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魔法と世界と彼の暴露  作者: 武海 いあぐ
案件その1 近所に魔術師がいるらしいとの噂。
2/3

導入、というか顔見せのようなもの

「……ということでまたガセなネタだったわけだ、どう思う小春」

 ある男の子が、目の前の女の子に先日にあったことを話している。

 話しかける彼のその表情は軽くがっかりしているようにも、またかと呆れているようにも見え、話を聞きながらそんないつも通りの表情をこぼす彼を見て、目の前の彼女は柔らかく笑みを浮かべる。


「でもそれを相談しに来てくれた万騎が原さんって人はアオくんに感謝してたんでしょ?だったらそれはいいことだったんだよ」

 そう言ってまた笑みを浮かべる彼女を見つつ、「アオくん」と呼ばれたその男の子、瀬上蒼次はよりむすっとした顔を作る。


「しかしだ、俺としては相談に来た万騎が原という男の話を聞きもしかしたら魔法的な何かが関わってるんじゃないかと思い、あの男もそういったものの可能性がありそうとか言っていたから協力したものの、蓋を開けてみれば犯罪未遂な人的現象だった訳だ」

 そんな探偵のようなことではなく俺は魔法とか超常的なものを追いたいのだ、等をこぼしながらどんどんしかめっ面になっていく蒼治を、小春と呼ばれた少女は苦笑を浮かべながら見ていた。


「それは残念だったかもだけど、それでも人助けをしたことは褒められるようないいことだと思うな」

 だが、その小春の言葉は彼の機嫌を直すことはなかった。


「俺はそんな人助けのために魔法を追ってるわけじゃ……っともうそろそろ時間だな」

 そう言って蒼治は立ち上がり自分の荷物を手に取る。

 そうしてさっきまでの不機嫌そうな顔から一転して、柔らかい表情へと顔が変わる蒼治。


「ふふっ、わたしもそのアオくんが頑張ってるとことか褒められたり感謝されてるとこ見たかったなぁ」

 でもあんまり無茶とかはしないで気をつけてね、と付け足す小春。

 実際にそれなりの大きな怪我を携えて小春の所に来た過去も何度かあるので、蒼治は少しばつの悪い顔になり小春から目を逸らした。


「なんだよそれ……まぁいい、じゃあなまた来るよ」

 そう言い軽く手を振りその場を後にする蒼治。

 対する小春は、そう言って帰る蒼治にじゃあねと返し笑顔のまま彼を見送った。






 とある高校の構内、授業が終わり放課後となったことで教室や廊下で様々な人間が部活に行くなり帰宅をしようとするなり等、色々な目的でざわざわと動いている。


 そういった者たちと同じく、蒼治も自分の荷物を持ち早々に教室を後にした。

 この学校には何故か部活動が多くあり運動部の部室棟とは別に、文化部用の部室をまとめた特別棟が存在する。

 およそ教室の半分くらいの部屋を多数備え、あまり規模の大きくない文化部はまとめてこの建物内に収められている。


 彼が向かう先、それがこの特別棟内の一室。

 ドアに「オカルト研究部」と書かれた札を下げたその一室にノックをしてから入る。


「はいはーい、おっ早いね」

 蒼治がドアを開けた先には男にしては長い髪の眼鏡をかけた優男が一人、奥の台に置いてあるカセットコンロで湯を沸かしていた。


「緑園先輩こそ早いですね。何してるんですか、新手の実験?」

 お湯が沸いたのか火を止め、火傷しないようにか鍋掴みを手にはめた緑園先輩と呼んだ男に、蒼治はそう聞いた。

「いや、ちょっとお茶煎れようと思ってね。瀬上くんも飲むかい?」

 そう言ってコンロの横にあったポットにお湯を注いでいく。

「もらいます。またそこの机と椅子借りますね」

 そう言って蒼治は部屋の隅に置いてある机を運び出す。

 部屋から出てすぐの、扉のすぐ横にその机を設置した後に椅子も持ってきてそこへ陣取った。

 ここで活動することが彼にとっての日常となっていた。


「こんな外でやらなくても、前々から言ってるけど部の方でも協力するよ?」

 煎れ終わったのかカップを二つ持って部屋の外に出てきた緑園がそう言った。

 持っていたカップの片方を蒼治の座る机へ置き、もうひとつのカップを啜りながらその横へと立っている。


「いや、場所と名前貸してもらってるだけでありがたいですから……個人的な活動に部の人間を巻き込むのは申し訳ないので」

 そう返答をしつつ、置かれたカップに手を伸ばす。

「うーん、うちとしては部の理念と合ってるから割と願ったりなことだと思うんだけどねぇ、オカルト研究部な訳だし」

 あっはっはと、軽く笑いながらそんなことを言ってくる緑園に、すこし申し訳なさそうな苦笑をしながら「すみません」と蒼治は小さく呟いた。


「でもまぁ、先輩が良くても星川あたりが反対するでしょうし、やっぱり協力はしてもらえないんじゃないですかね?」

「まぁ瀬谷や二俣あたりは何も言わんだろうが星川はなぁ……まぁでも案外色々言うだけで反対はしないと思うぞ?」

「なにを根拠に言ってます?」

「部長の勘だ」


「何の話をしてるんですか?」

 緑園のその言葉に蒼治がまたしても苦笑していた時、不意に少し遠くからそんな声を掛けられた。


「おぉ二俣、いやなにまたしても瀬上の活動のおこぼれを頂こうかと相談してたんだが、いつも通りつれない返事をもらったところだよ」

 二俣と呼ばれたロングヘアーの女はやれやれといったような、そんな表情を浮かべながら部室の中へ入って行った。


「そんなひねた言い方しないでも、後輩が頼ってくれなくてさみしいってはっきり言えばいいじゃない」

「おぉう、そんなんじゃないわい」

 荷物を置いた二俣は二人のいる部室外へと戻ってきた。


「あらそう?わたしはさみしいわぁ、後輩である瀬上くんが全くわたしを頼ってくれずに一人で何でもやろうとしちゃって。ねぇねぇ部じゃ申し訳ないって言うなら個人ならどう?わたしだけ手伝わせてくれないかしら、ダメ?」


「そういう話は部室周辺以外でしてください」


 ねだるような感じの言葉でしてきた二俣の提案にどうやんわりと断ろうかと考えていた蒼治の後方からそんな声が飛ぶ。


「おう星川、瀬谷は一緒じゃないのか?」

「瀬谷君は今日は日直でしたので少し遅れてくるとの事です」

 三人の方へ会釈をしながら緑園にそう答える小柄なショートカットの女の子、星川はそのまま蒼治へと視線を向ける。


「ほ、星川、どうした?」

じっと自分を見てくるだけのその視線に耐えられなくなったからか、蒼治が状況を打ち破ろうとそう発した。


「いえ、二俣先輩に言い寄られて鼻の下を伸ばしているであろう瀬上先輩の顔を観察していただけです」

「あら、瀬上くんそうなの?ということはもうちょっと押してみればわたしもふしぎ発見に連れてってもらえるかしら?」


 そんな濡れ衣のような辛辣な言葉を浴びせてくる星川は、蒼治に対しては大体いつもこうであった。

 彼女に嫌われているんじゃないか、だとしても心当たりが無いのだが……といつも頭を悩まさせている蒼治だが、部長の勘曰く別に嫌われてはないと思うとの緑園の言葉を信じてあまり深く考えないようにしている。



 現在ここにいる四人と遅れている一人を合わせた五人。

三年の緑園、二俣。

一年の星川、瀬谷。

そして二年の瀬上。

これがオカルト研究部の全ての部員である。


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