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第一章不良コーチと女子高生 3
『チン』
エレベーターが一階に着く。男は猫背のままエントランスに向う。
「おい、尾上」
するとそんな男を呼び止める声が有った。男、尾上タカシは声のした方をかったるそうに見る。
「何だよ。牧野」
尾上の正面に立っていたのは二十代くらいの女性だった。腰まである長髪。体型はスラッとしている。顔もキツイ顔立ちだが美人と言っていいだろう。清掃用のエプロンを身につけ、手には竹箒を持っている。
「牧野さんだろ。先輩にはちゃんと敬語を使え」
牧野と呼ばれた女性は不快そうに眉を顰めた。
「良い身分だね。相変わらず女のヒモかい?」
「別にあいつが勝手に俺の家に来て勝手に家事をしているだけだ。何だよ? 嫉妬でもしているのか?」
尾上は挑発する様に笑った。すると牧野は呆れた様に首を振る。
「落ちぶれたもんだね。柔道をやっていた頃のあんたはもう少しマシだったけど」
「そうかい。そりゃどうも」
尾上は軽く手を振るとそのままエントランスを抜けて行く。
「はぁ……馬鹿」
牧野はそれを見て深い溜息を吐いた。