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第八十二話 大人たちの会話 若者は何を思う

前半は別視点です



「言った通りだったな」


 練兵場から練兵場へ。

 その移動の道中ログアットがふいにそんな事を漏らした。

 何の話だと言葉にはしなかったカイウスであったが、その表情だけでその事が伝わったようだ。


「龍の眷属の話題を振った時だよ。本人は無自覚かもしれんが、ほんの僅かに顔を顰めてやがったな。ちょうどいい話の流れだったからどんな反応をするのか試したつもりだったんだが。らしくもなく表情に出てたのには拍子抜けしたな。嫌悪といった風じゃないのに何なんだろうなアレは」


「別の意味の表情と言えなくもないが、イツィーリア様の話を聞いた後だとソレしかないという反応に見えるな」


「妖精や白夜の一族の存在をおくびにも出さなかったヤツが無防備に顔に出るとか、条件反射になるほどの何かがあったのか?」


「さてな。彼の生い立ちやそれまでの境遇はおよそ私達には想像し得ないものだろう。何があっても驚かん、と構えていてもそれが無意味になりそうなのは容易に想像がつくが」


「想像を超えてくるとかじゃねえからなあ。ありゃあ違う所から持って来て更にひっくり返すようなもんだろ」


「その例えも良く分からん」


 付き合いが長いからこそ言いたい事はなんとなく分かるが。共感し辛い表現はどうにかならんものかと思ってしまうのも確かだ。

 そんな思考の流れに自然と大きく息を吐いたカイウスだったが、自身の言葉からの連想にある事が頭をよぎる。


「どうかされましたか、お館様」


「何か気になる事でもあるのか?」


 何かを考え込むように眉を寄せたカイウスの様子に若干戸惑いつつもタットナーとログアットが確認するように先を促した。


「いや、リア様の事なんだがな……」


「あー……あのちっこい王女様か? えらく手の込んだ誘拐かどわかしに遭ったらしいな。イズミが助けたって話だが今は危険はないんだろ?」


「そのイズミ君が問題なんだ」


「どういう事だ?」


「……異性として強烈に意識しているようでな」


「おいおい、そっちの話かよ……」


「助けられた事による好印象の延長ではないかとトーリィの報告にもあったが、どうも刷り込みに近いな、あれは」


「雛鳥が最初に見たものよろしく、存在が強く意識に焼き付けられたってか?」


「それはそうだろう。出会ってから全てが好転したのだぞ? 大げさではなく正しく雛として生まれ直したと感じても不思議ではあるまい。それに少女が憧れる要素としての強さも申し分ない」


「単なる強さで片付けていいレベルじゃないがな。だが、まずいだろう。王族だぞ」


「本人もそれは承知しているようなのだが……彼の立場が自分と同等、もしくは上なのではないかと考えている所が厄介でな」


「……調停者か?」


「皆、口を揃えて言うが本人は絶対に認めないだろうな。そもそも彼にその認識はないのかもしれん」


「わざわざ任命しなくても泳がせておけば勝手にそういう風に動くと? ありそうな事だな。というかその可能性のほうが高いだろ。イズミの行動原理まで理解しての事だとすると、むしろそっちのほうが自然だと思えてくる。お前とやってる事がほとんど同じだ」


「だからこそ確信してしまっているのだがな。彼が調停者の任を帯びているという事を」


「だとしてもイズミが自覚してないって事は任命した側は放任だろう? そうなると益々厄介ではあるな。言い換えれば完全な全権代理人だぞ。いわば世界の意思に等しい。まあそこまでは言い過ぎかもしれんし仮に十二柱の紐付きだっとしてもイズミを選ぶってのは苛烈な粛清よりも別の意図がありそうなんだよなあ」


「別の意図?」


「言い方は悪いが娯楽や悪戯だ。引っ掻き回して対象の意思を挫く、とかな」


「やられたほうは粛清よりもダメージが在りそうだな……」


「冷徹な排除も合わせてとなると手に負えんでしょうな」


「あー……俺の見込みも間違ってなかったって事か」


 ログアットも同様に感じていたらしい。タットナーの言い様に僅かに天を仰ぐようにして、やっぱりそうかといった風に納得している。


「敵と認識したら容赦せんでしょう。おそらくはそこに人と魔獣の区別はありません。等しく獲物と定めたら狩る事に躊躇はないかと」


 その言葉にカイウスも頷く。


「ある意味でそれは正しい価値基準なんだろうよ。敵と断ずるのに独断は入るが偏見は挟まない、それを自然にやれるのは怖い気もするがな。まあ何にしてもちっこい王女様の色恋の話は俺達にはどうしようもないだろ」


「……それはそうなんだがな。あれだけ一途というか健気というか相手の事を想う姿を見ると、つい味方をしたくなってしまう」


「気持ちは分からんではないがなあ。他国へ嫁ぐか降嫁するか。今までだったら神殿に一生押し込められる可能性すらあった。まあそれはあの兄上が許さなかったとは思うが……いずれにしろこのままだと政略に利用される未来が濃厚となれば、多少は違う未来を見させてやりたいと、あの笑顔を見ると思わずにはいられんわな……」


「それを言ったら我が家の娘も適齢期にとんでもない人物と知り合ったものだと今更ながらに思うな。この僅かな時間で随分と興味を抱いたようでな」


「それは親としてはどうなんだよ」


「貰ってくれるのであれば私としては全く問題ないな。今までの報告や商人として接してみて凡その人となりは理解したつもりだ。俗物的なもの言いになるが彼は金に困るような事は在り得んだろうから、その点でも嫁ぎ先としては充分だ。下手な貴族に嫁がせるより余程いいだろう。女性を無碍にはしないであろうし尻に敷かれる事をよしとする既婚者の諦念にも似た精神性を彼からは感じる。ああいうタイプであればうちの娘はうまくやるだろうさ」


「……アイツはあの歳で老成でもしてんのか? そんなんでいいのかよ。しっかし、そのためには色々とめんどうな事が山積みになるぞ」


「婿を取る話か? セヴィーラが全快した事が周知されれば自然と立ち消えになるのではないか?」


「山ほど打診があっただろうが。しかも性質の悪いのが」


「あんなものは即蹴った。セヴィーラの見舞いより先に婚姻の話を持ってくるなど耳を疑ったくらいだ」


「それで諦めるとは到底思えんから性質が悪いんじゃないか。『次期当主が幼く健康に不安がおありでしょう。であれば若く有能な者に跡を継がせ、ご子息は分家を興して補佐などをしては?』なんて無茶苦茶な事言ってやがったヤツだっていたんだぞ。舌を切り落してやろうかと思ったわ」


 その補佐さえもセイヴィーラには無理だろう。そういう皮肉を隠そうともしなかった輩にログアットが殺意を覚えたのも一度や二度ではないようである。

 カイウスとしては自分の代わりに怒る友人の存在が嬉しくもあり、そして反面教師的に己を冷静にさせる事に一役かっている事にやや複雑な心境でもあるのだが。


「……まあな。私がまだ現役でやれると分かっていて尚、家督を譲れと堂々とのたまうなど呆れを通り越して褒めてやってもいいかと思ったほどだ。だがまあそれもじきに静かになるだろう。本当の意味で現役に戻るのも可能になったからな」


「そうだったな。お前がやる気になったんなら問題ないか。くくっ、イズミは自分がした事が分かってんのかね?」


「フッ、彼は純粋に剣が振れない事を我が事のように惜しんだだけのような気がするな。私が剣を握らなくなってしばらくの間、お前が見せていた表情に似ていたからな」


「……何処までも武の人間なわけだなアイツは」


「私の現場復帰が知れ渡ればうるさいさえずりも無くなるだろう。そうなれば多少は周囲の環境も変わり以前より選択の幅は広がるはずだ。辺境伯の娘という肩書きに拘る必要もない。いずれにしても本人たち次第さ。娘もリア様も、そしてイズミ君もな」


「たぶん、うちに所属してるお嬢ちゃんたちもだな。にしても貴族としてその考え方は充分異端だな。ま、別の不安としてはセヴィーラをイズミに預けて貴族の枠に収まる人間になるかどうか、だがな」


「うっ……ま、まあ健康であるなら多少の事には目を瞑るさ」


「くははっ! 少し前の事を考えたら贅沢な悩みだな」


 そんな二人を目を細め穏やかな気持ちで眺めるタットナーであった。






 ~~~~





「はぁ、はぁ……な、何故に練兵場でドラゴンの相手を……」


 魔力を使いきってへたり込んでいるシュティーナの口からそんな愚痴がこぼれた。

 他の皆よりやや早く戦線離脱してしまったが今の魔力量を考えればこんなものだろう。

 全員が魔宝石の魔力も使いきって気絶寸前という所で訓練終了。

 最後まで残っていたのはウルとリア。リアはいつの間にか土柱ガラン・ピラーも使えるようになっていたようで、柱から土槍ラン・シーを出したりと色々と組み合わせて奮戦していた。


「ゴーレムな」


 全員が肩で息をしてへたり込む、その中央で緑龍はくあぁ~っと欠伸をしている。


「生きているようにしか見えないんですけど……」


「そりゃあ、そう見えるように色々工夫してあるからなあ。ついでに言えば見た目だけじゃなくて存在の圧迫感みたいなのもオレを介して再現可能だぞ」


「そんな事が可能なんですか? 師匠」


「まあ体験したほうが早いか……。みんなちょっと気をしっかり持ってろよー!」


 セヴィの疑問に手っ取り早く回答を示すには実地が一番だろう。

 そこで指向性のある殺気をオレを発生源ではなく緑龍に変更。

 これってよくよく考えれば一種の状態異常魔法だよな。魔力に「これからお前を倒す」みたいな意思を乗せる事で威圧して相手に干渉してるって事だもんな。

 この緑龍の場合「お前をとって食う」という食事にも似た感覚も乗せてみたり。


「ッ!?」


 緑龍を中心に発せられた威圧。

 その感覚にこの場にいる全員が無意識に身構え、その表情は張り詰めたものに変化した。


「とまあ、こんな感じだ」


 威圧を解くと皆、力が抜けたように息を吐いた。


「なんですか今のは……まるで本物がこの場にいるような錯覚を起こしましたよ……」


「経験ないか? 強いヤツと対峙した時に感じる圧迫感。あれを擬似的に再現したのが今のだ」


 シュティーナの質問のようで質問でない言葉に確認の言葉を重ねる。

 しかしシュティーナは経験がないようでふるふると首を振った。


「……あれって再現出来るものなのニャ?」


「漏れ出してる魔力に意思というか決意のみたいなものが合わさると威圧として発揮されるから、魔法のようなものとして再現は可能だぞ」


「もしかして居竦いすくみの法とも言われるもの、ですか?」


「お、トーリィは知ってたか。そうそれ」


「魔力を自在に扱えるから、という事?」


「まあな」


 ウルが言うようにそれが前提にはなるが実際は明確な殺意を乗せるほうが難しいといえば難しいんだけど。

 完全上位互換が鉱石竜の殺気による行動阻害だ。


「もう何でもありですよね……イズミさんは」


 半笑いのジェンのその言葉に、シュティーナが同じように笑顔を引き攣らせつつ引き継ぐように話を続ける。


「お話は分かりました……あ、少し気になってのですが、イズミさんは本人だから問題ないとして、それにラキちゃんもなんとなく分かります。ですが同じように威圧を受けたリナリーさんとサイールーさんが平気だったのがどういう事なのかと」


「ん~、私たちはあれ以上を経験してるから、かな」


「イズミの訓練も間近で見てるしねー」


 なんで皆、固まってるんだ? あーそういう事か。

 今の何気ない会話で二つの事が判明したからそういう反応なわけか。

 オレの訓練を見てるというだけだったら、「ああ、なるほどね」だけで済んだかもしれないが、あれ以上を経験してるというリナリーの発言が、それとは別物だという事を物語っているのが問題なんだろう。

 今の自分たちでは対処する事が出来ない事態。それを経験しているという事実に絶句したといった所か。


「それはイズミンも一緒に?」


「まあそうだな」


「「「…………」」」


 みんなが黙ってしまった理由が良く分からないが、何を言っていいのか、何かを言っていいのかといった困惑にも似た表情だ。


「ま、まあ深くは追求しないほうがいいのではないでしょうか」


「そ、そうかもニャ。リアの言う通りだニャ。これ以上つついて、もっと強いのを相手にしろとか言われても困るからニャ」


 なんだか良からぬ事を聞いてしまったみたいな反応だけど、これ以上聞く気がないならこちらからわざわざ掘り返す必要もないだろう。

 だが、そういった対処に何時追われるか分からない。何があるか分からないのが世の常。

 ならば、これよりも上を体験する事が可能だという事は一応教えておいても無駄にはならないだろう。

 

「魔力も使いきったようだし、しばらくは休憩だな。ちなみにもっと強烈なのも体験出来るから必要だと思ったらいつでも――」


「「「「遠慮します!!」」」


 食い気味に敬語で拒否された。


「そ、そうか。じゃあとりあえず片付けるとするか。とはいえ……折角作ったんだから土に戻すのも勿体ないよなー」


 この場で衝動的に作ったように思えるかもしれないが事前の研究にはかなりの時間を割いている。

 制御機構に使っている魔法陣が特に手間がかかっているかもしれない。

 試作段階では小さな体躯のもので試行を繰り返したが、ドラゴンっぽい動きを再現するのに苦労したのだ。

 狼や熊、ましてや爬虫類や昆虫の動きを再現させるわけにはいかないからな。

 ちなみに参考にしたのは主にイグニスと鉱石竜である。


「という事でしばらく無限収納エンドレッサーで待機してもらうとするかね」


 するとその言葉に反応して、すちゃっ! と敬礼をした緑龍が鼻先を無限収納エンドレッサーに近づけ自ら収納された。

 あれえ? オレあんな動作仕込んでないんだけどなあ。

 確かに自己学習の領域がある魔法陣を使ってはいるけど。


「古代の魔法陣ってすごいよねえ。髪の毛より細い回路を自分で書き換える機能を持たせてるんでしょ?」


 オレの考えていた事を察したように小声でサイールーが緑龍の動きの原因について考察を述べた。

 イグニスの知識の中にあったその回路をそのままコピーして組み込んだのが今回の魔法陣。

 学習機能のみの回路も組み込んだ場合どう機能するかも試行はしていたが、どうにもおかしな学習をしている気がする。


「あんなの教えた覚えないぞ」


「着ぐるみ着せて屋敷の中をうろつかせてたから、それで覚えたんじゃない?」


「そんな事してたんか」


 試作段階ではちっこい竜をリナリーやサイールーに貸し出していたが何をやっていたのかは把握してない。

 毎回、回収時に魔法陣を視覚と魔力の状態の両面から記憶して要はデータをセーブしていたような状態であったがミクロン単位の変化もセーブしていたらしく、しっかりと学習した事が蓄積されていたようだ。

 どうりで記憶する時に毎回負荷が増していたはずだ。


「専用の符か核を作ったほうがいいかもな。どこまで負荷が増大するか想像がつかない」


「既存の生物以上の知能になる事もあるって言ってたような気がする」


「AI以上かよ」


 古代文明恐るべし。

 時間とか環境とか色々と影響するんだろうけど地球より進み過ぎだわ。

 それはともかく、今回は色も塗ってかなり精巧に仕上げたから崩すのが勿体なくてそのまま回収する事にしたわけだが。後々の手間を考えたら正解だったな。


「んニャあ。イズミー、これどうするニャ? アタシ達じゃ魔力があってもどうにも出来ないニャー」


 サイールーとの内輪の会話は終わった? みたいな顔でキアラがそんな声をあげた。

 ああ、ボッコボコになった練兵場の事か。

 これだけ広範囲だと魔力が残ってたとしても、すぐにどうこうってちょっと難しいかもな。

 彼女たちにだって出来ない事はないだろうけど時間がかかるのは確かだ。


「これを身体能力だけで元に戻すっていう鍛錬法もあるけどな」


「「「「うッ……」」」」


「冗談だ。ゴーレムの材料にも使ったからな、オレがなんとかするって」


 四百メートルトラックがすっぽり入る程度には広い練兵場が、見るも無残に穴だらけになってる。

 このまま帰るわけにもいかないのでちゃんと平にして返さないとな。

 という事で練兵場全体に魔力を行き渡らせて土を操作。

 若干、全体が沈下したような気がしないでもないが、せいぜい一、二センチ程度だろう。


「あの、イズミさんは最大でどのくらいの範囲まで操作可能なのですか?」


「同じ土系統の練習をしてるからリアは気になるか?」


「い、一応参考までにと思いまして」


「限界まではやった事がないから分からんけど、今のと同じようにってなると感覚的にはこの練兵場の大きさで六、七枚って所じゃないか?」


「そ、そうなんですね」


「それってお城がすっぽり納まる大きさなんだよねー……」


「吹き飛ばすより平和的な交渉が出来そうだよな」


 カイナの指摘に軽い相槌程度で返したつもりだったんだが。

 なんでみんな揃って目を剥いてんだよ。何を想像したんだ。

 しねえよそんな事。


「冗談だよ。何本気にしてんだ」


「ち、ちなみにどんな方法が思い付くニャ……?」


 後学のために聞いておきたいってか?

 そうだなあ。


「すぐ思い付くところだと土台を砂にして振動で引きずり込むとか、泥沼にして自重で沈むのを待つとか。あとは支柱の下だけを陥没させて上物だけを崩すとか。あ、建物自体を砂にするのもいいかもなあ。風に吹かれてサラサラと崩れていくって幻想的で良さそうじゃないか? 他にも色々とやりようはありそうだ。でもまあ実際は結界があるからそう簡単には干渉出来ないだろう」


「効果の及ぶ範囲が違うと、ここまで発想に違いがあるというのが良く分かった」


「普通は直接的な攻撃系を使うのを想定しますよねえ」


 ウルとイルサーナは別の方法を考えてたのかね。

 何を思いついたか聞いて――ってトーリィが何か言いたげだけど何だ?


「そ、そういえば、確かイズミさんは結界に干渉して壊せるんですよね……?」


「ハッ! そうだったニャ……ッ!」


 聞いてない、とばかりにその場にいる修行組の全員がバッとこちらを凝視した。

 

「壊さねえよ。あれ割と神経使うし使われてる装置や魔法陣まで壊しちまう確率が高いから、バレて弁償しろって言われたら面倒だ。直せって言われたら更に面倒」


「バレなければ……?」


「場合によるな。堪忍袋の緒が切れたらやるかもしれん」


 なあんでみんな黙るかなあ。


「まあ建物ごと崩すとかはしないな」


 ホッとしてるところ悪いけど。


「吹き飛ばす!」


「「「「やめてッ!?」」」」


 はっはっは! 見事な心の叫びのハーモニー。






 ~~~~





「みんな本気にし過ぎだ」


「……冗談に聞こえなかったんですが?」


 ジェンの細められた目がそれが嘘ではないとハッキリと物語っている。

 そんな事はする気もないし、する状況にもなってないから安心してくれていいぞー。

 信じろよ。なんで疑ってんだ。

 それはそれとして。


「ジェンも魔力矢の練習で疲れたなら休んでていいぞ」


「イズミさんは休憩にしないんですか?」


「まだセヴィの体術の訓練に入ったばかりだからな」


「剣術の他に体術も、ですか?」


「全ての起点になるから必要なんだ。他の流派はどうか知らんが少なくてもうちはそういうものとして考えてる。あらゆる事を想定するなら、まずは自身を武器にする。それが大前提だ」


 それを聞いていた他のみんなも「なるほど……」等と同意の色を見せる者、「そこまでやるんだ……」と軽い戸惑いを見せる者と反応は様々だが納得したという点では同様といった所らしい。


「という事で続きだセヴィ」


「はい!」


 先程までとは違う型を一通り終わらせた所で動きの修正のためにひとつひとつ丁寧に指摘していく。この年齢で型を真似るだけでなく自分なりにどのような意味、効果があるのか考えているような素振りが見えるのには素直に感心する。

 最初にそういった説明をしてはいたが普通は十歳やそこらでそこまで気が回るのは稀だ。

 だって型って普通に見てたら踊ってるようにしか見えねえもん。


 咄嗟の時に型が基本になった動きが出るようになるまで気の遠くなるような時間がかかる。

 うちの武楽ぶがくは人体の硬い部分、肘、膝、肩などを使う割合が多いが一連の動作の中では紛れてしまって判り辛い。

 なので型をひとつひとつの動作に分解して実演も交えて丁寧に教えていく。


「大雑把に言うと、うちのは攻撃が体当たりの延長のようなのが多いな。って言うと分かり易いだろ? どうしても突きに拘る必要はないんだよ。肘でぶち当たりに行ってもいいし肩でもいい。なんなら頭突きだって全然かまわん。このひとつの動作でそれだけの選択肢があるわけだ」


「あ、そういう事なんですね……でも一つの動作でそれだけ幅があるという事は……」


「そう。気が遠くなりそうだろ? 身体に染み付いて実際に使えるようになるまではひたすら反復と実践で慣らしていくしかない。それと実用的に思えない技もあるように思うかもしれんがその先に武器にまで応用が及ぶ技もあるから、ひとつとして無駄はない」


「あのう……横からですみません。武器にまでってどういう事ですか?」


 ジェンが代表で聞いたような形だが、みんなも気になるらしい。

 こうやって体術を分解して詳しく説明ってしなかったしな。

 わかり易くなってる事でちょっと興味を引いたようだ。


「例えばだ。こんな風に腕を伸ばしたまま振り下ろしたり横に振り払う動作が型の中にあるけど、これがなかなか実戦でも有効なんだ。特に最初のうちはな。対人で顔を殴るってのは思ってるより結構難しいもんなんだよ。顔ってのは急所が集まってるようなものだけど不意打ちならともかく、戦うぞってなったらなかかな顔なんか殴らせてくれない。直線的な突きだと防御されたり避けられたりでそれが顕著だ。でも腕を伸ばしたまま振り回すと応用が利くし力が乗り易いから案外有効なんだ」


 そこで人型の構えを取った土人形を立てせて実践解説。


「こうやって顔の前に手があると邪魔だなって思うだろ? それをこうやって腕を振り回すと肘を基点に外側から顔に当てる事も可能になる」


 要はガードを前提にフックをかますような感じ。

 あまり実用的ではないが一応までに。


「間合いの中なら避けられる事も少ないし空振りよりは全然いい。さらに踏み込み方を変えればこんな事も出来る」


 ラリアットで人形をビタンっと地面に倒す。

 まあこれはお遊びの要素が多いか。


「やってみれば分かるけど、その場から動かず攻撃する場合、遠心力を利用するから攻撃力が高い。動作は大振りだけど、とにかく当て易いから多少の事は無視できるのが利点だな。乱戦にもかなり有効だ。デタラメに振り回しても範囲にいれば当たるからな」


 他にも相手からのカウンターに対して、そのままぶん回して攻撃を逸らしたり相打ちなんてのも実演してみた。


「で、さっきの話に戻るけど、腕を伸ばしたまま攻撃って何かに似てると思わないか?」


「? ……あっ」


「そう。武器での攻撃に似てるんだよ。剣や槍、それに棒だったりな。違う部分も多いけど運用は割と似通ってる。だから体術ってのはやって損はないんだよ」


「ほへぇ~、そういう事なんだニャー」


 そこでやっと得心がいったようで「なるほど」とキアラに釣られるように皆の口から呟きが漏れた。


「初歩みたいな事言ってましたけど段階が進むとどうなるんですか?」


 意外とシュティーナの食いつきがいいけど、よく考えたら弟が身に付けようとしてるものだし気になるのは当然といえば当然か。


「そうだなー。どんどん動作が小さくなって無駄がなくなる感じか。遠心力も代わりに身体の捻りで生み出すようになってく」


 目の前の人形に向けて武楽の基本的な中段突きをややコンパクトにした技を披露してみた。

 かなり距離の近い状態だったせいか、そんな結果になるとは予想していなかったらしく。

 腹部を粉々に砕かれて崩れ去った人形に皆の視線が集まった。


「ほぼ密着したような状態からそれですかー。夜にそんな事されたらすごい事になりそうですよねえ」


 赤い顔で何やらおかしな言い方だな。どういう事だ?

 イルサーナは何を言って……。


「しねえよ! 何考えてんだ!」


 行為の最中に密着する部分で同じ事をしたらとか考えた事もなかったわ!

 そもそもそんな姿勢で出来ねえよ。いや待て、出来なくはないのか……?

 両足が地面に接している姿勢もあるし、膝立ちの姿勢だってある。

 打撃力ではなく浸透の類なら――


 って真剣に考えちまったじゃねえか!


「まったく、ほんと思考がピンクな。セヴィとリアはこの色ボケの言う事は真剣に聞いちゃダメだぞ。とにかく! 続けるぞセヴィ。興味があるなら他のみんなも一緒に教えるから」


 魔法の訓練も大事だけど体術も覚えて無駄にはならない。

 ここにいるみんなはある程度下地が出来上がってるから生兵法にもならないだろう。



 なんだかんだ言っても教えるのは楽しいよな。




執筆に割く時間が……(´・ω・`)

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