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第九十五話 適正があっても使い方が適正とは限らない


「うぐぅ……うぅッ……」


 き、気持ち悪い……。

 は、吐きそう、いや吐く……ダメだ堪えろ。

 乗り物酔いは結構キツいと聞くが……。


「何をしてるんだお前は……俺がぐったりしている横でワケの分からない事をしてるかと思えば」


「かっはっは。いやイズミ殿といると退屈しませんな」


 ラグとレックナートさんの言葉にリアクションすら出来ないほど気持ち悪い。

 ミニゴーレムの改造をしていたのはいいが、これはダメだ。

 ミニゴーレムを通して映像を見られないか、色々と試して妖精の瞳と共鳴晶石ユニゾン・クォーツを利用して、なんとか実用に耐える所まで漕ぎつけたまでは良かった。

 ここに辿り着くまでに結構大変ではあったが、試行錯誤の末、二つを同調させて遠距離に画像を映し出す事に成功したのだ。

 そしてミニゴーレムに搭載できるほどの小型化にも成功。

 それをふたつ用意してミニゴーレムの目に使用した。


 その結果として、VRのようなものが完成した。

 小人のような視界で自由に動き回れる、実に夢のあるアイテムが誕生した、はずだった。


 結論から言おう。オレはこれを使えない。

 激しく酔うから。

 いわゆるVR酔い。

 日本に居る時に友人の家で一回だけVRゲームをプレイしてみたが、その時も長時間はダメだった。

 ところ変わればと期待してみたが結果はこの通り。


 ちくしょう! 一生懸命作ったのに! 日本でやったときより酷い酔い方だ。

 腹を引っ張られる、あの感覚が更に酷くなってる。


「これを作ってたんだよ……」


 そう言ってVRゴーグルもどきな魔導製品を、地べたに倒れたままラグに差し出す。

 ラグもラグで魔力増量をかなりの急ピッチで行っているため、結構キツイはずだがオレよりは余裕がありそうだ。


「これを?」 


 差し出されたものを手に取って、オレがしていたように頭に装着したラグ。


「ッ!! なんだコレは……」


 キョロキョロと辺りを見回したり見上げたり、ゴーレムを通してオレと目があってギョッとしたりと、とにかく忙しい。

 眼球の動きまで再現は無理だったので首を動かすしかないのだが、その辺は気にならないようだ。


「それでしばらくゴーレムを動かしてみれば、どうしてオレがこうなったか分かる。いや個人差があるから、もしかしたらラグはこうならないかも」


「? とにかく動いてみればいいんだな?」


 ラグもミニゴーレムの操作は走る程度までは出来るようになっている。

 動かす分には他のミニゴーレムと違いはないので問題ないだろう。

 と思ったら。


「ぐっ…なんだこれは……」


 頭と腹を押さえてフラフラしだした。地面に座っているので倒れるという事はないが、我慢出来なかったらしく急いでゴーグルを外した。


「ラグもダメだったかー。体質的にそうならない人間もいるはずなんだけどなぁ。これは改良しないとダメだな。せっかく完全な視覚同調にしたのに単眼にするしかないか……?」


「お前に使えないモノを他の誰かが使えるとは思えんのだが」


 うーんと唸りつつもこの場にいるもう一人に自然と視線が向かう。


「吾輩でありますかな? いやしかしこういったものを、この老体で扱えますかな」


「これって、たぶん年齢とかじゃなく適正次第だと思うんですよねー」


「ふむ、ならば試してみるかのう」


 ゴーグルを装着する姿が、なんとも違和感ありまくりだ。

 どこぞの熟練の殺し屋みたいな風体。


「お、おお!? これはなんとも」


 ラグと似たようなリアクションだ。そういえば視覚同調の魔法的な技術がないわけではないような事をイグニスは言っていたが、立体視なのかモニターを見ているだけのタイプなのか詳しく聞いておけばよかったかな。

 などと考えていたが、レックナートさんは一向に体調を崩す気配がない。


「これは、なかなか!」


 あー、どうやら平気なタイプらしい。いいなー、ちょっと羨ましい。

 あっと、そう言えばラグに聞こうと思ってた事があった。


「なあラグ。遠隔地と映像と音をやりとりする道具ってあるのか? 今現在、稼働可能なって意味だけど」


「あるにはあるが、膨大な魔力を貯めて、やっとというところだ。数年に一度使えるかどうかだな」


「やっぱりそんな感じかー」


「それがどうかしたのか?」


「いやな。これって今、魔力が繋がって同期した視覚映像を見てるだろ。ほら、ああやって魔力が届かない距離になると回線が切れる。だったら国や王族が持ってるヤツはどういうシステムで他と繋がってるのかなあって気になってな。実は物理的に繋がってるとか?」


「いや、尋常ならざる魔力を使って空間座標やらなにやらの調整など様々な手順を経て起動しているという話だ。要するに恐ろしく面倒な伝書鳩みたいなものだそうだ。ちょっとした不調で起動しないなんてのはざらだ」


「なるほどね。物理的に繋がっていないなら、そのためだけの通信線を無理やり繋げばいいんじゃないかって、今、一瞬思ったんだよ」


「それは俺も考えなかったわけじゃない。しかし盗難対策、害獣対策、その他もろもろの要因で、とん挫した研究が山ほどある。随時情報が手に入るというのは魅力的だが労力や費用に対して効果が圧倒的に見合わない。コスト云々以前の問題だ」


 有線はいいと思ったんだけどダメか。魔法とこっちにある材料ならケーブルの類似品も作れそうだけど、まあ普通に盗まれるよな。電線と同じ感覚で考えちゃダメだよなそりゃ。

 それなら近場限定ではあるものの、魔法を併用した伝声管で十分って事か。


「何故、急にそんな事を言い出す」


共鳴晶石ユニゾン・クォーツを使って声のやりとりもいいけど、やっぱり相手の顔を見たくないか? そう思ったら何か良い通信手段がないものかってな」


「視覚同調から連想したわけか。だが共鳴晶石ユニゾン・クォーツだけで十分だろう。しかし本当に、こんなものを俺に渡していいのか?」


「改良がもうちょっとの所まで来てるぞ。もし必要になりそうなら、その情報はカイウスさんから買ってくれ」


「それは心得たが。そうではない」


「正直オレが一人で使っても用途に発展性がないんだよ。だから色んな人に使ってもらったほうが面白い使い方とか見つかるんじゃないかって密かに期待してる」


「動機が釈然としないのは今更として、そうそうおかしな使用法が思いつくとは思えんが。まあ貰ったからには有難く使わせてもらおう」


「それがいい」


 王族にこそ必要なものだろう。オレが持ってても持ち腐れるだけだ。出所を詮索されるだろうが、人選含めうまいこと誤魔化してほしい。

 とここで、どうやらレックナートさんはミニゴーレムを操作するのに満足したらしい。

 ゴーグルを外すと。


「いやあ、実に楽しい! まるで違う世界に降り立ったようですなコレは。かっはっは!」


 とてもいい笑顔だ。相当楽しかったと見える。

 さて。ちょうどいい時間だし、休憩オヤツタイムにしようかね。





 ~~~~





「……甘いものが好きなのか?」


 ラグが目の前にある大量の菓子類を見て、僅かに眉をひそめて尋ねてきた。


「特別好きってわけじゃないが、なんでだ?」


「甘味が多過ぎる。しかも見た事もないものがな」


「そういう事か。ここって女子率高いだろ? 菓子類は食いつきがいいんだよ。多少厳しいムチでも進んで受けてくれる」


「……教練の参考にするとしよう。それにしても、このホイップバターは美味いな。他のクリームを使った菓子も手軽に作れるとサリス達から聞いたが、俺はこれが好みだ」


「吾輩は、このパンそのものも好きですなあ。フルーツを挟んだクリームサンドも絶妙なバランスが実に良い」


「爺は甘いものが好きだったか?」


「今日から好きになりましたぞ」


 ここまで喜んでもらえたなら用意した甲斐があったというもの。


「ラグも嫌いじゃないなら、甘いものを腹に入れた方がいい。今やってる魔力の増量って特殊な体力消費の仕方するから手っ取り早く栄養を取らないと追いつかなくなる」


「そういう事は早く言ってくれ。しかしクリームの製法から妖精天露の解決案か……それは確実なのか?」


「確実かと言われると疑問は残る。両手の指以下の検証数で完全とは言い切れない。それでも取り敢えずオレが飲んでいれば全員無効だった」


「理屈を聞けば納得できそうではあるが、下手に掘り下げると余計なものが出てきそうなのが頭が痛いな」


「妖精族の持つ情報も人間に適用されるか分からんのがなぁ。樹園木ガーデンプランツの実が強いから他の植物成分を混ぜても効果は無いって事みたいだけど」


「ふむ……当面は問題なしとして先送りしても良さそうな気もするが」


「混ぜ物の種類で効果が変わりそうなブツはキリがないからなー。まあいいんじゃないか? ていうか正直めんどい」


「もう少し何かで包み隠せ」


「かっはっは! 無理に急ぐ必要はないかもしれませんな。具体的な対抗策が見つかっただけでも随分と違いますからな。情報の拡散防止という意味でもこれ以上は手を出さないのも有りかと」


「そうだな、ひとまずは区切りとするか」


 やーれやれ。早い段階で対抗策が見つかってよかった。でなければ延々と検証をしなくてはならなくなる所だ。

 ラグも似たような心境なのか、ホッとしたような表情で紅茶を楽しむ気分になったようだ。


「ところで、リアや他の者たちは?」


「練兵場だ。たまには弟子だけってのもいいだろ。セヴィにしてみれば女子率高くて居心地悪いかもしれんけど、今のうちに慣れとくのも勉強のうちだ」


 あの容姿だからな。遅かれ早かれ異性との接触は避けられないと思われる。

 避けられないどころか囲まれる可能性が高い。様々なタイプへの耐性を得るのに丁度いい環境と言えなくもない。

 間違った方向の耐性が伸びないといいが。


「ふむ、聞かれる心配がないならば丁度いい」


「?」


「死の牙。ヤツらについてだ」


「ログアットさんが何か掴んだのか?」


「賊のなかに北部なまりのものが混じっていたらしくてな。本格的に他国からの干渉を視野に入れる必要があるかもしれん。僅かな発音の違いだったらしいが、熟練者と思われる者たちの中に幾人か居たそうだ。……そして飛竜を騎獣として扱う事に慣れているという地域性を持っているのも北だ」


「おいおい……」


「北の大国、ゾゥアーダ皇国。可能性の段階だが、その名が浮かび上がった」


「まさか本当にリアの件と繋がるのか……?」


 ゾゥアーダ皇国。

 深い森と山脈を超えた所にある国。地図で見るとこの国の左上に位置する国。

 山と海の違いはあるが日本とロシアのような位置関係の国だ。


「いやいや、ここって東の辺境だろ? なんで西の山脈を超えた所からわざわざ?」 


「あくまで可能性だ。しかし商座連を介してという事なら、なくはない話だ」


「あー……地理的にも謀略的にも迂回してる……?」


 一応アラズナン領は北部が商座連と言われる連合体がある地と一部ではあるが接している。

 だがそれは広大な森林地帯が接しているという意味であり、直接関わりがあるかと言えば、そうではない。

 深魔森林帯と言われるソレが、商座連の地とこことを、距離的にも心理的にも大きく隔てているからだ。

 実利の面から言えば、深魔森林帯の切れ目を縫うように整備された街道を通じて人や物資の行き来がある王都の方が、余程近いと言える。

 ところが空の移動も含めて考えると、ちょっと様子が変わる。


「経済面から探りと切り崩しでソンクを使っていたとしても不思議はない。捨て駒に近い使い方だったかもしれんがな。そしてリアの連れ去られた方角が商座連のある地と近いことも無視できない」


「なるほどね……」


「現時点では曖昧な話ではあるが、一応留意しておいてくれ」


「わかった」


 ここまで首を突っ込んでいたら無関係を通すのは難しいだろう。

 というか仮に何らかの計画があったとしたら全部オレが潰している訳だ。

 他人にぶん投げるのはちょっと無理があるかもしれん。


「さて、皆が帰ってくる昼まで魔力の量をもう少し増やそうか」


「本当にまだ増えるのか……」


「ここにいる間に三倍まで増やしてもらうぞ」


「…………了解した」


「かっはっはっはッ! なかなかに強行軍であるな!」





 ~~~~




「くっ……」


「そろそろかな?」


 魔宝石から魔力を押し込んで拡張をすると、疲労の蓄積で抵抗が増していく。

 ラグも例外ではなく、今日はこれ以上は無理だろう。


「……この短時間で三割以上増えているのが未だに信じられん」


「レックナートさんは、もう二倍までいったぞ」


「バケモノめ……」


「殿下にだけは言われとうないですなぁ。予測限界がの五倍などと、何処の魔王ですかな」


「その魔王すら及ばない者が、ここに居るのだがな」


「イズミ殿は、真の意味での道師タオマスターと同列かそれ以上ですからな。言うなれば全道者とでも申しましょうか。比べるだけ無謀というものでしょう」


「いやー、道師タオマスターって本物のバケモノらしいですからねぇ。まだ、そこまでじゃないかなと」


「安心しろ、イズミは立派なバケモノだ」


「お兄様、酷い!」


「その呼び方はやめろッ!」


「かっはっはっ! 鍛錬をこれほど楽しめるのはいつ以来かのう。この歳でこのような心持になるとは、何があるか分からんものですな」


 レックナートさんの嘘のない言葉と表情に、ラグも大きく息を吐きつつも笑みが零れる。


「ふふっ、楽しそうですね、お兄様」


 そこへ、リアが声をかけてきた。もうそんな時間か。練兵場から皆が戻ってきたようだ。

 まだ昼食の用意が出来てないが、どうやら自分たちも準備を手伝うつもりらしい。

 お目当ては大量のお菓子だと隠そうそうともしていないようだ。

 魔法をガンガン使えば栄養を消費するから、多めに甘いものを食べられると教えたら目の色を変えて鍛錬に励んだようである。

 リナリー曰く「いつもとは違う気迫が感じられたねー」だって。

 今日の甘未は生クリームとスポンジ生地を使ったホールケーキで一致したという。

 果物をふんだんに使ったものが食べたいと。

 メインはオレが準備して、食後のスイーツはリナリー、サイールーのアドバイスもあり満足いく出来に仕上がったようで、みんな上機嫌だ。


 そして食後の歓談に、各々自由に寛いでいると。

 ラグがリアの覚えた魔法について思うところを口にした。

 

「しかしリアがゴーレム操者になるとはな」


無限収納エンドレッサーがあるから人形使い《パペットマスター》でも良かったんだけどな。でもゴーレムの方が応用の幅が広いと思ったから勧めてみたわけだ」


「そちらに関しては、あまり詳しくはないがイズミの定義する両者の違いとは何なのだ? 操る対象の特性の違いだけという認識が強いと教えられたが」


「それも間違ってはいない。定型のゴーレムの場合、土、岩、木、肉と材料は違っても術のグレードが同じなら大体似たような大きさと形になる。人形使いは最初から在りものを使うのと、その場で創造するって違いが特性として認識されて、それが独り歩きして、そう教えられたんだと思う。オレの知ってる事から違いを挙げるとすると、まず壊された時のリカバリの方法の違いとかかな。スペアで済むのと魔力を使っての修復。どっちも一長一短だな。でもそれが定型じゃないゴーレムになると戦い方の選択肢が劇的に増える。本来はその違いで両者の差別化を図ってたんだ」


「なるほど……」


 今まで漠然としていたものがハッキリした、といった感じにリアが納得の表情を見せる。


「まあ人形使いもエグい事出来るけど魔法の鍛錬って側面からだと圧倒的にゴーレムに軍配が上がる。特に最初はな」


 人形といっても人の姿に拘る必要はないから想像力次第でなんでも出来るのはゴーレムと、ある意味では同じだ。形状維持に魔力を割かなくてもいいし、物量にものを言わせる事も可能。特にパーツの換装を使って、やりたい放題できるのはゴーレムとは違った利点だろう。


「まあ現状でもゴーレムはパワー、人形はスピードみたいな感じで住み分けが出来てるから、あとは好みと適正の問題って認識なんだろう。実際、適正ってのは、その通りだしな」


 色々と失伝してしまっているようだが、魔力操作の得手不得手と魔力量の兼ね合いで、どっちが自分に合ってるか判断するのは今も昔も変わらないというわけだ。


「今は鍛錬と並行してるからゴーレムがメインだけど、人形が使いたければそれも有りだぞ。ただ、自分で作るか腕のいい人形師をみつけなきゃいけないってのが難点だけど」


「イズミさんは人形は使わないのですか?」


「使わないな。もし使うとしたら自動人形オート・マタだけど、ゴーレムとはまた違う操作大系だから、今の所は研究してないんだよ」


「さらっと遺失物級が制作可能だと漏らさんほうがいいぞ。学術院の人間が目の色を変えるものだ」


「え、そうなのか? そう言われると再現したくなってきたな」


「天邪鬼にも程がある」


「ふふっ、でも確かに自動人形は、そのほとんどが発掘品ですね。しかも主人を選ぶという感じです」


「たぶん操作適正値が一定に達してるかどうか、って所か?」


 発掘品となれば魔導王朝関係なのは確定だろう。

 簡素な人形に複雑な魔法回路というのもあるだろうけど、アンドロイドやロボットの可能性も無くはないと考えると、ちょっと見てみたい気もする。


 昼休みもこれくらいにして、次の鍛錬はと。

 ちょうど皆もいるし、ラグも気にはなっていたらしい改造ウォカレットを、おさらいするのもいいかもしれない。

 みんな魔力が尽きかけていることだし、負担にならない授業という事で。

 とオレが大量のミニゴーレムを用意しているとリアが何かを思い出したのか尋ねてきた。


「そういえば、お兄様の魔宝石はどうなりましたか?」


「ああ、それはこれを渡されたな」


「あっ、それ間に合わせだから本命はこっち」


 きわめて透明度の高い深紅のカットされた魔宝石。カット方法も従来の宝石カットだけじゃなく、妖精の里で研究したカッティングも採用された逸品。

 大きさは変わらず拳大だが、魔力貯蓄量が倍とまではいかないまでも、かなり増量された代物だ。

 そして他のギミックと連動するという新しい試みも施されている。

 そのギミックとは、ライブワイアの指輪と連動した機能。強化オーバー・ドライブの指定範囲の拡大と効果の増強に際して魔宝石から常時魔力供給を行う機能も持たせた。


 つまり本人だけでなく複数の人や構造物に対して強化が可能になったうえで、自身の魔力を消費するのではなく、魔宝石から直接、付与をする形になる。装着者は最初の演算のみを負担するだけで極少量の魔力を諸費するだけだ。


 もう一つは回復専用の魔法石と指輪。

 そして純粋な魔力タンク役の魔宝石の三つ。


「これに関しては選択肢はないからな」


「なるほど、何があろうと生き残れという事か。わかった」


 苦笑するラグ。そして、それを見るリアはどこか嬉しそうに微笑んでいた。


「しかし……当たり前のように渡されたが、超級遺失物並みの物を作るとはな……彼女らの反応を見るに妖精の里も関わっているのか。妖精族の技術力がこれほどとは」


「あ、王子様。うちの里が特別なだけよ? 主に誰かさんのせいで」


 オレだけのせいじゃねえだろうよ、サイールー。

 とはいえ、イグニスが関わってるなんて事はバラせないから、大部分がオレのせいという事になってしまう。


「間違いなく、ほぼイズミが原因だよ?」


 オレの考えを読むなよ、リナリー。イグニスが関わっているというオレの見解に対しての否定だが、皆には妖精族が独自にやっているというオレの無言の主張への否定と受け取られた。


「いや、そうか……感覚剥奪室の件を考えると、やはりイズミが色々とやらかしているのか」


 結局そういう結論になるんかい。

 あれ、でも否定できない?





 ~~~~





 皆で希望の対戦相手を申告し合って、ウォカレットを何戦か終えると。

 ラグが真剣な表情で呟きを漏らした。


「広大な土地が必要だが、実際の地形も縮小して再現できれば、これほど有用なものはないが……」


「あくまで仮想だからな」


 あまり現実に近づけ過ぎると、それはそれで適度な簡素化をした意味がなくなってしまう。

 理想はどれだけ小規模で、より現実の結果に近づける事が出来るか、だろう。

 その点で言えば、かなり精度の高い再現性を実現してるとは思うが、ラグの中ではまだまだという評価なんだろうか。うーん、もう少し大規模化してみるか?


「元が盤上遊戯だという事を考えればこれでも充分過ぎるか。しかし、それよりも」


「どした、難しい顔して」


「何故、誰も彼女に勝てない」


「わふ?」


「ああ、それなあ」


「彼女が軍の指揮をした方がいいとまで思えてしまうぞ」


 誰がやってもラキに勝てない。しかしそれも、それなりの理由があるわけで。


「今更隠すような事でもないけど、ラキは戦闘に関しては天才的だ。でもじゃあ指揮も天才的かというと、実はそうでもない」


「現に勝てないのだが?」


「ラキにしてみれば、これはあくまで一対一の戦闘なんだよ。攻撃手段が直接かゴーレムを使ってかの違いだけで。いつもの模擬戦のようなものなんだ」


「そういう事か」


「そう。相手の行動を読むという延長線上の枠内なんだよ。攻撃に対して、どう受けるか反撃するか、その出力先が違うだけでラキにしてみれば、サシの勝負と何ら変わらない。だから負けない。でもこれが本物の戦場になると、敵味方の複数の将軍や中級指揮官、そのいろんな人間の思惑が絡み合って複雑化すると意識の向く先が分散して精度が低くなる。そうなると途端に勝率が落ちるだろうな、きっと。いいとこ六割くらいだろう」


 一対一が戦いの基本として生きてきたラキとしては、小中規模の連携ならまだしも、大規模かつ、それの指揮など完全に畑違いだろう。

 などとラキのウォカレットの強さの理由を尤もらしく語ったが正解かどうかは怪しい。ただ何となく、そう感じるのと同時に何故か確信のようなものもあるというだけ。

 でも実際、不思議なんだよな。ウォカレットでのラキの強さって。


「それでも脅威的な勝率だと思うがな。なんとか現実への応用が可能になれば常勝も見えてくるのではないかという勝率だ」


 負けない戦の徹底とか? 出来るだろうけどラキの性には合わないんじゃないかね。


「それは難しいだろうなあ。何よりまず、ラキが飽きる。飽きちまったら戦場を引っ掻き回しに行くのが目に浮かぶ」


「木っ端のように蹴散らされる戦場が気の毒としか言えないが。だがまあ確かに幻獣が人間の戦になど興味は向けない、か」


「ラキの戦い方を見て勉強するのが一番じゃないか? 常道も奇策もお構いなしなのは何かと参考になる。戦術研究にはうってつけだろ? それに実際、勝つことじゃなくラキの対処法を見るのが面白かっただろ?」


 ラキの「そうなの?」と言いたげな、首を傾げる仕草を見てラグが頬を緩める。


「フッ、確かに。戦術参謀や専門家でもああはいくまいよ。あれを技の応酬の概念から出る、本能に近い対処だと聞くとさらに驚くが」


 最初こそラキの正体に戸惑っていた王都組の面々だが、白夜狼の実態を知らない故に、そういうものかと無理やり納得させているようである。

 実際はラキのほうが特殊なんだけどな。イグニスから聞いた話だと本来、白夜狼はあまり人を寄せ付けないという話だ。


「そういえばラキも視覚同調ゴーレムはダメだったな。気持ち悪くなる以前に一人称での人間の身体の操作に違和感がすごいって事みたいだったし。そう考えるとレックナートさんが普通に動かせるのって、ある意味すごい才能だよなあ」


「ほ? 吾輩としては何の違和感も無いのだがのう」


 多少の時間差はあれど、ここにいる全員が気分が悪くなったのに。

 あ、ジェンに試してもらってなかった。それはおくとしても、いずれにしろ改良が必要なのは確定だ。

 とはいえ現状で、せっかく使いこなせる人がいるんだから有効活用してもらうのがいいかもしれない。


「というわけでレックナートさんに譲ります。オレが使うには改善というか、機能を絞らないとダメですからね。せっかく作った機能が何の役にも立たないというのは、なんとも」


「ふむ、そういう事なら悪びれず貰い受けるが……本当にいいのかの?」


「ここで受け取って貰えないと苦労して実用化したものが全くの無駄になるので、それはそれで悔しいんですよ。ぜひ有効活用してください」


「あいわかった」


「言う事が職人か研究者のそれだな。それも一歩間違えると危険な研究者の発言だ」


 危険だと分かってても苦労した研究結果は試したい、みたいな?

 それは確かに危ない。


「大丈夫だ。まずは自分で確かめるから」


「それを改めてくれと言っている。お前が暴走したら誰が止めるというのだ」


「あー、それなあ……誰が止めるんだろう」


 今の所ラキに頼るか、最悪イグニスに出張ってもらうしか手がないかなぁ。


「勘弁してくれ……」


 片手を額にあて項垂れるラグに、皆、苦笑を漏らしていた。





 ~~~~





 後日、そんな話があったと合流したジェンに情報共有も兼ねた雑談の際に、思い出した事を実行してみた。

 ジェンにもう一体の視覚同調ゴーレムを試してもらったのだが。人間というのは本当に分からないものだと驚く事になる。

 意外にもジェンは酔わなかったのだ。少なくても一時間以上、平気で動かしていた。

 そしてそこでも、ある事を痛感した。というか再確認させられた。

 オレ一人では用途の発展性に限界があるのだと。


「ぐふぅ……」


「なんの音だ……?」


 風呂から戻るとジェンが鼻血を垂らして倒れていた。

 視覚同調ゴーレムのゴーグルを着けたままで。


「……話を聞こうじゃないか」


「直接見なければ、いけるんじゃないかと……」


 確かにその発想はなかった。なかったけど!

 というか覗きを思いつくなら先に男のオレだろうよ。


「で、何か言う事は?」


「完璧……ッ!」


「何がッ!?」


 サムズアップでガクっと力尽きたジェン。意味がわからない。

 弁明か反省の言葉かと思ったら、最高の笑顔が返ってきた。

 



 ホントに何を見たんですかねえッ!?


相変わらず、執筆速度が上がりません(´・ω・`)

ブックマーク、評価を是非。そして今までの愛顧に改めて感謝の言葉を。



6/19 一応、修正。

冒頭のセリフを変更しました。


ブクマの推移を見て思ったのは。あまりこの回は評判がよろしくない……?

という事を感じました。

なので色々と手を加えていく可能性が、ががが。

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