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第九十二話 滞在



 アラズナン家別館の貴賓室。

 夕食を振舞われた後、王都からの遠征組は大きな応接用のテーブルを挟んでの食後のティータイムである。

 屋敷のメイドが一礼をして退室すると。


「何やら、えらく疲れているようだが何かあったのか」


「この三人がこのような状態になるとは珍しいですな」


 ラグナルの問いかけに、レックナートは稀な事例であると告げつつ相槌を入れる。

 対して、問いかけられた三人はどう答えたものかといった表情を隠せずにいた。


「その、いろいろと訳の分からない事だらけでして……」


「まず強さの基準がおかしいんです……全員が団長級か、それに近いのにそれを自覚してないんです。まあ仕方ないとは思うんですが……イズミさんとラキちゃんとリナリーさんとサイールーさんがとんでもなく強いので……」


妖精フェア・ルー族があんなに強いなんて知りませんでした……」


 サリス、マリス、タリスが順に言葉にした。


「何を見せられた……いや、あのフェア・ルーたちの強さは彼女たちだけのものらしい。正確には彼女たちの里だけだという話だ。どうもそこにもイズミが絡んでいるようなんだがな」


「やっぱりですか……」


 サリスの言葉にどういう事かという表情を返すラグナル。

 若干、言葉に詰まらせながらであったがサリスの代わりを引き継ぐようにマリスが返答した。


「……その、皆さんの言動から、どうもイズミさんが色々と影響を与えてるのでは、という感じがすごくしまして……魔法や魔力の運用だけでなく知識も、その出所の分からない情報が元になっているらしく……いえ、情報だけではないらしいのですが」


「どういう事かの」


「発想が著しく人と違うようで、妖精フェア・ルー族の二人も理解に苦しむ行動をする事があるようです。ラキちゃんは全面的に受け入れているようですが」


 そこでサリスは一旦は言葉を切るも、言い足りないと思ったのか、しかしため息交じりに続けた。


「……とにかく持っている基本の情報量が違い過ぎます。学園や研究院でも見聞きした事のないような情報がサラッと出て来たりしてました。魔法に関しても無詠唱が基本だと当たり前のように実践してましたし、リア様の土属性魔法もそうですが、そのリア様が操るゴーレムなど何がどうなっているのかさっぱりで……」


「……待て。イツィーリアは魔法を使えないはずだ。ゴーレムだと……?」


「実際に動かして――えっ、使えない?」


「……ああ。リアは魔法を使えなかった。少なくとも王都に居た時は複雑な魔法など覚えるのは不可能だと言われていた」


 ラグの言葉を聞いて顔を見合わせる三人であったが。

 魔法の使用不可というそれは、特殊な事情であろうと予測は出来る。しかしにわかに信じられないといった口調でタリスは見たままを語った。


「そうなのですか……? でもものすごい速さで土属性魔法で造形物を仕上げていましたよ? ゴーレムも自分で描いたという呪符を使って、間違いなくリア様の魔力で創り出されて操作されていましたし……」


「……なんだと?」


「魔力を読むのに長けたタリスが言うのであれば間違いないでしょうな……」


「……いったいどんな魔法を使ったのだ」


「嬉しそうですな殿下」


 その指摘にやや照れたような表情で咳払いをするラグに、更に笑顔を深めたレックナートであったが彼も同じ気持ちなのは誰が見ても疑わないだろう。


「しかし、やはりとんでもない人物だったようですな」


「そのようだ」


「あの、それはどういう……? アラズナン卿との情報の共有で何か分かったのですか?」


 サリスが戸惑いながらも尋ねる。

 そこでラグとレックナートはアラズナン家の者、それにログアットとの懇談内容を明かす事にした。

 イズミの正体が知れないという見解は一致していたが、敵対さえしなければ害がない。いや恐ろしく甘い男だろう事。しかし敵に回れば容赦がないだろうという事。

 実際に死の牙を日雇い感覚で狩ってきたと聞いた時は耳を疑った。


『死の牙ッ!?』


「一人でな。いや二人でだったか」


『えぇ……』


 そこに何か違いがあるのかと言いたい三人の気持ちは理解出来るが、当然のように流された。

 そこからは関連する事柄で情報が順次出てきたと語った。

 というより、その都度確認するとそうなってしまうというだけであったのだが。

 死の牙関連からは感覚剥奪室とトレースゴーレムといったようにだ。


 短期間での魔力の増量が可能な事や、純度の高い魔石の事なども雑談の中で何でもない事のように語られたと多少の愚痴らしきものも混ぜながら。


「高度な教育を受けていると当然のように言っていたが、特筆すべきはその能力とそれに付随する情報だという話だったな」


「直観像記憶、でしたかな?」


「その能力を発展させてアラズナン卿とギルド長の怪我を治療したようだが、本当に治っていたな」


「セヴィ殿も臥せっていたと噂でしたが、まさか視力を失っていたとは……」


『……えっ?』


「イズミが治したそうだ」


 再び止まる三人。失明を治療した? そんな事が可能なのか、と。

 完全に視力を失った眼の治療など、回復困難なものの筆頭ではないか。


「吾輩も耳を疑った。しかし相応のリスクがあるという話でしたな。治療直後は全身から血を噴き出したと」


 と聞いて三人はセヴィがそんな経験をしていたのかと、ゴクリと喉を鳴らした。

 失明していた事もそうだが、あの幼い少年がそんな壮絶な治療を受けていたとは。


「ん? 勘違いしているようだが、血を噴き出したのはイズミだぞ」


 治療する側がリスクを負う治療とは何なのだと三人がまたも絶句する。

 一般の感覚では治癒魔法での施術側のリスクと言えば、せいぜいが魔力枯渇による前後不覚くらいのものだろう。


「だから言っただろう。身内には甘くなるのだと」


「お前たち三人も無理に仲良くなれとは言わんが、敵にはならんようにの。恐らくだが彼は……」


  一旦言葉を切るレックナートに僅かに躊躇のような感情が生まれたが、『彼は?』という三人の問うような表情に応えるような形でそれを口にした。


「龍の関係者だ」


『ッ!?』


 妖精フェア・ルー族という、お伽話から飛び出したような存在にも驚いたが、それには更に破壊力があった。

 龍の関係者。それはほぼ例外なく龍の眷属という意味だ。

 絶対的な力を持った上位存在。その眷属。

 イズミは知らない事だが、この時代を生きる人間たちの中には竜と龍を明確に使い分けている者たちがいる。

 それの意味する所は神龍と、その意思の代行者の存在を確信している、ということであろうか。

 つまりは調停者の存在を。

 はっきりと言葉にはしなかったが、この場にいる誰もが察していた。

 イズミが調停者なのでは、と。


「まあアラズナン家の者たちも絶対ではないと明言は避けていたな。本人も認めないだろうとも」


「ログアット殿は、無自覚を利用しつつ放任されているなどとも言っておりましたな」


「言い換えれば全権代理人とも受け取れるともな。なんにせよ、お前達も知己と認められるのは損ではあるまい。家柄や性別に囚われず付き合えるなど滅多にない事であろうしな。その辺りは、いい意味でも悪い意味でも気にせんようだ。であれば打算抜きで付き合ってみるのもいいのではないか? 自然体で居れば一線を引かれる事もなかろうよ」


 明言は避けるも何かを含むラグの言い様に、事情は筒抜けかと察した三人ではあったが、同時に王族たるラグナルがその事を気にかけてくれたという事実に嬉しさが込み上げた。


「殿下はどうなさるのですか……?」


「さてな。力で押さえつけようとすれば手痛いしっぺ返しを食らうか真っ先に姿をくらますと断言されたくらいだ。なるようにしかならんだろう。ヤツが面白そうだと思うのは確かだがな」


「楽しそうですね……確かに何も考えずに接した方が良さそうですね。というか今のお話を聞いても納得できる部分があるのに実像が伴ってないとでも言いますか……とにかく構えるのが馬鹿らしくなってしまうくらい捉えどころがないんですよ」


「基本的にお人好しっぽいです」


 双子の姉の言葉を補足するようにイズミの人となりを語るマリスにタリスも同様に頷いていた。


「対処可能な範囲が常識では測れない程に広大故に許容範囲も広い、という事らしい」


「多少の悪だくみなど正面から受けた上で踏み潰すせるのならば、他人との接し方も我等には測れないものなのでしょうな」


「まあ聞いた限りでは善良な部類だとは俺も思う。が、だからといってリアはやらん」


『あ、あははは……』


 乾いた笑いが出てしまうのはイズミと接するリアをその目で見ているからか。

 三人はちょっとだけ目を逸らしていた。


「とにかくだ。しばらくはこちらに居ることになった。その間にイズミに弟子入り志願するのも手だ。といっても一週間程度だが、それでも得るものは膨大であろうよ。何しろ魔導王朝時代の知識も元になっている鍛錬法であるらしいからな」


「魔導王朝の知識かどうかも怪しいくらい影も形もないそうなんですよね。更に発展させているというか改変しているというか……」


「リアにも直接聞いてみる必要がありそうだな……アラズナン卿も何か隠しているという感じでもなかったが」


「どうもアラズナン家のほうでも全容は把握しきれていないのではありますまいか。彼らにしても、どう説明したらいいのか分からないものが多すぎるといった印象でしたからな」


「かもしれんな。それ以前にイズミ自身、己に出来る事、出来ない事を把握していない可能性もある」


「それはどういう……?」


「其方らが情報が膨大と言ったではないか」


 ラグナルにそう指摘されてもピンときていない様子の三人。

 首を傾げた三人から正解を乞うような視線を受け、苦笑しつつもラグナルが続けた。


「持っている情報の全てを検証は出来ていないという事なんだろう。状況に合わせてその都度引き出して対応するという手順なのではないか? であれば、本人も何が何処まで可能なのか把握するのは困難なはずだ」


 なるほどといった風に「あぁ……」と三人が声を漏らす。その推測はほぼ正しいと誰もが納得できるものだった。

 想像を超えた記憶能力とは、そういったものなのだろうと。

 そこで会話が一区切りすると。


「もうこんな時間か」


 振り子時計の音にラグナルがそう呟く。

 三人がそちらに目をやれば十時半を過ぎていた。

 いつの間に立ち上がったのか、気づけばラグナルが窓際に立ち外を眺めているのが目に入った。

 イズミ達がいるコテージのほうを見ているようである。


「まだ起きているのか。昼間あれだけ派手に動いても関係なしとはな」


「必要なら睡眠時間も調節するような事を言ってましたけど、皆さん元気ですよね」


「ここの姉弟いわく、寝るのが勿体ないそうだぞ」


 どう調節するのかという問いはさておき。

 さすがにセヴィにはちゃんと睡眠を取れと言い聞かせてはいるようだ。しかし、そうなる要因も鍛錬か遊びか良く分からない道具が絡んでいるらしいという。

 

「フッ、なかなかいい時間が過ごせそうだ。お前たちもこの機会を無駄にするなよ。王族などより余程希少な生き物が目の前にいるのだからな」


「年甲斐もなく胸が躍りますなぁ」


『あ、あははは……』


 普通であれば妖精族の事を指すのであろうが、どう聞いてもイズミの事を言っていると不思議と三人にも理解できた。

 同時に「この人たちも元気いっぱいな希少生物だぁ」と。






 ~~~~





「見ろ! この完璧な拡大を!」


「なッ、なななッ、何よソレッ!?」


「さっきの言葉を撤回しないと、どうなるか……」


「ど、どうなるって言うの……?」


「愛情込めて撫でまわすに決まってるだろうが!!」


「いぃやあぁーー!?」


 バシィッ!!


「あいたっ」


 え、なに? いきなり後頭部どつかれた。


「……何をやってるんですか」


 誰かと思ったらシュティーナか。ははぁ、なるほどね。サイールーに気配隠蔽の補助をしてもらったのか。どうりでオレがハリセンで叩かれるまで気づかなかったわけだ。殺気もないから上手く気配を殺せたと。

 で、その後ろで他の皆は様子を伺っていたわけね。


「リナリーが相変わらずオレのゴーレムの造形に理解がないみたいだから」


「可愛くないって言っただけだもん。……まあ気持ち悪いとも言ったけど」


 どうも相変わらずリアル路線が気に入らないらしい。確かにあんまりデフォルメとかしないから可愛いというのからは遠いかもしれん。

 だが気持ち悪いはないだろう。いい加減慣れたはずなのに。

 だから人間サイズのリナリーを完璧に再現して理解を促したという次第だ。

 リアルはリアルで心を動かすものがあるんだぞと。一応服は着てる。ピッタリフィットの薄布一枚だけどな。膝上二十センチのひらひらワンピースじゃ。

 あ、どこを撫でるかって? 尻に決まってる。本人の身体じゃないのにリナリーは顔真っ赤。

 なでなで。


「改めてこうして見るとリナリーの尻って完璧に近いよな」


「ここで私のお尻の評価!? ていうか、いつまで撫でてるの!? なんでか私が恥ずかしいッ!」


「待てよ……素材を吟味して軟化を併用すれば弾力も再現可能……?」


「しなくていいからッ!!」


 ええやんか。かなりの精度で再現できるぞ。

 骨格や筋肉のつきかた、肌の張りなんかと普段の動きから詰めていけば、ほぼ間違いのないものが完成するのは請け負う。

 ……なんかほんとにダメっぽいですな。すごい顔してこっちを見てらっしゃる。

 具体的には涙目でむうっと唸りながら頬っぺた赤く膨らませて。

 シュティーナもちょっと顔が赤い。なんでかね。

 

「朝っぱらから何を訳の分からん事を……」


 リナリーの人間大の再現を一時封印するか葛藤していると。

 レックナート卿とリア、そして三人娘を引き連れたラグがコテージ前の庭に現れた。


「うぃー、はよう。ゴーレムの造形について熱く語ってた所だ」


「この女神像か? おそろしく精緻だな……しかし、どこかで見た事があるような気もするが」


 女神像……? なんでもないですリナリーさん。

 ラグの女神像の一言でリナリーの機嫌が一気に良くなった。

 しかし無自覚にこういう事を言うからなあイケメンってのは。まったく。

 三人娘は食い入るようにリナリー像を見てるが、放っておこう。

 リアは誰の像かすぐに分かったようだが。


「で、その朝っぱらから、わざわざ顔を出すってのはオレに何か用事でも?」


「いや、大した事はない。一週間ほどこちらに滞在する故、その間、世話になると言いに来ただけだ」


「大体の予定が決まったのか。ん? 世話になる?」


「主にこの三人に稽古をつけてもらえないかとな。他流の剣技というのは体験そのものが貴重だ」


「それは全然構わないけど……その言い方は」


「無論、我等も参加する」


「くぁっはっはっは! 未知なるものの探求には年齢は関係ないですからなあ」


 そりゃそうなるわな。

 ん? っと待てよ?


「リアも一緒に帰るのか?」


 一応オレが送り届ける予定だったが、ここでお役御免?


「いや、我等とは時期をズラしたほうがいいだろう。本人の希望もあるようだしな」


「あの……やはりご迷惑でしょうか……」


「逆にオレと一緒でいいのか? ラグと一緒に帰りたければ絶対にバレない変装術だって教えられるぞ? メイクだけでも別人になれる技とか」


「え、それは興味がありますが……い、いえ! 王都に戻るならイズミさんと一緒がいいです!」


「そっか? まあ最初に約束したしな。了解だ」


「はい!」


 いい返事だ。ぱっと花が咲いたような笑顔。ラグが眉を寄せてるのとは実に対照的である。

 で、そこの三人は何をほっこりしたような顔してるんだ。

 君たちは暢気にしてる場合じゃないだろうに。


「オレが言うのも何だけど君らも難しい立場になったよな」


『えっ……?』


「えっ……って、気づいてないのか? 一時とはいえラグと一緒に行動してリアの所在を知る立場になったって事は」


「であるな。そなた達は現在進行形で機密に触れているのは確かだのう」


「うぐっ……一介の騎士候補の学生には荷が重いような……」


「それはどうしようもないのう。リア様の無事が周知されれば、ある程度はそれも解決するが……また別の問題が浮上してくるでな」


「別の、とは?」


「イズミ殿と接触した事実じゃな」


 はい?


『はい?』


 いや、オレの台詞。

 なんでじゃ?


「やはり自覚がないようだな」


「自覚するような事は何もないが? って、ため息デカいな」


「イズミ殿の持っている情報が特殊過ぎるといった所かのう。昨晩聞いただけでも理解の範疇から外れているものが多すぎるのでは、とな」


「つまり、皆さんも機密の塊の傍に居ることで自然と機密を守る側の立場になってしまったんです」


 シュティーナがそう付け加えた事でやっと理解が追いついたらしい。

 オレも追いついたが納得できるかは、また別の話だ。

 なんだよその「うえぇ……」てのは。


「そこまでおかしなものを垂れ流してるつもりはないのにな。まあ文化のほうは自重するけど、戦闘の技術に関して自重してないのは確かにそうか?」


「すごい……他人事だ……」


 タリスが何とも言えない表情をしてるが、別に他人事って意味合いじゃないんだけどな。


「その辺りの魔法的技術は大昔に既に存在してたわけだろ? 意図的に隠蔽したんじゃなければ必ず何処かに伝わってるはずだ。なら絶対に誰かがそのうち気付くし、伝わってなくても考え付く。ちょっとだけオレがその役割を担ってるに過ぎないんだよ。それに、そういった情報が拡散、浸透するためには、ある程度の安定した社会が必要になるのは当然として、技術が根付くがどうかは、その時代の発展の度合いで違ってくる。要は時代に合わなければ自然と淘汰されて、また埋もれるって」


 高度過ぎても、理解する者が少なければ広まりようがない。そしてその後も続かないだろう。

 つまりその時代、または世代の人間には早過ぎたって事だ。

 逆に意地でも途絶えさせないという意思を体現出来たなら、それは時代に受け入れられたという事。

 技術的な水準が釣り合っていれば根を下ろしたものになって受け継がれていくだろう。


「情報の価値を決めるのは人じゃなく時代だよ。だから全く問題ない」


「時代、ですか……? なにか上手い事、言いくるめられたような……」


「自己正当化の為の理論展開かと思ったが……そう言われると、そんな気もしてくるな……」


 タリスとラグによる若干の不本意の色を滲ませた納得の言ではあるが、一応分かってくれたようであるし、そこは良しとするべきか。


「イズミの言う事は真に受けないほうがいいんじゃないかなぁ」


 なんだとリナリー。

 なんて事を! まるでオレが嘘を言ってるようじゃないか。

 オレが内心で抗議していると、ここにいる全員がどういう事かと問うようにリナリーを見ている。


「だって今言った事って、なるようにしかならないって言ってるだけだよ?」


「ああッ! バレたッ!」


「お前……」


 確かに要約すると、そうだけれども!

 でも言った事も嘘じゃないから、皆もそんな顔で見ないように!






 ~~~~





「ああああぁー!?」「なんですか、これえー!?」


「く、くわっ、くわっ、喰わぁあーー!?」 


 何って、ゴーレム:タイプドラゴンだ、双子よ。

 タリスは、アヒルか何かかな?

 いつもお世話になってる緑竜ですがな。

 どうも迫力が在り過ぎて捕食されるような錯覚に囚われてしまったようである。

 貸し切りの練兵場の中央で緑竜に遊ばれてる三人に向けて。


「安心しろー! 生き物じゃないから食われないぞー!」


「ほ、ほんとですかぁーッ!?」


「本物と違って行動制限もしてあるから存分に楽しめよー!」


 止めてくれないの!? とでも言いたげな表情の三人だが、止めない。

 緑竜のデータ収集に協力してもらうぞ。

 しかし動きの珍しい相手なのか、何故か緑竜が嬉しそうなのはどういう事か。

 おかしいな……感情が生まれるとは聞いてないんだが。魔法陣回路の自己改変による深層学習がなされているとすれば、在り得ない事でもない……?

 そのうちしゃべりだすのかなあ。まあいいか。


「本当に大丈夫なのか、あれは……」


「大丈夫、大丈夫。派手に吹っ飛んでるけど、直接触れてるんじゃなくて空気の層を間に挟んで攻撃してるだけだから」


「なるほど、それで巨大な綿をぶつけられたような感じだったんですね」


 ラグの質問にオレが答えると、シュティーナが謎が解けたといった様子で納得していた。

 白のトクサルテの皆やトーリィとジェンも、「ああ、そういう事かあ」と同様の反応を示す。

 セヴィとリアは直接体験していないので、そこまでしみじみとした反応ではなかったが。


「最初の反応で分かってはいたが、やはりほぼ全員が体験済みか……」


「いやはや。やはり普通ではない体験が待っていたようですな。くあっはっはっは!」


「しかしな爺。俺は他流の剣技を、と言ったはずだが」


「あれ、そうだっけ? ゴーレムの学習サンプルが新しく加わったから、つい」


「「「ついって何ですかーッ!?」」」


 ラグのやや非難混じりの視線の反対側から、そんな悲鳴が聞こえた。

 この辺で切り上げておくか。


 肩で息をする三人には休憩してもらってと。

 要望通り他流仕合いといきますかね。


「では吾輩から宜しいかな」


 この人の得物は槍か。あ、なるほど。アラズナン家というよりログアットさんから聞いたのか。

 魔力抑制具マナワイアありで、お互い素の状態をご所望と。


 うひょー、強いわこの人。

 模擬戦用の木造の刃が本物と錯覚するほどの鋭さと気迫が込められてる攻撃だ。

 そして老獪さも加えてとなれば、なかなかに厄介だ。達人と言われる域に達しているのは間違いない。

 

「殿下との仕合から判断して、もう少しイケると思ったのだがのう。模擬戦とはいえ本気で挑んでコレとは、世界は広い! くぁっはっはっは!」


 お前も本気でやれと目が言っていたのでその通りにしたが、なんとか喜んで貰えたようである。

 悔しいという気持ちがないわけじゃないだろうに、ちゃんと認めてくれたわけだ。


「こちらこそ、本当の戦場を知っている槍術を味わえるのは、なかなかないですからね」


「……何故そうだと?」


「オレが懐に入った時の動き、ですかね。本来ならその膂力でもって接近時には短剣も併用されるはず。それ以外にも無駄に深く突き入れるような攻撃ではなく、致命になるギリギリを見極めた間合い。部位によっては指二本分で戦闘不能になるような、そんな攻撃も混じってましたから」


「そこまで見切られるとはのう……精密さを突き詰めたのはおぬしが相手であったからではあるが」


「なるほど。見方が近くにいた場合、鼓舞するためにも豪快に切り捨てるのもあり、と」


「おぬし、本当に十八であるか……?」


「年齢詐称はしてませんが?」


「くぁっはっはっは! で、あるか!」


 ちょっと今の遣り取りが分からないといった表情がちらほら見られるので、補足が必要かな?

 簡単に言えば、目とか首筋とかが浅くてもそれに該当する。たった三センチの深さの傷でも戦闘不能になる。

 あとは頭もそうだ。三センチ頭蓋に刃物が入ればそれだけで致命になりうる。

 手足の腱もそれに当たるか。


「わざと殺さずに負傷兵を放置するってのも手なんだ。レックナート卿の攻撃は、自在にそういうのも可能だって事。後送するのに人手を割かなきゃならんから、戦力を削るのに有効な場合もあるんだよ。まあ放置されたり同じ陣営からとどめを刺されたらそれまでだけど」


「えげつないけど事実なんでしょうねぇ……」


「ジェンは特にそう思うかもな。弓矢だと遠距離からそれが可能だから選択支として常に迫られるだろうし。まあ精神面を圧迫するって点だけでも毒と合わせれば割と凶悪な手段だな」 


「そこまでは考えてなかったんですけど……でも毒って結構なお金がかかりそうな」


「戦場でそんな上品な毒なんて使う意味はないな。誰にも気付かれず毒を盛る必要なんてないんだから排泄物だけでも十分だ。人間がいるかぎりいくらでも用意できる」


「「「うわぁ……」」」


 うわぁってなんだよ。戦場では常識の範囲内だろう?

 騎士候補なら予備知識として持ってるはずだろ。なに引いてんだ。


「いや、学園の講義ではおおまかな戦略や戦術に触れても、そこまで徹底した疲弊を誘うような方法については言及していない。現役の騎士ですら思い至らん者のほうが多いかもしれん。騎士の戦いは名誉だと言って憚らない者がいるくらいだ。戦いは優雅であれと言う者さえ居るからな」


「全ての戦場で有効って訳でもないから知らないってのはまだ分かるが……。実際に戦わなきゃいけないって時点で既に下策なのに、その上まだそんな事言うのか……。例えそれが長年の様式美だったとしてもだ。負けたら全部失うんだぞ。ある意味尊敬するわ」


「耳が痛いな」


 全部が全部そうではないだろうが、そういう認識の者が居るというのはラグの悩みの種になっているのかも知れんなぁ。

 まあ、それはそれとして。

 続けてラグとも模擬戦をしたわけだが。


「やはり届かんか……」


「武芸以外にもやる事が山程ある人間と同程度以下だったら、そっちのほうが逆にヘコむっての」


「フッ、そういうものか」


「そういうものだ」


 いや実際のところ、ラグはかなりの域にまで到達してる。

 正直、同年代でここまでやれるのは滅多に居ないんじゃないだろうか。

 技に関して言えば本当にあと一歩という所まで来ているのは確かだ。惜しむらくは、やはり武芸の鍛錬に割く時間が短いだろうという事に尽きる。


 魔力の増量をすれば幾分かは、その点を補えるとは思う。

 なるべく早く増量しておきたい感じだな。

 まあ三人との模擬戦を終わらせてからにしようかね。

 よし、順繰りにかかってこい!





 ~~~~





「さっきのドラゴンゴーレムより勝ち筋が見えないってどういう事……」


「初見じゃないのに全く対応出来なかった……」


「未知の剣技がこれほど遣りづらいとは……これはイズミさんに身も心も捧げる必要が……」


 ねーよ!

 何を捧げる気だよ。

 なんで男のタリスがそういう反応するかな。


 しかしこれが一週間続くのか……?

 疲れそうだなぁ。主にツッコミで。



遅くなりましたーーー!

いやもう、なろうコンの結果とかいろいろとヘコむ事が重なるし時間がないしでモチベーションだだ下がりでしたよ……


そんなタイミングでブックマークしてくれた方がいて、改めてブクマしてくれている方たちに対して嬉しいやら有り難いやらで、もうなんて言っていいか。


とにかく感謝です!

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