第六十九話 再現の成功と失敗
「いきます……ッ! ――やッ!!」
そんな、ちょっと可愛らしいリアの掛け声とともに、足元の地面が盛り上がる。
約三秒から五秒といったところか。
実際に魔力を使って畳二畳程度の大きさの土の壁の構築に掛かった時間だ。
壁の厚さは二十センチと、なかなかの仕上がり。
「上出来。ほんの数回目でこれなら、実戦で使用可能になるまで、あと少しだな」
「はい!」
幻想の雫の話題で盛り上がった、かどうかは判断に迷うのでさて置き。
その日から二日目。
昨日一日は修行組のメンバーと一緒に、泥遊びと気分転換のミニゴーレム遊びで魔力の操作をガッツリと行った。
本人たちは半分遊んでるような感覚でやっていたようだから、それほど苦痛を伴った修行という事にはなっていないはず。
「あの、イズミさん」
「ん?」
「土属性、えっと大地系統の魔法が実戦でとても有効だと仰っていましたが、具体的にはどのような魔法があるのですか? 書物で読んだもの以外にも沢山あるというお話でしたが」
「オレが言ってるのは、そんなちゃんとした魔法の事じゃないけどな。どっちかというと小手先の技に近いものが多い。まあ、書物に書かれたような魔法も派手でいいけど、もっと使いようがあるはずなんだよ。大地系統は」
リアが今やって見せたのは『土流壁』。
その上位にあるのが『岩砦』。
用途や規模で分けて『城塞』や『岩壕』など。
溝状に土を掘る『塹壕』なんかもある。
実を言うとコレ、同じ魔法だったりする。
規模や材料が違うだけで同じ防御系の魔法なのだ。
詠唱で発動すると材料や規模、それに形状が最初からイメージによって固定されているので違う魔法と認識されているらしい。
堅牢化、大規模化していくにしたがって、消費される魔力量が増えるのだが、その事が上位の魔法であると云われている要因だ。
半自動でやってくれるなら便利と言えなくも無いが、色々な点で自由にならないのは、使い勝手としてはどうなんだと思ってしまう。
リアに関して言えば、その辺の制限はないのでイメージ次第なわけだ。
で、そのイメージ次第では大地系統の魔法というのは、かなり優秀な部類だと個人的には思っている。
何故かと言えば、あまり面倒なイメージがいらない。
何処にでもある地面が魔法で使う材料なのだから、わざわざ作り出す必要がないのがいい。
言ってしまえば、見えているものの形を変えるだけで魔法として成立してしまうからだ。
とはいえ万能ではないので、よりイメージが重要になってくる。
「例えば『土槍』だと、地面から円錐状の槍を作り出して敵を攻撃するわけだけど。結構難しいんだよな」
地面の一画に土の円錐をズモモっと作り上げる。
「このままだと、攻撃力はほとんどない。せいぜいが体勢を崩したり移動をしにくくしたりと、嫌がらせ程度だ。水分を抜いたり硬い石や砂を先端に集めて圧縮して、やっと攻撃に使える。結構、簡単に見えて工程がいくつかあるんだよ。尖ったものというのは根源的な恐怖に結びつくから、その点では優秀な魔法なんだけどな。ただ、同じように足止めが目的なら、土の波を作り出してもいい。ドルーボアがよく使うが、イメージの簡単さと魔力のコスト的にかなりお得だ」
地面に手を置き、小さな土の波を作ってみせる。
捲り上げるように土砂を動かす様を見て何かに気付くリア。
「土流壁に似てますね」
「そういう事。ちょっとしたイメージの違いで、恐ろしく応用が利くのが大地系統の魔法のすごい所だ」
「なるほど……」
「あとは、そうだな。こんなのとか」
土柱の先を掌の形状に変化させ、地面をバンバンッと叩いてみた。
ついでにピースサインやサムズアップの姿に変化させたり。
「これを発展させていくと、ゴーレムの技術の基になる」
「こうやって実演していただくと、その汎用性の高さが良く分かります。他にも沢山あると言ったのは、魔法の種類として存在するのではなく、イメージで如何様にもなるという事を仰っていたのですね」
「そういう事だな。極端な話、それ次第でなんでも出来る。が、魔力と想像力で限界が決まってくるのも他の系統より顕著だ。ついでだから色々と見ておくか? 見ておくのも勉強のうちとはよく言うぞ。それだけでも後々、役に立つ場合もあるし独自の魔法を構築する時に目安にはなる」
「是非っ! いっぱい見たいです!」
とりあえずは口頭で、木の足元の土を掘って木を倒したりすれば、敵から身を守れるだけでなく伐採にも使えるとか。
実演では、水系統と合わせて使う沼地の中から巨大な泥足だけ出して地面を踏みつけてスタンプとか。
巨大な犬○家状態の足がドッタン、バッタンと。
ダジャレのつもりはなかったが、何より絵面がものすごいシュールだったな……。
他にも石英の粉や硬い砂を風に飛ばして目潰しにも有効だと、風に舞わせて説明したり。
その砂を動かすだけでも色々と出来るという事でいくつか追加で実演もした。
「砂地が怖いと思った事はありませんでしたが、こうして目の当たりにすると、かなり危険なのですね……。細かな振動だけで重い岩が引きずり込まれたり、砂を一点に集中させて吹き付けるだけで穴を開けてしまったりするとは思いませんでした」
「今みたいな魔法に対処するためにも、自分が今どんな場所にいるか把握するのが基本になる。でも案外と疎かにもなり易いのも確かだ。それはそうだ。移動中に、常に自分の周り全てに気を配るなんてのは難しい。だからこそ、そこに何があるか、何が利用出来るか。その判断が早ければ戦闘を有利に進められる可能性が高くなる。それに魔力の節約にも役立つ」
「最速の状況判断を常に求められると……。戦う心構えというものは厳しいものなんですね……」
「オレも常にそれが出来てるワケじゃないけどな。ま、その代わりに索敵魔法を展開させてるとも言えるか。そうだな……それも、これが一段落したら龍脈の魔法陣と一緒に講義をすすめよう。察知系統と龍脈の操作は僅かだが、関連している部分もあるから」
「はいっ」
「じゃあ、今までの続きから……と、どうしたウル」
「ゴーレム操作の練習してたら、また見たこともない変な魔法が使われた」
あれだけ色々とやってたら、やっぱり気になるか。
随分と疲れているようなのに魔法の事となると別腹とかすごいな。
「他にはない?」
「他? 在るといえば在るな。でも大地系だけじゃなくて他の系統との複合が多いぞ。それに作ったはいいけど、使い所とか何にも考えてねえし」
「いい。やって」
「リア、ちょっといいか? ウルが色々と見たいんだそうだ」
「構いませんよ。土の制御の練習を続けますから私のほうは大丈夫です」
「あー、じゃあ制御しながら見とくといい。並列処理も何かと経験にはなるはずだから」
頷くリアが土流壁を作り出し、それを基に形を変化させる事にしたようだ。
速度のほうはまだまだだが、既に自分流にアレンジしてる所を見ると本当に魔法が使えなかったのかと思いたくなるくらいに呑み込みが早い。
そんなリアもオレが何をするのか興味はあるようで、大地系魔法を制御しながら期待した視線を向ける。
単なる思い付きの魔法だから、そんなに期待するもんでもないんだけどなあ。
「とりあえずは、こんなのとか」
先程の穴を開けた岩に向け、水流を細くして極限まで勢いを高めたもので岩を切り裂く。
魔法で再現した、いわゆるウォータージェットカッターというヤツだ。
「掌握エリアで滞空してる時は『水流』なのに、違うものが飛び出した。それに大地系魔法は?」
「ちゃんと使ってるぞ。と言っても微細化した硬い砂の粒を混ぜて使ってるから、一見、そうは見えないんだけどな。一応解説すると砂だけ、水だけでも同じ結果は得られる。でも混ぜたほうが不思議とコストが掛からないから複合にしてみた」
研磨剤の役割として硬質の粒子を水と一緒に吹き付けたのだ。
ちなみに、いくら圧縮して水を極細に噴射だけしても、魔力なしでは攻撃に使えるほどの威力は得られない。
距離が離れれば、あっという間にその威力をなくすからだ。
ゼロ距離なら切断も可能だが、それだったら別の手段がある。
ところが魔力を纏わせる事で、かなりの距離を切り裂く事が出来るようになる。
しかし、そうは言ってもレーザーブレスには適わないし、射程距離も中途半端なので使いどころが難しい。
全く研究してないというのもあるが、どうもその意欲が湧かないんだよ。
「まあそれだけの魔法だな。斬るだけなら刃物を使ったほうがコストが低いしオレとしては、あんまり使い道のない魔法なわけだ」
「私からしたら、風系統以外の可視化された切断魔法は結構便利だと思う。それに周囲への影響を最小限に抑えられるなら充分ありだと思うけど」
「あー、なるほど。せまい場所で火炎系はもっての他だし、その手の場所だと風も意外と扱いが難しくなるよな、そういえば。他にも森や草原なんかだと、冬は特に延焼しないように気をつけなきゃいかんだろうしな。そうなると剣士の斬撃や弓のような攻撃は魔法使いにとっては、逆に使い勝手がいいって事か」
「そう」
面白いな。
立場が変わるとホントに価値観がガラっと変わる。
オレが価値を見出していなくても、他のみんなにとってどうかは分からないという事か。
そりゃあ、いろいろ聞きたくもなるわけだ。
「反対に狭い場所で、一網打尽に出来る超低コストな方法も大地系が絡んでるか」
「そんな方法があるの?」
「ちょっと結界内でやってみるか。実を言うとオレも実演は初めてでなあ。上手くいくかは分からないが――」
直径十メートル程度のドーム状の結界を作り、その中を可燃性物質の微粒子で充満させる。
魔力で燃えそうな物質を探査、粒子化して空気を動かし密閉空間内に均等にバラ撒くのだ。
ここまでやれば分かる通り、粉塵爆発を意図的に起こそうというわけ。
「結界の中が埃だらけになったけど、これはどういう効果? 毒?」
「そういう使い方もあるか。それもいいけどコレはもっと直接的なものだな。点火っと」
結界内にほんの小さな火種を発現させたと同時に大きな爆発が起こった。
おおっ! 上手くいった。
意外と威力があるな。あの地面の抉れ方を見ると、適当な結界だったら吹っ飛んでたぞ。
「「ッ!!」」
ウルもだが、離れた所で見ていたリアも息を飲むのが分かった。
予想しない爆発が間近で起きたら、そうなるわな。
「……凶悪。結界以外にたいして魔力を使わなかったのが特に」
「な、なんですか今のは……?」
驚いた様子のリアが小走りに駆け寄ってくる。
ウルがまず気にしたのは魔力の使用量だったようだが、リアと同じく何が起きたのか問う目をしている。
「鉱山なんかで爆発事故が起きたりするのを聞いた事ないか?」
「あ、ありますが……」
「あれって、そういう事だったの?」
まあ、今回の爆発は厳密に言うと粉塵爆発とはちょっと違うかもしれないが。
火種は小さなものだが、付近の可燃性物質に連鎖的に着火するようにしたものだ。
なので、粉塵の濃度は割と適当。
魔力で爆発の威力も増してるし魔法ならではの粉塵爆発ってわけだな。
「それを魔法的に使ってみようと思って考えてたものだけど、意外とうまくいったな。理屈としては、小麦粉みたいに非常に細かい可燃性の粒子が一気に燃え上がった状態って感じか。あとは魔力で無理矢理に連鎖発火を促したのが決め手かな?」
「鉱山の事故がそんな仕組みで起こっていたのですね……」
「意図的に再現して攻撃に転用するためには、仕組みを理解してなきゃ無理なのに何故知ってるの?」
「ロウソクの火に小麦粉を吹きかけると勢い良く燃えるのが面白くてな。子供の時に良くやってた」
「子供の遊びにしては物騒過ぎる」
ブロアの先に小麦粉を詰めて、バーナーに向けて噴射するよりはいいと思うんだ。
あの時は予想以上に落ち葉に燃え広がって、どうしようかと思ったわ。
「こっぴどく怒られたけどな。まあ要するに可燃性の細かい粉と気流の操作が出来れば、あとは火を着けるだけ。特に同時にやる必要はないから複合とはちょっと違うかもな」
「知っていれば子供でも再現可能とか危険過ぎる」
言われてみれば、そうなるのか。
初歩的な生活魔法でも、やろうと思えば出来てしまう。
今のリアじゃなくて会ったばかりの時のリアでも、可能なわけだ。
「リアもやってみるか?」
「わ、私ですか……?」
「何事も経験だぞ。成功しても失敗しても、経験からしか得られないものってのは割と多い」
「悪魔の囁きが聞こえる。それらしい正論を説いて、若い子を引きずり込むのは悪魔のやり口」
「人聞きの悪い事を。というかな。一回はやっておかないと、いざという時に何も出来ないぞ」
「……むう」
その点をよく分かっているようで、ウルも唸るだけで強硬に反対しようとはしない。
確かに十代前半のご令嬢に教える事としては、どうなんだと思わなくもない。
しかし実際にリアは危ない目に遭ってる。いつ何処で何の役に立つか分からないのだから、覚えておいても損はないだろう。知識は邪魔にならない。
困ったような笑みを浮かべて、オレ達の遣り取りを見ていたリアだったが挑戦してみる事にしたようだ。
簡単な再現ということで、小麦粉でいいだろう。
というか小麦粉のほうが簡単に手に入るのだから、小麦粉のほうがいいよな。
一応の安全対策としてオレが大きめの結界を張り、その中で自由に小麦粉を気体操作で撹拌、そして一定範囲内に充満させるように促した。
初歩の送風の魔法でもいいが、ついでだから空気を動かす感覚を間接的に体験してもらおうか。
小麦粉も自然界の物質なのだからという理由で、無理矢理、土と同じカテゴリーに分類されているものだと説明し納得してもらう。
いや、洗脳とかしてないから。
やや強引だと思わなくもないが、地面に小山を作っていた小麦粉を舞わせる事には成功した。
それを魔力を通した状態のまま空気と一緒に撹拌する。
こうする事で小麦粉の周りにある空気も、魔力で自然と操る事になる。
視覚的にも分かり易いし、これは風系統の魔法を練習する時にいいかもしれない。
オレもイグニスに教わった時は土煙を利用したりしてたし。
まあ今回は燃やすから仕方ないとして、風系統の練習時に小麦粉は勿体無いから何か別の粉末を用意しよう。
「ふむ。そろそろいいんじゃないか。近くの煙に点火してみるか」
「は、はい」
結界越しではあるが、さっきの爆発を見ているせいで若干、緊張の色が見える。
意を決したように口を引き結んでから『着火』と唱えた。
チリチリッと導火線が燃えるような音が一瞬したかと思うと「ドフッ!!」と大きな音と共に燃え上がった。
リアが自分で考えて工夫したのか、火種を少しばかり飛ばした事で連鎖させたのと同じような効果があったようだ。
「出来ましたっ!」
振り向いたリアの顔は驚いているような嬉しいような、そんな表情だった。
「おー、上出来、上出来。すごいな」
腕組みをして見ていたが、軽い拍手とともに称賛の言葉が自然と出た。
ウルもオレに倣ってか「おー」と感心しつつパチパチと手を叩いている。
そんなウルにも続けてやってみては、と。
「ん、やってみる」
リアと同じ手順を繰り返すが、あっという間にあとは着火するだけとなった。
さすがに魔力を動かす事に慣れているだけあって、リアよりも早い。
そしてリアと同じく『着火』と唱え発動。
ドフンッ!! と、リアの時より若干ながら規模が拡大して見事に燃え上がった。
「「おー」」
パチパチパチッとリアと二人で拍手。
ウルは握り拳をグッと腰の辺りに引いて、「よっしゃ」といわんばかりのポーズを決めていた。
「やってみてどうだった」
「やっぱり凶悪。魔力消費は同じ規模の火炎魔法の十分の一以下だし、やられるほうとしては何をやってるか分からない。目くらましの煙かと思ったら爆発するとか悪辣にも程がある」
「ですね……本当に初歩の魔法の組み合わせ程度で出来てしまうのがなんとも……」
ウルも非難しているわけじゃないが、組み合わせだけで、こうなる事に何かを言いたいんだろう。
リアもどう言っていいか分からないのか苦笑気味だ。
「まあ無駄にはならないって事で。良さげな風魔法の修練法も思いついたし」
二人は、そういう事ならと何となく納得する事にしたようだ。
そんなこんなで、他に大地系統魔法で何かいいのがあったかなと考えているとラキがリナリーを引き連れて駆け寄ってきた。
「わふっ!」
ラキが尻尾を振りながら近寄ってきて、その場でクルっと回りオレを見上げる。
何かをお願いする時の仕草だ。
「ん? ラキは何がしたいんだ?」
「今、みんながしてた事をしたいみいよ。何か似たような事が出来るんだって」
なんだろう。オレの知らない技だよな。
記憶をほじ繰り返しても、該当しそうなものがない。
「とりあえず大き目の結界か?」
「わふ!」
「強めで」
「了~解」
結界の中心に向かってご機嫌でトテトテと走っていったが何をするつもりだろう。
「わふっ!」
「はじめるよ~! だって」
結界の中心に陣取ったラキが子犬の姿から本来の姿へと戻った。
四本の足に力を入れて構える様子からは、まだ何をするかは分からない。
「ウォウッ! ウォオンッ!」
その遠吠えのような声と一緒に濃い魔力が辺りを覆う。
いや、魔力だけじゃなく何か細かい粒子も一緒に散布されている。
キラキラと光っているのは何だろう。
その粒子がラキからやや離れた数箇所に集まっていくにつれ、一層キラキラと光を反射している。
ラキを中心に円状に配置されて……?
んん? まてよ……これはもしかして……。
そんな事が頭をよぎった次の瞬間。
ガチィンッ!!
と歯を打ち鳴らす音が響いた。
するとそれを合図に周囲の粒子だまりが……。
ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ!
と連続で爆発していった。
時間差で結構な時間、爆発してたけど……。
まんまアレじゃねえか。
某ハンティングゲームのライオンに似たヤツ。
ご丁寧に牙で着火も再現しちゃってるよ。
なんでラキが知ってる? 確かにそのゲームの事は色々と話はしているし、そういうモンスターがいるのも教えたが、具体的にどんな技かは言ってなかったはずだぞ。
「わふっ!!」
どう? って、そんな「にゃは~」みたいな顔されても。
なんで知ってる? としか言えないんだっつーの。
「いつ覚えたんだ、ラキ」
「わふ」
「(イグニス様に、イズミの記憶の中から面白そうなものを見せてもらったんだって)」
「……そういう事かよ」
リナリーが耳打ちしてくれたけど、脱力するわ。
オレの記憶をいいように使ってるなあ。……楽しそうだから別にいいけど。
でもそうなると、ラキの魔法で何が飛び出してくるのか益々分からなくなってくるぞ。
何せ、オレの記憶をもとにイグニスが好き放題アドバイスしてるだろうからな。
「綺麗なんだけど何故か怖かった。キラキラが爆発の合図だと思うと」
あ~……確かになあ。ウルのその気持ちも分からんではない。
ゲームの時に一瞬パニックになったのを思い出した。
初見の時に何が起きたのか分からずに、武器を出したり仕舞ったりして動揺しまくった記憶がある。
……そんな話はいいか。
「とまあ、あんな事も出来るわけだ」
ウルリーカさん、おひとつどうですか?
「あれは無理」
ですよねー。
牙の火花で着火とかどうなってんだ。
金属で出来てんのか、その牙は。
~~~~
「……いったい何をやってたのニャ? 爆発に拍手して、また爆発って意味が分からないニャ。魔法かと思ったらほとんど魔力を使ってなかったし」
ゴーレム操作後の休憩中、ラキにマッサージされていた他のメンバー。
疲れて動けない中、いきなり結界内で爆発して何事かとなったらしい。
様子を伺っていたら、何やら拍手したりしておかしな事になっていたと。
最後にはラキが駆け寄っていき連続爆破とか。
「最後の以外は誰でも出来る」
ウルが何をやっていたか説明するが、ラキの実演は不明な部分もあるため敢えて省いている。
それを聞いたメンバーは何とも言えない、といった表情。
「……なんでそんな事を知ってるのかもそうだけど、何を思ってそんな節約魔法を考えたのか、すごい不思議」
「そこはカイナに同意ですねえ」
「いや、何も考えてないんだが。単に再現出来そうだなあ、と」
カイナとイルサーナが不可解なモノを見るような目をしている。
そんな目で見てもホントにそうなんだってば。
「イズミはそんな感じなのニャー。その再現の関連で超硬質レンガとか作ってたしニャ」
「うちのお館様は建材部門の増収が確実だと仰ってましたね」
この前、帰宅した時にトーリィにそういう話があったのかな?
リアはその話を誰からも聞いてなかったみたいな感じだな。
「他にもわけの分からない事してたんだ……」
カイナも聞いてなかったのか。
レンガ造りは分かり易いと思うけど。
しかしまあ、みんなが不思議がるのも仕方ない部分もあるのは確かだ。
ほとんどが日本に居た時の知識と、膨大な脳内のデータベースによってだから、そりゃあね。
こちらで解明されてないものが、むこうでは既に周知の事実になってるものばかりなんだから。
しかもイグニスの余計な入れ知恵、じゃなかった。補足も余す事無く入ってるからな、オレのデータベースは。
とにかく。ウルの説明で理解してるみたいだし、せっかくだからという事で。
「みんなやってみるか? カイナ」
「……今はいいかな。仕組みは分かったし。手本が必要ならウルにやってもらうから」
疲れてるからなのか乗り気じゃないなー。
「なんだ。結構、楽しいんだけどな」
「……今、分かった。イズミンは楽しいか楽しくないか。ウケるかウケないかだけで動いてる」
だけじゃねえよ。ていうか芸人? ウルの中では芸人なの?
そんな行動原理じゃない。と思う。
だよな?
「「……」」
何故、じっと見る。
リナリーさん? サイールーさん?
なんなの、その「だよね」とか「やっぱり」みたいな顔は。
……まあいい。
それよりラキに聞きたい事あったんだ。
「ところでラキ。あのキラキラしてたのは?」
「わふ?」
コレ? とでも言うように無限収納からミラーボールみたいな塊が出てきた。
魔力でまとめてあるだけで何かの集合体?
何だコレ。
「魔石の粉だって。使い道があんまりないヤツを集めたみたい」
ふむふむ。キラキラの正体はクズ魔石を利用したものだったか。
リナリーの口ぶりからすると、里で使い道のない魔石の粉を貰ったかな?
自分で噛み砕いて粉にしてる可能性もありそうだけど。
「火炎系魔法の発動前の魔力を口の中で粉に染みこませたんだって」
なんだその精製の仕方。
ていうか結果だけ見たら火薬じゃねえか。
いいのかそれ。
「イズミは敢えて使わないほうを選んでるんじゃないかって」
イグニスがそう言ったのか。
別に銃が嫌いな訳じゃないけど、今は積極的に使おうとは思わないな。
剣と魔法の世界で、まずはそれを楽しまないのは損だろう。
銃がなければ面倒くさい、みたいな事態になったら作らないとは言い切れないが、まだその気はない。
それに魔力障壁のあるこの世界でどれだけ銃が役に立つのか分からないというのもある。
誰かが既に作っているかもしれないし、正直どうでもいいという感覚が強いのですよ。
オレ自身にはレーザーブレスという夢の近未来武器があるから余計にそう感じてしまう。
「なんの話ニャ?」
「ん? これを発展させないのかって話だよ。使い道はいくらでもありそうだからな」
「んニャ?」
まあ気にするな。
かんしゃく玉とかウ○コ花火とか作れないかな。
ドラゴンを口に咥えてドラゴンの真似、とかラキならやってくれそうだ。
オレはやらない。
咥えたまま呼ばれて思わず振り返って、なずなに張り倒されてからは絶対にやらないと決めている。
盛大に話が逸れたような気もするが、リアの役には立っただろうか。
「リアとしては色々と見てどうだった?」
「イズミさんとラキちゃんはすごいな、と」
あれ、そういう感想?
すごいと言われて悪い気はしないがね。
「あ、いえいえっ。本当に想像力次第で何でも出来るのだと驚きました。必ずしも大魔力が必要ではないという事も目の前の霞が晴れたような感じです」
ふいに出たものとは違い、今度は真剣に考察として言葉にするリア。
自分で言うのもなんだが、普通に魔法を習ってたら、まず知りえない事だろうからな。
何にしても、リアにとって無駄にならない時間を過ごしてもらいたい。
当然、他のみんなも。
~~~~
「色よし! 形よし! 魔力成分よし! 今度こそいける!」
夜中の二時過ぎ。月の傾きからなんとなくそう判断。
オレ、リナリー、ラキ、サイールーの四人はコテージから離れた作業スペースにいた。
「フッ、フフフッ、手に入れたぞ……とうとう手に入れたぞ! 悪魔の力を!」
「大げさな」
「オレは……ッ!! デビ――」
スパーンッ!
「言わせないよ!?」
痛ひ。
そのハリセン痛いよ。
「冗談はさておき」
「ネタに走ってたでしょうよ」
良く分かったな。デーモン族のア○ンに変身しようと思ってた。
「そういうのラキちゃんが真似するの。あとで困っても知らないからね?」
「おう! どんどん変身しろ!」
「わふっ!」
「ダメだこれ。テンション上がり過ぎておかしくなってる……」
「ものすごい集中力で材料の選別してたからね。まあ、大目にみてあげなよリナリー」
そう。リアをメインにした魔法の講義を夕方には終わらせたオレは、キャスロの素材の選別に取り掛かった。
みんなには自由に過ごしてもらったが、話題は専ら魔力を節約した魔法について。
あーでもない、こーでもないと組み合わせ次第で何が出来そうかなど、色々と意見を交わしていた。
閲覧自由である魔法陣の本からも何かないかと、みんなでわいわいとやって楽しそうに。
何か意見を求められれば対応するつもりでいたが、何故か誰も聞きに来なかった。
「目が血走ってたから」
ん、ん~。そうか声がかけられなかったからか。
おかげで集中出来たのは確かだ。
そして、その成果を今!
「それでは実食ッ!!」
これだ、この味だ。
神域にいた僅かな期間だが、口にしていたものだ。
そんな心配そうな顔しなくても、今回こそ大丈夫だぞ二人とも。
ラキを見習え。「平気? 平気?」と心配とは違った好奇心に満ちた目をしてるぞ。
一分、二分……五分間何もない。
「よっしゃ! 成こ――ふぬぁッ!?」
ぐおおお、時間差だとッ!?
しかも、ものすごい超特急!?
やばい、考えてる暇なぞない! 走れ!!
くそ! 空気が壁のようになってやがる!
邪魔するなあああーーッ!!
~~~~
「だ、大丈夫……?」
「お、お尻痛い……」
作業スペースに戻ったオレは、その場で力尽きた。
その姿があまりに哀れだったからか、顔を赤くしながらもリナリーは患部に治癒魔法を施してくれた。
ラキはうつ伏せに倒れたままのオレの腰の上に乗って、ふにふにやってる。
や、やめて……心配してくれるのは嬉しいけど、ふにふにのリズムで鈍痛が。
かと思えばサイールーは顎に手を当て眉を寄せて、難しい顔。
「やっぱりダメだったね……」
待てサイールー。
今なんて言った?
「どういう、事だ?」
うぐぅ、喋っても痛い。
「えっとね。今、試食したのはランケの実を蒸して絞り出した油を使ったキャスロだよね? たぶんホムの実のほうが良かったんじゃないかなーって。成分分析の結果だとそっちっぽいんだよね」
「そういう事は早く言ってくれッ! ぐぅ……」
さ、さすが研究畑の妖精。オレより分析の精度が何倍もいいみたいだ。
でも、それならそうと言って欲しかった。
痛いよー。
「ほとんど違いが無かったから誤差の範囲内なのかなーって。結構シビアだよね……。軍事物資って言うくらいだから、もしかして誤差が許されてないのかな?」
在り得る……。
何せ、レシピをいじれば他にも応用が利くらしいから、逆に間違いが許されない場合も考えられる。
「それにしても……そんな所に魔力傷を負うなんて初めて見た」
サイールーが言うくらいだから、かなりすごい事なんだろう。
不名誉だわ!
魔力傷。
高濃度の魔力に晒されて負う、火傷のような擦り傷のような怪我。
これがそうか。
リナリーがずっと治療してくれてるはずなのに、ホントに少しずつしか治ってない。
幸い今の騒ぎはコテージの中には聞こえなかったようで。
ラキが物理結界、リナリーとサイールーが二重の遮音結界を咄嗟に張ってくれたらしい。
心から、ありがとうと言いたい。
オレのこんな痴態が晒されなくて良かった……。
「みんなが起きて来るまでに治るかなー……?」
な……に……?
オレにはお尻関係の話を内緒にするという選択肢は用意されていないというのか?
神様でもクイーナでも、なんでもいい。
朝までに動けるようにして。
年内になんとか更新が間に合いました。
皆様、よいお年を(*´∀`*)




