第八十八話 小さな演習でお勉強
世の中には単純な力の指標が存在する。
――物量、或いは数量。
数値で示されるソレは冷酷なまでの現実を突きつける。
数は力だ。
戦闘、つまり集団戦では特にそれが如実に現れる。数の暴力の前では多少の突出した質や技量など塵芥に等しい。
日常生活においても多数決という名でその暴力は遺憾なく発揮される。
派閥を利用し全体の半数、更にその半数を掌握できれば全体を支配出来ると豪語する者だっているくらいだ。
そしてそれと同じくらいの暴力が存在する。
それは財貨。
そう、金だ。
この世の中は金という実弾が飛び交う戦場だ。
それが何処であっても。
「また身も蓋もない情緒もへったくれもない事を言い出した」
事実だぞリナリー。命だって金で買えるなんて言われてるのを知らんのか。
などという異論がありそうな意見はおくとして。
オレは今朝がた、その大金という実弾を手に入れたのである。
その額なんと三千万ギット。実を言えば感覚剥奪室絡みの報酬も上乗せされての額なわけだが。
「いや、まさかこんなに大金になるとは思ってなくてな。死の牙関係の査定やら何やらが片ついて、やっと支払い可能になったのが昨日。今日、朝一で受け取りにいったわ」
「イズミってそんなにお金に執着してたかニャ?」
「金は大事だろ。これでしばらくは装備や道具を金に糸目をつけず買い込む事が出来るようになったんだぞ? 白金の板で頬を張るような傍若無人な買い方がな」
「それに何の意味が……まあどんな欲しいものでも手に入るって意味なら間違ってはいないかもだけど」
「で、それとこれと何か関係があるの?」
リナリーとサイールーの言葉に同調するようにこの場にいる者が皆、疑問の表情を浮かべる。
その光景に圧倒されてはいても意図が分からないといった所だろうか。
セヴィだけは目をキラキラとさせて楽しそうだが。
「数の暴力を視覚的に理解するには、ちょうどいいかと。ミニゴーレムを使った軽いお勉強だ」
五百体×二で計、千体。ここに揃えまして御座います。
いやあ単純作業って苦行だね。
「当然ながら数の多い方が有利。戦争の歴史を紐解けばそれが証明してる。とは言ってもそれだけで語れないのが難しい所なんだが……」
ミニゴーレムを多数対少数の集団戦形式で動かしながら続ける。
相手側はラキが動かしてくれている。
「戦争が経済と切っても切れない関係ってのがまた複雑にしてるんだよなぁ。みんなのその表情は何となく感覚では分かってるけど実感がない?」
顔を見合わせ、やや困惑したような表情を向ける様子から、皆似たような感じなんだろう。
具体的にと聞かれても定義の幅が広すぎて答えようがないというのもあるのかもしれない。
おもむろにミニゴーレムの装備を変更し、それぞれを貧相な武装、立派な武装といった、誰の目から見ても貧乏軍隊と精鋭の軍隊に仕立て上げ、その演習をまったりと開始する。
「単純な所で説明すると装備の充実度が分かり易い。事前の準備や良い装備、要はどれだけ金をかけたかってとこだな。これも数の暴力ってわけだ」
「あっ……」
そう零したリアの声に、僅かばかりの納得の色が混じっているのは立場故か。
「軍人や政治家なんかはそれを国力と定義して見極めなけりゃあならんわけだが……隣国との相対的な国力の差はこれまた把握するのが困難ときてる。まあそのために間者や草を放って情報を集めているんだろうが……と、逸れたな。オレが言いたいのは数を揃える重要さを言いたかっただけなんだ」
それを言い終わる頃には貧乏軍は白旗を挙げて模擬戦の勝敗は決していた。
いやまあ予定通りなんだけど容赦がないなラキは。「わふっ」とかドヤ顔ですよ。
「まあこんな感じで金がない軍隊は勝つのが一苦労だ。鍛えるのもな。何をするにも金がかかる。だがまあ今ここで言う暴力ってのはもっと戦力の根源的な部分の事だ。つまりだ、最もシンプルに戦力としての個人を数値化するなら魔力量がそれに該当するって事を言いたい訳だ。戦いになったら数を揃える。負けないためにな」
「あっ……それでイズミンは魔力量を増やす事を重要視してるのね」
「そういう事だカイナ。個人単位であってもそこには数の暴力は存在する。分かり易いのが魔力量。戦闘での最小単位が人間一人という事ならば、その個人の持つ魔力をいかに徹底的に鍛えるかという事に行き当たるのは自然の成り行きだろ?」
「現状では個人の数的有利が目に見えて分かるほどの差にならないのが難しい所ですが……」
「確かにシュティーナの言う通りなんだけどな。将軍級にもなれば化け物が揃ってるだろうが……いかに化け物でも、それだけで戦いに勝つなんてのは物語の中だけだ。少数が多数に勝つってのは戦闘では歪なんだ。そんなのは異常であるし、それを期待して戦略に組み込むのも本来なら常道とは言えない。とはいっても相手方も化け物をぶつけて来るのは規定の事でもあるし、そんな英雄頼みにはなりにくいだろうがね。だから数を揃えるっていう戦略や戦術の根幹の部分は押えておきたいというわけ」
しかしながら、この時代なのか、この周辺国がそうなのかは分からないが、単騎駆けや一騎打ちが忌避されているような気配がないのが気になる。むしろ前時代的な価値観から継承され推奨されている節さえある。
その辺を詳しく調べていないので断定するのは危険だが、どうもオレの知っている戦争とは若干、戦争の様相が異なっているのかもしれない。
「イズミさんに言われても釈然としないのは……まあ今更ですね」
「オレこそ釈然としないが……逆の方法もあるにはある」
「逆の方法?」
「徹底的な個の均一化と、それを前提とした連携だ。限界まで突き詰めた合理性と人間性を排した作戦行動で一切の無駄を切り捨て目的を遂行する。まあその均一化された個ってのも高い水準が要求されるが……」
現代の地球でもそれに近い部隊は存在するらしい、というのは耳にした事がある。
「そんな事が可能なのですか……?」
「可能、不可能で言えば可能だ。想像しにくいか? その部隊を創り上げる方法はおいておくとして。そうだなぁ……自分と同等の技量の敵が同じ意識、つまり精神を共有して命を狩りに来たら? 遮蔽物の多い場所であっても同士討ちはまず不可能、誰か一人に見られているだけで不意打ちも出来ない。攻撃やフェイントのタイミングなんかも他人と組んだ時とは桁が違うぞ? パチンッと指を弾く隙間に連携を挟んで来るとしたら? それが己の腕や足、命ですら道具とみなして平気で犠牲にするとしたら?」
何となくではあるが想像が出来たらしい。誰も彼も顔色が青ざめているように見える。
狂戦士の運用に近いものがあるが、むしろ場合によっては無差別より性質が悪いかもしれない。
自我を持ったまま冷静に凶行に身を投じるなど狂戦士になるより余程狂っているからな。
「まあそれに近い事が今のキアラたちなら出来るんだけどな」
「え……?」
「共鳴晶石だ」
「え、あっ! そういう事、なのニャ……?」
「魔力探知の妨害が必須ではあるけど、それは魔法具を使えば無理じゃあない。その上でリアルタイムでの意思疎通を前提とした連携を錬磨していけば、どんな相手だろうと勝つのも夢じゃない」
「知らずに怖いもの渡されてたんですねぇ……」
「イルサーナは自分が対象になった時の事を想像するか。だがまあどんな物でも使い方次第だ。あー……随分と話が逸れた気がするが……とにかく数を揃えるのは大切だって事。物資も人間も」
「……イズミはその資金で私設軍でも作るニャ?」
「この金でか? こんな端金じゃ軍なんか持てんよ。この十倍でやっとってとこだろう。それもせいぜい分隊って所じゃないか? しかも短期的に維持出来るかどうかだ。それくらい軍事ってのは金がかかる」
「そう聞いてしまうと確かに資金力が暴力に繋がると思えてしまいますね……」
シュティーナは立場上、そういった内情を全く耳にしないという事もないだろうから多少は思う所があるのかもしれない。
オレの「極論だけどな」という言葉に苦笑していた。
「まあ、今は金があってもあんまり使い道がないのがな。食べ物以外に使い道が浮かばん」
「ほとんど自前で用意出来るもんねえ」
「余程変った武器でもない限り食指が動かんからなー。それに盗賊からいくらでも調達出来そうだし、ヤツらのほうが変な武器持ってる可能性が高い」
「盗賊には何してもいいと思ってる」
「リリースして定期的に狩るのも考えたけど、それだと間接的にオレが盗賊してるようなもんだから、そこはちゃんと思い留まったぞ?」
ウルの表情は非難したようなものではないが、他のみんなはコイツならやりかねないと疑いの色が顔に出ている。
失礼だね君たち。やつらは勝手に生えてくるからリリースの必要なんてないんだよ。だから「釣りか何かと間違えてる」とかツっ込んでも当てはまらないから。それはそれとして。
「だからといって貯め込むのもあんまりいいとは言えないか。セヴィは何か欲しいものとかないか?」
「えっ!? ぼ、僕ですか?」
「何かあるだろう」
「と言われましても……環境も恵まれてますし……う、うーん。今はこれと言って……」
大量のミニゴーレムを前にそれを黙って楽しそうにあれこれと観察していたセヴィだったが、いきなり話を振られて、若干の驚きと困惑を隠しきれない様子になっていた。
貴族だから欲しいものが手に入るとか、そういう意味ではなく、オレを通じて市場に出回らないものが手に入るという事を理解しての発言なのは顔を見ればわかる。だからこそ、それでも欲しいものが浮かばないとなるとどうしたもんか。
「そもそも師匠が準備しているものを聞くと、それ以上のものが浮かばないんですけど……」
「……弟に何を用意するつもりなんですか」
「ん? 無限収納は当然として武器防具はオレの持ってるものと同系統のものだろ? 実験的な代物ではあるけど、マジックテープを使った教練用の武器防具とか、あとは指輪型に改造した軟体金属生物とかも候補に挙がってるな」
「イズミさんと同系統? か、過剰ではありませんか? セヴィはまだ十歳なんですけど……それに普通に聞いた事もないものが混じっているような……」
「大丈夫だ。ちゃんとシュティーナの杖も改造するから」
「そういう事を言ってるんじゃないんですけどッ!?」
「あっ、市場に出回ってるもので皆の武器を改造か新調するってのもいいな。どこまでの物が造れるか試してみるのもいいかもしれん。オレも楽しめるし金の使い道としてはかなりいいんじゃないか?」
「サラッと巻き込まれたニャー……」
「趣味と目的が両立しちゃったねー」
キアラの呟きにサイールーの何気ない言葉だったが「ああ……それなら仕方ない……」と皆一様に納得の様子を見せたのはオレとしてはちょっとモヤっとするが……まあいいか。
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「ところで、いきなり暴力の定義から始まったせいで聞きそびれたけど、このミニゴーレムの山はなに? 何となくやりたい事は分かるような……」
「察しの通り、これを使って軍事演習の疑似体験だな。司令官と参謀を体験しつつ様々な戦術が生々しいくらい学習できる仕様にしてみた。ウルもやってみるか?」
「私はそういうの向いてないと思う」
「能力的にはそんな事はないと思うが、興味の方向が違うって意味ならまさしく向いてないんだろうなあ」
「生々しいというのが気になりますが……これはウォカレットを更に現実寄りにした、という事でしょうか?」
「リアはこういうのダメか? 今はまだ設定が甘いからさっきのように大雑把な感じだけど、色々改良を加えていくつもりだから最終的には実際の指揮にかなり近くなるはずだぞ」
「私も向いているとは言い難いかと……。ですが現実との相違を小さくしていくというコンセプトには興味があります」
「ランダムな要素を足していくだけなんだけどな。仕組みとしてはこの操作ボードでブリーフィングをしたという事にして初動対応等を設定して、その後は随時命令していく感じだ。その際の命令の伝達も現実に即してラグを設けたり、命令の範囲内であれば各部隊、個人が自由に動くって要素を加えたり」
タブレットに近い、というかまんま操作感もタブレットのような気がしないでもない。機能が限定しているので何とか再現できたソレをチョイチョイと操作しながら説明。
「つまり相手どころか自軍の動きも読むのが困難になると?」
「そういう事。同じ事を命令しても同じ結果にならない可能性を敢えて残してある。実際の戦場でもそんなのはよくある事、というか人間が介在している以上は仕方ない要素として取り込んである」
「皆、なるほどーとか頷いてるけど、イズミは面倒くさかっただけだからね?」
『??』と皆の頭の上に浮いているような幻視が。
「ゆるーく造った結果そうなっただけって事」
「そこをバラすなよリナリー」
「お二人はそう言いますけど僕たちにしてみれば師匠のやってる事は理解をこえているので正直、どっちでも変わらないんですよね……」
「大丈夫だぞ。ちゃんとレシピは揃えてあるから」
バサッと数冊の本をシュティーナとセヴィの前に出す。
「これがあれば誰でも、とは言わないが再現は可能。ってことで興味があれば読んでおくといい」
「そこに辿りつくまでが大変な気が……」
「あー、そうか。シュティーナは錬金術が絡んでるから先の見通しが不安になるか。ま、ホントに興味があればでいいんだよ。ただ、知ってると魔法じゃなくて魔術のほうの幅が広がるから、それはそれで楽しいと思うけどな」
「あぁ……なるほど、って、いやいやいやっ! どうしてそうなるんですか?」
納得しかけたシュティーナであったが、頭をふりふりして自身の納得の空気を振り払う。
「魔法と魔術の区分けはまだ分かりますが錬金術がそこに絡むんですか?」
「セヴィや他のみんなも同じような疑問を持ってるか?」
問うまでもなく表情が物語っているが、頷いて同意を示す一同。
「魔法ってのは己の身体のみで行使する魔力具現化の事をいうのは当然知ってるよな。で魔術というのが、補助の魔法具を使ったり魔法陣だとか触媒などを使っての術式による魔法起動なんかの事を言う。で、この二つは割とザックリとしていて明確に区別はされてはいないみたいなんだが、まあ大体そんなとこだろう」
ここまでは既存の情報だ。オレも最初は区別がついていなかったが、文献を読み漁ったり実践を重ねていくうちに、いつの間にか感覚が掴めていたといった感じだったのだ。
「錬金術ってのは広義では魔術の区分に入る。ゴーレム作成は魔術を錬金術で定義していくって感じなんだが……分かるか?」
話を振るも、誰一人反応が芳しくない。
うーん、これはオレの説明がゴチャゴチャで分かりづらいのも原因か。
「だよなあ。オレもソコは感覚的にしか理解してないから説明し辛いんだよな」
魔法陣によって一括処理されるようなものなので専門でないとピンと来ないかもしれないが。
簡単に順を追って説明するとだ。
ゴーレムの躯体を創り上げるのは間違いなく魔術に分類される。
しかし、その過程で錬金術の様々な技が使われているのだ。
ただ創り上げたのでは術者が動かさない限り、漬物石程度にしか役に立たない。
しかし、つきっきりで操作なんてのはちょっとどころではなく現実的とは言い難いだろう。まあオレはそれをミニゴーレムでさせてるわけだが、それはそれ。
錬金術の技を使っての躯体の強化を前提とし、材質を選定しガワを完成させる。
そして自律か操作かを決めるのは、錬金術分野で研究が進められている『特定物質に対する限定的な魔力の作用などを利用する』という技術の発展系だ。
軟体金属生物の加工を考えれば分かり易いと思う。
単一の命令や入力に対して、決まった動きをする特性を利用して、それをやや複雑に組み上げるとゴーレムが出来上がるのだが……
「学園にいるせいか研究室の中の魔法というイメージが強いんですよね……錬金術って」
「確かに地道に基礎研究ってイメージだわな。でも錬金術だって直接的な攻撃手段になる場合だってあるぞ? 例えばだが……」
軟体金属生物を手に取り魔力を込める。
ぷるぷると震えていた拳大のソレが徐々に短剣へと形を変え、金属塊だった影はどこにもない。
「え、軟体金属生物ってそんな事も出来るのニャ……?」
「別名、下僕石って言われていたらしい」
「なんか切ない別名ニャ……」
「キアラとは気が合いそうだよな」
「どういう意味ニャッ!」
フーッ! と髪の毛が逆立ちそうな勢いで詰め寄るキアラはスルーしてと。
「まあ今のは金属塊の中に魔力で魔法陣を描いて、ある程度の変形を受容するようにしたって感じだな」
「また高度な事をサラっとやってますね……」
「それが分かるって事はイルサーナの実力が高い証拠だよ。オレの場合は記憶能力でズルしてるようなもんだから。とまあ色々と言ったが楽しそうだと思ったら食わず嫌いせずに、とにかくやってみるのもいいんじゃないかって事。このミニゴーレム軍での演習も勉強とは言ったけどゲームみたいなもんだから向いてないと思ってても案外楽しいと思うぞ」
というオレの言葉に、顔を見合わせると「そういう事なら」といった様子で肩の力が抜けたようである。
「うん、順調に洗脳されてきてるよね」
なんて事を言うんだリナリー。
まだまだ足りないぞ。
「「「「「否定しないのッ!?」」」」」
冗談だよ。
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「フフッ、不穏な会話が聞こえてくるわねー」
「あ、お母様」
「シュティーナも随分と楽しそうね」
「え、そ、そうですか?」
システィナさんに指摘され照れくさそうに目線を逸らすシュティーナ。
その表情に更に笑みを深めるとシスティナさんが全員を見渡して。
「うーん、イズミ君に尋ねたい事があったのだけど、お邪魔だったかしらねえ」
「お邪魔、ですか? お母様、それはどういう……?」
「だって皆すごく楽しそう。聞けば結構キツイ修業内容のはずなのに、そんな雰囲気が全くないんですもの」
言われてみれば、といった風に皆が「あぁ」と声を漏らした。
「成長が目に見える程に実感できるとなれば私だって楽しくなると思うけど、それだけじゃなくイズミ君の存在が大きいのかしらね。フフッ」
システィナさんが意味ありげに視線を巡らせるが、オレの存在とはどういう意味だろうか。
ハッ! もしかして全員がオレに惚れている!?
ないかー。
「込み入った話になりそうだったからイズミ君をちょっと借りようかなって思ってたんだけどね」
「込み入った話ですか? オレ何かまずい事でも……?」
「あ、ううん。違うの。ほら、あの透明になる繊維の事でね。製法の取り扱いや契約なんかの事を、ね」
「あ、そういう事ですか。正直誰かに任せてしまいたい所ですが」
「もうちょっと興味を持って欲しいわね……」
「いやでも、そういう事なら早いほうが良さそうですね」
「じゃあ、こうしましょう! 勉強の続きという事で皆で一緒にお話をする! そうしましょう! 何か面白い話が聞けそうだと私の勘が言ってるわ!」
あれ、もしかしてシスティナさん混ざりたいだけなんじゃ……
いや、子供との時間を共有したいって事なら十分に納得できる理由か。
というわけで別館の会議室に来た。
どういうわけかカイウスさんとログアットさんがいるんだが。
「うニャ……毎回思うんですが……あたしたちみたいな一冒険者が辺境伯様と同室するというのはいいんですかニャ……」
「ああ、その事は気にしなくていいよキアラくん。というか君達は既に一冒険者には当てはまらないからね。実力的にも立場的にもね」
「た、立場ですか?」
「そうだイルサーナくん。君たちは極めて特殊な立場にいると言っていい。今その事を知るのはごく一部だが、この家の指南役であるイズミ君の直弟子という立場は、おそらく君たちが考えている以上のものだよ」
え、そこまで!? 聞いてない聞いてない。
「何故か当事者のイズミンがビックリ」
「いやだってそうだろうウル。武術の指南役の立ち位置も良くわかってないのに直弟子の立場とか混乱するって」
「はははっ、まあイズミ君はそのままでも構わないのだがね。ただ周りに居る者はそうではないというだけで。イズミくんと一緒にいるという事は我が家だけでなく他の貴族家とも関わるだろう事は確実じゃないかな? 余程上手く立ち回らないと何処に行っても直弟子の立場はついて回るというのは時間の問題だという事を念頭に置いておくべきだろう」
「「「「うっ、何故そんな事に……」」」」
「簡単に言ってしまえば君たち自体が既に秘密の塊のようなものなのが要因のひとつ。あとは先ほど言った実力と。戦闘だけでなく錬金術や薬師としての力量もだね」
「「「「うわぁ……」」」」
「まあ頑張れ」
「あ、この男崖から突き落とした。そしてそれを楽しむとか人としてどうなのかなー」
「なんだか、とっても悪い顔が似合いますよねえ」
「Sの本能」
おうおう酷い云われようじゃないの。正解! 薄皮まんじゅうあげちゃう。
カイナ、イルサーナ、ウルが言いたい事を言う中、キアラはひとりだけ、それでもいいかなあ、くらいの事思ってそうな顔だ。
システィナさんは美魔女だが、キアラは微マゾだからな。
冗談はおくとして。面倒な立場に立たされたという事に多少心苦しくはあるが、いざとなったら皆で逃げてしまえばいいかなと。
「雲隠れすればいいとか考えてるニャー」
「…………ところで、透明化の繊維についてのお話だそうですが」
「あっ、流したニャ!」
いいだろ。そこまで分かってるならオレから言う事は何もない!
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「……透明な繊維の製法の報酬として、本当にそれでいいのかい……?」
「え、普通の方法では手に入らないですよね?」
「お前な。普通は手に入れようとする人間がいないんだよ」
なんで!? こんな便利な権利なのに!
何故そんな「コイツ何も分かってねえな……」的な顔でオレを見るんですかねログアットさん。
「こんな内陸の地で私もこの権利を渡す日が来るとは思ってもみなかったが……。形骸化していて誰も手に入れようとはしない権利が役に立つとは……」
「あらゆる場所での漁業権、よね?」
本当にそんなものでいいの? といった表情のシスティナさん。
初めての経験と言わんばかりの様子だが。
「黙ってやったら密漁になるし、それは漁場関係者にだって迷惑になりかねないですよね? だったら話を通しやすくするこの手形はかなりの価値があるのでは?」
「お前だけだ。無限収納が前提にあるのは分かるが、流通を考えたら普通は漁場をころころ変えるなんて早々できることじゃないからな?」
普通に考えれば、その土地の漁業組合なりに届け出を出せば済む話だからなあ。
他領にまで跨ぐ、しかも領主の裁可が必要な権利なんて誰が欲しがるんだって感じなんだろう。
しかーし。
「オレにとってはものすごいお宝ですねえ。事実上、海や川で狩り放題! 事後承諾でも文句が出なさそうなのが特に!」
「何を狩るつもりなのかが気になるが……こんなに喜んでくれるとは思わなかった。出来ることが違うと価値基準が変わるというのをイヤでも実感させられるがね」
誰かの言葉で「確かに」といった空気に「イズミだからねえ」といった風な成分が混じるのがいつもの事のような感じになってきたな。
「若干の困惑は否めないが……報酬がそれで良ければこちらとしては問題はないよ。そこで本題になるのだが……製法の中身の確認として一応の結果が出たのは先程言った通り。そして何か気になる点があれば指摘してはもらえないだろうか」
「構わな――」
と言いかけると扉がノックされた。
先ほど出て行ったタットナーさんが戻ってきたのか。
その手に持ったトレーのような物に何か乗ってるが……。
封蝋された手紙?
「旦那様、先ほど王都よりこちらが」
「思ったより早かったな」
開封し書簡を読むカイウスさんの眉がピクリと動く。
顔を上げ全員を見るように視線を巡らせると、再び書簡へと視線を落とし――
「どうやら王都から騎士団がこちらに向かっているらしい」
んん? どういう事?
遅くなりました
ヤバい……書けば書くほど何がいいのか訳が分からなくなってきてるなあ……




