第八十一話 情報の価値はそれぞれ
「わふッ!」
久々の模擬戦でラキが上機嫌だ。
ここの所、街から出ていないので戦闘らしい戦闘はお預け状態。
その代わりというわけでもないが子犬状態で楽しめる遊びは沢山提供しているんだけどな。
フリスビーなんかだと大きい姿のままでも楽しめる。今は円筒形のフリスビーが特にお気に入り。
追いかけて鼻を突っ込んで受け止めるのが面白いらしいがオレには良く分からん楽しみ方だ。
ただラキが相手だと、もの凄いスピードを要求されるが。
他にもちょっと硬めのバランスボールっぽいヤツで遊んだり、ハムスターの回し車のデカイのでも遊んでる。
猛スピードで回転させて自分は急停止。床に張り付いてぐるんぐるん回るのが好きなのはいいが、遠心力を利用してスポーンッ! と飛んでいくとか急にやられると心臓に悪い。どうもそこまでがセットらしいけどたまにオレの顔めがけて飛ぶのはやめて欲しい。
話が逸れたか。
遊びは遊びで好きなようだが戦うのはまた別の楽しさがあるようで。イグニスの英才教育のたまものなんだろう。
ラキにとって今日は、待ちに待った日というわけだ。
「よっしゃ! 今日はガシガシいくぞ!」
「ウォンッ!」
拳甲状に変形させたコートの感触を確かめるように、両拳を胸の前でガィンッ! と打ち鳴らす。
距離を置いて向かい合うラキは「まだ? まだ?」とうずうずしている。
さあ、模擬戦開始だ!
~~~~
今日は格闘縛りでやってみたけどエグイわー、ラキの攻撃エグイわー。
飛び道具なし刃物なしって縛りがあるからだけど、全身炎を纏うとかそんなんアリか?
まあ在りなんですけどね。
オレは水流を纏わせて対抗したし。
縛りはあったがラキとしては久々に思う存分動けてご満悦といった様子。
やっぱりストレス溜まってたかな。大きい犬は相当な量の運動をさせないとストレスでおかしくなるっていうしなあ。
まあラキは性格的には若干だが猫寄りっぽいところもあるし、何より犬じゃないし。
「い、今のはなんですか?」
「ほとんど何をしてるか僕には分からなかったです……トーリィは何をやってたか分かる?」
汗を洗い流しながら休憩スペースまで戻るとシュティーナとセヴィがそんな言葉を漏らした。
何と言われても。模擬戦としか。
「私も半分以上は何をしてるのか理解出来ていません。そういえば、お嬢様もセヴィ様も初めて目にするのでしたね。あれがイズミさんとラキちゃんの模擬戦です。あれでも本気じゃないらしいですよ」
オレが何かを口にする前にトーリィが姉弟の疑問に取り敢えずの回答を示した。
姉弟が何かを言いたいが何を言えばいいのか分からない、といった顔をしてオレを見る。
「本気だとお互い楽しくて怪我を省みないのだそうで」
「何かがおかしい……」
「ああうん、おかしいよねぇ」
トーリィの捕捉にシュティーナがぼそりと呟くと、リナリーがウンウンと頷いて何か含みのある言い方だ。
あたまがおかしいとでも言いたいのか、んー?
「……ロガットギルド長の言った意味がなんとなく理解できました。あれは余程の腕利きでもまともに戦うのは無理ですよね……」
「自分で言っておいてなんだが……確かにありゃあデタラメだ。てか子犬だと思ってたのに魔獣じゃねえか。それも飛びっきりの。いや魔獣じゃなかったな今は。白夜の一族は既に幻獣として扱われていたか」
「普通じゃないというのは分かっていたつもりだったが……半分も理解できていなかったとは……」
ジェンとログアットさんの言葉にカイウスさんが同意するも、苦笑気味の顔と視線はオレに向けられていた。
しかし気の利いた返しは出来そうもないのでスルーで。
ラキの一族は今は幻獣とみなされてるんだな。いるかどうか分からないって点では妖精と似たような感じか。
「あのような模擬戦を見せられてはセヴィーラ様の上達ぶりも我々の理解を超えた所にあるのでしょうなあ」
「見たものをほぼそのまま再現と聞いて、まさかと思ったが半分は正解だったわけか」
「そのようですな。見たもののレベルが高い事でその再現性が仮に三割程であったとしても、あそこまでになっているのでしょう。それとて飲み込みが早いという範疇には収まらないのでしょうが」
セヴィの動きが良すぎる、と疑問をぶつけられていたがラキとの模擬戦の後で知りたい事には答えると後回しにしてもらっていたのだ。
ところがその模擬戦を見た事でカイウスさんとタットナーさんは何やら独自の考察で納得してしまったようである。
「それにしたって度が過ぎてると思うがなあ」
「ログアットさんがそう言いたくなるのも分かるんですがね。相性が良かったんだと思いますよ。もともとの覚えの良さと目の能力、そして刀を使う事を前提とした剣術。それら全てが良い方へとハマッた感じじゃないですかね? 今まで不遇な生活を強いられていたんですから、これくらいの揺り返しはあっても罰は当たらんでしょう」
「くははっ! 面白い考え方だが俺もそれには賛成だな」
「それに武楽、えーっとオレの教える武術はここからが長いですからね。十歳でここまでこなせるのは嬉しい誤算でしたけど、うちの基準で言えば誤差です誤差」
「えぇ……充分すごいと思ったのですが……」
「学園を基準にしてしまうとお嬢様の感覚は間違っていないのですが……」
「良く分からないですけど、やる事がいっぱいあるのは嬉しいです!」
シュティーナの困惑にトーリィは苦笑を返すしか出来ないといった面持ち。
そんな二人とは対称的にセヴィはとにかく新しい事を覚えられるのが嬉しいうようだ。
「これは私も早急に鈍った身体をなんとかしなければいけないようだ」
「ついでだから俺も混ぜてくれよ。どうせ騎士団で再訓練するんだろ? 団員の地力の底上げにだって協力できるぜ?」
「む、そうだな……出来るだけ時間を捻出するとしよう。幸い何処に居てもすぐに連絡が取れる手段が――と、そうだイズミくん。トーリィが君から渡された共鳴晶石の原石は本当にこちらで使わせてもらって構わないのかい? 完成品もさることながら原石などというのは闇市場にさえ出回らないほどの貴重品なのだが……」
「何ッ! 共鳴晶石!? 持ってるのか!?」
ガバッと振り返って語気を荒げるログアットさんの様子を見るに、やはり一般的には貴重品というのは間違いないようだ。実感ないけど。
「それも製造法の情報も一緒にな」
「何考えてんだ……それだけでも一生食える価値があるものだぞ」
「穏便に済めば、の話ですよね?」
「む、確かにそうだな……公表するにも話を持っていく所を間違えると命を狙われかねんな。そんな事になったらお前さんの好きそうな自由気ままにってのが出来なくなるか……。それにしたってほいほい他人に渡すもんじゃないだろう」
「いやまあ無限ってわけじゃないですけど、まだありますからね」
ベンチにどんっとバスケットボールサイズの原石を出す。
「なッ!?」
「「「「まだそんなに!?」」」」
ログアットさんの驚愕とは若干意味合いの異なりそうな白のトクサルテの驚き。
他の人も驚いているようだが、それをすぐに言葉には出来なかったらしい。
「無くなったら無くなったで補充が不可能という事もないですからね。おそろしく面倒ではありますけど」
「補充の事はあんまり考えたくないんだけど」
「そうは言っても不安定だって話だぞ? あれで終わりだと思うかリナリー」
「うっ……」
イグニスの態度からすると、そう簡単に地脈の問題が解決するとは思えない。
となれば不安定になった地脈が原因で鉱石竜がどこぞで生まれる可能性だってあるかもしれない。
リナリーもその辺が分かってるから言葉に詰まるんだよな。
「何やらお前さん達の間でしか通じない話のようだが……俺が気になるのはジェンも貰ったのかどうかだ」
「えっと……私はもらってませんが……」
「なんでだ! その無駄にいやらしい身体を活かして攻め落とせよ!」
「無駄ってなんですか!?」
酷い言い草だ。いやらしい身体ってのには同意だが。
それはそれとして。
「ジェンにも渡すつもりではいましたよ。ただ使い勝手の事を考えると分割してそのまま渡しても不便かなと思いまして。今ちょっとその辺をサイールーと研究してる所なんですよ」
「あー、そうなのか? 俺もおこぼれに預かろうと思ってたんだがな」
欲求に素直だなー。らしいと言えばらしいが。でも本気か冗談か分からないんだよなこの人の場合。
「実物はまだですけど試作品が出来上がったら、それでどうです? 実際に使ってみてその感想なんかも聞きたいと思ってるんで」
「くくっ、実験ってとこか?」
「人体が前に付かない良心的な実験って事で」
「この前は完治した事でイーブンだったからな。しかし研究ってのは何をしてるんだ? 共鳴晶石に何か手を加える余地なんてあるのか?」
「発信先を任意で変更出来ればと。現状だと分割した全てに一斉に繋がりますからね。それを後付けの魔法具か何かで個別に呼び出しが出来ないか色々と試行錯誤してるわけです」
要するに携帯電話と同じように使えるようにしたいのだ。
オレの場合は複数の石をプレートにはめて擬似的にスマホっぽくしてるけど、キアラたちのように分割状態での使用って基本的にはチャンネルの同じ無線で同時に喋ってる感じだから普段の生活だと少し不便なはずだ。
一斉同時通信としては優秀ではあるがプライベートが犠牲になってるからそこをなんとかしたい。
たぶんキアラたちも使ってるうちにそういう機能が欲しくなるんじゃないかね。
「材料に余裕があればこその発想なんだろうが……いや、普通なら及びもしない所まで飛躍してるな」
希少なアイテムだからなぁ。壊れたらなんて事を考えると実験や手を加えるなんて出来ないのかもしれないな。現状の機能でも充分に便利だから余計に。
「とりあえず言ってみただけだったが、そういう事なら期待して待つとするかね」
「ですね。今のままロガットギルド長に持たせたら自分の仕事を押し付けるために色んな人に持たせそうですからね。他の人への用件で四六時中声が聞こえてくるとか勘弁して欲しいです」
「お前ね……」
個別に通信できないと自分とは関係ない会話が飛び交うから慣れないと鬱陶しいかもな。
ラジオでも聞いてるつもりなら我慢も利くだろうけど。
「イズミくん。その技術が完成したら教えてもらえないだろうか。もちろん情報料は払うし、他には漏らさないと約束しよう」
「それは構いませんが。でも本当に貴族らしくないですよねカイウスさんは」
「何故強権を発動しないのかってか? イズミお前それは」
「ログアットの言う通り、君にそれが通じるとも思えないのだが……」
「? あ、あー……」
困ったような笑顔のカイウスさんの言いたい事がなんとなく理解できた。
冷静に考えてみればだ。
失うものが無く、ちょっとやそっとじゃ害されない。
騎士団や軍が動いたとしてもラキとオレを同時にどうにかしようなんて現実的じゃない。
人質を使って脅迫でもしない限り要求を通す事が難しい。
実際には他にも色々とやりようは在ると思うが、カイウスさんはそれを良しとはしないだろう。であればこそ取り引き相手として正当に扱うと。
強引な要求を平気で撥ね退けるようなヤツにはそれしかないよなあ。
まあなんだ。詰まる所、ある意味ではオレこそが強権を発動できる立場にいると。
「今頃自覚したのか? 白夜の一族と互角なんてのは龍族と変わらん扱いだぞ」
何故だ。眷属になった覚えはないのに。
「それに君は本当に面倒な事になったら姿を眩ますのではないかとね。人間の世界などさっさと見切りをつけて幻想世界の住人と供に行ってしまうように思えてならないのさ。だから繋ぎとめる為にも色々と知恵を絞っているわけだね」
最終手段としては完全な世捨て人もありだとは考えてる。
そんな心配そうな顔するなよリア。今すぐどうこうしたりはしないから。
「さすがにそれは味気ないですよ。オレだって人間です。その文化だって好きですからね」
「それを聞いて安心した。君には好き勝手動いてもらったほうがこちらの利が多いからね。フフッ」
やっぱり悪い大人はカイウスさんでしたか。
~~~~
遅めの昼食のあと。ログアットさんとカイウスさん、タットナーさんは騎士団の詰め所の近くにある練兵場へと向かった。
本当に現役騎士に混ざって訓練し直すつもりらしい。
そのために今後の予定の調整を現場の者と相談するようである。
『騎士になるような者達には結構知れ渡っているのですよ、御館様が以前は非常に強かったという事は。その御館様が参加するとなれば同時参加希望の者が増えるかもしれません。そうなるとその者たちの時間調整も必要になる可能性もありますからな』
なるほど。全員が一律に同じ訓練を同じ時間にというのは難しいか。
もしかしなくてもオレたちがこっちを借りてるのも影響していると思われる。
『いや、むしろこっちを貸し出す時間を増やしてもいいくらいだよ。誰も知らないような訓練方法を学べる機会など普通はありはしないからね』
『だな。俺やカイウスが若ければ迷わず参加していたぞ。ただまあ今の俺達じゃあ柔軟性に欠けて慣れるのに時間がかかるのがな。若い者たちの邪魔になり兼ねん。だったら再訓練も兼ねて騎士団の強化をしたほうが一石二鳥ってもんだ』
双方にとっての効率を重視したという事か。
こういう判断を即座に下せる所が組織の長としての適性がある証拠なんだろう。
『そんなことより、さっき食ったもののほうが気になるがな』
『サンドイッチですか?』
『今まで食った事のないようなパンに、なんだか良く分からん肉が挟まってただろう』
BLTサンド風に肉、レタス、トマトを食パンで挟んだヤツ。
好きなんだよBLTサンド。
ログアットさんもだがカイウスさんもタットナーさんもパンと肉が気になっている様子。
シュティーナとセヴィも何度か食べているが、オレの故郷の珍しいパンだという認識に留まっているようで、あまり料理には詳しくはないのかも知れない。
『……私もセヴィも気にはなっていましたが、トーリィがそういうものとして受け入れたほうが楽だと言うので……』
違ったみたい。
パンは普通の食パンだが、そういえば日本でだって普及したのはここ何十年かじゃなかったか?
ましてや現代風のやり過ぎなくらいのふわふわ食パンなんかこっちでは見た事ない。
パン色の犬のパンも美味しいパンだが、それとは既に種類が違うといっていいかも知れない。
こちらにもホワイトブレットに近いものはあるが、あれを食パンというにはちょっと抵抗があるかなあ。
でも近代辺りで登場したはずのクロワッサンっぽいものがあったりでこっちのパンの歴史は良く分からん。
パンの歴史はさておき。昼食に用意したのはパンケースを使って焼いたパンだ。
妖精の里の酵母種を使った普通の食パン。発酵時の温度管理とか練りとかに魔法を使っているから普通とは多少違うかもしれないが。
そして肉は成形肉。
挽肉が余っていたのでそれを再度肉に戻してやれという事で試しにやってみたヤツだ。
肉を軟化の魔法で処理したあと結着剤の代わりに治癒魔法の応用で組織を結合。
圧縮と成形で完成ー!
以前にサイコロステーキの作り方を調べた事を思い出して興味本位で実行してみたが、思いの他上手くいったのだ。
『……信じられん事をする。肉を作ったのか』
そういう言い方をされるといけない物を作ったように聞こえるなぁ。
人間の肉体を作ったわけじゃないんだから、別に禁忌という事もないはずだが……。
『ああいや、そういう事じゃない。捨てる所を商品にしたのかって事で驚いたんだ』
『ああ、そういう』
『それほど難しくない魔法の組み合わせだがそう使うとはな。……イズミ、この方法を売るつもりはないか?』
『わざわざ買うんですか?』
『うちのギルドの財源になりそうだからな。解体所から出るクズ肉がそれなりの製品になるなら、かなりのものになるはずだ』
そう聞くと確かに価値はあるのか。
『いろいろ研究が必要だと思いますが。面倒ですよきっと』
『ま、そこは当然だな。肉の組み合わせなんかでも多少は味が変わってくるだろうしな』
『んー……別に好きに使ってくれて構わないんですけどね……』
『いやイズミ君。価値のあるものに対価は必要だよ。今回は主に情報という事で少しばかり事情は異なるが、タダで手に入るものだとしても価値があるものなら値をつけて取り引きするべきなんだ。後々で仕入れ競争になった際に先物として契約していれば確実に手に入る。売るほうとしてもタダで渡すより、いち早く値を付けてくれた取り引き相手を心情的にも優先したくなるものだしね。今回は大っぴらに情報を開示してしまったし当のイズミくんは気にしないと言っているが、仮にこっそり盗み見られて、それを使って儲けている所を見たら実際面白くないと思うんだがね』
『確かに面白くはない、ですかね……?』
そうなってみないと分からないが、確かにどこの誰とも知らない人間が明らかに情報盗んだだろってタイミングで大儲けし始めたら、んぁあ? となるかもしれない。
だとしたらログアットさんの提案に乗るのが賢明か。
『契約内容と報酬額はガルタ所長と相談してからになるが構わんか?』
『あ、報酬はお金じゃなくてもいいですか?』
『構わんが。何かあるのか?』
『オレの冒険者等級をあまり上げない事と指名依頼を出来るだけ避けたいというのは可能ですかね』
『ギルドと距離を置きたいのか? 今更な気もするが……分かった。それは請け負おう』
『この街のギルドはいいんですよ。問題は河岸を変えた時。いずれ避けられないとしてもなるべくゆっくりがいいんですよ』
『他に移った時に等級が高いと期待も大きくなるからな。お前さんの歳であまり高い等級だといらぬトラブルも呼び込むか。その上、厄介な依頼も断れなくなる場合もあるな。しかしそれだけでいいのか? 情報の価値からしたら釣り合わないと思うんだがな』
『そうですか? じゃあ肉の配分の研究情報とか下さい。ハーブ混ぜたりチーズ入れたりしたのとか実物と一緒に貰えると嬉しいですね』
『また新しい情報が出てきたんだが……そうか、あらかじめ混ぜ込むのもアリなんだな。分かった。いろいろ試してみよう』
『魚肉なんかもやってみれば、ってそれはすり身にしたほうがいいのか……? まあいろいろやってみて下さい』
『次から次へと……一度食い物の情報も吐き出させなきゃダメかこれは? ……まあいい。今はひとつひとつ順を追ってこなしていくとするか』
一度にあれもこれも手を出すと収拾がつかなくなるからねえ。
とまあそんな感じでいつの間にか食い物の話になっていたが、訓練優先を思い出したかのようにログアットさん達は騎士の練兵場へと向かったわけだ。
「僕も料理とか覚えたほうがいいんでしょうか……?」
「無理に今すぐ覚えようとかは考えなくていいと思うぞ。でもまあ色々と知ってたほうが、いざって時に困らなくて済む。それに何より美味いものを自分で見つけた時は楽しい。そういった知識があれば新鮮な食材に出会う機会も断然増えるしな」
山菜とか市場に出回らない貴重なヤツとかな。
「イズミンの場合、調理に魔法も使うから見てるとやってみたくなる。芸が細か過ぎてすぐには真似出来ないけど」
「なるほど……」
そう呟きを漏らしたセヴィの顔は感心したような表情だ。確かに面白そうな事なら興味が持てるとウルの言い分に納得したようである。
「ふむ……魔法の技術向上も兼ねて魔法を使った料理のカリキュラムも組み込んでみるか。食材の有効利用も覚えられるし、それがイイかもな。ま、それより今は剣の稽古だ」
表情を引き締めコクリと頷きを返すセヴィ。
その様子を見ていた他の皆はといえば何か聞きたそうにしている。
「アタシたちはさっきまでと同じ訓練でいいのニャ?」
あーそれか。同じメニューでもいいが……。
「そうだなー。折角広い場所が借りられたんだし、それを活かすのもいいかもな。丁度シュティーナが可能な限り全力で魔法を撃ち続けるって訓練に変えるから同じでいくか。自分の得意な魔法でもなんでもいい。とにかく全力の攻撃魔法を撃ち続ける事。リアも土槍とか使えるようになったし限界に挑戦してみるか」
「はいっ!」
「んニャー、それは了解したニャ。でもいいのニャ? 音とか衝撃とかすごい事になりそうな」
「それは大丈夫だ。ここに来た時から遮音というか衝撃なんかの振動の減衰結界を練兵場全体に張ってある」
「普通に非常識な事を既にやってたんですね……」
「森の訓練場の時は二十四時間探知結界でしたよ、お嬢様」
最低限の必要な措置だから抜かりはないぞ。
何故かこめかみを押さえているシュティーナは放っておくとして。
「狙う的をどうするかな。身代わり君ギガンティックでもいいんだが、それじゃ面白くないよな……。見た目のプレッシャーが凄いヤツに対抗するのに慣れておくのもいいかもなー。というわけでコイツを訓練相手にしてみようかね」
ズモモモ……と巨大な土の塊が動き出し、そしてその輪郭があらわになっていく。
「グォオオオオオーッ!!」
「ええぇぇえええッ!?」
それは誰の驚きか。全員の驚きであったかもしれない。
目の前に現れたのはドラゴン。
碧竜とも緑鱗竜とも言われる、やや黒味を帯びた緑の竜。
首を巡らせ尾を振り咆哮とともに、大地を踏みしめた巨大なドラゴンの姿がそこにあった。
「ド、ドド、ドラ、ドラ……」
ドラえ○ん?
あ、どこかで見たなこのネタ。
イルサーナが目を剥いて叫ぶ。
「ドラゴンッ!?」
「まさか召喚したの!?」
召喚したのかと問うのはカイナだ。しかし召喚ではない。確かにこういった造形物を依り代にして次元生命体を召喚する魔法も存在するようだが、これは違う。
ただのゴーレムだ。
めっちゃリアルな。
「安心しろって。単なるゴーレムだ。書物を参考にオレのアレンジを加えて立体化してみた。ミニゴーレムと同じだよ。彩色したゴーレム。今回はただの置物だから存分に攻撃してくれ」
「んニャ! すごい顔してこっちに歩いてくるニャッ!?」
「置物とは言ったがじっとしてると踏み潰されるぞー。攻撃してこないだけで普通に動くからな。あ、ジェンにはまだ早いか」
「で、ですねー……そもそも攻撃魔法があまり得意ではないですし」
その辺も追々なんとかしていこう。折角魔力が増えたんだから有効活用しないと勿体無い。
そんなことより。
「散開して攻撃、攻撃。ストレス解消だぞー!」
「逆にストレスにしかならないニャーッ!!」
泣き言は聞かない。反撃しない安心設計なんだから凄く良心的だろ。
それにこっちはこっちでやる事山盛りで忙しい。
ジェンの相手はリナリーとサイールーにしてもらうとして。
ラキは放置でいいかな。何かあればオレの所に来るだろう。
「さてと。じゃあ今までのおさらいと、あとは応用を中心に指南していくとするかね」
「あの、それはいいんですが……あれは大丈夫なんですか師匠……」
セヴィの目線の向かう先では、尻尾の振りに巻き込まれたシュティーナが「んきゃあぁあああ!?」とか叫びながら吹き飛ばされていた。
シュティーナだけでなく他の皆も時々尻尾にやられてる。
リアだけは距離が離れているのが幸いして被弾を免れてはいたが。
緑竜が振り向くときに尻尾が振り回されるのを避けられなかったか。動きだけで言えば結構早いからねえ。
「強化してるんだから見た目ほど痛くはないはずだ。というか攻撃じゃないんだから避けなきゃダメだろう」
全力で魔法攻撃というのに意識が行き過ぎて相手への注意が疎かになり過ぎてる。
オレのボーッとしてるのがいけないといった説明にセヴィは「は、はは……そう、ですね」と引き攣った笑みだ。固定された目線の先では「あ、また姉さまが吹き飛ばされた……」とリプレイのような光景が繰り広げられていた。
「話が違いますーッ!!」
シュティーナの叫びがこだまする。
確かに尻尾に当たり判定があるのは言ってなかったけど、予想と違う事なんてのは良くある事なわけで。
とりあえずだ。
頑張れ。超頑張れ。
ひどい難産だ……
おまけに書けもしないVRものが書きたくなるという、頭がとっ散らかった状態に(´・ω・`)




