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せめて私らしく  作者: 徳田武威
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第一章不良コーチと女子高生  5

 ――季節は四月。

 四月は変化の季節である。入学、入社。幼稚園児から大人まで等しく環境が変わるそんな季節。

 そんな中、変わらない者も居た。

「タカシ~それじゃ私行って来るから」

 スーツ姿に着替えた女性がハイヒールを履きながらベットに向って声をかける。

『ブンブン』

 するとベットの上で手だけが布団から伸びた。そして力尽きたかの様にダランと布団に落ちる。

「ふふ、行ってきます」

 それを見ると満足そうに女性はドアを出ていた。こないだのだらしない表情とは正反対のメイクもバッチリ決まった凛々しい顔だった。

「ふぁああ……だるぅ……」

 それに対して尾上は惰眠を貪っていた……。

「起きるか」

 時刻は午後三時、用意されていた食事を暖めながら尾上は冷蔵庫から取り出した缶ビールを開ける。働くつもりも、働き口を探すつもりも一切無い様なそんな態度だった。

「はぁ~寝起きのビール美味すぎるだろ。あぁ……パチンコでも行くかな」

 そんな事を口にしながら尾上がおかずに手を伸ばしていた時だった。

『ピンポーン……』

 部屋のインターフォンが鳴る。

「もぐもぐ……」

 しかしそれに構う事無く平然と尾上は食事を続けた。視線は完全にテレビに集中している。

 その後もインターフォンは鳴り続けたが尾上は尽くそれを無視した。尾上は初めから出る気が無い。こういった対応は全て同居人である涼峰風香すずみやふうかに任せていた。

 やがて、諦めたかの様にインターフォンは鳴らなくなる。

「何だ。今日の奴は結構粘ったな」

 そんな適当な感想を尾上が呟いた時だった。

『ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!』

 激しく玄関のドアが叩かれる。これにはさすがの尾上も眉を顰めた。

「何だぁ……ヤクザか? っち、折角静岡まで逃げて来たのに、面倒臭い」

 尾上はゆっくりと立ち上がる。そして魚眼レンズから外を覗いた。

「あん? 女?」

 外に居るのは高校生くらいの少女だった。

「誰こいつ?」

 しかし、尾上には全く見覚えの無い少女だった。少女は構わずにドンドンドンと扉を叩き続けている。その顔は何処か必死だった。

「………………」

 ガチャッと尾上は無言でドアを開いた。すると少女はドアを叩こうとしていた手をピタリと止める。

 少女は長い黒髪をポニーテイルにしていた。服はあまり洒落っ気が無いのかラフな格好をしている。

「おいうるせえぞガキ。何の用だ?」

 尾上が乱暴に聞くと少女はキッと尾上を睨みつける。

「貴方が……尾上?」

「人違いだ」

 尾上はそう言ってドアを閉めようとする。

『ガン!』

 しかしそれは少女が入れた足に防がれる。

「嘘。表札も確かめた。貴方が尾上崇」

「分かってんなら聞くなボケ。ていうか足を離せドアが閉められない」

 面倒な事になりそうだと尾上は本能的に察していた。だから閉めようとしているのだが、少女はそれを許さなかった。

「話が……有るの」

「は? 話?」

「ええ……聞いて」

 少女は真剣な目で尾上を見た。尾上はここで追い返してもまた来そうだと諦めてドアを再び開く。

「はぁ……話したら帰れよ。どうせまともな話じゃないんだろうけど」

 尾上は腕を組んで壁に寄りかかる。すると少女は尾上と改めて正対した。

「私に……柔道を教えて」

「……………………はぁ?」

 尾上はポカンとした顔でそう言った……。





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