第二章 不良コーチのまともじゃない指導 6
写真撮影が有った日から一週間後。
「ねえ、あれって榊原さんじゃない?」
「あ……本当だ。可愛いね」
智衣が学校へ向う為に電車に乗っていた時だった。その日はやたらと同い年くらいの高校生から見られていると智衣は感じていた。
「ねえ、さくちゃん。今日は何か変じゃない? 私凄い色んな人に見られてる気がするんだけど……」
「うん。そうだね……でもちいちゃん可愛いから見ちゃうのも分かるよ」
同じ電車で登校している笹倉はほんわかした笑顔でそう言った。そこには智衣ほどの危機感を感じている様子は無い。
そしてそんな視線は学校に着くまで続いた。いや、厳密には学校に行ってからも続いた。
「何なのよ一体……」
智衣は乱暴に鞄を自分の机に置いて溜息を吐く。すると前の席に座る女子が振り返って興味津々っと言った顔で智衣を見た。
「ねえ、凄いね。榊原さん。私見たよ。凄い可愛かった」
いきなりそんな事を言われ智衣は首を傾げる。
「え~と……何が?」
「またまた~凄いじゃん。まさかガーディアンのPVに榊原さんが出演しているなんて知らなかったわよ。私見た時目が飛び出るかと思ったんだから。びよ~んって」
「ガーディアン? 何それ?」
ポカーンとした顔で智衣が再び尋ねた。するとさすがに可笑しいと思ったのか女子は不思議そうに答える。
「今流行っているアーティストだよ。ニコニコ動画とかでも一番有名だし。あれ? 本当に知らないの? そこで榊原さんこの子が可愛いって絶賛されてるんだよ?」
「し、知らないわ。というかニコニコ動画って何?」
「そこから! 本当に女子高生? 榊原さん!」
幼い頃から柔道にしか興味が無い智衣には音楽とインターネットの知識は皆無だった。
「へへ……まあ良いや。サイン色紙持って来たの。サインして榊原さん」
はいっとサイン色紙を智衣は差し出された。しかし、当然サインなど無い。
「あ、ずるい。私も欲しい」
「あ、じゃあ私は一緒に写真撮りたい」
それをきっかけに教室は騒然となる。状況についていけない智衣はオロオロし――。
「ご、ごめん。ちょっとお手洗い!」
女子としてはどうかと思う言い訳を残し智衣は教室から逃げ出した――。