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第九十三話 三人寄れば



 三人娘のサリス、マリス、タリスは――どうにもタリスを含む事に未だ抵抗があるが――年齢はオレの一つ下。

 騎士候補の学園生だという。

 レックナート卿の遠縁にあたる家の者だと言っていた。その縁で今回の遠征の随行員にと声を掛けられたとも。


 長期休暇の際に実習の単位を取得する事が認められているのだが、しかし三人にとっては単位取得の為の伝手もなく無為にこの休暇を過ごすのかと途方に暮れていた、そんな時だった。


「派閥の息のかかった集団に属しているわけでもないので、そこの所は結構不自由なんですよ」


「手ごろな任務は、やはりそういうった派閥の人たちに抑えられてしまって、出遅れた感じだったんですよねぇ」


 任務といっても様々だ。周辺の調査や街道の治安維持への協力など軍である騎士団の雑務はだいたい網羅されいるといってもいい。

 あとは魔物や魔獣の討伐や駆除の任務などがあるようなのだが。

 しかし毎度の事ながらどの任務も既に定員超過で入る隙間がなかったそうだ。


「そこへレックナート卿に、随行するだけで履修可能な任務があるが、どうする? と尋ねられ、一も二も無く飛びついたってわけです」


 普段であればレックナート卿から、そんな話は、まず回ってこない。

 専任の職務に就いているという立場で外部に人手を求めるという事に疑問を抱きつつも、何もしないよりは、と。

 ただの視察だというには、いささか慌ただしい様子に若干の不安を覚えたが、それはそれ。渡りに船だと二つ返事で了承したというのが実際の所らしい。


「なんですけど……まさか、こんな事になるとは……」


 普通に会話していたが、三人娘は全員地面に仰向けで倒れている。

 身代わり君一号の相手をしてほぼ泥でコーテイングされた状態である。

 うん、確かに。

 こんな事になるとは。


「ところで殿下とレックナート卿はどちらへ?」


 洗濯され、びしょ濡れで誰が誰だか判別がまったく出来ない三人娘が、いつの間にか二人が居なくなっている事に気づいた様子。

 三人が身代わり君と奮闘している間に、色々と確認に向かったのだ。

 ちなみに、全身を舐めるような洗い方は禁止されているのでザブッと何回かに分けてぬるま湯をぶっかけている。


「ああ、ログアットさんと感覚剥奪室を見にいったぞ」


「あの一日で廃人が出来上がるという……?」


「間違っちゃいないが、そうならないための安全策のほうも確認にいったんだろうさ。むしろ、そっちのトレースゴーレムがメインかじゃないかね」


「……それも機密指定ですよね?」


 なんとなくだがサリスはマリスより心配性な面が表に出やすい性格なんだろう。

 微妙な差が出るのは、お互いを見て影響しあっているからか。


「別にそういうわけじゃないとは思うがね。再現可能ならどんどん使ってくれていいとは言ってあるし。今の所は細部まで理解してるのがオレとリナリーたちだけって話なだけでな。判断は責任ある立場の者がすればいい」


「汎用性が高すぎる技術なんですよねぇ。少し考えただけでも、ちょっと怖い使い方が出来てしまいそうなのが気にはなるんですけど」


「マリスの言う怖い使い方ってのは暗殺とかか? 小動物系ゴーレムで隠密性を活かして自爆特攻」


「それが真っ先に出るんですか……いえ、それもなんですけど、外交などで利用された場合です。普通の部屋でも使用可能なんですよね? 外国の要人を迎え入れた際に密かに使われるかなと」


「まあ使うだろうな」


「そうなった場合、バレたら色々と外交的に問題がありそうな……」


「バレればな」


「「「えっ……?」」」


「確かに要人監視で使うのは度が過ぎてると批判される可能性もある。見破られた場合、大問題になるかもしれん。いくら監視対象になる事に慣れてる者でも、すべてが筒抜けなんてのは想定してないだろうからな。というか、通常そうならないように対策を施すだろう。当然その手の類の魔力の動きには目を光らせてるはずだ」


「それでも露見しないと?」


「露見しようがない。それは、こちらから特殊な魔力を使って探るわけじゃないからだ。原理としては対象の魔力の動きや流れを魔法陣で受け取るだけ。通常の人間の監視がやってる事とそう違わない。その点で差異を感じ取るのは厳しいと思うぞ。それに魔法陣の有無で見破るのも無理だろうな」


「どうしてですか? 普通、魔法陣が組まれていれば、それだけでも存在くらいは認識できますよ?」


「タリスは魔力の流れが良く分かるんだったか。逆にそういった人のほうが騙されるんじゃねえかなあ。いくらでも分割、偽装ができるんだよ。例えば空調や照明、遮音、そういった魔法陣や回路の中に分割して紛れ込ませれば発見は困難。なにせそこにあるモノ全部が揃って初めて機能するように仕掛ける事が出来るからな」


 実際に使う事を考えたら、それが基本になるだろう。

 しかしサリスはまだ懸念があるようだ。


「ちょっと凶悪過ぎやしませんか……? 音声も拾えるんですよね?」


「実を言えば音声を拾うほうがメインだったからなぁ。動きだけだと錯乱してるかどうかが確信出来ないって意見があってな。単にがむしゃらに動いてるだけってのもあり得るんだと。だから音も一緒にって」


「生々しい話ですねぇ……」


「まあシステムの概要を聞かされない限りは理解するのも難しいんじゃないか? ミニゴーレムだけ見ても、いくらでも誤魔化せるしな。なんなら誤魔化す下地を作っておくのもいい」


「「「下地?」」」


「三人だってもう見てるだろ。ミニサイズのモンスターとゴーレムが戦う遊び。それ自体を広めるのが問題になりそうなら、こうやって、こうやって。どうよ」


「あっ、すごい! なんかカッコいい!」


 ミニチュアでドラゴンに挑む三人娘の図をシチュエーションとともに箱庭風に再現してみたわけだが。

 要するにジオラマである。緑竜との訓練をちょっとカッコよく誇張して仕上げてみた。


「こういうアートもありますよーって知ってもらうと誤魔化し易いだろ?」


「いつの間にか私たちのミニサイズゴーレムが作られてる……」


「うわぁ、細かい……巨人の目線で見てるみたい」


 感心するポイントが違うのも、この双子の面白い所だな。サリスは自分たちのゴーレムが在る事に驚き、マリスは情緒的な観点で。タリスは単純にカッコいいと全体を見ての感想を口にしたあたり、戦闘や実生活でも自然と役割分担がされていそうだ。

 まあそんな事はいいか。


「いや、でもこれ……」


「ん? どうしたタリス」


「造形が微細過ぎて逆に不審を招きかねないような……だって何も知らなければ、どうやって作ったんだってなりますよ? 明らかに人の手で作る域を超えてると指摘されたら何も言い返せません。未知の遺跡でも発見したのかと勘繰られる恐れがありますけど……」


「未知の遺跡が見つかると何か不都合が?」


「遺跡から見つかった遺物やそれに伴う技術というのは国力、とりわけ軍事力に直結する場合が多々ありまして……」


「そういう事か……なんでそういう物騒な話ばっかりなんだ、まったく……どうして純粋に芸術とか遊び心でモノを見れないかね」


「そんな、人間の域を超えた業を使う人に言われましても」


「人をバケモノみたいに言うなよ」


『えっ』


 おい、なんで会話に加わってない面子まで反応してんだ。

 というか全員じゃねえか。


「HAHAHAッ! よし分かった! 同じものが作れるようになるまで逃がさねえぞ」


 意地の悪い笑顔をしてる自覚はあるが「ひぃッ!」とはなんだ三人娘よ。

 巨大なゴーレムの手だけを出してガシッと掴んでるからだろうけど。


「「「まさか、こんな事になるとは……」」」


 まったくだ。





 ~~~~





「す、すごいのが入って……あうっ」


「なんで同性のタリスがそういう反応するかな……」


 休憩後。何はともあれ魔力を増やすという方針に基づいて、早速実行したわけだが。

 タリスの反応が無駄に艶めかしい事について突っ込むと。

 双子が不思議そうな顔でこちらを見ていた。しかし、その後の反応が違った。


「えーっと……異性だと何かあるんですか?」


「サリスってば、それ聞いちゃうの?」


「何、どういう事?」


 マリスはタリスの反応で何かを察した様子だなぁ。

 双子の魔力増量はウルに任せてたから、その辺りの肉体的刺激ってのはほとんどなかったはずなんだけど、何かを感じ取ったか?

 そう。ウルが魔石を介した増量を習得してから色々と試してみたら、同性であれば体内を触られるような感覚はほぼないと分かったからだ。

 異性から拡張を施術されると性的快感に似た刺激になってしまうので、非常に意味のある発見だった。

 ちなみにリナリーたち異種族からの魔力の接触も異性からのソレに似ているらしい。


「イズミンにされると気持ちいい」


 即バラしたなウル。

 それを聞いてサリスは何を言われたか一瞬分からなかったかようで動きが止まった。


「き、気持ちいい……?」


全方位刺激で昇天(フル・エクスタシー)


「ウル、そういう事を聞いてるんじゃないと思うぞ」


 どう気持ちいいかは聞いてない。

 ウルの修業も兼ねて分担してる関係から、実際ウルが一番オレから多く拡張を受けてる。だから一番詳しいのは確かだ。確かなんだけれど……全方位刺激で昇天(フル・エクスタシー)って何だ。


「うふふっ……やっぱり、そうでしたか」


 なんでマリスは嬉しそうなん。

 見ろ。興味持っちゃったじゃないか。


「……やらねえぞ」


「えぇッ!? タリスは抱けるのに、どうしてですかッ!?」


「抱いてねえッ!」


「じゃ、じゃあ抱かれたい、とか?」


 なんて事聞きやがる。

 サリスはそんな娘じゃないと思ってたのに。


「イズミさん……僕、未経験ですけど優しくしますよ?」


「うるせえよ! だからオレを受けにするんじゃねえッ!!」


 そんな事より、そのナリで攻めなのかッ!?


「じゃあ優しくしてくださいね……?」


「ぬあああーーーーッ! なんでオレがタリスと致す前提なんだ!」


「うちの末っ子は攻守切り換え型の――」


「両刀なの」


「両刀はそういう意味じゃねえーーッ!!」


 くぉの耳年増どもめぇ。





 ~~~~





 オレの体質の影響がないと思って安心してたらコレだ。

 

 一旦、魔力増量は切り上げて、オヤツの時間。

 …………なあんで、皆ワクワクドキドキしたような顔してるかな。

 リアは盛大に顔赤くしてるって事は理解はしてるのか。教育に悪いなホント。

 セヴィの耳を塞いだのは正解だなシュティーナ。きょとんとしているが、セヴィにはまだ早い。

 それと案の定、双子も交際経験は皆無だった。

 貴族の血縁者となれば当然、本人たちも貴族だったという事だ。シュティーナとの応対を見るに辺境伯家よりは下位の家格だと思われるが詳しくは聞いていない。

 その貴族の貞操観念から言えば、当然といえば当然と言えるだろう。


「自然とこういう話になったのは自分たちもビックリしました。内容はほぼ冗談ですけど」


 かなり素に近い状態で会話の応酬をしていたようだ。

 待て。どこまでが冗談なんだ? いや下手につつくと藪蛇になりそうだ。

 話を戻そう。

 そこでキアラがオレの体質を説明した。一番、被害、と言っていいか分からないが、それをこうむっているのは間違いないからな。


「聞けば聞くほど人間から遠ざかっていきますね」


 サリスのその感想に誰も異論はないらしい。

 オレも反論する気力がねーわ。


「にしてもリアやシュティーナが影響されてないから安心しきってたのに……って、もしかしてシュティーナは我慢してるのか?」


「……我慢なんて、し、していませんよ?」


 我慢してたのか……。

 リアは効きにくいから別としても、貴族はそういった魔法的作用に抵抗する訓練のような事をしているのかと思ってた。

 精神力で抑え込んでいたとは。


「すまんかったシュティーナ。無理せずに下ネタとか言っていいんだぞ?」


「なんですか、その生暖かい笑顔は! 無理なんてしていません! もう!」


「冗談はともかく、その対策も研究はしてるから、そのうち裸になっても平気になるはずだ。というかしないとまずい」


 なんで肩を落とすかな。

 しょんぼりしてる人数が多過ぎ。


「む、無理に対策しなくてもいいんじゃないかニャー?」


「ダメだ。危険過ぎる」 


「確かにイズミンの裸は危険過ぎるけど」


「カイナそういう事じゃない」


「何か別の理由があると? でも実害と言えるような事はほとんどないように思えますけどー……」


「イルサーナにとっては実害じゃないのか……。まあ、こういう安全な場所では、って条件だとそれでいいんだけどな」


「あっ……」


「気が付いたか?」


 リアとセヴィが気付いたあたり、ちょっと面白い気もする。

 直接的にオレの疑似的呪いが作用しない二人。


「そう、戦闘時にオレの装備が剥ぎ取られた場合に危険なんだ」


『あッ』


「そうなるとオレの周囲の人間、特に女子の命が危険に晒される可能性がな」


「まさかとは思うけど、イズミンの装備が剥ぎ取られるような戦闘が……?」


「まあ、あったからの懸念、とだけ言っておく」


 言葉を濁した返答だったが、カイナはそれ以上は追及しなかった。代わりにコクリと喉を鳴らす。ちょっと表情が引き攣っている。


「うむぅ~……その場に居合わせたら確かに、あたしたち死ぬかもしれないニャー……」


「そんな所に居てイズミさんの装備が剥ぎ取られるまで生き延びられるかという、別の問題もありますけどねー」


「今の皆なら全力で逃げを打てば死ぬような事にはならんと思うけど。相手にもそんな余裕は与えるつもりもないし。でもまあ何が起こるか分からんのが戦いってヤツだからなぁ。そのくらい慎重に構えてるのが丁度いいか」


「イズミはそう言うけどニャ……まったく楽観視出来ない理由があるのニャ」


 眉を寄せ難しい顔をしたイルサーナにそう返したオレに、勢いに欠けてはいるがキアラが更に食い下がる。

 該当するような理由って何かあったか?


「イズミやラキちゃんから逃げられる気がしないのニャ」


「あー……」


「わふっ?」


 オレはともかく、確かにラキから逃げ切るのは難しいかもな……。

 膝の上で撫で繰り回してる子犬ラキは「なんのおはなしー?」って顔だ。君のお話よ?

 しかし、そもそもそれを言うなら。


「大丈夫だ。オレも逃げ切れないから」


「それはフォローになってるんですかね……? 不安の解消には繋がらないような気が」


「え、ダメかジェン。立場的には同じだぞって言いたかっただけなんだけど」


『えぇー……』


 賛同は得られないらしい。ラキクラスとの遭遇なんて、まずないだろうと付け加えてみたが、あまりそこも楽観視はしていないと。何しろ実際にラキが目の前に居る事と、オレがいる事によるイレギュラーで不幸な事故(巻き込まれ)の事を考えると全然安心できないそうだ。


 なんでや。


「そこは割り切ってもらうしかない。しかしまあ、何が起きても対応できるようになるために魔力の増量が何をおいても絶対条件だってのを理解できたなら、それでいい」


「対応可能な上限をどんどん引き上げられてる気がするんですよね……。知らないうちにドラゴンの巣の前でしたって事になりそうなのが怖いんですけど」


「そんな無茶はしないぞトーリィ。ちゃんと事前に知らせる」


「うっ……想定はしているんですね」


 オレと一緒にいると狩る獲物のレベルが徐々にではあるが、確実に引き上げられていくという事実に最近になって気が付いたようである。もうちょっと誤魔化せると思ってたんだがねぇ。

 オレが何を言っても聞き入れないと諦めているのか『仕方ないか……』といった心持ちになるのは当然かもしれない。


「すごい会話が飛び交ってますね……」


「戦う前提でドラゴンって単語が出るのが、まずあり得ないよねぇ……」


「ワイバーンだって滅多に話題に上らないのに」


 と、サリス、マリス、タリスが漏らした呟きの中のワイバーンというワードに一同が、そう言えばといった風に「あっ……」と声を揃えた。

 それに対して怪訝な顔のサリスが。


「な、なんですか、そのリアクション」


「……すっかり忘れてたな、そう言えば。熟成させたのが、そのままだった」


「熟成? なんの話ですか……?」


「仕込みをしたワイバーンの肉がな。まだ食卓に上がってないな、と」


「食べるんですか!? ワイバーンを!? というか、え!? 既に食材として扱われてるッ!?」


 森の鍛錬場から、そのままだったような気が。

 あれ、つまみ食いくらいはしたっけ? まあいいか。

 人も増えて環境も変わった事でもあるし、歓迎の意味でも景気づけに飛竜肉を振舞ってもいいんじゃないでしょうか。


「というわけで今夜はワイバーン料理だ!」


「どういうわけなのか、さっぱりですが!?」


「気にするな、気にするな。ラグたちとアラズナン家の人たち、とにかく全員で歓迎会だ!」


 熟成具合は完璧だから、あとはメニュー次第。だが、それはまだ候補が在り過ぎて決められない状態だ。

 で決まるまで、ちょうどいいから。


「よしッ! みんな晩飯まで鍛錬しまくるぞ」


「な、何故!?」


「空腹は至高の付け合わせって言ってな。だから身体を動かすんだよ」


「初めて聞きましたけど!? ああ、もう準備が整ってる!」


 あれ、一番の調味料だったかな?

 それはそれとして碧竜君再登場。

 さて頑張ってカロリー消費しようじゃないの。オレもラキと模擬戦して付き合うから。






 ~~~~





「何が、どうして、こうなる」


「飛竜料理が美味しくなるから?」


 コテージの調理場で飛竜肉を使った料理をしていると、ラグから呆れの混じった言葉を頂いた。

 皆の魂の抜けかかったような状態に対し当然の疑問だとばかりに。


「何故、疑問形……というか飛竜を食うのか」


 三人娘からも聞いたが、どうもあまり食材として扱わないらしい。

 理由としては、まず狩れる人間が少ない事。それによって流通量自体が極端に少ない。そして素材優先になるから。革や牙、皮膜に爪、種類によってはトゲなども余すことなく武具の素材になるんだとか。内臓や肉も魔術や錬金術の触媒や材料などで重宝するようなのだ。

 そして味のほうはと言えば。正直、微妙って話。

 なら食材以外の使い道で消費されるのが当然という事になるわけだ。

 でも調理してる感じだと、そんな事なさそうなんだけどなぁ。


 取り敢えずメニューとしては定番の揚げ物。

 醤油がないので味を染み込ませた唐揚げは無理。なので衣に味を付けるフライドチキンタイプだ。

 醤油もそのうちなんとかしたい所ではある。それともまたでっちあげるか。


 あとフライは外せない。

 鶏肉とは違い薄切り肉も豚や牛っぽいので焼肉に。

 骨のダシを使ってネギ塩だれにしてみたものの、やっぱり醤油がないから不便だ。

 一応ソースも粘度の違うものをフライ用に用意してある。

 唐揚げの下味に使おうかとも思ったが、馴染みがないせいかどうもね。

 つみれやハンバーグも一応用意はした。


 他にもいろいろと試してみたいが、今回は試食会に近いので、こんなものだろう。

 料理が完成する頃には、においに誘われて皆、しゃっきりと目が覚めたようだ。


「すごい、いいニオイがする……」


「サリス、よだれ、よだれ」


 双子がそんな遣り取りをしていたが、他の皆も似たり寄ったりの反応で待ちきれないといった顔。

 サリスがそんな反応するのは意外だなーと思いつつ、待てをしているようにしか見えなかったので「よしっ!」と号令。


「犬か!」


 リナリー、みんな気にしてないみたいだぞ。

 各々、第一印象で決めていたであろう料理を口に運ぶと。


『ッ!!』


 美味かったようである。感想言うより味わうほうを優先させている。

 リアやシュティーナみたいに口を押えて上品に食べているように見えて、頬張って結構ほっぺた膨らんでいたりするのはちょっと面白い。

 ラグもちょっと目を丸くしてる。


「飛竜とは、こんな味なのか……」


「驚きましたな。飛竜がこのように美味とは。……しかしそうなると解せませんな。何故食材として流通していないのか」


「じゃあ比べてみましょうか」


 オレも気になってた。これだけ美味いなら誰かが食べるほうを優先してもいいはず。

 なので素材用として分けていたほうから少しだけ肉を調理してみる事にした。

 薄切りにして焼肉でいいだろう。味も分かり易いし。

 では、ひとくち。


「……味が」


「ないな」


 それにちょっと硬い気もする。

 確かにこれじゃあ、食べるより素材に回したほうがいいってなるわな。


「……分かった。これ放置して味が良くなるタイプのヤツだ。これは特殊な方法で熟成させたけど、そうじゃなければ下手したら一年とかかかるかも」


「普通に腐るな」


「だよなぁ。だから食材として流通しないのか」


 ラグのいう通り。腐らせないためには徹底した管理が必要だろう。

 専用の機材や施設を用意してまで、やろうと考えた者がいなかった。

 それで美味くならなかったら大損なのは確定。博打も良い所だ。

 今回みたいに結果が分かっていなければ誰も挑戦しないはず。


「それにしても知らん調理法が幾つか混じっているな。成型肉といい、こちらの常識が通じんとは」


 何気にラグはバーベキューコンロにも食いついてた。

 立ったまま焼けるし、高さの調節で座ってもいける。卓上にも出来るし確かに便利に見えるかも。


「成型肉か。試行錯誤の段階だから楽しみではあるんだよな。ところでどうだった?」


 すぐには何の事か分からなかったラグだったが、感覚剥奪室の事だと理解したらしい。


「……あれか。凶悪の一言に尽きるな」


「確かに。あれは悪魔の所業に匹敵しますな」


「「「え……そこまで?」」」


 ほんとだよ。そこまで言う?

 しかし、よくよく聞けば、感覚剥奪室そのものもだが、それに使われている技術に対しての評価も含まれているようだ。

 既存の技術の上位互換はまだしも、組み合わせ結果が不穏極まると。

 応用範囲が広すぎて眩暈を起こしかけたと愚痴られた。

 そこはまあ責任ある立場の者が判断して欲しい。

 と目を逸らしていたら非常に湿った視線を向けられたが。

 

 しばらくするとアラズナン家の人たちに加えログアットさんも合流。

 屋敷の使用人の人たちも普段は口に出来ないモノという事で、興味を盾にとって参加して貰えた。

 ラグもその辺は気にしないらしい。「俺はここには居ない事になってるからな」と良く分からない理屈を捏ねていた。


「飛竜を美味いと思って食べる日が来るとは」


「何をどうすれば、あの肉がこの味になるんだよ」


 カイウスさんとログアットさんが食べた事があるというのは意外だった。

 システィナさんなどは「あら、そうなの?」とその事になのか味についてなのか驚いていたが。

 ミミエさんと会うのもなんか久しぶりのような気がする。そのせいか食べたあとの第一声の「調理法もだけど調味料も教えて」と可愛らしいおねだりポーズとのコンボの勢いに押され「あ、はい」と思わず了承してしまった。


「そうだな。この際そういった諸々を洗いざらい吐いてもらうか」


「扱いが犯罪者のそれなんですけど……?」


 ログアットさんのオレに対する認識はどうなってんだ。


「犯罪者の持ってる情報は知れた時点で価値がなくなるがイズミの持つ情報はそうじゃないからな。食事は生きる事の基本だ。当然そうなるだろ」


「何ですかその理屈は。まあ分かりますけどね。じゃあとりあえずコレとかどうですかね」


 取り出したのは、リナリーとサイールーが時々飲んでるもの。

 妖精の里で出された酒ではない酒。樹園木ガーデンプランツの実のジュースだ。

 一応、実と一緒に並べておく。リナリーとサイールーから了承は得ているので問題ない。


「まだこんなの隠してたのニャ」


 いや隠してたわけじゃない。酔っぱらうから飲まなかっただけだぞキアラ。

 今の今まで、すっかり忘れてたが今日くらいはいいかと思って出したわけだ。


「これは果実水か……?」


 ラグが手に取り香りを確かめて口に運んだ。

 やはりというか、こういう場面だとラグの行動が優先されるのかと改めて王族である事を認識させられた感じだ。

 毒見はいいのかと思ったが妖精ふたりが既に飲んでいたので問題ないと判断したようだ。

 人間にとって毒だったらどうするんだとも頭によぎったが、オレを信用しての行動らしい。


 ほぼ一斉に飲んだ一同のリアクションも、ほぼ同様のものだった。

 皆一様に、その味に驚いている風だ。


「美味いな……いや待て、なんだこれは。酒の味がしないのに酔いが回る……?」


「妖精の里の酒じゃない酒だ」


「酒じゃない酒? 妖精の? まさか妖精天露かッ!?」


 そのラグの一言に全員がバッとその手に持つグラスを見た。

 本当に? といった感じでオレを見るけど……何それ?


「あー、そう言えば人間にはそう呼ばれてたかも。ルー姉さん?」 


「大昔はそうだったって聞いた事ある、かな?」


「リナリーもサイールーも樹園木ガーデンプランツのジュースだって言ってたよな。違ったのか?」


「「よく分かんない」」


「いい加減な……」


「えー、だって人間との取引なんてなかったし」


「ま、そうだよな」


 何? オレたちの遣り取りに皆固まってる。

 三人娘の眼もなんか開き過ぎて怖いんだけど。


「リア」


「なんでしょうか、お兄様」


「お前は常識を捨ててくれるなよ……?」


「え……あの、えーっと。あははは……」


「手遅れか……」


 リアが目を逸らすと、力なくオレを見るラグ。

 どことなく哀愁が漂ってる気がする。オレが常識を捨ててるみたいな言い方は不本意だけど。



 っていうか妖精天露って何?

 誰か教えて。




どうしてもペースが上がりません……

なんだろう、この同じ事をしてるはずなのに以前より時間がかかる感じは(´・ω・`)

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