第七十八話 仕込みの時間
「さて。今日から剣術と魔法の訓練を開始するわけだけど」
居並ぶ面々はといえば。
シュティーナ、セヴィーラ、トーリィ。そしてリアと白のトクサルテの四人とジェン。
ちょうど有給が取れたという事でジェンにも早速合流してもらった。
トーリィも実を言えば、今朝こちらに顔を出したばかりだと言う。
アラズナン家の広大な敷地の端。
林との境目にコテージを据えた事で、この間まで訓練していた場所と似たような景観になっていた。
言うまでもなくトイレは林の中に設置。
「……色々と言いたい事が山ほどあるのですけど?」
なんだろう。
その視線を辿るに、元の大きさでミニゴーレムを操作してリナリーたちと遊んでるラキの事だろうか。
それともそのミニゴーレムの事? テーブルの上に置いた魔宝石にも視線が向いていたな。
どれの事だろうかと首を傾げていると。
「全部です!」
「無駄です。シュティーナお嬢様。イズミさんにとってはこれが普通なんです」
トーリィが言うようにそういった報告は受けてるはず。だったらそこまでショッキングではないと思うが。
何故「普通って、普通って何……?」と表情が抜け落ちているのか。
さすがに事前情報なしは可愛そうなのでジェンにはラキが大きくなる事だけは伝えてあったが、目を見開いて口をあんぐりとして固まっていた。
セヴィーラは驚いてはいたが「すごい……!」とラキを見て何故か嬉しそう。
ちなみにシュティーナとセヴィーラの事は、本人たちから普通に呼べと念を押されてしまったので普通に呼ぶ事にした。
何でも聞くところによると教師とは違い指南役というのは、家格に関係なく上位の者として扱うからだと。アラズナン家の慣わしだという。強い者には従うってか。さては脳筋かな?
というのは冗談で、それ以前に既に魔法の技量によって上位者だという認識が覆し難い事実として刷り込まれてしまったらしい。
『この国の治癒術士が束になっても適わないような方を侮るなど在り得ません。あの凄まじい魔力量と精密な魔力操作。何より術後の姿が衝撃的過ぎて……』
どうも変な感じで畏敬の念を抱かれてしまったようで。
それも手伝ってか、オレから何かを教わるという事に抵抗がないようなのだ。
「まあ兎に角だ。まずは魔力量を増やそう。何をするにしてもそれからだ」
「え、魔力なんてそう簡単に増やせるものでは……」
「僕もそう聞いてますけど……」
シュティーナとセヴィーラの二人が揃って同じ反応をしたがどういう事だ?
トーリィから詳しく聞いているんじゃないのか。
「御館様からは何も教えるなと。何事も自分の目と耳で確認するのが一番だという事でして……」
「そういう事か……」
一連の反応はほとんど何も聞かされていなかった事が原因と。
イタズラが過ぎるでしょうよ。
~~~~
「理論を聞いてまさかと思いましたが本当に増えるとは……。魔石経由で無理矢理拡張というのが昔は一般的だったなんて思いもよりませんでしたね……」
「姉さま……僕のこの魔力の増え方って普通はどのくらいの期間が必要なものなんでしょう……」
シュティーナとセヴィーラの二人が、やや呆然としているが魔力が増えている事については嬉しいそうにしているのが伝わってくる。
「それにしてもこの魔石……魔石? にしてはあまりに高純度で大き過ぎて現実味がありませんが……更に加工しているのがなんとも」
「お嬢様、魔宝石ですよ。高純度で透明度が一定以上なら加工したほうがより多く魔力を留めておけるそうです」
ですよね? とトーリィが確認するようにオレを見る。
「だな。ちなみにこんなのもある」
無限収納から動物シリーズをいくつか出す。
「ッ!?」
「すごいっ! 師匠すごいですッ!」
シュティーナとセヴィーラでやや反応が違うのが面白いな。
いつのまにか師匠呼びしているセヴィーラだったが、まあ好きなように呼んでもらっていいか。
そこ。「相変わらず無駄にリアルなのが気持ち悪いニャー」とか言わない。
「ちなみに最低ふたつは携帯義務があるからな。ジェンもだぞ」
「わ、私もですか?」
「当たり前だろう。それでやっと最低限だ。仕込みがちゃんとしてないと美味い料理は出来上がらん」
「そんな……美味しく食べらちゃうなんて望むとこ、あだッ!?」
「教育に悪い」
ズビシッとジェンの頭に軽く手刃を落とす。
見ろ。リアとシュティーナが顔を赤くして反応に困ってるじゃないか。
それはそうと予想以上にセヴィの魔力が増えたな。増えた割合としてはリアよりやや多い。
といっても基の魔力量が同年代より若干大目程度らしく、リアのように明らかに多いわけではないようだが。
しかしさすがは成長期真っ只中。このままいけばどこまで増えるのか楽しみではある。
取り敢えず魔力を増やすのはここまでにして一旦休憩。
全員に魔力量拡張をしたが初めての三人はちょっとダルそう。
「ジェンも結構増えたな。メインが魔法じゃないにしても魔力はいくらでもあったほうがいいから限界まで増やす」
「え、これで終わりじゃ……」
「成長期過ぎてるからそう思うのも仕方ないけど今の三倍まではいけるぞ。それに一回で限界までいくのはちょっと難しいからな。近い事は出来るけど、それやると頭痛に吐き気にと、えらい事になる」
「なんか実感がこもってますね……」
そう言って引き攣った笑顔のジェンに「だから短期集中とはいってもオススメはしない」と付け加える。
「で、本題はこっちなんだが。ジェンは弓がメインだよな? オレのなかでは中、遠距離の物理職って割とレアだと思ってなぁ。この訓練が始まるまでの時間を利用してこんなものを用意してみた」
無限収納から出したのは小型のクロスボウ。
盗賊の使っていたものとほぼ同型のものだ。
要するに腕に装着するタイプのヤツ。
それと袖箭。
筒状をした串のような杭を打ち出す武器。
カテゴリ的には思いっきり暗器。面白そうだから作ってみた。
機械的に再現すると面倒なので、かなりの部分を魔法的に再現した一品。
「弓のほうはまだ分かりますけど、これは……?」
「暗器」
「あ、暗器……?」
「おっと、理由は聞くなよ。面白そうだから作ってみただけだからな。ちなみに使い方としては穴の開いてる方とは逆の突起を押しながら一定以上の魔力を流すと」
ドシュッ!
二十メートル程の距離にある木の幹にガスっと杭が突き刺さる。
「こんな感じで杭が飛び出してぶっ刺さる。装備の仕方としてはこんな風に腕に付ける感じだな」
ここで死蔵していたマジックテープがやっと役に立った。
機械的な構造ではないので、かなりスリムな仕上がりになった袖箭を、腕の内側に固定するためのベルトに使ってみた。
革製ではないから普段使いもそんなにストレスにはならないはず。
ちなみに本体の構造としては至ってシンプル。
本当に筒だけ。といっても発射機構のギミックは割と複雑かもしれないが。
尻のほうの構造は結構苦労してアイデアをひねり出したものだ。
二つの魔法陣が接触すると圧縮空気が爆発するようにした二つの部品の間に二、三周程度のバネを使ってみたり。圧縮空気で動くピストン状の部品が飛び出さないように筒の内側に溝を掘ってみたりと試行錯誤を繰り返した結果できあがった。
詳しい構造を説明しても女の子にとってはあくびが出るくらい退屈だろうから省くとして。
大昔の中国にもあったくらいの武器だからオーバーテクノロジーという程でもないだろう。
「よく思い付きますね……初めて見ました」
おや、そうなの?
ジェンが知らないだけかと思って他の皆の表情も確認してみるが、近い感じの武器も知らないといった風だ。
「飛び道具の暗器の話はあまり聞いた事がないですよねえ」
イルサーナの言葉にほぼ全員が頷く。リアとセヴィーラはそうなの? といった表情。
この二人は年齢的に知らなくても無理はない。というか知ってたら、それはそれで問題がありそうだけどな。
「この手の武器はあまり大っぴらには売らないだろうしな。下手すると一族の秘伝とかだったり門外不出の技術だったりする可能性もある」
「いいんですか? そんなのを私たちに見せちゃって」
「イルサーナは錬金術士だからそういのが気になるか。別にオレの一族の秘伝ってわけじゃないから気にしなくていいぞ。文献漁れば割と出てくる情報だ」
「イズミさんの言うその文献自体が貴重だって話なんですけどねえ……」
「んー、そうなるのか? まあそんな話は置いといてだ。こっちは弓だけどコレも腕に装着するタイプだな。盗賊が使ってたヤツを分解して違う素材で新規に組み上げた」
試しに腕に装着してみせる。
バシャッと一瞬でクロスボウが展開。これ見た時にカッコイイなと思ったんだよな。
どうよカッコよかろ?
「みんな、共感できないみたいよ?」
なんでじゃ。
気まぐれにこっちをふわふわと飛んでたリナリーの台詞の通り、みんな微妙な表情。
ま、まあいい。コンパウンドボウも候補にはあったけどカムやら何やらで構造が複雑だし連射に向いていないので今回は見送った。それに威力に関しては魔法で代用がいくらでも利く。代わりといってはなんだが即時展開のギミックだけは譲れない。威力重視なら魔法併用のコンパウンドクロスボウでも良かったんだろうけどな。
「主にミスリルを使ってるから、そう簡単には壊れないし精度も調整し直した」
「ミ、ミスリル?」
「ああ、そこは気にしなくていい。最低限の仕込みはするって言ったろ? 武器を用意するのはオレの役目でもあるし。まあ同じ系統の武器を使ってる人間の意見が聞きたいからって所だな。で、どんな感じか一応見てもらうと――」
木の幹を的にするにはちょっと派手な事になりそうだから土で擬似的な身代わり君を作ってと。
左手に束で握った矢を連続で撃つ。
ズドドッと星マークに撃ち込まれた矢を見て、クロスボウの仕上がりに我ながら満足。
よしよし。最小限の魔力のガイドでもこの距離なら狙った所に当たってくれるな。
「相変わらず予想のつかない使い方をするよね」
「あの時の盗賊より性質が悪そうな射撃速度だニャー」
「な、なんですか今のは……?」
何、とは?
カイナとキアラの後にシュティーナがそう言葉にした。
ジェンは弓と的を交互に見て目を丸くしてる。
するとトーリィが「あっ……」と声を漏らした。
「すみません、お嬢様……私が解説すべきでした……。基本的にイズミさんは無詠唱でなんでもします。あれは動かないようですがおそらくゴーレムの一種ですね。武器の使い方は、イズミさんだからとしか言いようがありません。今更ながらに気付いたのですが……どうやら私もイズミさんと長く一緒にいて色々と麻痺していたようですね……」
「「「「ああー……」」」」
なんか釈然としない納得の仕方だな、おい。
「あ、でも確か、お嬢様はセヴィ様の治療を間近で見たのですよね……? その時は違ったのですか?」
「そういえばそうでした……でもあの時は特別な治癒魔法という事で、そういうものかと思っていたのですが……。いえ、それ以上に衝撃的な光景でそれどころではなかったといいますか……」
その場に居なかったトーリィと白のトクサルテのメンバー、そしてジェンの表情からは「お前は何をやったんだ」と無言なのにはっきりと声が聞こえてきそうだ。
セヴィーラの目の治療をしたのが二日前。予想より早く訓練を開始する事になったからかは分からないが、急遽合流した様子のトーリィは彼の目が治ったという事以外は詳しい事をあまり聞かされていないようだ。
「ジェンが見たのより、ちょっとだけ血が多く出た」
「えぇ……」
あれより出たのかと顔を顰めてジェンが声を漏らした。
それを見て余計に何があったのかと他の皆からは気になる様子が見て取れるが、このままじゃ話が進まない。
「詳しく聞きたいなら後で話すけど今はこっちだ。どうだ? 今まで使ってたのとだいぶ違うけど」
事前に聞いたジェンの得物はいわゆる短弓というヤツ。
「うーん、どうでしょう……使ってみないとなんとも言えませんが……」
「使い易いように幾つか魔法的な補助もあるから使ってみて感想を聞かせてくれ。あとはだなー……こんなのとかも用意してみたぞ」
ごそごそと引っ張り出したブツをテーブルの上に置く。
「下着かニャ?」
「違う」
確かにスカートの下に着けるし、そう見えなくもないけど!
あれだ。ふとももに巻かれたベルトにナイフとか針とかが仕込まれてるヤツだよ。見た目で言えばリングガーターとかなんとか。
それをガーターベルトのようなものでずり落ちないようにしている形状のもの。
ふとももに巻くだけだと武器を入れると普通に落ちてくるんだよな。
ふともものふくらみを利用して足の付け根で巻いてずり落ちないようにというのも考えたけど、それだとパンツが見えるくらいたくし上げないと使えない。
かといって使い易い位置で落ちないように巻くとキツめに巻かなきゃいけなくなる。
素肌の上からだと重さもあって相当キツくしないといけない。
そんなわけで、ちょっと下着みたいな形状になったが決して下着ではない。
下着ではないから。
「こう、ふとももに武器を携帯してだな」
「……私を暗殺者にでも仕立てあげるつもりですか」
あれ。できる女をイメージしたらこうなったんだが。
女スパイってなんかそんな感じしない? なんか間違ってるか?
~~~~
「さて、どうしたもんか。一応敷地の中だから派手な事は出来ないからなぁ。……そうだな。キアラたちはミニゴーレムで遊んでてくれ」
「んニャ。了解ニャ」
「リアは宿にいる間、土を使った魔法が練習出来なかったから復習がてら土流壁と陶器造り」
「はいっ」
「ジェンはまだちょっとダルいだろ。魔法は使わずクロスボウと袖箭の使い方のおさらいだな。あ、ちなみに矢は今回サービスで百本用意してあるけど、失くしたり破損したら言ってくれ。一応イルサーナも作れるからどっちから手に入れてもいい。もちろんその時はお代は頂くがね。武器のほうはプレゼントしたけどオレがいない場合のためにも一応な」
「武器を貰っておいてそこまで甘えられませんよ。でもその……お値段のほうは、おいくらで?」
「所詮は消耗品だからなあ。二本で三百ギットとか?」
「安くないですか?」
「まああの作り方ならそんな感じかもしれませんねえ。出鱈目な一体成形ですからね。それにしても、あの木材の出処がイズミさんだったとは……! 私の行き倒れの原因の一端がイズミさんだったという事でお姫様抱っこしてください」
「毎度毎度、どうしてそうなる。我慢しなかったイルサーナが原因だろうが」
矢の作り方をどうするか話し合っていた際に材料にしようとしたものが、オレが市場に流した木材だという事がバレてからというもの、隙があればお姫様抱っこをしろと要求してくる。
「むう。イズミさんしかお姫様抱っこ出来ないのに」
「わかった、わかった。そのうちな」
緊急時でもなければ、正直ちょっと気恥ずかしいだろ。
「まあその反応だけでも満足なんですけどね」
ムフー、とつやつやした笑顔でおかしな納得の仕方だが、オレどんな反応したっていうんだ?
女子の考える事は良く分からん。
「とまあ、そんな感じのお値段だ」
「途中からおかしな流れになりましたが概ね了解しました。お姫様抱っこしてもらうにはイズミさんに貸しを作ればいいんですね」
「何を了解したんだ何を。下らない事言ってないで向こうに行って訓練してきなさい」
「「は~い」」
オレの体質も多少絡んでいるのかもしれないが必ず脱線するよな。
その遣り取りを見ていたシュティーナが思わずといった風に言葉を漏らした。
「クスッ、なにか父親みたいな感じですね」
「恋人すらいた事がないというのに」
「そうなんですか?」
「そう、今までずっと独り身で――って、オホンッ! そんな事はどうでもよろしい。シュティーナとセヴィーラとトーリィは、今後の計画の話を詰めよう」
苦笑しつつも頷きを返すトーリィ。
「分かりました。新学期までにお嬢様とセヴィーラ様、主にセヴィーラ様の剣術と魔法、でしたよね。と言っても今までのイズミさんのペースなら充分過ぎる期間だと思いますけど。強いて問題点を挙げるとすれば、学園の授業は全く役に立たないといった所でしょうか」
「ええ。この短時間でそれがなんとなく理解出来たわ……。特にラキちゃんが大きくなった所とか、ラキちゃんが大きくなった所とか」
ラキの事かよ。授業関係ないじゃん。
二回も言うとか犬の事で頭いっぱいか。
「お嬢様。ラキちゃんはあれが本当の姿です。白夜の一族らしいですよ」
「「白夜の一族ッ!?」」
セヴィーラも驚いてる所をみると白夜の一族の話は本当に有名なんだな。
「……でも姉さま。伝説と違って恐ろしげな感じはないですよね」
「……そうね。大きくても可愛い……」
どんだけ犬好きなんだ。
「イズミさんと一緒にいるというのが大きいと思いますけどね」
「トーリィが言うようにオレと一緒にいるからかどうかは分からんが、少なくても人間は襲わないな。冗談か本気は知らないけど人間は美味そうじゃないんだと。だから襲う意味がない。ましてや本気になるなんて事もな。まあ本気になったらすごいけど」
「ラキちゃんの本気を見た事があるんですか……?」
「一度だけな。今のオレでもギリギリ引き分けに持ち込めるかどうかって所だろう。いや、負ける確率が高いか。ラキは戦闘に関しては天才だからな」
「そもそも白夜の一族とまともに戦えるというのが普通ではないはずなんですけどね……」
「ま、でも他の部分は歳相応に全然子供だ」
トーリィの言葉に苦笑しつつラキに視線を移す。
白のトクサルテの面子相手にミニゴーレム対戦で無双してるラキは楽しそうだ。
にゃはーとかどや顔かましてる。
「話が逸れたな。魔法は基本的にトーリィが体験したのものをそのままなぞってみようかと思う。ある程度の所までいったら適性を見てそれに合った内容にしていけばと考えてるんだが」
「そうですね。最初から詰め込むよりはいいかもしれません」
トーリィがオレの考えに同意したという事で魔法の訓練内容は問題はなさそう。
こっちはこれでいいとして。
「問題は剣術だな。オレの剣技をそのまま教えていいのかどうか。この国の騎士の正規の剣術や剣技を差し置いてオレが教えていいもんなのか? 騎士の剣ってのはそれだけで其れなりの意味を持つと思うが……」
看板背負って立つ、みたいな。
「確かに騎士の剣技というのは地域の特性といったものを色濃く反映します。国への帰属意識という面でも重要かもしれません。ですが様々な流派が立ち上げられ消えていくのもまた事実です。土台になるものが似通ったものであるのは確かですが、その中で少々毛色の違ったものが混ざっていてもそれはそれで良いのではないですか? 強ければそれでいいという訳ではないですが強くなければならないというのも騎士にとっては重要な事ですから」
「片刃の剣技だから少々どころじゃないけどな。んー、応用が利かないわけじゃないから、いいのか? まあセヴィがいいと思うものを選べばいいか。カイナとトーリィがいるしこの国の剣技を覚えるのも問題はないといえばないからな。というわけでセヴィはどうしたい?」
「師匠の剣を覚えたいです!」
あら、即答。
「フフッ、イズミさん。それは選択肢があるようでないですよ。この場にいる皆さんが一番強いと認めている方から学びたいと思うのは当然だと思うのですが」
ああ、そういう観点からだとシュティーナの言う通りか。
じゃあまあいいか。
~~~~
「それにしても……気持ち悪いくらい精巧なゴーレムですね。何気にリア様も無詠唱で土流壁っぽい魔法使ったり食器をものすごい勢いで作ったり……かと思えば標的役になっていたはずのゴーレムが盾を持って矢を防いだり……どうすればこんな状況になるんですか」
「師匠……あんな事できる気がしないんですが……」
「大丈夫、大丈夫。出来るまで寝かさないぞ~」
ヒクっと引き攣った笑顔が姉弟で良く似ている。
にしてもミニゴーレムの感想が気持ち悪いってデフォになりつつあるなぁ。
「冗談だって。順を追ってやっていけば出来るようになる。リアはちょっと事情が違うけど、トーリィや他のみんなは二人と条件はほぼ一緒だけど初歩はちゃんと出来るようになったぞ」
不安気な表情であったがそれを聞いてそういう事なら、とホッとした様子。
「まあ、しばらくの間はとにかく魔法を使いまくる事。魔宝石への魔力補充はオレがやるから枯渇も気にしなくていい。よちよち歩きから立って歩くくらいになるまでは続けるからそのつもりで」
「こ、枯渇を気にしなくていいとは恐ろしい発言ですが……しかし、よちよち歩きというのは……?」
おや。もしかしてヒヨっこ扱いされたと感じたかな?
さすがにそこまで初心者ではないと。
「それについては私が――」
とトーリィがかって出てくれたので任せてみた。
肉体に例えた比喩表現ではあるが、ある面では比喩でもなんでもなく、一般的な魔力量では回復時間との兼ね合いで脳の最適化に時間が足りない事を説明すると驚いている様子だった。大量の魔力を一度に扱うためにも回数をこなすのが重要な事も補足していたが納得したようだ。
「学園では言及されていないものですね……。同じ肉体の事なのですから使用回数の制限という面から見ればなるほど、頷けますね」
「あの、師匠。僕は本格的な魔法はほとんど使えないんですが……生活魔法か初級魔法くらいがやっとで……」
「それも考えてあるから大丈夫だ」
リアと同じようなやり方で問題あるまい。
生活魔法以外が使えるのならリアより状況はいいくらいだ。
ちゃんとした魔法が使えないのを気にしているようだが変なクセが付く前にこの訓練が始められたのは、むしろ良かったんじゃないだろうか。
となるとやっぱりリアと同じように氷や火の球のイメージからか。それともリアとは違って剣技を修めるのだからそれに関係した他の系統、特に強化系の下地作りから始めるか。
応用範囲が広く何かと役に立つのは振動系だと思ってるけど……。
あ、そういえば。たいした事じゃないけど聞いておこう。
「ウル!」
呼べばトコトコとミニゴーレムと一緒にこちらに歩いてきた。
「ん、何?」
「共鳴晶石は完成させてみたか?」
「させた。思ったより魔力使ったからちょっと焦った」
あれ結構魔力消費が激しいからな。
振動系なら強化みたいな、言ってしまえば抽象的な魔法の入り口の訓練としてはなかなかイイかもしれない。
それはいいとして姉弟が変な顔してるけどトーリィから渡されてないのか?
数量的にそうだと思ってたけど。
「まだアクセサリーが準備出来ていないので、お渡ししてはいなかったのですが」
「も、持ってるの?」
「はい、お嬢様」
「次元が違うってそういう意味!? いくらなんでも使うアイテムのレベルが違いすぎるでしょう!」
「ね、姉さま落ち着いて」
なんかシュティーナの素が出てきた?
堅苦しいよりはずっといい。でも今はそれより別の事だ。
「一応参考までに白のトクサルテがどういう携帯方法にしたか聞きたくてな。イヤリング、ペンダント、ブローチ。指輪やブレスレットなんかの身につけるタイプか、オレみたいにプレートの取り出し型か」
「基本は小さいプレートにした。気分でいろんなアクセサリーに付け替えるタイプ」
「ほー、なるほどねえ」
うまい事考えたな。アクセサリーなんか普段使わないから正直そこまで気が回らなかったわ。
オレの場合スマホ感覚で使うから余計に宝飾品として扱う意識がなかった。
「それいいですね……私もその案でいきましょうか。それなら御館様やお爺様もブローチやタイピンなどで気に入った物を使って頂けるはず。うん、いいですね。お嬢様もセヴィ様もお好みを仰って下さい。ご用意いたしますから」
「え、うん。わ、分かったわ」
「トーリィ、僕の歳でアクセサリーって変じゃない……?」
「そんな事はありませんよ。プローチやブレスレットなら正装の場でなら普通ですし、紋章などを指輪に施して身につける場合もあります。いずれにしても真紅の石はセヴィ様にとてもお似合いのはずです」
「うん。そういう事ならトーリィにお願いするね」
「はい」
ニッコリと笑って頷くトーリィは本当にうれしそうだ。
訓練が始まる前の感謝のされようから察するに、こんな何気ない遣り取りすら今までなら出来なかったんだろう。
「それにしても……驚く事があり過ぎです。一日にこれだけ驚いていたら身がもちません……まさかもうないですよね? 何故ふたりとも目を逸らすの」
トーリィもオレも思わず目を逸らしてしまった。
「シュティーナ様。こんなのはまだ序の口」
「まだあるんですか!?」
ウル余計な事は言うな!
~~~~
これ以上のネタは勘弁してくれと言わんばかりのシュティーナ嬢に慮ったわけではないが、取り敢えず魔法の軽い訓練をする事にした。
結局の所、最初はリアの時と同じように氷の球と火の球のイメージの訓練がいいかなと。
トーリィも最終的な目標がアレでナニな魔法習得というのを掲げているので一緒におさらい。
「トーリィは最初は二人の魔力の流れを観察してみてくれ。普段を知っているなら最初はオレより的確な助言が出来るかもしれない」
「分かりました」
前回のように火の球からではなく氷の球を最初にもってきた。
二人が集中していると、しばらくして変化が起きる。
ゴトっと鈍い音とともに氷が転がる。
ウソだろ一発かよ。
シュティーナではなくセヴィの手の間から氷の塊が落ちたのだ。
「「え……」」
姉弟がともに驚いているが微妙に種類が違う驚きなんだろうな。
一度で出来るものではないとの説明だったのに何故出来たのかというものと。
自分でも訳が分からないといった驚き。
セヴィの適性にも驚いたがシュティーナもなかなかの才能だ。
ミニゴーレムの操作を経てないのに十回ほどで具現化させたのだ。
イメージの訓練だけのつもりだったんだけどなー。
休憩中は雑談だけなのも時間が勿体無いと感じて、オレ自身はその時間を鍛錬にあてた。
本格的な稽古はまだ先だと考えていたのでセヴィには暇つぶしに見たければ見ててもいいぞと。
見るだけって言ったはずなんだがなあ。
休憩後に感想を聞いてみると。
「すごく綺麗な型でした! 特に最初がカッコイイです!」
そんな事を言いながらほぼ完璧に再現してみせたのだ。
うーん、天才かな?




