7第二章 不良コーチのまともじゃない指導 7
「ちょっとぉおおおおおおおおおお! あんた!」
尾上が柔道部の部室にいつも通り遅刻気味にやって来た時だった。木刀を掲げた智衣がその前に立ち塞がった。
「…………柔道部員が木刀を使うってどうよ?」
「そこじゃない! あんたぁ! 私に勝手で音楽のPVに私の写真が使われてんじゃないのよぉ!」
「え……そうなんだ。わりい。俺音楽とかあんまり詳しくねえから」
尾上はそう言って智衣の横を通り過ぎ様とした。しかしそれは智衣が尾上の首元に突き出した木刀によって止められる。
「嘘つくんじゃないわよ! 今日はそのせいで皆が私を見ていて大変だったんだから!」
「そっか、まあ当初の目標は味方を多く作るって言うのが目標なんだから、これは良い誤算だな。お前、柔道辞めてアイドルにでもなった方が良いんじゃないか?」
「ふっざけんじゃないぃわよぉおおおおおおおおおおお!」
ブンブンっと智衣がブチギレて木刀を振り回す。尾上はそれを軽々とかわしていた。
「ち、ちいちゃん。落ち着いて」
「はぁ……はぁ……糞! この男、一発殴りたい!」
笹倉に止められようやく智衣は止まった。しかし未だに尾上に怒りを覚えている様だった。
「まあこれで当初の予定通り頑張るアイドル柔道少女は完成した。これでようやく本題に入れるな。智衣。今日から本格的な練習に入るぞ」
「……本当に?」
「ああ、だが今までの練習法では確実に全国制覇は出来ないからな。能率を重視する」
「能率を重視する……」
「ああ、これからお前には毎日百人の相手と戦って貰う。その間フォームをチェックする以外の無駄な打ち込み、投げ込み練習はしない」
打ち込み、投げ込み練習は空手で言う型練習と同じで柔道の練習でしないというのは有り得ない事だった。尾上はそれをしないと言い出している。
「打ち込みと投げ込みの練習をしないっていうのはまだ分かるけど……百人と組み手をするってどういう事? 他校と練習するの? でもそれでも百人なんて……」
智衣は尾上の意見に疑問を呈する。それに尾上は自信満々に頷いた。
「いや、出来る。しかも丁度良い事にお前は異能を体験出来る」
「異能?」
尾上が頻繁に使用する異能。智衣が正直半信半疑だったそれを尾上は体験出来る言い切った。
「ああ、何故なら俺が異能の使い手だからな」
尾上は簡単にそう言う。
「貴方が異能の使い手……一体どんな……」
智衣は強い興味を示した表情で尾上を見る。
「ああ、俺の異能は〈劣化模倣〉(レプリカ)。一度見た相手の技を大体九割ぐらい再現出来る。ここ一週間で全国大会に出場している選手の技は全て体得した。だからお前はこれから毎日全国大会に出た選手と戦えるって事だ」
「嘘……」
智衣は呆然としていた。尾上は間単に言ったがそんな事が本当に可能なのかと思った。
「まあ信じられないなら取りあえずやってみようや」
尾上はそう言うといきなり服を脱ぎ出した。それを見て智衣は慌てて顔を背ける。
「ちょ、ちょっと! 何でいきなり脱ぎ出すのよ! こ、更衣室で脱げば良いでしょ!」
「あん? だって男子更衣室なんてこの部室に無いだろ? 別にお前らしか居ないし関係ないだろ?」
「ば、馬鹿。ちょっと待って! 私達が出て行くから!」
智衣は笹倉の手を引いて顔を真っ赤にしながら部室を出る。
「何なんだあいつは……」
尾上はそれを呆然と見送った――。