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せめて私らしく  作者: 徳田武威
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プロローグ 異能の柔道家達

『一本! それまで!』

『おぉおおおおおおおおおお…………』

「決まりました。道明寺怜どうみょうじれい。高校二年生にして、インターハイを二連覇。これで公式試合では小学生の頃から負けなしの二百連勝です」

 マイク越しにアナウンサーが興奮したように話す。それと同時にカメラが道明寺に寄った。

 後輩からタオルを受け取り薄ら浮かんだ汗を拭う少女。その顔は高校生としての初々しさを残しながらも何処か大人の女性の色香が有る。身長百六十センチの体はバランスが取れていて、まるで彫刻の様に美しい。

「若干十五歳にしてオリンピックで金メダルを獲得。正しく日本が誇る最強の女子柔道家。生涯成績は練習を含めて負けなし。公式戦を除けば千試合無敗とも言われています」

 カメラが道明寺の顔をアップで映す。

「そしてこの容姿。神は彼女に二物を与えた。美しく強い。人は彼女を〈完璧なる流儀〉(パーフェクトスタイル)と呼びます」

 アナウンサーの紹介と共に先ほどの試合のVTRが流れる。

『始め!』

 審判の合図。それと共に道明寺とその相手が接近する。

「イヤァ!」

 道明寺の相手が慎重に組み手を取りに行く。それはセオリー通りの動きだった。柔道において組み手は攻撃の起点となる。組み手が不十分では技はかけられない為、如何に相手よりも良い組み手を持つかが柔道では重要になる。

 それに対して道明寺は特に構える事は無かった。自然体で相手と正対する。すると案の定相手が先に組み手を組んだ。それは十分な組み手。

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 相手が背負い投げを仕掛ける。体が回り道明寺を抱えあげようとした。

「………………!」

 しかし……完璧に入った技は道明寺の体を投げる事は無かった。まるで大地に根が張った様に道明寺の体は一歩も動かなかった。

 その秘密は道明寺の立ち方にある。道明寺の構え、自然体は全ての方向に対応出来る構えだ。本来ならばこれを崩してから相手は投げに入らなければならない。

 だが、道明寺の完璧な姿勢制御の技術によって、相手は全く道明寺の体を崩せていなかった。だから道明寺は投げられない。

「えい」

 そしてそのお返しと言わんばかり、今度は道明寺が背負い投げを仕掛けた。

 それは相手とは違いとても緩やかな技だった。無理の無い流れる水の様な無駄の無い動きだった。

『ススゥ……』

 すると相手は教科書通りに体を崩され。教科書通りに投げられた。それは決して相手を破壊する技では無い。その証拠に相手は綺麗な受身を取らされてしまっていた。

『一本!』

 そこでVTRが終わった。

「いや~実況の前野さん。強いですね~道明寺選手は」

 アナウンサーに質問されたのは隣に座る女性だった。眼鏡をかけていて大人しそうな顔立ちは何処にでも居るOLの様だった。

「は、はい。そうですね」

「強さの秘訣は何でしょうか?」

「そ、そうですね。やっぱり、う~ん。色々有りますけど技が綺麗ですよね」

「技が綺麗?」

「はい。通常。私達は試合になると技を崩して使うんですよ。そっちの方が技に入り易いですから。しかし、道明寺さんはその崩しが一切無い。丁寧に相手を崩し、丁寧に技に入り、丁寧に投げる。この非常に困難な事をいとも容易くやってのけるのが道明寺さんの強さですね」

「なるほど。故に〈完璧な流儀〉(パーフェクトスタイル)という事ですね。分かりました……さあ果たして道明寺選手の牙城を崩す選手は現れるのか、どこまで無敗神話が続くのか楽しみです」

 こうして試合は締めくくられた。しかし、この試合は序章にしか過ぎない――。



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