時代は一緒
うん、何だこれと思っていただけたら。
「本日は殷周革命で旧約聖書を読み解いていこうと思う」
「何の脈絡があるんですか?」
「何が?」
「だから、殷周革命と、旧約聖書は何の関係もないじゃないですか」
「ふ、これだから素人は」
「こんなことに素人も玄人も関係あるんですか?」
「いいかね、殷王朝滅亡は紀元前1095年だ。殷の紂王が36代国王だったことからして、殷王朝は約500年ほど続いたはずだ。そして、旧約聖書だがその編纂に大きな目安というものが存在する」
「なんですか、それ?」
「ヒッタイト帝国だ、ヒッタイト帝国は旧約聖書に出てくるヘテ人の国だというのが通説だ。そしてヒッタイト帝国はメソポタミアの中では比較的短命な王朝だ。何せ長年架空の王国だと思われてたくらいだからな。だから旧約聖書のかなりの部分がヒッタイト帝国の存在した時代のものと考えられる。そして、ヒッタイト帝国滅亡は紀元前1200年ほど、そしてヒッタイト帝国も短命とはいえ約500年ほど続いたのだよ。つまり、殷時代と旧約聖書の時代はほぼ同時代なのだよ」
「こじつけも甚だしいですね」
「すべての推論はこじつけから始まるのさ」
「いや、直線距離を無視しちゃダメでしょ」
「直線距離など所詮は無意味」
「いや、あるから」
「まあ、私が思うに、旧約聖書の研究者はなぜモンゴルに行かないのか不思議でならない」
「さらに脈絡のないことを言い出した」
「いや、立派に脈絡はあるとも、いいかね、旧約聖書をしたためたのは遊牧民だったと考えられる」
「遊牧民ですか?」
「そこかしこに遊牧民の痕跡が見られるだろう、例えばカインとアベル」
「有名ですねえ」
「農作物を神に捧げたカインは無視され、羊をささげたアベルは神に褒めたたえられた。すなわちこれは農民ディス」
「確かに」
「怒ったカインが弟、アベルを殺害した、すると神は言った、お前は地に呪われたからもう大地から恵みを取り出すことはかなわないと」
「大地から恵みをですか?」
「そう、つまり、アベルを殺した責任を取って、羊飼いになれと神に命じられたと解釈してもいいと思う」
「そういう解釈も成り立つんでしょうか」
「そこかしこに出てくる羊のモチーフ、つまり旧約聖書をしたためたユダヤ人、もしくはイスラエルの民とは羊を遊牧する遊牧民だ、ユダヤの様々なしきたりの中に、遊牧を考える前提のものも多いだろう」
「だからモンゴルですか」
「そう、聖書の研究者は実際に遊牧してみるべきだと思う」