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第八十四話 ソンク商会



 裏目に出た、という程でもないが大量に取り引きしたせいでソンク商会側の動きが少しばかり鈍かった。

 ここ三日、夜限定ではあるが監視していても特に何もない。秘密裏に何処かへ物資を移動するかとも思われたが、どうやら検品に手間を取られているようでその兆候も無し。

 用心のために数人の警戒要員以外が寝静まるまで上から眺めていたが目を離した隙に、などという事もなかった。

 一晩中、張り付いて居たわけじゃないから確実性には欠けるが、その点に関しては問題はないだろう。

 まあその為に物資を増やしたという側面もあるのだから狙い通りといった所か。

 商人に引っ付いて物騒な人間がウロウロしてる理由が気になるが、今の所はこれといって騒ぎを起こした訳でもない。しかしそれも商売のためというなら護衛というより恐喝、脅迫のための人員というほうがしっくりきそうではある。


「懲りねえな……真っ当に商売する気はないのかね」


 そんな事をガルゲンの臨時拠点の上空でボソリと呟くも、分かり切った結論へと思考が向かうだけだった。

 ないんだろうな、と。あったら最初から盗賊なんぞ使わんわな。

 

「ねえイズミ。辺境伯も一緒だけど、コレも貴族の仕事?」


「いんや。あくまで立会い人らしい。商業ギルドの旗振りで動いてたから、その代表ってトコだろう。魔力印の証人って感じじゃないか?」


 意外と広いソンク商会の臨時拠点。今まさにそこへ踏み込もうとしている団体の中にカイウスさんの姿を見てリナリーが疑問に感じたようだ。

 オレがそう答えると「ああ、そういう事」と今思い出したかのように表情を変化させた。

 貴族の印象で上書きされていたらしく、すぐには思い至らなかったようである。


「報告を待てばいいような気もするけど、そうもいかないのかもな。怪しい情報が揃い過ぎてる。他領や他国の干渉の可能性、そうなると自ずと内通の可能性まで視野に入れなきゃならなくなる」


「人間の社会って面倒だねー」


「同感だな。よそにちょっかい出さずに自分のとこだけで満足してろってんだ。足るを知るって言葉を知らんのか。ってオレ自身は足るを知るには程遠い所にいるわけだが。それはそれとしてだ。まあ、その足るを知る事さえ困難な場合も在るから、またややこしいんだ」


「?」


「足るを知るためには最低限の生活は保障されてなきゃ無理だ。その時点で足りてないんだから不足を補うために欲が生まれる」


 ふんふんとリナリーは頷くが自分の中に落とし込む気はあるのかね? まあ続けるが


「そして逆に足りてる人間、つまり地位と権力を手に入れた人間は、それだけじゃあ満足しないってのが少なくない。自分ひとりの事ならまだしも抱えた人間の数が自身への圧力になっている場合もあるからなかなかに厄介だ」


 首を傾げるリナリーだが、ぴんときてはいないらしい。


「領民や国民がまだ足りないと考えたら? もっといい暮らしがしたいと。それが権力者にとって無視出来ないくらいの大きな声になってきたら? そしてそれが自国内で賄えないとなるとどうなるか……」


「あぁ、そういう事」


「周辺に求めるしかなくなる。住む土地や気候で多少はその要求するものは変わるだろうが、ほとんどは資源、つーか大体は食料事情がくるか? 自助努力で国内だけではじめは何とか出来たとしても、いずれ歪みは大きくなるだろう。それを嫌って安易な選択にはしる輩がいるのも確かなんだ。中にはギリギリの状況で最後の最後にやむを得ずってパターンもなくなはいけど……とにかく足るを知るってのはなかなか難しい。経済戦争か侵略か……いずれにしても根底にあるのは何かが欲しいって感情だ」


「うーん?」


「……もしかしたらこの世界、というかこの大陸って人間の生存可能範囲が案外狭いのかね? そういう情報も早めに把握しといたほうがいいかもな」


「人間の社会ってやっぱり面倒」


 妖精からしたら、そりゃあ眉も寄せたくなるわな。

 過剰な欲とは無縁といってもいい生活様式で同族で争うような事もないし。

 ただ人間の社会は食料が足りていたとしても争いの理由がいくらでもあるから厄介なんだ。

 食欲、性欲、物欲、知識欲、その他の様々な欲求。

 それら全てが争いの理由に成り得るんだから、ある意味人間ってのはすごいと思う。

 ま、そんな話は置いておこう。

 ラキも難しいお話は終わった? みたいな顔してるし今はガサ入れのほうに注意を向けるとしよう。


「さすがに何を言ってるかまでは分からんな」


「音拾う?」


「ん~、単純な調査みたいなもんだからそこまでしなくていいだろ。それに会話の内容も大体予想がつく。あれとか「何しにきた」とか「何の用だ」とかそんな感じで文句言ってんじゃね?」


「あー、なんとなく分かった。今のは勝手に調べろみたいな態度だね」


「強気だねえ。大量の荷物が移動した形跡がないから印つきの品物はそのままあるわけで……」


 辛うじて野ざらしにはなっていないという感じの、いかにも間に合わせといった建物。

 ほぼ屋根だけというその建物の中には品物が置かれているはずである。死角になってしまったので様子を伺える場所まで移動しようとしたその時。


「お、なんかざわつき出したな。策がうまくハマったかな?」


 なんだなんだ。一斉にギルド側の人間が飛び出してきたぞ。

 ログアットさんもカイウスさんもだ。

 見つからないように再度上空に移動してみたが……


「あ、やばいなコレ」






 ~~~~






 ソンク商会の臨時拠点にレノス商会の会頭と供に訪れたログアット。

 子飼いの冒険者という役に扮した騎士団の数人と衛兵隊とで、これから作戦の仕上げに掛かる。


「随分と物々しいな。衛兵が何の用だ? お前らなんぞ呼んだ覚えはねえぞ」


 こういった事には慣れているのだろう。慌てた様子もなく、どう見てもチンピラとしか思えない輩が薄笑いを浮かべて挑発するかのような態度で冷静に対応してみせた。

 何故この場所が、という疑問もなくはないはずだが監視されている事など想定内なのだろう。


「物資略奪の嫌疑が掛けられている。荷物を改めさせて貰うがよろしいか?」


 そう言うと衛兵の若者が懐から獣皮紙を取り出し、門番の男にに見えるように広げる。

 成りすましなどではなく正規の衛兵の証明も兼ねている、いわゆる捜索令状というヤツだ。


「ふんっ、いいのか? そんなご大層なもの持ち出して。証拠がなければ赤っ恥になるだけだぜ? 今までも散々、商業ギルドのヤツらが調べて何もなかったっつーのに今更何か出ると思ってるのか? おお! そうか、濡れ衣着せて捕まえようって腹か?」


 ピクリ、と衛兵の若者の顔がやや険しいものに変わるが門番の男は意に介していない。

 やれるもんならやってみろと言わんばかりの態度を崩さない。


「おー、怖え、怖え。つっても決まりを守らせる側のヤツが、まさかそんな事はしねえよなあ? くっくっく」


「安心しろよ。そんな事にはならん」


「何だてめえは……」


「俺を知らんのか? まあいい。冒険者ギルドの上の者だとでも思っておけばいい。今回は商業ギルドの人間が都合が付かなくてな。衛兵隊も大規模な盗賊討伐に手を取られて忙しい。その穴埋めで冒険者が駆り出されたって訳だ」


「……なんだと」


 ログアットの言葉に動きが止まる門番の男。

 男にとって盗賊討伐という単語は聞き捨てならないものであったらしい。ログアットは男の怪訝な表情の中に僅かに怒気を孕んでいるのを見逃さなかった。

 しかし今更そこを門番の男が気にしても既に手遅れなのだが。

 しれっと嘘を付いたログアットであったが単に反応を確かめただけである。

 盗賊集団が既に壊滅している事は漏れていないようだと。


「まあ、そんな事はお前たちには関係あるまい? 誠実に商売をしているんだろうからな」


 普通ならば『ただの調査なのだから、こちらが何処の誰だろうと関係ないはずだ』という意味にしかならない台詞であるが盗賊との関係を承知している者としてはそうはいかないようで。

 盗賊の討伐が何かお前たちに影響でもあるのか? と暗に問うているとしか思えないだろう。

 要するに嫌味な訳だが、事情を知っている者にしてみれば皮肉にすら聞こえず思わず吹き出しそうになるのを堪えるのがやっとだった。


「……ソンクの会頭が立ち会うが構わねえだろうな」


「ああ、願ったりだな。是非そうしてくれ。――どうした? 早く行けよ」


「チッ……」


 荷物の集積所と思しき場所を指し示し「あそこで待っていろ」と吐き捨てるように言い残し、男は屋敷の方へと早足で歩いていった。

 ソンクの会頭へ話が通るようにと手配をするためであろう。

 もしくは自身で盗賊討伐の件の報告も兼ねて呼びに向かったのかもしれない。


 ほどなくしてソンクの会頭であるガルゲンが数人の人間を引き連れて現れた。

 しかし、いつものように取り澄ました不敵な表情はなく苛立ちを隠そうともしていない。


「こんな所まで早速現れるとは、どうやって嗅ぎつけたのやら。しかし相変わらずしつこいですね。何度調べても同じ事です。不審なものなど出てきやしないのにご苦労な事だ。その努力は認めますが、こちらとしては毎度毎度、無駄な事に手を取られるのはいい迷惑です。是非ともこれっきりにして欲しい所ですね――ああ、そうだ。今回は認める代わりにこちらにサインしてもらいましょう。こちらの貴重な時間を費やして何も出てこないとなれば、何かしらの保障なり賠償があってしかるべきでしょう」


 獣皮紙を出し要求を付き付けるガルゲンの口元は僅かに吊り上っている。

 どうやらこの為に同席したらしい。

 本来ならそんな要求を呑む必要はないのだが、何度も臨検に失敗している後ろめたさを感じているという演出・ ・のために敢えて乗る事にしたログアット。


「……いいだろう。徹底的に調べさせてもらおう」


「……まあいいでしょう、さっさと調べてお引取り願おうか。こちらはこれでも忙しいんだ」


 アゴを集積所のほうにクイとやり、幾分か語気を荒げて言うガルゲン。どうせ何も出て来きやしないと信じて疑わないからこその台詞であろう。


 ならば言う通りにすぐにでも終わらせる(・ ・ ・ ・ ・)としようか。

 カイウスとログアットの一致した意見である。お互い無言ではあったが同時に同じ事を考えたようだ。

 ログアットが目配せをすると、衛兵、冒険者、それぞれが荷物を調べ始める。

 罠の取り引きの品だけでなく他の物品もあったが、それほど時間をかける事無くソレ(・ ・)は見つかった。


「これだな」


「……それがどうしたと言うんだね」


「ここに至ってその態度ってのは恐れ入るがな。しかしそれも無駄な事だぞ?」


「だから何を言っている!」


「お前たちが盗賊と取り引きした証拠だよ」


「ハッ! そんなものが何処にある!」


「ん? ああ、確かに今までのような魔力に反応する印のついたものは無かったな。ちゃんと検品して弾いたなら、そんなものあるワケが無い。だがコレがある」


 言うとログアットは荷箱の中に突っ込んだ手をガサリと引き抜いて目の前へと突き出す。

 この場には当たり前のようにある、実にありふれた物だ。


「……だから、それがどうしたと言うんだ。魔力に反応したとでも? 見た所その道具には反応していないようだが?」


 魔力印を検知する簡易的な魔法具が反応を示していなかった事を指摘するガルゲン。

 ただボーッと突っ立っていたわけではなく、しっかりとその辺りは確認していたようである。

 しかしその指摘にも動じる事無くログアットは続けた。


「これはな、ただの魔力には反応しないが魔力を含ませた特殊な薬液には反応する『オガクズ』なんだよ」


「ッ!?」


 傾けた掌から流れ落ちるオガクズ。残ったものもパンッと掌を叩いて払い落としたログアットが、さて、どうする? と目を剥くガルゲンへとたっぷりと皮肉を込めた視線を送った。


 実を言えば、この仕掛けが完成したのがつい最近だった。

 最初の頃は反応する期間が極端に短く二日ともたなかったものが、やっとこさ十日前後という実用に耐える所まで漕ぎ付けたのだ。

 タイミング的にはまさにギリギリといった所だった。

 取り出した検査用の魔力水をオガクズに垂らし、変色と微発光の反応が確認できた。

 ついでに何もないオガクズにも垂らして無反応な事を確かめ、特殊な水である事を証明してみせる。


「これ以上ない証拠なわけだが……何か言う事はあるか?」


「それが何だと言うんだ! 箱ごと緩衝材を使いまわしただけだろう! そんな事は良くある事だ! それがたまたまここにあっというだけで何故、盗賊との繋がりを疑われなければならん!」


「あるいは、そういう事もあるかもしれんな」


「あるかも、ではない! 廃棄しなければ当然再利用される! そんな物を証拠にされてはたまったものではない!」


「そう言うしかないだろうな。だがな、それはレノスで管理されているものだ。紛失や横領、横流しなんかを防ぐ為に数まできっちりとな。他に流れる事自体在り得ないんだよ」


「……ッ!」


 しれっともっともらしい事を言うログアット。この為だけに用意されたはずのものを、さも以前から使っていましたよとばかりに平然と言ってのけた。事情を知る者は内心で唖然としていたが、それは表情には出さない。

 しかしそんな裏事情を知るはずもないソンク商会の関係者には動揺を隠せない者が多数いた。

 わなわなと震えるガルゲンであったが依然として諦める気はないのだろう。せわしなく物資の山に視線を巡らせ反撃の材料がないか必死に探しているようである。


 その様子を目にしたログアット、カイウス陣営の者は、まだ諦めないのかと感嘆混じりの呆れの感情が占めていた。

 しかし諦めるまで待つのも無駄である。ログアットとしてはこのまま無為に時間を過ごしても仕方ないという事で早々に引導を渡す事にした。


「一応これがレノスのモノである事をレノスの関係者に確認してもらおうか。といっても会頭本人の立会いだ、間違いや勘違いを期待してもそれには応えられんが」


 ログアットが言い終わるのを待たずにカイウスが既に確認の作業に取り掛かっている。

 といっても試薬に反応したオガクスと、そして同様に処置を施した木箱を確かめるだけだが。

 その言葉にソンクの関係者は狼狽の色を濃くしている。しかし動揺とは違うリアクションを示す者達がいた。


「……レノスの会頭?」


 低く、やけにハッキリと聞こえた。

 ガルゲンの背後に居並ぶ数人の男たちの誰が発したものかは特定は困難であったが、レノスの会頭がこの場にいるという事実に男たちの目つきが変わった。

 より正確に言うならば、瞳孔が開いた。

 その変化に気付いた者は僅かに二人。カイウスとログアット。

 そして他の者がやや遅れて違和感を覚えたその時。


 金属を激しく打ち鳴らす鈍くも鋭い音が鳴り響く。


「いきなりだな」


 瞬きの間に距離を詰めた男のナイフをカイウスがいつの間にか手にしていた短剣で弾いた音だ。

 男の突然の襲撃を自ら防いでみせたのだ。

 しかしそれだけでは終わらず、カイウスは躊躇する事無く短剣を男の胸へと突き入れる。


 だが、それは適わなかった。

 素早く回避に移っていた男は後方へ飛び退き身構える。

 人間の瞳孔は光量以外でも変化する事がある。怒り、もしくは戦う際の意識の昂りによって。

 カイウスは男達のその眼球の変化を見逃さなず対応してみせたが追撃は空振りに終わった。


 あまりの一瞬の事に周囲の者は初動が遅れてしまったのは否めないが、即座にカイウスを守るように陣形を組んだ。


「……いきなりはお互い様だ。迷い無く命を狩りに来るか」


「加減などしてやる義理はないからな」


「しかし確かにレノスの会頭のようだな」


 確定する前に殺そうとしたのかと言いたくなったカイウスであったが、今の攻防で確信に至った可能性があるのではないか、そう思考の流れの中に浮上してきた。だとすると……。 


「ならば、この機を逃すわけにはいかんな」


 その言葉と謎の手振りを合図に、男も含め数人の者が一斉に何かを口に含んだ。

 何か嫌な予感がする。カイウスとログアットは漠然と、しかし確信に近いものを感じた。

 それは予想を違える事なく現実のものとなる。


 驚異的な魔力の増大と、そして肉体の変容を男達にもたらして。

 その光景はある少年の証言が頭をぎる切っ掛けとしては充分だった。

 これか、と。死の牙のリーダーが人間をやめたという魔法薬。それを我が目で見ることになるとは。


「ヒィッ!?」


 ガルゲンが悲鳴をあげ、どうなっているんだとばかりに人外と化した男たちとソンク商会の者を見やるも誰も答える者はいない。

 ソンクの関係者も全く事情を知らさせていなかったらしい。


「カイウス・タンザーラ。いや、辺境伯領、領主アラズナン・ツイスカ――」


 人外の者と化した男の言葉にソンク商会の関係者が動揺しているようにも見えるが、正直この状況では何について動揺しているのか分からない。

 そんな周囲の反応を無視するかのように男は言う。

 不穏な言葉を。


「――お前は邪魔だ。ここで死ね」


 一斉に人外の者たちが動き出す。





 男たちはカイウスがアラズナン・ツイスカである事を確信してのち、更に圧力を増して命を獲りに来た。

 しかしそれが何を意味するのか考えを巡らす余裕が今のカイウスには無かった。


「くッ、これは面倒だな……!」


 確かに人間をやめている。一対一ならばどうにかする事は出来るかもしれないが、複数な上に他の隊の者には手に余るかもしれない。ログアットとて他には手が回らないだろう。

 数度の攻撃を凌ぎ、すぐさま後退の号令を出す。

 障害物のあるこの場所はとにかく宜しくない。向こうはそんなものは関係ないと諸共に攻撃を仕掛けてくるが、こちらは動きを制限されてしまう。


「立て直すぞ!」


「応!」


 ログアットの号令に即座に陣を組む衛兵と冒険者の役を担っていた騎士団員たち。

 障害物のない開けた場所ならば先程よりは幾分かマシであろう。

 少なくとも緊急事態を報せる信号により動き出した救援が到着するまで、時間稼ぎくらいは出来るはずである。


 両陣営が仕切り直すかのように対峙して一瞬動きが止まった時の事だった。


「ッシャアオラアァーーッ!!」


 強烈な轟音と衝撃。

 その掛け声は瓦礫と土煙の混じる爆風と一緒に掻き消されたが、それが誰の仕業であるかをカイウスたちはすぐに理解する事になる。

 いや、理解させられたというのが正解だった。






 ~~~~






 破城扇による上空からの一撃。割と手加減してない。

 あー、これ人間相手にやったらトマトが潰れるみたいな事になるなあ。

 とりあえずカイウスさんたちがどうにかされる前に介入してみたけど正解だった、か?

 まあいいか、人死にが出るよりはいいはずだ。


「……何者だ? 邪魔をするならお前も一緒に消えてもらうぞ」


「嘘はよくねえなあ。無事に帰すつもりなんかねえクセに、そんな事言ったら期待しちゃうだろ?」


 地面に出来上がったクレーターの底から、一番近くに居た人間から著しく逸脱した体型に変化したヤツに向けて素直な感想というやつを返してみた。

 一緒に殺すつもりのクセに何で選択肢があるみたいな言い方をするかね。


 それはそうと。

 死の牙のリーダーみたいな魔力の膨れ上がり方をしたから、もしやと思ったが本当に同じ効果のものを使ってやがった。

 クレーターから出て軽く見渡してみたが、七人ほどのヤツらが人間をやめてらっしゃる。


「……ふざけたヤツだ。覚悟の上というのなら望み通り死んでもらおう」


 一斉に強化人間? たちの群れがオレに殺意を向けて動き出す。

 上空からの初っ端の一撃で一番に排除すべき敵と判断したようだ。

 一斉に飛び掛かってくるかと思えた強化人間たちだったが、まだ理性を備えているようで同士討ちを避けるためか微妙に間をずらして四方から攻撃を仕掛けてきた。オレの回避行動にも対応するためってか?

 

 だがそんなものは関係ない。

 オレの間合いに入った順に破城扇で弾き飛ばしてやったわ。

 破城扇の衝撃板を減らしてあるからミンチになる事はないだろう。

 行動不能になる程度だ。と思ったら平気な顔で立ち上がってきやがった。


「貴様……何をした? だがその程度では我らは止められんぞ!」


 破城扇の攻撃が理解出来ないといった風だが本当に破城扇の攻撃では止まらないようだ。

 だが、だからといって身体が損傷しないというわけでもなさそう。

 破城扇の特徴として、攻撃を受け止めた時にも衝撃が発生する。いくら調整された攻撃力とはいえ、それを何度も至近距離で食らえば無事ではすまない。

 このままだと、せっかくの証人をボロボロの廃人にしかねないなあ。

 いや、全然攻撃をやめる気配がないからさ。

 むしろオレを倒そうと躍起になって見境がなくなりつつある。


「このままじゃ、きりがないな……」


「貴様が死ぬまでは止まらんッ!!」


 降参する気もないらしい。

 そういう事なら別の手段で動けなくするしかない。

 というわけで手加減なしの行動阻害だ。心臓麻痺を起こしても知らんぞ。

 オレを即座に排除しようとしたその判断は間違ってなかった。

 間違っていたのは相手の力を過小評価した事だ。


「ぐッ……お!?」


 意識を刈り取るまではやめない。

 薬の効果が切れるまでは意識を保ったままだろうから、ちょっと時間がかかるかもしれないが。


「くっ……貴様、本当に何者だ……だが、こんなもので、いつまでも拘束できると思わん、事だ!」


「お、やっぱりそこに期待してるのか。殺されないなら、ちょっとでも拘束が緩んだらすぐにでも反撃するつもりってか? 証人として生かして捕らえたいってのは誰でも思う事だからな。ただオレとしてはどっちでもいいんだよ。お前らが死んでも頭から情報を抜き出す手段があるからな。面倒だから自発的にいろいろ吐いてくれれば楽ってだけだ」


 はい、これはウソ。脳みそから情報を抜き取るなんて出来ません。イグニスじゃないんだから。

 でも出来るだけ悪い顔で言うのがポイント。

 相手の心を折るのに有効ならどんなウソだって言っちゃうよー。

 信憑性を高めるために更に出力も上げちゃう。


「ああ、ちなみに明日までこの状態を継続できるからな。短時間しか発動出来ないとか思わないほうがいい。いくらでも根比べに付き合ってやれるぞ? フフフッ」


 更に悪い顔で言ってやったが、これは本当。


「な、ん……ッ!?」


「ああ、それと。二本目を飲むのはあんまりオススメしない。無駄に終わるのが目に見えてる。まあ指一本動かせないだろうがな」


 驚愕に目を剥く強化男。筋肉がみっちりと浮き出て人間離れした外見に変化している。

 あれ、というか既に二本目飲んでる? だとしてもこの行動阻害からは逃れられないだろう。逃がす気もないが。


「貴様……なぜ、知って、いる……?」


「死の牙のリーダーと戦ったからな。そしてオレがこうしてここにいる。この意味は分かるか?」


「バカ……な……」


 正しく理解してくれたようである。

 強化人間たちの使用していた薬は思いのほか効果時間も短く、オレの言葉を聞いてすぐに意識を手放した。

 やーれやれ。面倒なことにならずに片付いたな。






 ~~~~






「……お前、えげつないな」


「え、何がですか?」


「煽ってから徹底的に心を折りにいっただろう。あっさり気絶したのだってイズミの一言がトドメになって意識を刈り取ったようなもんだぞ」


「薬の事は知ってるぞっていう意味だけでも良かったんですけどね。ちょっと回りくどいかと思いましたけど死の牙のリーダーを倒したって事実もちゃんと伝わったみたいで安心しましたよ」


「いい性格してる」


 やや呆れの混じった笑みで息を吐くログアットさん。

 自分ではそこまでえげつないとは思ってないから「そうですかね?」と曖昧な苦笑交じりのリアクションしか返せない。


「正直いろいろ助かったよイズミ君。あのままだとこちらに死傷者が出た可能性もあった。警備隊の救援が到着するまでは持ち堪えるつもりだったが、こんなに早く片付くとは思わなかったよ」


「だな。こいつらが化物染みた姿に変わった時はどうしようかと思ったわ。負けない戦いは出来たとしても、あのままじゃ計画が台無しになる所だった。交戦のどさくさにソンクのヤツらも殺りそうな勢いだったからな。ちょっと焦ったぞ」


 カイウスさんに同意しつつも内情をさらっと暴露。実はちょっと色々と危うかった模様。

 胸を撫で下ろすように、ふうと一息を入れ「しかしまあ――」とそのソンクの関係者に視線を向けるとログアットさんは続けた。


「――ヤツらにしてみれば何が何だか訳が分からないといった所かもな」


「逃亡する気力ごと根こそぎ折られたんだろう」


 そう言ってクレーターをまじまじと見つめるカイウスさんに、オレは首を傾げる。

 

「圧倒的な力を見せつけられては抵抗する気も失せてしまうのではないかな。登場の仕方といい色々と混乱に拍車をかけているのも大きい。魔法も使わず大穴を開けるなんて特に理解が追いつかない」


「そこに食いつくのはお前だけだ。と言いたい所だが、それは俺も気にはなるな。だが今はこっちが先だな」


 目線を辿れば大体言いたい事は分かる。この場にいる者を捕らえて護送しなきゃならんって事ね。

 とりあえずこの場にいる騎士団員たちが捕縛と護送の準備をするようだ。

 抵抗する気配もないし大丈夫だろう。

 お、リナリーがフクロウ姿で子犬型ラキが顔を出してる袋を抱えて降りてきた。

 いつの間にそんなもん用意したんだ。


「わふ」


「おや、君たちもいたのか。だとするとコイツ等は運がいい。君たちが全力で相手をしていたら灰も残らなかっただろうな」


 そのカイウスさんの言葉にソンクの関係者は呆然としながらも怪訝な表情を隠せないでいた。

 そりゃそうだ。ここには犬と鳥しかいない。

 ちょうどいいからラキにダメ押しを頼もうかな。


「ラキ、――――てみ」


「わふ」


 袋から飛び出たラキがぶるぶると身体を振りながら巨大化。

 鼻にシワを寄せて大きな牙を剥き出しにする。


「匂いを覚えたから逃げようなんて考えないほうがいいぞ」


 グルルル、と唸りをあげるラキの首を撫で念を押すように悪い笑顔も忘れずに。

 オレのその言葉にラキを見て「ひい!」と悲鳴をあげていたソンク商会の者たちは首がもげる勢いで縦に振った。

 そうこうしているうちに救援が到着。十数名の騎士団員であろう男たちが応援部隊としてテキパキと仕事に取り掛かる。


「護送は馬車か何かで?」


「そうだな。気付かれない距離で待機はさせてあった。お、来たな」


「これ見よがしの護送車って訳じゃないんですね」


 簡易的ながらも幌が付いた馬車で何を輸送しているのか分からないものになっている。

 現代的な感覚で言った事だったが、ログアットさんとしては何でそんな事を聞くんだといった表情だ。


「犯罪者が乗ってると分かり易いようになってるのかなって思ったんですけどね。極端な事を言えば、今回みたいな言い逃れの出来ない現行犯なら市中引き回しでもするのかなーって」


「軽微な犯罪なら敢えてやる場合もあるけどな。重犯罪だと強制労働か獄中で魔力回収か処刑になるからあまり周知させる意味もないんだよ」


「なるほど」


 刑が確定してないのもいるから、すぐ実行って訳にもいかないだろうしな。


「まあ今回は背景を吐かせるほうが色々と骨が折れそうなのがな。さっきみたいに強烈に怯えてくれれば楽なんだろうがなあ。なあイズミ。さっきのちっこいワンコに向かって言ったあれ、なんて言ったんだ?」


 真偽を測る魔法具があっても、こちらの知らない情報を吐かせるのは難しいだろうからなあ。

 自白の魔法とかないんだろうか。あっても使い辛いとかかな?

 だったらラキを見た反応は便利そうに映るかもしれないな。


「歯を見せる笑顔やってみって」


「笑い顔だったのかよ……」


 初見の者が笑顔と判断出来るか試したってのもあるけど。

 笑顔だったんですよ。




なんだこれは……修正しても修正しても、おかしな所が……

超難産(´・ω・`)


ブックマーク、評価、ありがとうございます

良かったら勝手にランキングも是非ポチっとしてもらえると嬉しいです



18/12/12 再修正

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