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せめて私らしく  作者: 徳田武威
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第二章不良コーチのまともじゃない指導 2

「ぷ、プロジェクターの準備終わりました」

「ん。ごくろう。早いなお前、才能あるぞ」

「あ、ありがとうございます」

「笹倉さんに頼んで自分は何もしてないのに偉そうに」

 柔道部の部室よりも広いパソコン室に三人は居た。

「で? 一体何を見るつもりなの?」

「ほう。さすがに何かを見るって事は理解出来るのか」

「馬鹿にしないで! それくらいプロジェクターを用意されれば分かるわよ!」

 感心した様に頷く尾上を智衣が怒鳴りつけた。そんな二人を見て笹倉はオロオロしていた。

「まあ理解力が無いとこっちが困るんでな。それじゃあ智衣。これからのお前に一番必要な物は何か答えて見ろ」

「必要な物……それは勿論強さじゃないの?」

「具体的にはどれくらいだ……」

「え……それは……」

 尾上の質問に智衣は言葉を詰らせる。

「はい。駄目失格。いいか? これからお前に必要な物、それは相手の力量を正確に測るという事だ。それが出来て初めて対策が練れる。逆にそれが出来ないと、ボクシングのシャドーボクシングの様に出来もしない試合展開を想像し、それに勝って満足してしまう。それでは駄目だ。シャドーをするにしても相手を百パーセント再現出来なきゃ意味が無い」

「う……それはそうかもだけど」

「良いか? 何度も言うが俺を疑うな。そして今から見るVTRをしっかりと見ろ。お前はただのレクリエーションだと思っているかも知れないがこれも戦いだ。やる気が無いなら見なくても良い」

「……分かった。見るわ」

「良し……おい笹倉。再生しろ」

「ひゃ、ひゃい」

 笹倉は尾上の指示に従いVTRを再生する。

『始め!』

 するとモニターに映像が映し出された。そこに映っているのは柔道の試合だった。

「これは……道明寺怜?」

 智衣が尾上に問いかける。

「そうだ。金鷲旗きんしゅうき、インターハイ、全柔の三タイトルを制覇し、柔道を始めて未だ無敗の女だ」

 画面では開始と共に道明寺が前に出ていた。そして物の一分もかからずに相手を倒していた。

「これが全国最強の女の柔道だ。お前はこれに勝たなきゃならない」

「……分かっているわ」

 智衣が真剣な目でモニターを見る。しかし、その表情に自信は伺えない。

「次に霧咲きりさき高校の有働うどうあやめ」

 次に出て来たのは小柄な選手だった。それに智衣は首を傾げる。

「聞いた事無い選手ね。霧咲高校も有名な高校じゃない」

「いいから黙って見ろ。次に日翔ひしょう高校の龍ヶ崎巴りゅうがさきともえ

 その後も淡々と尾上は選手名と簡単なプロフィールを紹介し続けた。しかし、流される映像は一貫性が無く。全国大会に出た有名選手を集めた様子では無かった。

 やがて一時間くらい経つと映像は終わった。

「一体今のは何だったの? 中には紹介されたのに負けていた選手も居たし」

 智衣が意図が読めないといった様な顔で尾上の顔を見た。それに尾上はにへらと馬鹿にした様に笑う。

「いいか? 今俺が紹介した奴らは異能を持つ者達だ」

「異能?」

 智衣が可愛らしく首を傾げた。

「ああ、いいか? 柔道のトップ選手の中には自分だけが持つ才能っていうかな。とにかく他人が持っていない能力を持っている選手が居るんだ。それを俺は異能と呼んでいる。今、お前がVTRを見た選手は皆、異能を持っている選手だ」

「異能……」

 智衣は今の映像を思い出した。しかし――。

「普通の試合だったじゃない」

「お前は馬鹿だなぁ~何を見てたんだよ。真面目に見ろって言っただろ」

 尾上に馬鹿にされ、智衣が不服そうに頬を膨らませる。

「まあ良いよ。解説してやる。この有働あやめの試合を見ろ」

 そう言って尾上はリモコンを操って有働の試合まで巻き戻す。

 その映像では有働が相手の足払いをかわし、逆にその足を払って一本を取っていた。

「おい、今の映像で分かったか?」

「……返し技が上手いって事?」

「違う馬鹿。それよりも重要なのはこのシーンだ」

 そう言って尾上は再び巻き戻した。

「ここだ」

 そう言って尾上が止めたのは組み合って有働の相手が背負い投げをかけている場面だった。

「? 普通に相手の技を防いでいるだけじゃない」

「いいや。違う。いいか? 普通防御っていうのは相手が仕掛けて来てからするものなんだ。だが、この有働って奴は明らかに相手の攻撃より先に防御の姿勢を取っている」

 尾上が再び巻き戻して再生する。

「…………あっ!」

 すると智衣も気付いたかのように声を上げた。

「本当だわ……どういう事?」

「つまりこれが異能って事だよ。こいつは多分、相手の未来が見えている」

「嘘……そんな事って有るの?」

「有る。現に俺も異能の持ち主だしな。いいか? お前はこんなに居る異能の連中から優勝を掻っ攫わなきゃならないんだぞ?」

 尾上の言葉に智衣は唾を飲み込んだ。

「智衣。お前の中学校時代の試合。俺は見たぞ」

 尾上の言葉に何かを期待するかの様に智衣は顔を上げる。それに尾上は今まで見せた事の無いような爽やかな笑みを浮かべる。

「全然駄目だ。お前には才能の欠片も無い。勿論異能も無い。全く持って凡人だった」

「…………」

 尾上の言葉にショックを受けた様に智衣は俯いた。その隣では笹倉が耐え切れなくなった様にあうあう言っていた。

「どうした……お前の志は才能が無いくらいの事で崩れる程度の物だったのか?」

 尾上は淡々とそう口にした。それにはいつもの軽い調子は無い。

「お前の爺さんならそんなのは関係ないと言っただろうにな」

 尾上のその一言に頬を張られたかの様に智衣が顔を上げた。

「私は……勝てるの? この人達に」

「勝てる」

 即答だった。迷い無く尾上はそう言い切った。

「異能とて万能じゃあ無い。確かにアドバンテージだが、必ず弱点も存在する。お前はそこを突け。いいか? 恐らく今のVTRに出てきた奴の誰かが次の日本一になるだろう。だからお前はこの異能力者達を潰せ。お前は異能潰しになるんだ」

「異能潰し……」

 智衣はその言葉を噛み締めるように口にした。

「ああ、その為にも相手を良く知らなくちゃならない。だから集中しろ、相手の一挙手一投足を注目して読み取るんだ」

「はい」

 智衣は真剣な顔でそう答えた――。


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