたですか?」


まさか自分のことを聞かれると思っていなかったのだろう。

ひぃ、と言いそうな勢いで、俺の後ろにソラが隠れた。

その様子に少しだけジルがショックを受けた。


「ああ、悪いな。あまり人と話すことに慣れていないんだ。

気にしないでくれ。」


「そ、そうですか。」


俺とザンを交互に見るソラに、ジルは子供に笑いかけるような顔で小さく手を振った。


「彼女はソラだ。俺の友人で、少し前から俺の屋敷で暮らしている。」


「御友人でしたか。私はザンです。こいつはジルと言います。以後お見知りおきを。」


ソラとコミュニケーションを図ろうとしているジルの代わりにザンが返事をした。


暫くすると橋の向こうから人が来た。

ザンは持ち場に戻ろうとしたが、いつまでも戻ろうとしないジルの頭をザンが叩くと、ジルも人に気づき「あっ」と言って持ち場に戻ろうとした。


「じゃあ、俺達は行くところがあるから。

二人とも、よろしくな。」


俺は軽く手を上げながら言った。


「わかりました。」


「ソラさんも、また来てくださいね!」


ザンはお辞儀を、ジルは手を振った後、小走りで持ち場に戻っていった。


ソラを見ると小さく手を振っていたので、少しは打ち解けたのだろうか。



俺たちは若干賑わいを見せ始めてきた町へ戻る。


「ところで、ソラが買わなきゃいけないものは何だ?」


テラは紙をポケットから取り出して広げた。

リストアップしてきたらしい。


「まず始めに制服の採寸に行きます。

入学の時期ではないので出来上がらないことはないと思いますが、試験まで日がないので最優先事項です。

次に文具を買いに行きます。

とりあえず試験に必要なペンがあれば十分です。

後日また必要になったら買いに行きます。

最後に日用品を買いに行きます。」


「指導書は買わなくていいのか?」


「それか。学校側が貸し出してくれるそうだ。」


平民にも学校に来てもらうため、消耗品以外は学校が貸し出すらしい。

また、授業で必要な物も店で学生証を提示すればいくらか割引してくれるらしい。


「ところでソラさんは視力は良い方ですか?」


「ん?しりょく?」


「遠くの物が見えにくいとかは無いか?」


「そうだな...術をかけると若干見えにくくはなるが、生活に支障は無い。」


「では、万が一術が解けたときのことも考えて、眼鏡を用意しておきましょう。

コンタクトは痛いということでしたので、眼鏡に術をかければいいでしょう。」


テラはメモに眼鏡を追加した。


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