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第九十九話 使ってこそ道具



『ほう、このスマホというのは面白いのう。魔導技術もなく、よくぞここまで積み上げたものよ』


『やっぱり魔法関連の技術がないと、相当面倒な感じ?』


『それはそうじゃろう。同じ結果に至るにしても出発点が違い過ぎる。極端な例ではあるが、ほれ、この前の液体窒素がいい例よ』


『そういう事か』


 前提となる土台の技術が立ち上げがっていない場合、純粋な技術のみで液体窒素を作るなど、どれ程の手間を要するのか。根底として電気がいる、容器、製造機器がいる、それらを作るための技術がいる。知識がいる。そういった膨大な量の技術が出揃って初めて可能になる類のものだ。

 だが魔法は、そこを一足飛びに越えて来る。


『世代を重ねて生きる者の力というヤツは偉大よの。様々な俗世の欲求に支えられておるのは否定できんが、気の遠くなるような研鑽よ。とはいえ叡智を欲するならば、それも欲であるか」

 

 眼を細めてニンマリとするイグニスの、率直な感想というヤツだろう。

 魔法もなしに純粋に知識と技術の積み上げのみで元の世界の文明が成り立っていた事に、改めて感心しているようだった。


『いじるのはいいけど壊す、わけねえか。でもバッテリーが完全に切れるから、そろそろ本当にサヨナラしなきゃならんかなあ』


『ん? 充電ならワシにも可能だがの?』


『……マジ?』


 壊さずにそんな事できるの?

 などと考えていたら、ものすごい緻密な魔力操作で端子に触れたイグニスの爪から充電がされていく。

 あ、これ人間には無理な魔力操作だ。


 大雑把に充電して木っ端微塵とか想像したけど、急速充電ほどの電力量らしい。

 この機器に何が最適か一瞬で判断し実行したと。さすが人間業じゃねえってか。


『ふむ……この画面、というか情報の扱いや信号経路の構造などは魔法陣の技術で代替が可能なようじゃのう』


『魔法マジ便利ッ!』


『さて講義で覚えさせるのは面倒じゃな。直接『いんすとおる』するか』


『何ソレ、そんな事でき……ぐおおお、いだだだだっ!』


 切れる切れる! 血管やら神経やら、いろんなものが切れるって!

 どちら側からでも切れます!


『わわわ、忘れる! 忘れちゃうって! いままでの大事なメモリーが飛ぶって!』


『安心せい、そんな事になりはせん』


 ホントかッ!? 

 オレのピーチ(尻画像)フォルダが全損になんかなったら三か月は生きる屍になる自信があるぞ。




 なんて事をやっていたのが神域での話。

 地図タブレットに使われてる魔術回路はこの時に頭に叩き込まれたものだ。

 ちなみにピーチフォルダは無事でした。

 

「ブツを渡して「はい! お仕舞い!」って事にはならないので、えーっとコレと、コレ。あと、それかな……? その辺の仕様書と技術解説書も同梱ですでので、いろいろやってみてください」


「全部開示するのかッ!?」


「いやあ、冒険者ギルドとしても絶対欲しいでしょ?」


「そりゃまあ欲しいが……なんとか自分たちで作れって事か?」


「その通りです。積極的に広めるのもご自由に判断してくださって構いません」


「また、おっそろしいもんをぶん投げてきたな……これはあれか、この前言ってた時代に受け入れられる云々ってヤツを実地で試そうって事か?」


「良いの物は残る、ダメなものは消える。どういう結果が待ってるか楽しそうじゃないですか。まあオレが生きてるうちに結果が出そうにないのが残念なんですがね」


「実証実験という体でタガが外れた気がしないでもないが……話は理解したよ。こちらで存分に解析と研究をしろという事だね?」


「できるだけブラックボックスにはならないようにはしたつもりですが、まだ難解かも、とは思ってます。なので問題が浮上した場合は資料にまとめて頂けると後で対処出来るかもしれません。ですから情報の管理などもお任せします」


「いや、ここまで詳細に明かされていて、それでも再現が出来ないとなれば、それはこちらの責任だろうね」


 システィナさんや、他の錬金術に詳しい人も巻き込めば何とかなるだろうという事らしい。

 そういう事なら、いずれ近いうちに完成するだろう。

 肝心の映像取り込みも若干面倒だが妖精の眼の仕組みを流用したものを用意したから、それを使ってなんとかして欲しい。

 いや待て。皆まだ気づいてないけど、これ要はカメラだよな……静止画に限定してるけど本当に公開していいんだろうか。

 いいか。いいよな! どうにでもな~れ~!





 ~~~~





 気球を片付け終わった所で、カイウスさんたちは仕事に戻っていった。

 試乗した感想としては、飛翔騎獣とは随分違う感覚だと、やや新鮮に感じたようだった。

 まあ地図タブレットでそれどころではなかったようだが。


 さてさて、やっとこさ本題に入れる。


「武器だ」


「……お菓子だって言われたら、そっちのほうがビックリだニャ」


 本物そっくりに作るジャンルはある。だが今はそういう事じゃない。

 まずはキアラだ。何気に一番付き合いが長いから戦い方のクセもだけど、武器の好みも把握してるつもりだ。


「ショートソードと短剣、つーかクナイだな」


「クナイ? ほうほう、こういう形の武器もあるのニャー」


 クナイはどっちかというとサバイバルツールだな。穴掘ったりぶっ刺して足場にしたり。丸穴の部分を使って水を張ってレンズの代わりに、なんて事も聞いた事あるけど、こっちでは使わない機能かもしれん。魔法あるし。

 そして投げるのに適した小さめの飛びクナイもセットだ。


 実はショートソードも忍び刀のつもりだったりする。

 黒い艶消しのサヤでいい感じだ。刀身は両刃の形状だからキアラの認識がどっちだろうが構わないがね。


「ま、気に入ったら使ってくれればいい」


「ニャ、使うのは当然だけど……これホントに市販品が元になってるのニャ?」


「おう。店売りの剣を材料にしてやれる所までやってみた」


 アルゼンタムと呼ばれるミスリルの同系上位素材が主になった剣。

 ミスリルを買い集め、魔力の含侵率が高く更に変質した部分を集めて刀身を造ってみたが、ほぼアルゼンタムと呼べる物へと仕上がった。


 ミスリル銀と言われる金属は厳密には銀ではない。

 魔力を大量に含んだ銀と思われがちだが、変質した銀によく似た何か、という話だ。

 何故そうなのかは簡単な話で、ただの銀に魔力を吸収させようとしても永続的に定着させる事が困難だからだ。

 魔含金属には良くある話のようで加工前の素の状態だと魔力の有無以外はあまり差がなかったりするため自作できてしまうのでは? と思って挑戦しても全く成果は得られなかった。


 ならば、どうやって魔含金属が作られたのか。

 知らん。

 イグニスにも聞かなかったし言及もされなかった。おそらくだが化石燃料と似たような生成過程なんじゃなかろうか。

 余程、技術が進んでいなければ人工的に再現が難しいのではないかという印象が強い。

 古代に人工的に生成されていた可能性も否定出来ないが、手掛かりすらないのではどうしようもない。

 そもそも含侵しているものが本当に魔力かどうかも疑わしい等といった議論までされているというのだから始末に負えない。

 魔力が含まれているなら、その魔力を消費出来るはずだが、それが難しい事は確かなのだ。

 全くもって不可思議な素材が魔含金属というわけである。

 個人的にはミスリル銀って、やっぱり銀じゃねえかなあと思っていたりするが、どうなのかね。


 そんな小難しい話は置くとして。


「店売りからアルゼンタム……確かにミスリル銀とは違うのは解るけどニャ……」


「軽さと頑丈さが両立できて、なおかつ内包魔力が高密度だから疑いようがなくアルゼンタムなんだけどさ……」


 カイナは装備品にうるさいだけあって素材関係の事も割りと知っているようだ。

 こういった魔含金属製の武器は魔力を周囲に放出するのではなく内側で魔力が淀みなく循環しているのが特徴だ。見ただけではあまり良く分からない点では素材時と似たような感じかもしれない。

 見て、触って、実際に使ってみて、そこで初めて魔含金属で造られた武器だと実感できる、と。


「こういう感じの武器の方がキアラにはいいんじゃないかと思ってな。剣を使って色々魔法が行使可能で要は媒介具としても使える。かなりいい感じに仕上がってると思うが」


 なんか、本当に? みたいな変な顔してるんだよな皆。


「そこを疑って皆こんな顔してると思ってるなら、違うからね?」


「そうなのか? まあいいか。そんなカイナにはロングソードと小盾だ。形状的にはカイトシールドの小さい版になるか。それとキアラとは違ったタイプのソードストッパーも一応用意した」


 キアラのソードストッパーは蛇腹鎧のような見た目の手甲だ。それとは違い、外に反り返った太めの外装殻が一つ腕部に取り付けられている。

 盾もあるのにソレを用意したのは使い分けも考慮して。脳筋かと思われがちなカイナだが意外と器用で、相手や状況によって攻守のバランスを変えていたりする。

 そういった機転を普段の生活でも活かせれば女子力も上がるのにと言われているようだが、そこはスルーで。


「トーリィも似た構成だな。カイナと違うのは盾はなく機動力重視な点か」


「職務の性質上、盾を持つことがあまり無いですからね」


 護衛という立場を考えれば、徒手空拳から剣までくらいが最も得意なスタイルだろう。

 その人間の特性と合っていれば慣れたスタイルを強化していくのがベストだ。


「イルサーナはハンマーと携行型破城槌。これは後で実演してみるから。でも正直、未だに迷ってるんだよな」


「何をです?」


「種類と数。重さに関して言えば大抵の武器は問題ないから、ついつい色々と揃えたくなる。超重武器とかロマンだろ? 極太の金属棍とか槍、巨大戦斧。矛や薙刀とか巨大化してもいいな。斧はデカくなると扱いが難しくなるからいっそ、ぶん投げてもいい」


「女の子の持つ武器から、ものすごい速度で遠ざかっていきますねえ」


「いやもう戦い方すら変更してもいいんじゃないかってくらい幅が広いんだよ」


「重い武器を振り回す以外に何か有効な戦い方が?」


「槍とかも、こういう投てき用の小道具を使えば大型弩砲バリスタなみの威力が期待できるだろうし、超強弓でもいいかもしれん。いや……それだと即応性がイマイチか……? とにかく、さっき言った戦斧のように、くっそ重い回転投擲武器とかワクワクするだろ。普通のヤツが持ち上げられないようなブツを使えば相手に再利用される心配がない。イルサーナの特権だ」


 槍の石突に投槍器を引っかけて投げる真似をすると「おお、話には聞いてましたが、それが」と感心した様子を見せつつ重い武器を投げるという、その事に考えを巡らしているようだ。


「遠距離から高威力というなら魔法も……あー、即時対応という事なら武器の投擲に軍配が挙がりますか」


「もうね、攻撃ごとに武器を変えたっていいくらいなんだよ。その場に放置で問題ないんだからな。当たったら即座に手放してデカ目のナックルダスター付きガントレットでぶん殴ってもいい」


「ますます女の子の戦い方から離れていきますねえ。というか武器を手放す前提なのが、これまた」


「そこそこの容量の収納アイテムがあれば成り立つ戦法だ。立ち回り次第だけど放置したのを、また使ってもいいわけだしな」


「うーん、興味をそそられるのは確かですが、初期費用がすごい事になりそうです」


「そこはオレも提案した手前、協力するぞ」


「私でいろいろ試したいわけですね……そういう事には積極的ですもんね。同じ私の身体を使うなら別の事を試して頂いても構わないんですけど?」


「あのな、オレが本気でそういう事したら大変な事になるぞ?」


「何する気ですか……?」


「言わない」


 たまにオレがネタに反応すると真っ赤になるのに改める気はないんだよな。

 こういうやり取りを楽しんでるのはお互い様だから、いいんだけど。

 でも大変な事になるというのは本当だ。高校生の性欲を甘く見ちゃいかん。

 現代日本の性知識と、こちらの過去と今の風俗の傾向などの情報を得ている事を併せて考えると一度タガが外れたら、えらい事になるぞ。

 ウルもやや顔を赤らめながらイルサーナとの会話を聞いていたようだが……

 『童貞なのに……』とかボソっと言ったの聞こえたぞ。童貞だからこそだよ。


 ……話を戻そう。


「ウルの杖はとにかく軽さと丈夫さを追求して、これでもかと魔術回路を組み込んだ。指輪10連も合わせると結構色んな事が出来るはず。ウルの技の多彩さを活かすための仕様だな」


「ん、嬉しい」


「シュティーナは新規じゃなくて本人の持ち物を改造したものだけど。ウルの攻撃型のタイプとは違って、攻守揃ったバランス型。こっちは指輪は少数でブレスレットのライブワイアを用意した」


「原型が残っていませんね……」


 広げた両掌の上にポンと置かれた杖を目の前に、ウルとシュティーナのリアクションは笑顔と、それに足された若干の呆れのような顔の、それぞれに分かれた。


「リアは完全防御特化の杖。攻撃手段はゴーレムだから、こういう構成が向いてるはずだ」


「はい。大切に致します」


 両腕に抱えたものが、可愛らしいぬいぐるみなら良かったんだがなあ、と思わせるようなその表情に、訳もなく申し訳ない気持ちになってしまった。


「全部、アルゼンタム製になってるのニャー……」


「趣味に付き合わされたと思って諦めてくれ」


 普通の店で売っているものだけで、何が何処まで出来るのか。

 オリハルコンなど、全く流通していないという訳じゃないが、さすがに全員分の装備に使える程は集められそうになかった。

 オレが持っているものを放出しても良かったが、それだと趣旨が変わってしまう。

 金を消費する事も一応は目的なのだ。

 とはいえ時間があれば何とかなった可能性を考えると、期待とはズレたものになってしまったかもしれない。


「何か盛大に勘違いしてますねえ……」


 イルサーナの呟きに同意する一同が何故か「うーん……」と何か扱いに困る生き物を見つけたかのような表情。


「一応、修業の区切りとして修了祝いの意味もあるから、それに相応しい装備を目指してみたが時間がそれに足りなかったんだよ。だから中途半端なものになったのは否めない」


「私達が不満に思うのでは、と懸念したように見受けますが、そうではありませんよ? イズミさんはもっとグレードの高い装備を用意する予定でいたようですが……」


 シュティーナが己の手の中にある杖を見つつ乾いた笑顔を見せる。

 それに頷きウルが続けた。


「これも充分規格外。色んな意味でヤバい」


「全員の一致した見解としては感謝が先。なんだけど……本当に貰っても大丈夫なのかという点よね」


「店売りと聞いた時には、多少の強化かなと高を括っていましたが、そんなものはスっ飛ばしてアルゼンタムが出てきた時は崩れ落ちそうになりましたねえ」


「しかも、ここまで高純度のものは想定してなかったからニャー……」


 ウルの言葉に白のトクサルテの面子が次々と発言を重ねていく。

 オレがいまいち理解していないと思ったようで、リアが困り顔でそのワケを付け加えてくれた。


「極めて純度が高いと流通規制品扱いされてもおかしくないほどなんですが」


「ほーん。つまり? この装備でも祝いの品として不足なし?」


「不足なんてあるわけがないです。というかですね。店売りを材料にして作り直すというのは意味が違ってくると思うんですよ。一般的な装備の新調からは頭を切り離せなかったのが敗因ですね」


 勝ち負けの話なん?

 見た目じゃ良さげな武器程度にしか見えないんだから平気じゃないか?


「とにかく問題はないって事だな」


 シュティーナにそう返したが、「確かにそうなんだけど……」と乾いた笑みを貼り付け脱力した一同。

 脱力してるとこ悪いが、まだ贈呈式は残ってる。

 最後になったがセヴィの武器がこれからだ。


「セヴィには変わらず木刀はそのままで。加えて渡すのはオリハルコンの刀だ。多少オレからの持ち出しもあるが基本的には店からかき集めてきたものを使って仕上げたものだ」


『おお……』


「武器になってるオリハルコンは一味違う空気が漂ってるのニャ……」


「最初に見たのは布になってたもんねえ……そっちのほうがおかしいって話なんだけど」


 繊維状に加工してあったから、せっかくだしと作った布。

 増産して現在はリアの服になっている。


「あとは、使えるのは数年後になるかもしれんがオレと同じ刀だ。この見た目のうるさいヤツ。刀身の長さの関係で今はまだ使わないほうが無難だな。しばらくはセヴィの身体に合わせたオリハルコン刀で技を磨く事になる。木刀も扱い易いし普段使いはそれになりそうだな。実際オレもそうだし」


「い、いいのですか……師匠」


「なるべく似通った性能のものじゃないと、問題が起きた時に助言が手間だからな。どんなことで躓いたのかを感覚的に即座に理解できるのは利点だぞ?」


「なるほど……」


 どうにもまだセヴィには遠慮の色が見える。

 同じ装備が必要な事にイマイチ繋がりを見いだせない様子のセヴィだったが、その説明にようやく得心がいったようである。


「イズミさんは、セヴィ様が未だ過剰に自制していると考えているようですが、渡された装備を考えれば順当な反応ですよ?」


 トーリィが言うにはオリハルコンもそうだが、素材不明の木刀と刀など何処で手に入れたのかさえ分からないモノをポンと渡されれば誰でもそうなると言いたいらしい。

 性能がこの世のものとは思えないと知っているから余計に、だそうだ。


 しかしそんな事を言われてもな。分からなくもないが効率を考えると自然とこうなる。


「遠慮したい気持ちも分かるのニャ。でもさすがに継承者と言っても良い立場だと当然だと思うニャー」


「英才教育」


 オレの持つ技を教えているのだから、そういう事になるのかね?

 ウルの言う英才教育というほど大げさなものじゃないけどな。本人のやる気を優先した結果、それに近くなっているとは思うが。


 ……あれ、うちの道場の環境だと有無を言わさぬ洗脳に近かったような気が。

 ま、まあ今その話は関係ないな。





 ~~~~





「とまあ、こんな感じ」


「何を思って私にコレを持たせるんですかねえ……」


 無限収納エンドレッサーから出した巨大な岩。それが轟音と共に粉々に砕け、その際に舞った土煙が、ようやくおさまると。

 イルサーナが何故か物憂げな様子で零した。

 女の子に持たせる武器じゃないというのが再度頭の中を巡っているようだ。

 しかし能力を余すことなく活用するとなれば制限するのは、いかにも勿体ない。

 超重装備が運用可能なら、それを活かすべきだ。


 巨大なトンファーのような形状のソレを分厚い革ベルトで肩に斜め掛けして、身体の捻りのみで高威力を叩き出す。

 『携行型破城槌』と便宜上、呼ぶ事にしたソレがイルサーナに渡したもの。


「能力を無駄に死蔵するよりはいいとは思いますけど……ひとり攻城兵器ですか……。どんどん一般の価値観からはズレていきますねえ」


「お? それは散々人間扱いを否定されたオレを否定すんのかあ?」


「え、あっ、いえ! そういうわけでは。あ、でもイズミさんと同類というのは、ちょっといいですねえ」


 慌てて否定するイルサーナであったが、オレと同じという部分に気分を盛り返したらしい。

 ちょっと意地の悪い言いようだったが狙ったリアクションが引き出せたので、良しとしよう。

 イルサーナは人と違う事に完全に折り合いを付けられないでいるようだが、マイナスではないという事を利用するぐらいになって欲しい所だ。


「破城扇と用途は似てるけど、あっちは完全ネタ装備だからなぁ。こっちのほうが何かと使い勝手はいいと思うぞ。上手い事活用してみてくれ」


「ふふ、分かりました」


 ふむ。なんだかんだで全員それなりに気に入ってくれたようで安心した。

 数回の戦闘で慣らしは必要だろうが、そこはどんな武器だろうと新調した時は同じだ。そう考えれば何も問題ないだろう。

 防具のほうも用意しようかという話もあったが、それは断られた。

 そこまで甘える事は出来ないというのと、状況に合わせて意外と仕様を変えているらしいからだ。

 そりゃあそうだ。熱い所、寒い所、水場や乾燥地帯、全て同じで済まそうというほうが間違ってる。


『…………』


 なんだその顔は。オレが間違ってると言いたいんか。

 確かにオレは着たきり雀だけど。面倒な事を省くための装備だからいいんだよ。


「あたしたち以上に仕様を変えてると思うんだけどニャー」


「主に趣味で」


 キアラとウルの畳み掛けは皆も思う所のようで。

 どうやら別の意味で間違ってると言いたいらしい。

 なんでや。

 

 それとは別に固辞した最大の理由とでも言おうか。

 どうも身体の色々なサイズを詳細に知られたくなかったのが大きいらしい。

 

 ふっ……無駄な事を。

 普段の動きやら何やらで大体のサイズは把握済みだ。体重の増減だってある程度把握しようと思えば出来る。

 というか薄着でオレの前をうろうろしてたのに今更だろうに。


「それとこれとは別の話」


 ウルのその主張が総意らしいが、なるほどよく分からん。





 ~~~~





 陽が落ちて夏の夕暮れ特有の虫の音が聞こえ始めた頃。仕事を終えたジェンも合流。

 贈呈式とは別になってしまったが当然ジェンの武器も用意してある。

 仕様は変えずに威力の向上を主眼に置いた、これもアルゼンタム製だ。


「……いちギルド職員には過剰な装備では」


「枷になるんじゃなければ、過剰な装備なんてものはないぞ」


 新規装備が自分に用意されているとは思っていなかったらしいが、ジェンにだけ用意しないのも、それはそれでおかしな話だろう。

 実際、何もなかったら気ぃ悪いと思うが。


「既に色々と頂いているので気が引けてしまうんですけど……だからと言ってコレに関しては引かないんですよね?」


「まあな。修了祝いみたいなもんだし市場調査と趣味も兼ねての行動だから観念するのをおススメする」


「あははッ、分かりました」


 最初から分かっていても言いたかったといった感じだったんだろう。

 仕方ないかといった笑みを浮かべて素直に受け取るジェン。

 そこへ、フワフワと飛んでいたリナリーとサイールーがやってきた。

 ラキもちょこちょこと、こちらに歩いてくる。


「私たちには何もないの?」


「珍しいな。何か新しい装備が欲しいのか?」


「そういうワケでもないんだけど……」


「あはっ、イズミってば極端に察しの悪い時がたまにあるよね。やっぱりほら、ね? みんな一緒にっていうのが」


 なるほど、そういう事か。

 ちょっとだけ疎外感みたいなものをリナリーは感じていたようで。

 そういった要求には、いつでも応えるのがオレたちの関係だが、そこはやはり特別感みたいなものが欲しかったワケか。

 要はちょっと拗ねてみたと。

 確かに普段から世話になっているのは紛れもない事実。親しき中にもってヤツだな。


「そうだな……王都にいって色々と情報を仕入れたら何か造ろう。装備、魔法回路、面白そうなものがあったら取り敢えず全部」


「うん!」


「わふっ!」


「ふふっ」


 二パっと表情が明るくなったけど、女子にはやっぱりプレゼントが有効なんだなあ。

 そうだ。断られそうだと迷っていたけど、やっぱりカイウスさんとログアットさんにも金属のインゴットを渡しておこう。こっそり。

 復活した剣技に役立てて欲しい。錬金術関係にだって魔含金属は役に立つだろう。

 あれば使いたくなるのが人情のはず。


「さてさてさてっと」


 オレの一声に皆が『?』といった表情を浮かべる。

 まだ終わってないぞー。


「ここからが本題の本題」


 どう見ても巾着袋にしか見えないソレに視線が集まる。

 よく見れば人数分ある事でこれが何なのか気づくだろうが、皆まだ首を傾げている。


「約束してたろ。収納アイテム」


『あっ!』


 みんな結構本気で忘れていたらしい。

 修了祝いの最後の仕上げがこれになるが、ホントはもっと後にしたかった。もう少し魔力が増えてからのほうが容量も大きくなるからと考えていたけど、オレがリアと一緒に王都に行くとなるとこのタイミングしかない。


「前に今の魔力量でやったら、どれくらいになるか聞いたけど、あれでも充分だったニャ」


「そうか? オレとしてはもうちょっと欲をかきたかったけどな。ま、取り敢えずだ。ここにある巾着袋はモノとしては無限収納エンドレッサーになる」


『!?』


「そりゃそうだろう。それしか作れん」


「まずソコがおかしい」


「そう言うがなウル。革細工や木工は手間がかかるし、嵩張るから作り方すら覚えてないんだわ。だからこれ一択。あとは使用者権限の設定と空間拡張の手続きだけで、これがあなたのものに!」


「胡散臭い露天商の呼子みたいな事になってる」


「胡散臭い言うな。おはようからおやすみまで、爪楊枝から要塞までなんでも揃えるイズミファクトリー製の逸品です。ぜひこの機会にお試しください」


 そこ微妙に引かない。


「冗談はさておき。魔力も回復して魔宝石も満タン。これならなんとか実用に耐えるだけのものに仕上がるはずだ」


「それで、今日はあまり魔力を使うなと言っていたんですね。そもそもギルドの仕事はあまり魔力を必要としませんけどね」


「こっそり成型肉つくってるやん」


「なんで知ってるんですかッ!?」


 誰に聞いたと言わんばかりの表情をしているが、カマをかけただけですハイ。

 解体所に入り浸っていると聞いてたが本当に作ってるとは思わんかった。


「みんな回復してるみたいだから問題なさそうだな。って事で早速、魔力切れになるまで、いってみよ!」


『…………』


 いきなりそう言われても、みたいな顔だが、なんとか準備にとりかかる一同。

 早速、魔力を注入開始だ。


 なかなか順調に魔力を流し込んでるな。おっと、切れそうになったら魔宝石で補充しろよー。その補充だけでも結構容量変わるぞ。

 

 結構長い時間みんな集中してたけど、そろそろ魔力量順に限界が来たようである。

 次々と容量確定の反応がそこかしこでみられる。


「ふむふむ。みんな何とか完成したみたいだな。どれくらいの大きさになった? 大体でいい」


「あたしは感覚的に、練兵場の半分強って感じかニャ……」


「……どうやらカイナと私も凡そ、そんな感じですねえ。ジェンは?」


「私も同じ大きさっぽいですね」


 割といい感じかな? 

 シュティーナとトーリィは若干シュティーナのほうが大きいが前三人と似通った大きさという印象。

 あとはウルとリアとセヴィだけど。


「私は練兵場くらいになった」


「私は――私もどうやら、それくらいのようです」


「僕は練兵場が二つくらい入りそうです……」


 意外、というほどじゃないな。容量として順当な仕上がりだろう。

 リアはやや過少申告、というより空間の規模を測りかねているように思える。


「取り敢えず実用に耐えるだけの容量にはなったみたいで安心した」


「イズミの言う実用って何を以って実用って言ってるのかニャ……普通なら家一軒規模でも魔法箱マジックボックスとしては最高ランクなのニャー……」


「家の一件分じゃあ、岩の二、三個も詰めたら終わりだ。ぞれじゃあ岩石落としが使えん」


「何の為に……ニャ、聞かないほうがいいかニャ」


 何にしても容量としては不足はないって事らしい。まあここの練兵場って無駄に大きいからな。余裕でサッカーが出来るサイズだし。


「……これは革細工で偽装しないと拙いですよね」


「だねえ。この巾着袋のまま使ってるのを見られたら、それはそれで間違いなく不審に思われますねえ」


「明日買いに行く」


 横目でオレを見ながらジェンに同意を示すイルサーナに、ウルが解決策? を提案。

 どうやらアラズナン家の皆もそれに倣うようだ。貴族なのに? と聞いたら「貴族でもこの規模のものはなかなか……」とト―リィの言葉に姉弟が頷いていた。


「やっぱり怖いもの渡されたニャ」


「この巾着袋自体が不審」


 散々な言われようだが、屁でもないな。確かに最上級のトラス布に神樹の繊維を少し混ぜているせいか、テラテラとした独特の光沢。しかもアイボリーを淡い桃色で染めたような、ちょっと艶めかしい色になってるけれども。

 なんだかんだ言いつつも喜んでいるのは嘘じゃないようだし、こんなもんだろう。



 さあ! これであとは王都へ向かうだけだ。

 何か忘れている気がしないでもないが……

 ダメだ、思い出せん。


 三日後に出発だったか? 四日後? どっちでも構わん。 

 観光ーッ!!


「普通の移動なら問題なんか起きないけどイズミがいると、どうにも不安しかないニャ」


「だからシュティーナさまたちは付つけて」


 何を警戒してるんだウルは。

 とにかく二週間後には王都だ。ワクワクしてきた。





暑いっす

早く涼しくなーれ(´・ω・`)

幕間のような話だなと書いていて思いましたが、いつもの事でした。



ブクマ、評価に特盛りで感謝です!



19/09/12 本文を若干修正しました。

19/09/30 カメラについて追記。

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