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第八十五話 感覚剥奪


 昨日は帰ってきたらシュティーナとセヴィだけじゃなくて白のトクサルテのメンバーからも質問攻めにあった。

 ラキの笑顔で大人しくなったというオチで「あー、なるほど……」と何故か質問攻めから開放されたが。

 それでも気になる部分はあるらしく、こうして休憩のお茶の時間にちょこちょこ質問が飛んでくる。

 まあそれはいいんだが。


「この菓子美味いよな」


 何故かログアットさんがいる。


「とりあえず肩の荷が下りたからな。俺だってたまには羽を伸ばしても罰は当たらんだろ」


「ギルド長は羽が伸びすぎて周りに迷惑をかけているんですが」


 そして何故かジェンも一緒だ。

 おおかたログアットさんに連れ回されてるといった所だとは思うが。


「羽の話はいいんだよ。確かめたい事があったから顔を出してみただけだ。ここはお茶請けが美味いしな」


「美味しいのは私も認めますけど」


 無理矢理付きあわされてるって訳でもないのか。

 それはさておき。


「確かめたい事ですか? 何かありましたっけ」


「昨日、記憶を引きずり出すとか言ってただろう。そんな方法があるのか?」


「あー……あれウソですよ」


「ウソなのか!?」


「観念させるために何でも言ってやれって感じで口から出任せです」


「……そうじゃないかと思ったが、やっぱりか」


「やっぱりそういう魔法ってないんですか? オレは使えませんけど不可能とも思えないんですが」


 実際にオレはイグニスに記憶を抜き出されてる。

 人間に出来るかどうかって話なだけで。


「精神に干渉する魔法だからな。あるとしても継承魔法の類だろうぜ。だが何せ禁忌に触れる可能性のある魔法だ、例外なく秘匿されるはずだ」


「じゃあ何でオレに聞いたんですか……」


「あー? イズミならポロっと言いそうだと思ったからだな。なんだそのおかしなものを見るような顔は。冗談だっつーの。現在知られているのとはまったく別の方法論で自白に追い込む芸当でも身に付けてるんじゃないかってな。俺の腕を直したみたいにな」


「尋問が思うようにいってないんですか?」


 ログアットさんが言う現在知られている方法というのは、つまりは拷問の事だろう。

 聞けば、あの場にいた男たちはカイウスさんが辺境伯と知った上で襲い掛かってきたという。

 ならば尋問は苛烈なものになっているはずだが……。


「……まあな。色々と理由はあるが――」


 ログアットさんが言うには、そこまで過激な拷問は行っていないらしい。

 あくまで現在の所は、という話だが強制労働にしろ魔力回収にしろ、いずれの処罰であっても出来るだけ健康な状態であるのが望ましいとの事。

 意外に人道的だと思ったが単に効率の問題のようである。

 辺境では確保し難い余剰魔力や危険な労働への従事者。その人的資源を無駄にしないための処置。

 ただ、必要ならば身体の欠損など、おかまいなしで尋問される場合もあるという。

 治癒魔法もある事から結構えげつない方法も実行されるらしい。

 だが今回は、その初期の尋問が上手く機能していないようなのだ。


「――まあ、一番でかいのは痛覚が麻痺してる事、だな」


「それはあの戦闘薬の副作用ですか……?」


「おそらくはな。そして死の牙のリーダーが使っていたモノより更に戦闘に特化したもののように思える」


 あれはまだ痛覚が残ってる状態だったな、そういえば。

 かなり鈍くはなっていたけど。


「副作用というより後遺症ですかね……薬が切れても感覚が正常に戻らないだけで、たぶん服用したらその時点で痛覚遮断が正常な効果なんじゃないかと」


「確かにそっちのほうがしっくりくるな」


「どちらにしても死の牙のリーダーが使用したものより一段階進んでいるような印象ではありますね……」


 そこで一旦会話が途切れる。

 この先、更にキツい効き目のものが出てくる可能性が無いとは言えないな……。

 ログアットさんも似たような懸念を抱いているのか難しい顔だ。

 その沈黙に耐え切れなかったのかジェンが口を開いた。


「……あの、私が聞いていい話なんですか? 一介のギルド職員が耳にしていい話ではないような……」


「別に構わんだろ。それにイズミと関わるなら、この手の問題は気にしても損なだけだぞ」


「オレと関わるならって、どういう意味ですか」


「既に機密だらけだろうが」


「ああ、なるほど。そういう事ですか。魔力量増加に始まって、再構築リビルドでしたっけ。私がすぐ思い付くだけでも幾つかありますもんねえ」


 ジェンが指折り数えて、ウンウンと頷いている。

 指を折る回数が多くないか?


「で、実際の所、イズミさんは何か有効な手段とか知ってたりしますか?」


「自白させる手段か?」


「ええ」


「肉体的な苦痛が有効じゃないとなるとなー。あとは精神的に追い詰めていくしかないけど……すぐに思いつくのは水滴を使ったやつとか感覚剥奪かなあ……」


「?」


「いや、俺も聞いた事はないな」


 ジェンがログアットさんに目で尋ねるも、自分と同じだと返ってきた事でオレに説明しろという意図の篭った視線が向いた。

 水滴を使うというのは、対象者を拘束して頭や額に延々と水滴を落とす事だ。

 そんなものが効果があるのかと疑問の表情だがオレも正直どこまで有効かは分からない。

 過去に地球でそういった拷問があったという知識があるだけだ。

 肉体的苦痛はないが長時間行う事で対象者が精神に異常をきたすらしい。


 現代人としては感覚剥奪は割と有名だろう。

 宇宙飛行士の訓練にも似たようなものが採用されている事実からしてみれば、ある意味実績のある方法だ。

 今のこの世界なら闇を利用した方法は結構期待出来るかもしれない。

 何しろ魔物や魔獣という脅威が身近にいる世の中での暗闇というのは、地球でいう暗闇などより余程脅威と感じられるのではと考えられるからだ。


「ただ暗闇に閉じ込めるのとは違うのか?」


「ん~、ちょっと違いますね。人間の五感を奪うのが目的ですかね。実際には完全に五感を奪うのは難しいですが」


「よく分からんな……本当にそんな事で精神を追い込む事が可能なのか? 何か特別なやり方があるのか?」


「そうですね……水滴の方は言ったやり方で時間はかかりますが効果はあるようです。感覚剥奪の場合は特殊な施設が必要になりますね。完全な暗闇と無音、まあ最低限必要なのはそれだけですかね。嗅覚もと言いたい所ですが、これは多少の匂いなら時間経過で慣れて意識しなくなりますから問題ないでしょう。あとは出来るだけ周囲に身体を傷つける物を置かない事。簡単に言えば壁や床を殴って怪我をしない環境になりますか」


「最初から魔法か薬で感覚を奪うんじゃダメなのか?」


「そこがキモなんですよ。正常な感覚が何もしないのにおかしくなっていくのを自覚、体感させていく事で精神的に負荷をかけるらしいです。自傷行為も己を保つ為に多少は有効なようですが最終的には発狂寸前までいくみたいですよ。痛覚麻痺はこの場合、裏目に出るかもしれないですね」


「……それは時間としては自白可能になるまでにどのくらい必要なんだ? かなり長時間必要なんじゃないのか?」


「どうですかね……一週間、は長すぎか……確か三日とか早いと半日とかだったような」


「そんなに短時間でか!?」


 ログアットさんがテーブルの向かいからオレに詰め寄る勢いで身を乗り出している。

 すごい食いつきだけど。あ、そうか。通常の尋問の場合、いくら時間をかけても成果がないとなれば無駄に人の手を取られる事になるからな。人件費もタダじゃないって訳か。


「放り込んでおくだけで手間がかからないのも利点ですかね」


 わお、更にものすごい顔でこっち見てる。

 ウソじゃねえだろうなって心の声がモロに顔に出てる。


「それが本当なら試す価値はあるな……もし期待通りの効果がなかったとしても変わった独房として使えばいいだけ……予算も通し易いか……?」


 なんか真剣に吟味し始めたけど、そこまで食いつく話かね?

 そんなオレの疑問が表情にでも出ていたのか。


「拷問ってのはやる側も、それはそれで大変なんだよ。下手をするとやってる側がおかしくなりかねん拷問もあるからな。そっち専門の尋問官なんてのはある意味特殊な才能がなきゃ出来ん商売だ。大体はイカレたヤツが多い」


 監獄実験とかアイヒマン実験とか考えると普通の人間が拷問していたって話も分からなくはない。 が、その状況を受け入れてる事そのものが既に精神的におかしくなってると言えなくもないから、やはり健康な精神状態では無理という事だろう。


「地方領に専任の拷問担当なんて、あまり聞かないですよね」


「居ても大っぴらには言わんがな。魔法具で真偽を測るのが当たり前になってるから余計にってのもある」


 思い出したように拷問担当について言葉にしたジェンに、ログアットさんが実情を語る。

 確かに特殊な精神構造の持ち主でもなければ拷問を専任でなどというのは難しいかもしれない。

 便利な魔法具があるなら尚更だろう。

 しかし今回の、背景を徹底的に調べ上げるという目的には魔法具は最適とは言えないのも確かだ。


「それにしてもイズミさんは、どこからそんな情報を得ているのですか? 他にも知っていそうな口ぶりでしたが、それもやはり古代の文献によるものですか?」


 こちらの丸テーブルとは少し離れたコテージの側にあるテーブルからシュティーナが尋ねた。

 手元にある魔法陣の本にチラと視線を向けつつ、オレへと発した疑問だったが他のみんなも同様に興味があるようだ。


「実行した事はないけど色々と知ってはいるな。歴史を調べると自然と拷問とか処刑方法が出てくるからなあ。逆に最近の傾向は知らない。地域ごとに流行りみたいなものもあるようだし」


「……ちなみにどんなものが……?」


「そうだな――」


 まず有名どころとして、ギロチンから始まり火刑、水攻め、串刺し、八つ裂きなどを列挙していく。

 ネズミを使ったものや虫を使った汚物系、ファラリスの雄牛のように専用の機具を使ったものまで割と事細かに説明すると、最初は怖いながらも興味がありそうだった皆も顔色が変わってきていた。

 

「も、もういいです!」


 そこでたまらずといった風にシュティーナが声を上げる。

 途中からセヴィの耳を塞いでいたが自分でも耐えられなくなったらしい。


「いくつかは聞いた事あるようなのがあったけど、そこまでエグイのは知らなかったニャ……」


「……そんな方法が本当に実行されてたの?」


 ウルが疑問を持つのも仕方が無い。オレも知ったときは、この時代のヤツらは絶対キチ○イだって思ったからな。


「過去の事だから断言は出来ないけど実行されてたらしいぞ。人間が一番怖いって言われる原因だよ。だからこそやる側の精神衛生も考えると精神面を疲弊させる放置系が面倒がなくて良さそうってのもあるんだよな」


 オレがそう言うと、確かにと皆がそろって頷いた。


「あとは変り種として人間の精神活動の不思議が垣間見れるようなのもあるか」


「まだあるんですか!?」


「こっちはシュティーナが心配するような拷問とはちょっと違う。親指と小指を縛って使えなくして、残りの三本指で生活させるってヤツ。人間ってのは不思議なもんで、それで普通に生活出来る様になっちまうんだと。で。完全に慣れた頃に元に戻すと」


「……戻すと?」


「小指と親指が邪魔に感じて自分で切り落したくなるらしい。実際に切り落したヤツがいたとかいなかったとか」


 みんな揃って「うっ……」ってなってる。

 話だけでオレも確証はない情報だけどな。


「なんでイズミは、そんなに精神面をおかしくする方法ばかり詳しいんだよ……いやまあ、いい話は聞かせてもらったがな。予算はそうだな……カイウスに負担させるか。自分が直接狙われたんだ、イヤとは言わんだろう」


「本当に作るんですか?」


「お前にもアドバイザーとして付き合ってもらうぞ。一応提案者で一番詳しいんだからな」


「ぐっ、了解です。……まあオレも感覚剥奪室は興味がないわけじゃないんで構わないんですがね」


 なんだかよく分からないうちに拷問設備の担当になったようだ。






 ~~~~





「イズミさん。これが完成した特殊独房、えっと……感覚剥奪室、ですか?」


「三日で仕上げた割には、ほぼ完璧な出来だぞ。それにしてもリアがこういうのに興味あるとは思わなかった」


「身体的苦痛を与えずに自白を期待出来るというのと、人手が要らないというのが気になりまして……」


「……王族はそういうの苦労してそうだよな」


「お話に聞いただけですが……」


「ただなあ……身体的苦痛なしって事でリアとしては人道的な見地も含めて考えてるとは思うんだが……これに関してはソレからは一番遠い所にあるぞ、多分」


「え……」


「いやな、確実に廃人が出来上がりそうなんだよ……」


「もしかしてお試しになったのですか……?」


「……まあな」


 いやもう、何あれ。ハンパなく怖かったんだけど。

 日本でやったとして、あそこまで怖くなるもんなのか?

 どうにも、あの独特の感覚は魔力が関係していそうな気がしてならない。

 闇に喰われるというか何というか。闇が質量と殺意を持って襲ってくるような、正常な感覚とそれが入れ替わっていくような、そんな奇妙な感覚。


「出来を確かめるために必要だったからな。とはいえ、一時間はおろか三十分と持たなかったわ。魔力を自由に使える状態でそれだ。そこら辺を制限されてたらもっとキツいかもしれん」


「あ、だから私にこんなの作らせたんですねえ。魔力の動きだけを阻害するなんて使い道があるのかと疑問でしたが。でも起動コストは以前の魔力抑制具マナワイアとあまり変わりませんから使い勝手は相変わらずですけど、良かったんですか?」


「ああ、それは大丈夫。そういう仕様でイルサーナに頼んだのも魔力が感じられないって不自然な状態を極力回避するためだ。今回はオレが充填したけど実際に使う時は自白させたいヤツ自身の魔力を利用するらしい。運用上は問題ないだろう」


 強制的に吸い上げられた魔力を、おのれの自白用拷問に使うとか、すげえ嫌な永久機関だ。

 機能が限定的だから一週間は使えるというのも凶悪の一言。


「んニャー、それにしても暗闇と音が聞こえないだけで本当にそんな風になるのニャ? 確かに暗闇って何が襲ってくるか分からないから、そういう意味では怖いけどニャー……」


「そう言うだろうと思って連れて来たんだ。ログアットさんと話してた時から興味あったみたいだしな。とりあえず体験してみたい人!」


 全員か。白のトクサルテとジェンはまあいい。

 シュティーナとセヴィ、リアもかあ……。

 これ、そんなに生易しいもんじゃないんだけどなー……。

 まあ完全に閉じ込めるわけじゃないし、いいか。


 そのかわり前の人がどうなったか分からないように個別に体験してもらう。

 体験するまでは別室で待機だ。


「お嬢ちゃんたち本当にやるのか? やめたほうがいいと思うがな……。女のほうが痛みや恐怖に対して耐性があるってのはよく言われるがコレに関しちゃ当てはまらんと思うぞ。目隠し耳栓と同じに考えてるんだったら大間違いだからな?」


「……そこまでなんですか?」


「まあジェンがやりたいってんなら止めはしないがな。ただ覚悟だけはしておけよ。それと通常ならここに半日は放り込まれる事もな」


「また変に煽って」


「いや、イズミだって大して耐えるとは思ってないだろ。事前情報あり、なしで違いがあるのかも知っておいて損はないだろ」


「まあそうですけどね」


 何も知らずに放り込まれた人が、涙目で抗議してたからな。

 そんなオレとログアットさんの会話の雰囲気で、どうやら過剰に煽ったり誇張しているわけではないと察したらしく。

 コイツらの話マジなのか、といったように皆がコクリと喉を鳴らした。


「何はともあれ、百聞は一見に如かずだな」






 ~~~~





「んニャーッ!! もうダメ! もう無理!! 漏れるニャー!!」


 何がだ。いやまあ怖かったってのを表現したいんだろう。

 たった今、最後の被験者であるキアラがものすごい勢いで飛び出してきてリタイアしたわけだが、全員合わせても一時間とちょっとといった所か。

 キアラが最終であったのは獣人特有の鋭い感覚で一番耐えられると予想しての事らしい。

 しかしだ。実際は感覚が鋭敏なほど、えらい目にあうんだよ。特に魔力操作妨害処置をしてると。


 意外な事に一番耐えたのはセヴィだった。次点でリア。

 これはあれか、年齢が若いほど柔軟であるという事なんだろうか。

 なんとなくだが個人の資質のような気もするけど。

 

「体験しないと分からないと言った意味が良く分かりました……」


 体験者は順次、騎士団の拘留施設の別の控え室で待機させていたが、オレがキアラと供に現れるとシュティーナがげっそりした様子で言葉を漏らした。

 そして皆が同様の意味を込めた視線をオレに向ける。


「自分の感覚が信じられなくなるというのは、ちょっと、いえ、かなり怖いものなんですね……精神的苦痛として極まったものだというのも納得できます……」


「シュティーナさんは結構耐えたと先発の皆さんからお伺いしましたが……」


「ああ、リア。この中で一番耐えたのはセヴィ、次にリアだぞ。他はみんなどっこいどっこいだ。キアラなんか漏らしたって話だし」


「漏らしてないニャ!! あ、危なかったけど……」


「感覚が鋭いと逆にキツいから良く耐えたと思うぞ」


「そういう事は早く言うニャ! 自分が何処にいるか分からなくなっておかしくなりそうだったニャ……」


「あのフワフワとした床や壁の感触も闇の中だと不安にしかならなかった」


「ウルは魔力の扱いが得意だから特に違和感があっただろうな」


「……あの壁って、もしかして私を想定して作りましたか?」


「良く分かったな。魔力が扱えない状態でもイルサーナの攻撃力は脅威だ。最低でもそれに対応可能なものでないと長期運用は厳しいと思って徹底的に突き詰めた」


 何気にかなりの数の高度な技術がぶち込んである。

 気温の寒暖を感じさせないために石の建材に陣を描いて徹底した温度管理であったり。

 吸音と緩衝のための床と壁面の軟化と機能付与であったり。

 換気口への何重にも施した遮音機能とかもそう。

 極限まで突き詰めた機能付与だ。

 現状、オレ以外に再現は不可能だと技術関係者に言われたものばかりだ。


「惜しげもなく公開したの? イズミンは手を抜く事を知らないよねえ」


「カイナさん。イズミさんのそれは興味がある事だけじゃないですか? まあそれで面倒事を自ら引き寄せてる感はありますけど」


「ははっ、ジェンにも言われてるよイズミン」


「……まさか本気で検討するとは思ってなかったんだよ」


 それはそうと、公開した情報の扱いはログアットさんとカイウスさんに任せてある。

 試験運用後にどうするかは、その判断次第だ。上に情報を上げるか秘匿するか。

 リアもいる事から王族関係には限定的に公開されるかもしれない。

 今は再現が難しいとはいえ大昔には既にあった技術だ。誰かが調査すればいずれも古い文献から得られる程度のものだ。問題はあるまい。

 それに代替技術がないわけでもない。オレの知ってるのは極限まで効率化されたってだけのものだし。


「師匠はすごいです。感覚剥奪室の詳しい構造は知らなかったんですよね? なのにほぼ完璧なものを造ってしまうなんて」


「オレに言わせれば、その齢で一番耐えたセヴィもすごいと思うがな。すごいと言われれば悪い気はしないからオレの思う秘訣ってヤツを伝授しようか」


「はい!」


「簡単な話、要はどれだけの情報を蓄積出来るかってだけだ。今回はそれを利用したに過ぎない。いや、そこまで単純なものじゃないってのはオレも理解してるぞ? 活かせるかどうかは別の話だからな。ただ土台になる知識や情報がなければそれ以前の話ってわけだ」


「知識、つまり勉強が大切って事ですね」


「オレもあんまりまじめに勉強してこなかったから大きな事は言えんけどな。そのかわり気になる事は妥協せずに調べまくったな。うーん、そう考えると学園みたいに教師に教えてもらえるってのは効率がいいわけだな。よく出来てる」


「何やら一人で納得してるニャー」


 素直にそう思ったんだからしょうがないだろう。

 学校ってのはある意味で効率の果てに辿り着いたシステムでは? 公立が基本でもあるしって寒いダジャレか。ん? リアは何かに気付いたか?


「ところで、気になったのですがリナリーさんとサイールーさんも体験したのですか?」


 やっぱりそれが気になった?

 その二人はなあ。


「私たちは純粋な意味では体験出来なかったかなー」


「これがあるからね」


 そう言ってリナリーが背中を向けて羽をパタパタ。

 いつもよりちょっと多目の光の粉がキラキラ。


「羽?」


「妖精族は暗闇だと羽が光るんだよ。多少の調節は出来るけど完全には消せない。魔力を使えなくしてもおそらく消えない。どうも生体組織そのものが発光してるようなんだ。だから今回は同じようには体験出来なかったんだよ。洞窟とかだと便利だけどな」


「私たちはロウソクか」


 うおっ、最大光量。

 いいじゃん事実なんだし。

 さて各々思い出して、まだ感想を言い足りないといった感じだがそれは帰ってから聞こうか。


「大方予想通りではあるが、どうだったお嬢ちゃんたち。その様子だともう一回体験しようなんて考えられんか。ふむ、それにしてもイズミが日当たりの良い場所に造ろうと言ったのも、その落差を利用するためだったんだな」


「効果があるかは疑問でしたけどね」


「これ以上ない効果だと思うぞ。留置所や地下牢は薄暗いからな。そこから外へ出て開放感を感じさせた後に地獄に落とすとか感心したわ」


「悪魔かな?」


「魔王とか?」


 はいそこ妖精ふたり。うるさいぞ。

 何を、ああ成る程って顔してんだ全員。


「とにかくだ。効果はこれでもかってくらい実証されたな。後は実際に使ってみるだけだ」


「排泄物や血の汚れなんかにも気を配ったほうがいいかもしれないですね。その都度キレイにしないと影響が無いとも言い切れないですから」


「……そこまでか? いや確かに考慮しておくべきなんだろう……わかった」


 それじゃあ、お暇しますかね。

 結果は報せてくれるらしいから、それを待つとしよう。





 ~~~~





「おい、イズミ……ありゃあヤバイぞ……」


 ログアットさんがドカリッと椅子に腰を降ろし渋い表情で吐き出すように漏らした。

 何だ? 何かとんでもない背景が浮かび上がったか?


「……黒幕が判明しましたか?」


「ん? ああいや、そっちじゃない」


 そうだとばかり思ったけど違った。

 じゃあ何だろう。あっ……もしかして。


「感覚剥奪室がヤバ過ぎる。こっちの想定を超えて一日かからずに廃人が出来上がったぞ……」


「えぇ……」


 もしやと思ったが案の定か。一日かからなかった? マジでか。

 体験会から三日経過したが、そこまでとは考えてなかった。


「廃人というのは大袈裟かもしれんが、それに近い状態だ。意思疎通が困難になった……」


「時間を調節していくしかないですね……でも個人でその時間も変化するだろうから……あっ」


「なんだ、何かあるのか?」


「外から中を確認する方法を考慮してませんでした……」


 赤外線やサーモグラフィと同じような感じで中の状態をモニターする機能を付けるのをすっかり忘れてた。ちょっと考えれば限界を見極める為には必要な機能だというのは分かる事なのに。


「実際に使ってみると必要不可欠なもののように思えるな……よし、それはこっちで何とかしてみるか。これ以上イズミ一人に頼るわけにいかないのも事実だ。特に技術者連中はそう考えているようでな」


「……一応こっちでも何か考えておきます」


「実を言うとな。今、騎士団の技術スタッフ総出で構造と魔法陣の解析を進めてる所だ。早速次を建てようかって話が出てるくらい実用性が高いのは疑いようがないからな。そんなわけで、それと平行して勧めなきゃならんから何も成果がなかった時は頼むかもしれん」


 そう言うとログアットさんは急ぐように椅子から立ち上がり足早に帰っていった。

 

「なんか地味に大事になってるような気がするのニャー」


 奇遇だな……オレもなんとなくそう思ってたところだ。 

 拷問用の施設なんて造るつもりなかったんだけどなー……。

 何がどうしてこうなった。


 うっかり口を滑らせたからです、はい。

 次からは気をつけよう。

 ……なんだよリナリー。


「口を縫うくらいじゃないとダメじゃない?」


 思考を読むんじゃないよ。

 てかどういう意味じゃい。


 まったく……!

 






 その通りかも。





……遅くなりました。

最近、難産が続きます(´・ω・`)

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