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せめて私らしく  作者: 徳田武威
3/22

プロローグ 異能の柔道家達 3

「Aグループを発表する」

 緊迫した空気の中で凛々しい声が柔道場に響いた。

「佐々木、金野、近澤、天野……この四名はいつも通りだ。しかし、今日Bグループから一人Aグループに上がる人物がいる」

「え……」

「上位五人の牙城が崩れたの? 一体誰が……」

 ざわざわと落ち着かない空気が流れる。それに大して資料を持った女性は咳払いを一つすると話を進めた。

「鞍矢しずる(くらやしずる)。お前は今日からAグループに入れ」

『ざわぁ……』

 その名を聞いた途端、さっきまでの落ち着かない雰囲気が更に悪化した。

「え……鞍屋って……誰?」

「確か……今までCクラスに居た二年生じゃない?」

「え、ああ、あの落ちこぼれの……」

 落ちこぼれ……確かに生徒はそう言った。そしてそれは事実だった。

「CクラスからAクラスへの昇進は我が門武もんぶ学園史上初めての事だ。おい、鞍屋、前に出ろ」

 その声と共にスッと音も無く一人の生徒が立ち上がった。そして一歩前に出る。

「はい」

 返事をしたのはほっそりとした少女だった。纏う空気はとても強者の物では無い。隈の出来た顔は何処か気だるそうだった。

「今日からAグループだ。我が門武学園の名に恥じぬ戦いをしろ」

「……はい。コホコホ……」

 咳払いを一つする様子はとても体が丈夫には見えなかった。

「ちょっと待ってくださいコーチ! 納得が出来ません!」

 しかし、それを一人の生徒が遮った。門武学園Bグループ、序列一位の鷹野圭子たかのけいこ、門武学園の柔道部の人数は総数にして約百名。そのうち団体戦に出るレギュラー五人がAグループ、実力は全国クラスだがAグループの五人に劣るのが、三十人ほどのBグループ、そして補欠にすら入れない。主にAグループとBグループの雑用兼、練習相手がCグループである。つまりBグループのトップという事は門武学園のナンバー6にあたる実力があるという事になる。

 鷹野は鞍屋と違い活発そうな少女だった。瞳に宿る意志も強い。

「ふぅ……コーチ。私別に譲っても良いでけど……」

「馬鹿者……良し、鷹野。お前の気持ちは多分ここに居る全員が持っているだろう。だから丁度良い。お前と鞍屋。今、勝負しろ」

 ざわっと道場が再び沸いた。

「コーチは私が鞍屋さんに負けると思っているんですか?」

「さあな。だが戦えばお前も鞍屋の事が分かるだろう?」

 コーチはつまらなそうにそう言った。すると鷹野は若干顔を紅潮させる。

「良いでしょう。冗談はここで終わらせます」

 鷹野は鞍屋の前まで歩み寄った。闘志が前面に出ている。いつでも戦う準備は整っていた。

「準備運動は今日も散々練習したからいらんだろう。はい。二人とも開始線へ」

「はぁ……練習終わったばかりなのに……」

 鞍屋はぼやきながら開始線に立った。そこには未だ闘志は無い。

「始め!」

 コーチの声で試合が始められる。

(一瞬で……決める!)

 鷹野が一気に間合いを詰めようと踏み込んだ。だがしかし――。

「え……」

 鷹野が呆然とした声をあげる。

(き、消えた……)

 鷹野が戸惑った様に視線を彷徨わせる。確かに目の前に立っていたはずの鞍屋がまるで幽霊の様に消えてしまっていた。

(帰った? 嘘、消える? 人間が? 上? ジャンプ?)

 鷹野は混乱の極みに居た。しかし――。

「はぁ……」

 耳元で聞こえる吐息。そして鷹野の目の前には――。

「く、鞍屋!」

 驚きで鷹野の体が硬直する。気付いた時には抱き合うようにして鞍屋が目の前に居たからだ。

「〈幻影〉(ファントム)……鞍屋の姿は誰にも見えない」

 コーチが呟く。それと同時に決着は着いた。

「一本。鞍屋の勝ちだ。鷹野……まだ文句は?」

 その言葉に倒れていた鷹野は拳を強く握り締めた。

「…………有りません」

 鞍屋は静かに立ち上がった。そして柔道着を直す。

「確かAグループは掃除しなくて良いんですよね? 私先に上がります」

 鞍屋はさっさと更衣室に向う。その背を止める者は誰も居なかった――。











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