プロローグ
注)この作品には、タイトルから想像しうる性的描写はありません。どなたでも、安心してお読み頂けます。
どうして、こんなことに
弟は、責任を感じている
でも、弟のせいじゃない
運命と考えるしかない
でも、その運命を呪いたい
現実を受け止められるまでは……
晴れた空が気持ち良い普通の平日、悪いことなど起こりそうにないと誰もが思う。その女子大生も、そう思いながら大学で講義を受けていた。
春川流美、二十歳、細身で長い黒髪、プロポーションも良く美人で間違いない。実際に、多くの男性から告白される。しかし、男性への不信感から、全てを断っていた。高校生のとき、初めて付き合った相手に浮気される。しかも、自分の親友とであった。
それがトラウマなのも確かだが、今は勉強に集中したい。そう思うようにしていた。何処かにきっと、そう思うのはやはり乙女である証拠だろう。
そんな流美に、その知らせは近付いている。出来ることなら、受け取りたくない知らせ。それは、ふたつの方法で流美に迫っていた。
先ず最初に
「え? な、なんで……」
使っていたシャープペンが、何の前触れもなく折れる。しかも、横にではなく縦に真っ二つになった。
流美の脳裏に、ある不吉な言葉が浮かぶ。“虫の知らせ”である。大切な人、親しい人に何かあったときに起きるとされる現象。そのほとんどが、生死に関わることとされる。
無論、良い場合もあるが、最初に心配したのは旅行中の両親のことだった。何故なら、そのシャープペンは、中学入学のときに父親が買ってくらたもので、以来、大切に使っていたからである。
そして、二つ目の知らせが流美に届く。それは、残酷な現実からだった。
「春川流美さんは居ますか?」
講義中、許されない行為。にも関わらずに、大学の職員は、ドアを開けるなり大声で叫んだ。ざわつく講堂内、不安を抱きつつも
「私です……」
と、手を挙げる流美。
慌てた様子、ただ事でないのは、誰の目にも明らかだった。近付いて来た職員は、流美に残酷な知らせもたらす。
「ご両親が、交通事故に逢われました。急いで、お父様の妹さんの家に向かって下さい」
頭の中が真っ白になった。あまりの衝撃から、現実を受け止められない。茫然自失流美に
「タクシー呼んであります! 早く!」
と、言うとあ職員活を入れられ、現実に戻る。荷物を持って、講堂を出た。ざわつく講堂の声が聞こえてくる。
「静かに! 講義を続けます!」
教授の一声で講堂内は、何もなかったかのように静まり返った。普段と何の変わりもないかのように……。
タクシーに乗り込んで、父親の妹である叔母家に向かう。まだ、状況は分からない。だが、流美の脳裏には最悪の結果しか浮かばなかった。頬を涙が伝い落ちる。
流れる景色は、流美の瞳には映らない。その瞳に映っているのは、幼い日の両親の笑顔だった。
叔母の家に着くと、既に弟の幹久が担任と到着している。タクシーを降りると、真っ先に幹久を抱き締めた。
「大丈夫、幹久のせいじゃないから……」
固く閉じられた口元、高校三年生の幼い心に大きな責任を感じている。姉故に、それを敏感に感じ取った。
両親へ温泉旅行をプレゼントしよう。そう言い出したのは、幹久である。無論、流美も大賛成した。両親も、涙を浮かべるほど喜んだ。言い出した自分の責任、そう幹久は考えている。
「俺が、あんな提案しなければ……」
「それは違う。幹久が、悪いんじゃない!」
必死に慰めるが、幹久の心は深く傷付いている。もう見ていられない。誰もが、そう思うに違いない。
「私はこれで、何か分かったら連絡下さい」
幹久の担任は、そう言い残して帰って行った。前々から思っている。少し、いやだいぶ頼りない先生であった。
「流美ちゃん、幹久君、落ち着いて聞いて……今、連絡があって……」
そこまで言うと、叔母はその場に泣き崩れてしまう。それが、全てを語っていた。幹久は、声をあげて泣いている。流美は、少しだけ我慢した。
だが、悲しみは、怒濤のごとく襲ってくる。耐えられたのは、ほんの数秒だった。
悲しき叫び声が、春の晴れた空に響き渡ったのである。運命を呪う。泣き声と共に……。
両親を亡くした流美と幹久
だが運命は、更なる別れを用意していた
次回「更なる別れたと決意の挑戦」