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ループの始まり  作者:
3/3

ループの始まり(下)

4月12日 晴れ


(みのる)はこれから部活か?」


 放課後。

 まぁ、放課後と言っても今日は始業式のみなので午前で終わったのだが。


「あぁ、すまんな新道」

「別にいいけどさ。じゃーな」

「おう!じゃーな新道」


 教室には既にほとんど人が残っていなかった。

 部活に行った者。部活がないか、もしくは部活そのものに入ってない者はさっさと帰って行った。


「……俺も帰るか」


 帰る準備を整え、俺は教室を出る。

 ちなみに、俺は部活に入ってない者の方に分類される。


「待って、新道君」


 教室を出た直後、階段へと続く廊下の中央。そこには、匡正がいた。


「なんだ……ですか、匡正さん」


 変な言葉になってしまった。

 でも、これが妥当な話し方だと思う……初対面(・・・)なのだから。


「別に敬語もさん付けもいいわよ……新道君、記憶あるんしでしょ」


 俺以外の人間が今の言葉を聞いたら匡正は確実に変人グループに分類されたはずだ。

 記憶があるんでしょ……俺は記憶喪失になった記憶はないからな。


「俺は記憶喪失になった記憶はないが」


 俺は思った事をそのまま口に出す。

 出してから思ったのだが『記憶喪失になった記憶がない』とは何か面白いな。何かは分からないけど。


「違うわよ……新道君も覚えているはず。4月最後の日、女子生徒が死ぬ事を」


 女子生徒が死ぬ。

 俺はそんな()を思い出す。


「あぁ……あったな、そんな夢も」

「何を言ってるの?あれが夢?」

「夢だろ。悪夢だ、悪夢」


 そう、あれは夢。

 俺は自分で自分を信じ込ませるかの様に夢と連呼した。


「わ、私が今朝、あなたの名前を聞いてもいないのに呼んだのを忘れたのっ!?」

「そんな事……あったっけ」

「何を言ってるのよ!私が呼んでから新道君、心ここに在らずって状態だったじゃない!」


 匡正が大声を上げた。俺の記憶にない匡正だ。

 匡正が大声を上げた事により、教室に残っていた生徒がぞろぞろと廊下へと出て来た。


「くっ……新道君は記憶を持ってる。私は諦めないから」


 何をどう諦めないのか……匡正は教室から出て来た生徒を掻き分けながら、俺の前から消えて行って。




4月28日 曇り


「すまん!」

「分かったよ……一つ貸しな」

「助かった!」


 放課後。

 友人が先生に頼まれ、理科室に持っていくはずだった資料を受け取り、しぶしぶ俺は理科室へと向かった。


「今度の土曜か日曜に飯でも奢らせるか」


 1人でそう呟きながら、1番上の階にある理科室へ。

 外からは運動部の掛け声が聞こえ、校内の至る所から吹奏楽部のパートごとの音が聴こえる。

 1番上の階に着き、今度は廊下の1番奥へと歩き出した。

 そうして、1人で廊下を歩いていると向かいから1人の女子生徒が歩いて来た。それが女子生徒だからといって、特に注目する訳でもなく、俺は気にせず横を通り過ぎる。


「……ん?」


 横を通り過ぎる瞬間、その女子生徒の髪留めに目が行った。真っ赤な髪留めが。


「あの髪留め……どこかで、見た気がするんだよな……」


 少し考え、すぐに思い出せななかったので考えるのを放棄し、俺は理科室へと向かった。




4月30日 雨


「もう帰るの?新道君」

「……」


 俺はあの日、匡正に『新道君には記憶がある』と言われてから匡正とほとんど会話する事はなかった。

 それはまるで、事実から目を逸らすかのようなそんな小さな反抗だった。


「私を無視しても、何も変わらないのに……」


 俺が教室を出る直前に匡正が呟いた小さな言葉。

 それは憐れみなのか、それともただ事実を言っただけなのか……。


「……かもな」


 匡正に返した言葉。でも、匡正に届ける気もない言葉。

 俺はそのまま昇降口へと向かった。



 何故だろう。昇降口へと近付く度に心臓の鼓動が激しくなって行く気がする。これは何に対してなのだろう……いや、本当は分かってる。

 あの昇降口を出た直後に目と目が合った女子生徒。そして、一瞬にして赤い海へと変わった俺の足下。

 あの光景が俺の脳裏を駆けている。


「……バカバカしい」


 自分自身で匡正に夢だと言ったはずなのに、俺は何を考えているんだ。


「ふぅ……」


 なんで学校を出るのに気合いを入れなきゃいけないんだか。

 傘を片手に外へと出る。俺の他にも生徒の姿がちらほら。どこもおかしくない普通の光景。

 俺は覚悟を決め、傘を開く。ゆっくりと、でも確実に校門へと向かう。

 そして、気が付いた時にはあの最初の4月30日の時より10歩ほど先に立っていた。


「な、なんだよ……やっぱり夢なんだよ、全部」


 張っていた緊張の糸がほどけ、俺は安堵した。

 しかし、次の瞬間後ろからドスッ──と重い何かが落ちる音が聞こえた。

 俺の心は振り返るなと全力で止めていたが、俺の身体はその呼び止めを無視しゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには1度、でも今でも鮮明に覚えているあの光景が広がっていた。

 雨の降る中、俺の足下まで広がる赤い海。その海を作る1人の女子生徒。


「うっ……」


 世界が歪んで行く。いや、世界が歪んでいるというか俺の意識が遠のいていく。


「なんなんだよ……これは……」


 持っていた傘が地面に落ち、そのまま俺の膝も崩れ、地面に手を付く。


「これは……夢じゃないのかよ……」


 元々分かってた。

 リアルな夢。リアルな悪夢。そんな訳ない。

 この3度目の4月の最初、匡正が俺の名前を呼んだ瞬間から分かってた。

 これは夢なんかじゃない……これは、現実だ。


「くっそ……」


 手の力も抜け、地面へと倒れ込む。

 感覚も既になく、地面へと倒れたと言うのに何も感じず意識だけが遠のいて行く。


「……こ、れは」


 視界が霞んでいくなか、顔の近くに落ちている赤い髪留めが目に入った。

 俺はコレを見た事がある……何故、コレがここに。

 答えがすぐそこまで出たが、意識がもったのはそこまでだった。




4月12日 晴れ


「東京から引っ越して来ました、匡正 未来です。よろしくお願いします」


 4度目の匡正の自己紹介。

 そして、先生が俺の後ろの席を匡正の席へと決める。


「えーっと、じゃあ……窓側の列の1番後ろに匡正さんの席を用意したから、今日からあそこが匡正さんの席ね」

「分かりました」


 匡正が近付いてくる。そして、そのまま俺の後ろの席へと座った。

 そして、匡正が俺に初の挨拶(・・・・)をする。


「よろしくね、新道君」

「……あぁ」


 俺は覚悟決めながら、その挨拶にゆっくりと答えた──。



一気に投稿させて頂きました。

プロローグの様な物です…本編を書くかは分かりませんが(汗)

感想、批評、お待ちしております。

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