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第四十四話 討伐にて


「ヒィッ!! バ、バケモノ!」


 誰がバケモノじゃ、失礼な。

 なんて突っ込んではみたものの、言いたい事は分かる。


 まあ、あれだ。確かにバケモノだ。

 どういう事かというと。

 今のオレの姿が生物的なフォルムの、ライ○ー的な何かなのが原因じゃなかろうか。

 ちなみにリナリーはと言えば、デフォルメのぬいぐるみだとオレの魔物風の見た目とそぐわないという事で、知恵を絞って禍々しい見た目になってもらってる。


 黒い球体に蝙蝠羽を4枚。

 その球体には大きな目玉が一個。ぱちくり、ギョロっと人の精神の不安を煽る挙動。

 関係ない技術的なタネ明かしをすれば、血管まで再現した白目の布地の上を色指定した魔力をせわしなく動かしてるだけ。

 なので、攻撃時に瞳が消えて血走った白目だけになってしまう。しかし、それが逆に見る者には恐ろしく映るようで意図した以上の効果になっている。

 加えて、エフェクトを効かせた声が怪音波となって相乗効果をもたらしているようだ。

 最初は乗り気じゃなかったのにノリノリだなリナリー。


『ヴオオォーッ!!』


 オレも負けじとイグニス式発声法で吼えてみた。


「く、くるなーッ!!」


 見事に恐慌状態に陥ってるねえ。

 無理もないか。遭遇時からして想像の範囲外だったろうし。





 ~~~~





 街から出て、カイウスさんの情報にあった荷馬車を襲うポイントのうち、一番近い所へ。

 索敵範囲を半径1キロに設定して程なく第一盗賊発見。

 そこから異相結界の足場で盗賊共のいる真上のポイントまで移動。

 森の中からは、かなり上空にいるこちらは見えず、普通の警戒では気付きようがないだろう。

 この時点で既にライ○ー状態。


 ドゴガアッ!!


 あとは良くある登場シーンとして隕石落下のように、上空から猛スピードで地面に激突したように見せた。ヒーロー着地だ。足が痛い。

 着地時に圧縮空気で地面を吹き飛ばし、ついでに地面を陥没させたようにクレーター状に変形させて得体の知れなさを演出。


 巻き上がる土煙の中で決めポーズとして両足を開き、両手をダランと下げた格好で待機。

 視界が良好になった所で相手に視認させて登場と相成ったわけだ。


 最初はユラユラとゆっくり盗賊共に近づいて、咆哮をあげた所で一気に接近して盗賊の一人を腹部への攻撃で吹き飛ばした。

 

『なっ! ど、何処から現れた……ッ!?』


『な、なんだッ! 何なんだコイツはッ!!』


 とか言いながらも盗賊たちは戦う気配を見せたが、その時点で既に精神的に崖っぷち状態。

 魔法主体で向かってくるヤツは居なかったが、そこそこ戦い慣れてる感じは見て取れた。


 オレの攻撃は素手がメイン。武器を持たないって意味なら無手になるのか。

 変身時に手を大きな5本の爪状に変えて、さらに魔物感をアップ。

 ギリギリを味わってもらう為に、わざと攻撃をはずしたり、大振りにしてみたりと色々と演出に凝ってみた。


 バギャッ!!


 次の獲物と定めた盗賊が、木を盾代わりにオレの攻撃を回避しようとしたみたいだが関係ない。

 その木ごと叩き折って吹き飛ばす。


『ま、魔獣だろうが、魔物だろうが一匹だ!! 連携して仕留めろ!』


 この辺りまで来ると盗賊たちも少しは冷静さを取り戻したようだ。ところで魔獣と魔物の違いって何? あとで誰かに聞こう。

 腕に多少の覚えもあるのか、怯えの色がありながらも果敢に攻めてくる。

 しかし、剣、槍、投げナイフその全ての攻撃がオレには届かない。おそらくすべての武器に麻痺や毒効果のあるものが塗られているようだが、その手の攻撃はこのコートにはまったく通じない。

 そんなオレに対して、徐々にだが違う種類の恐怖を抱き始めたようだ。


 ユラリユラリと緩慢な動きなのに攻撃を避けると、かなり動揺するのが分かる。

 かと思えば、無造作にその攻撃を手で「ガキィッ」と鷲掴みにしてその剣ごと投げ飛ばしたり、攻撃されるがまま身体で受け止めたりと、相当にでたらめな戦い方で盗賊を精神的にも追い詰めている。


『ヒィッ! バ、バケモノッ!』


『くるなーっ!!』

 

『なんでっ! 何で、こんなヤツがこんな所にいるんだよォ!!』


 リナリーも怪音波を発しながら、小さめの水球クルーアで盗賊たちの動きを牽制して行動の阻害になるように仕向けている。

 それに加えて、同じ水系統の魔法で濃密な霧を発生させているのも、場の混乱に拍車をかけてるだろう。


 ここまでやれば嫌でも理解したらしく、オレを仕留める事ではなく自分たちが生き延びる方へと意識を向け始めたようだ。


「て、撤退だ! 撤退するぞ!」


「つ、積荷はどうするんだよっ!?」


「バカヤロウッ! そんなもん抱えて逃げられるかッ!」


 馬車、というか荷車だよなあれは。馬がいないから定期的に馬を連れてきて運ばせるって所か。

 この状況じゃあ、荷物を置いて逃げるのは妥当な判断だ。

 って、ちょっと待て。気絶したヤツを置いてくんじゃねえよ。後で回収するなんて面倒はごめんだからな。


 地面に転がってるヤツをむんずと掴んで、逃走を始めたヤツらの背中にぶん投げた。

 攻撃と勘違いしたのか、そのまま何度も逃げようとしたので、背負って逃げるまでぶつけ続けてやったわ。

 こんな事しても、どうせ途中で放り投げて逃げるんだろうなあ。

 いいか、目が覚めたとしても2、3日はまともに動けないだろうし、邪魔にはならないだろう。

 回収のほうは誰かに丸投げ、出来るかなあ……?


 ひぃ、ふぅ、みぃ、……9人の集団、うち4人は抱えられて藪を掻き分け散り散りに逃げていく。

 ように見せかけて、というよりも最終的な合流地点にさえ辿り着ければいいという考えなんだろう。


「まずは上手くいったか」


「逃がしちゃってホントに良かったの? 多数相手には各個撃破が有効だって前に言ってなかった?」


「それは戦力が拮抗してるか不利な場合だな。そもそもこれは戦闘とは違う。戦術なんて関係ないぞ」


「ふーん? でも戦闘じゃないなら何?」


「追い込み漁」


「釣れなかったから、ここで鬱憤を晴らすのね」


「違うっつーの」


 その得意気な顔がちょっとムカつくぞ、おい。

 そんな事は後にして、ここにある荷物を全部荷車ごと収納するとしよう。





 ~~~~





 その後、輸送ルートを襲うために待機していたと思われる盗賊どもに追い込みをかけた。

 カイウスさんの情報とほぼ同じ地点に居たので、その4箇所に出向き、コトを済ませるのもそれほど難儀ではなかった。

 どっちかというと、同じ事をしても詰まらないから趣向を凝らしてみようと色々と思考を巡らせるのに手間がかかったくらいだ。


「効率優先かと思えば、またそういう無駄な事を……」


「マンネリは油断にも繋がるし倦怠期の原因にもなる」


「ふ、夫婦じゃないんだから! ……でもイズミは倦怠感あるくらいが丁度いいような気がする……」


 リナリーのズレた個人的な感想はともかく。

 やった事といえば。

 一箇所目は霧を散布して、とにかく姿を晒さないようにして遠距離から小石をぶつけまくった。全身打撲かっていうくらい当てたせいで何人か気絶してたけど、それ以外は顔を青くして逃げてったな。

 基本ここからは置き去りのヤツは放置することにした。めんどい。

 

 二箇所目は固まって雑談してたから、その真ん中に地中からプレ○ターで登場してやったら腰抜かすくらいビックリしてたな。え、そんなに? それとは別に油断しすぎだろ。

 そのあとは何も考えてなかったので、バッタバッタと最初と同じくなぎ倒しただけ。

 だって、意外と地中を移動するって大変だったんよ。


 三箇所目は、道すがら見つけた動物の死骸や排泄物の周辺の空気や、ニオイのキツい植物をすり潰して、その空気を魔法で凝縮。そのまま盗賊のもとまでお届けに。

 悶死する勢いで涙を流していた所を見ると、相当臭かったらしい。

 即席の催涙弾だ。思いつきにしてはなかなか楽しい事になった。

 オレ自身、盗賊に姿を見せていないので攻撃と判断したかは怪しいが、取り敢えずはその場から逃げるように移動していった。


 四箇所目はもう色々と煩わしくなって、リナリーと一緒に大量の水を出して、それで洗い流した。

 服が汚れたから洗濯した、みたいなノリだけど、それに近いかも。

 この時は、いかにも怪しい魔法使いとカラスの格好に扮したオレとリナリー。

 圧倒的な物量で逃げるまで水攻め。

 陸で溺れそうになった事で相当焦ったようだ。泥でグチャグチャになりながらナリフリ構わず逃走。

 せっかく洗ったのに、また汚すとは!


 また、それぞれのポイントには物資が残されていたので、当然回収。


「この物資の扱いは?」


「カイウスさんに丸投げ……ってわけにはいかんか……それも終わったら確認だな」


 ネコババするにも量が量だけに気が引けるどころの話じゃない。

 ふう、なんとか予定に近い感じで処理出来たな。

 逃げていったヤツらも探知した結果、速度はまちまちだがちゃんと拠点に向かっているようだし。


「あとは夜まで待機?」


「そうだな。拠点に帰ってくるやつがいれば、それも襲いつつ、深夜まで広域監視だな。一番油断してる深々夜帯、明け方のちょっと前くらいが良さそうだ」


「普通はもっと早い時間じゃないの? 完全な暗闇を利用するのがイイみたいに聞いたけど」


「それも有効ではある。でもそんな事は向こうだって百も承知だろう。魔法で何かしら対策してるはずだろうしな。だから視界が確保されはじめた所で、当事者も気がつかない気の緩みに付け込むんだよ」


「当事者も気がつかない?」


「夜明けが近づいて太陽の気配を感じると無意識に安心感を抱くらしい。それだけ大多数の生物にとって光りってのは大事なんだと。いくら警戒してても、そこの所は本能に根ざしてる部分だから、どうしようもないみたいだぞ。夜通し戦って気が張ってたとしても結構怖い時間帯だって話だ」


「受身だと、それがよりハッキリするから? 数ある選択肢の中から選ぶものとしては、らしいと言えばらしいけど……」


「まあ要するに、ちょ~っと湿度高めの嫌がらせだ」


「湿度とか、そういう話なのかなあ……」


 陰湿度としては中程度。お肌の潤うパーセンテージがいい感じ。


 兎にも角にも。

 当面の目的を達したし、しばらくは待機だ。

 この時間を利用して食事と仮眠だな。



 考えてみれば、完全な野宿は久しぶりかも。

 監視の事があるからコテージで休む訳にはいかないからな。

 いや、あくまで次の行動までの繋ぎだから野宿とはちょっと違うか?

 

 盗賊、死の牙の拠点を5キロ先に、ひとまずの野営。

 食事は収納してあったもので済ませた。


「この状況でも日課は欠かさないの?」


 食事のあと、いつも通りに日課の鍛錬をこなしていたオレに、リナリーが不思議そうに聞いてきた。

 これから盗賊のネグラを襲おうって時に、体力消耗するような事してたらリナリーじゃなくても疑問に思うかもなあ。


「習慣になってるからって理由もあるけど、筋肉の見栄えを良くする時と似た感じかもな」


「うん?」


「適度に筋肉を疲労させると張りが良くなったり血管が綺麗に浮き出たりするんだよ。パンプアップって言われてるな」


「あ、なんか思い出した。筋肉見せあって興奮するお祭りがあるんだっけ?」


「……色々言いたい事はあるけど、まあそうだ。で、そのボディビルの競技の直前に筋肉の完成度を高めるためにパンプアップしたりするんだけど」


「筋肉の完成度って何……」


 オレも言ってて、ちょっと変だとは思うけどな。

 そこは敢えて流して説明を続けるぞ。


「今、オレがやってるのは、主に精神的な方面に比重を置いてる感じだな。気持ちを作って、高めて、切らさないようにして万全を帰すわけだ」


「精神的なパンプアップかあ。でも、そこまでしないとだめ?」


「数が多い上に相手は人間だからな。いくら準備しても、やり過ぎって事はないだろう」


「全てを見通せるわけじゃない、か。そうね、油断してもいい事なんかないもんね」


「そういう事だ」


 頷くと、リナリーも引き締まった表情で頷きを返した。

 そうはいっても気の張りすぎも良くないから、そこらへんは上手く調整しながら。



 日本で言う所の丑三つ時まで待って行動開始だ。

 夜のしじま、というには少々、虫の声やら木のさざめきが耳に入るが、二つの月明かりに照らされ何かをするにはいい夜だ。

 




 ~~~~





 わざわざ待った甲斐があったってもんだ。

 岩場を背にした開けた所にざっと70人前後の集団。

 って、まだそんなに動けるヤツが居たか。

 数台の馬車を上手く利用して天幕と横幕を使い、簡易的な宿泊施設とした場。そこを中心に、陣を張っているようだ。

 最後の仕上げのための突入前。現在300メートルほど離れた所から拠点の様子を伺うと、昼間の襲撃が原因か、普段からそうなのかは分からないが、どうも寝ているヤツのほうが少ない様子。まあ、その動けないヤツってのも、オレの襲撃で行動不能になった連中だろうけど。


 広域監視中、拠点からの人員の移動はほとんどなく、どうやらオレのせいで警戒態勢を少し変えたっぽい? 緊張と弛緩が、ない交ぜになった警戒感がこちらに伝わってくる。

 そんな事は関係無く今から襲うけど。


作戦開始ミッション ランチ


 100メートルまで接近し魔法発動。


 ドドドドッ!!


 あらかじめ牽制と撹乱のための水球クルーアを上空からリナリーにお願いして、オレは水弾デア・クルーをバラ撒く。


「な、なんだッ!?」


「敵襲! 敵襲ッ!!」


 意外と統率の取れた対応をするじゃないの。

 でも、ダメ。

 強めの水弾デア・クルーで遠距離から手当たり次第に当てて数を減らす。

 とりあえず夜更かしは良くないから寝てもらおう。


 半分とまではいかないまでも結構減らしたか?

 じゃあ、直接乗り込むとするか。


「いるぞ!」


 オレの姿が森の木々の隙間から見えたようだな。


「感知結界はどうした! ここまで浸入を許したのか!?」


 立場が上っぽいヤツがなんか言ってるけど、やっぱりそういう感じの魔法使ってたのか。

 人による結界を敷いていたのか、魔動製品を使っていたのかは定かじゃないが。


「一人……?」


「周囲を警戒しろ! これだけの攻撃で一人のはずがあるか!」


 警戒してるとこ悪いけど、一人なんだよなコレが。いや二人か。

 森から出て完全に開けた場所に出た所で、比較的近くにいた盗賊3人を水弾デア・クルーで行動不能に。


「くっ! まずはそいつを殺せ! 魔法使いが、のこのこと姿を見せた事を後悔させてやれ!」


「黙れ」


 そう叫んだ盗賊を平坦なトーンの言葉と、水弾デア・クルーで数メートル吹き飛ばし、1秒の間も置かずに黙らせる。

 それに怯んだのか、飛びかかろうとしていた盗賊数人も距離を置いてオレを包囲し、こちらを伺うに留めている。

 すると、その包囲の奥から歩み寄る人影が。


「ここまで、何の反応もなく辿り着くとはな。魔力隠蔽マギンズ・マスカーか……? こんな辺境の街でそんな高度な術が使えるヤツがいるとは聞いてないが」


 背が高く、むき出しの腕から鍛え上げられたと分かる肉体。顔は斜めに斬られたような歪な形の仮面に隠れて分からないが、周囲の雰囲気からコイツがこの盗賊どものアタマか?

 うーん、ちょっとオレの予想してたのとは違うが、まあいいか。

 

「波状攻撃があるかと思ったが、貴様が姿を現してから攻撃が止んだな。ここまで騒ぎを起こしておいて、途中で手を止める理由はない。貴様を囮にしてこちらの壊滅を目論んでいるにしても、おかしな点が多すぎる」


 男の目が細められ、こちらを探るような視線。


「……貴様、まさかとは思うが、一人なのか?」


「だとしたら?」


「正気とは思えんな。この程度の魔法しか使えん魔法使いが、この人数をどうにか出来ると思ったのか?」


 オレの格好を見て魔法使いと判断したようだが、騙まし討ちが専門のお前らみたいなヤツが見た目の情報を鵜呑みにするってどうなんだ?

 とは言うものの、それを期待して胡散臭い魔法使いみたいな格好をしてるわけだ。

 フードを目深に被って、しかも鼻から下は怪しいデザインのカラスマスクで隠してるから、胡散臭さ倍増だ。


 加えて、一般的な魔法使いが単体ではどういう扱いか何となく分かる物言いだ。

 確かに魔法使いが遠距離主体なのがポピュラーだとすれば、こんな敵だらけの場所に姿を晒したのはバカ以外の何者でもないって評価になるわな。

 オレが初っ端、混乱を助長するためにデカイのを撃たずに、初級~中級程度の水球クルーアと、その縮小版を多数バラ撒く水弾デア・クルーしか使わなかったのも原因かも知れない。その大量の水弾デア・クルーはオレが撃ったとは思われていない様子。

 結界の素通りの件を失念してるように思うが、事前に何かしらの準備をしたとでも考えてるんだろう。

 だとしたら、なんの前兆もない奇襲という矛盾にも気付いても良さそうなものなんだが……やっぱり突然の事で動揺してるのかね。

 まあ、だからこそ判断し易い情報、自分の都合の良い情報に流されたのかもしれないな。


「最初の攻撃は何かしらの道具を使ったのかもしれんが、次はそんな暇は与えんぞ」


 リーダーらしき男がそう言うと、男の背後から、数人の黒い仮面をつけたヤツラが音も無く男の前に歩み出る。

 お、他の盗賊たちとは動きの質が違うな。

 などと感心しているそのタイミングで、上空から大きなカラスがオレの元へとバッサバッサと降りてきた。

 鷹匠のごときポーズでリナリーの足場を用意すると、周囲が微妙にざわつく気配。


「使い魔? ……三本足のカラスだと? 凶兆を運ぶとでも言うつもりか?」


 日本だと三本の足が、天、地、人、を表してるだとか、神の使いの霊鳥だとか色々と言われてるらしいけど、普通は悪い意味では使われないのに。

 こっちだと三本足って異様から、不気味なものとして見られるのか。

 とか考察してみるけど、そういう事もあるんじゃないかと期待して、リナリーには変身してもらったんだよな。

 期待通りの反応で、ある意味安心。


「運の尽きたヤツらに今更、凶兆だとか関係ないだろう」


「貴様……」


 オレの声色に侮蔑の気配と全滅させるという意味を感じ取ったのか、怒気を孕んだ声だ。

 包囲している盗賊たちからもトゲトゲしい感情が向けられているが、すぐさま襲い掛かってはこないようだ。


「そこまで言うなら、お手並み拝見と行こうじゃないか。……やれ」


 黒い仮面の男たちが数歩、オレとの距離を詰めると。

 その中の一人、細身のヤツが一気に飛び出してきた。


 速い。


 両手にそれぞれ短剣を構えた黒い仮面の男が、一瞬にして目の前まで迫る。

 殺意を乗せた斬撃。瞬きの間の交錯。だが、それでは終わらず、鋭さを増した攻撃が何度も繰り出される。

 こいつッ……?

 気のせいなんかじゃなく、明らかに他の盗賊とはレベルが違う。

 一般盗賊よりも動きの良かった黒仮面の中でも、ひとつふたつ抜きん出た技量じゃないか?

 おっと。


 ガッガッ!!


 黒仮面から繰り出された、渾身の変則十字斬撃を、掌への展開範囲限定の魔法障壁で受け止めた。


「なッ!?」


「アレを武器なしで受け止めるだとッ!?」


 攻防を見ていた周囲の盗賊からそんな声が漏れ聞こえる。

 掌の障壁で直接受け止めた一撃。いまだに肩にしがみついてるリナリーも一緒に斬るくらいの勢いだった。何が気に障ったのかは知らんが、カラスもお気に召さないらしい。


「クックック……ここまで回避されるとは驚きだ。お前本当に魔法使いか?」


「さあな。肯定も否定も意味はないだろ。目の前にある現実が全てだ」

 

 攻撃を封じたままの格好で、変声機でも仕込んでるような声の黒仮面の言葉にそう返す。

 すると、スッと力を抜き、身を引く黒仮面。

 訝しむオレを他所に、背を向けて盗賊のアタマの男の所まで戻っていく。

 誘っているのかもしれないが、期待に応えようか迷うな。正直コイツの思惑なんかどうでもいいんだけど。

 そんな事を考えていると半身だけこちらに振り返ったヤツの目は細められ、愉悦の感情が宿っている。


「クックックッ……やはり気がついているか?」


「何の事か分からんが、この中で一番強いってのは分かった」


「クククッ……クハーハッハッハッ!! たったあれだけの攻防で理解したか!」


 黒仮面が盗賊のアタマの男の所まで戻ると、他の黒仮面たちが、その男の前で、手を胸にこうべを垂れる。そして、アタマだと思っていた男まで同じく頭を下げ、控えるようにやや後方で黒仮面たちと同じ姿勢のまま、主導権という別の意味でも、その場を譲り渡した。

 芝居がかって仰々しいな……


「あんたが死の牙の頭だったのか」


「そうだ! クックックッ……分からんといった感じだな? 何故オレがその他大勢に紛れていたかが」


「どうせ、まともな理由じゃないだろ」


「おまえのように一人、あるいは少数精鋭だと言って、オレたちに挑むバカがたまにいるが、その鼻っ柱を折るにはいい手なんだよ。誰が決めた? 弱いやつから順にかかっていくと。お互いの戦力を天秤に掛けて撤退の判断? そんな事は他の盗賊ならいざ知らず、ここではやらせん。調子に乗ったヤツらを一歩目で踏み潰すんだよ。警戒の暇すら与えず容赦なくな。まあ必ず一人は生かして返すがな」


「悪趣味だな」


「クククッ……その意味も理解してるようだな」


 生き残った人間が持ち帰った情報。

 正確な戦力を測らせず、下手をすれば、それが平均だと判断されかねない。

 そして、いきなりの敗北で挫折と恐怖を植えつけた事で、噂が噂を呼び、実像がぼやけ、得体の知れ無さが増幅される。

 実際に何度も跳ね除けてきたのなら信憑性もあるし効果もあったのだろう。

 その事が大規模な掃討作戦に向かわせる要因なのだろうが、規模が大きくなると露見し易いというデメリットもある。

 それを見越してやっているのだとしたら相当性質が悪い。


「(リナリー、上空で待機しててくれ)」


「(ん、わかった)」


 キィンッ!


 バサっと羽を広げ飛び立ったリナリーを狙ったデカい金属の針を杭で叩き落す。

 反射的に落としたけど、ノーモーションとはね。まあ、当たった所で、ぬいぐるみの内側で異相結界張ってるから意味はなかっただろうけどな。


「チッ……逃がしたか。しかし、アレに当てるか。だが、いまさら逃がしてどうする? 自分も逃げるつもりか? それとも援軍でも呼ぶためか? あいにくだがお前は生かしては帰さん。一人で来たことを後悔してから死ね」


「逃げる? 援軍? 見当違いも甚だしい、なっ!」


 ドドッ!!


 言い終わると同時に後ろから襲い掛かろうとした数人を、水弾デア・クルーで吹き飛ばす。


「……余程死にたいらしいな」


「寿命を全うしてから死ぬつもりだから、いらん世話だ」


「今がその時だ。その命、すぐに全うさせてやろう。ククッ、ここからは物量ですり潰す! せいぜい楽しませてくれ」


 死の牙のリーダーともども、側近の連中は素早く後ろに飛びのくと、その穴を埋めるように盗賊どもがなだれ込み、襲い掛かってきた。


 怒声とともに振り下ろされた剣、斧、蛮刀マチェットを局所展開した障壁で弾き、受け流し、避け、そして肘、あるいは掌打で迎え撃っては吹き飛ばし、巻き込むような後ろ回し蹴りで地面に叩きつける。


 槍との連携で矢が飛んで来るのをローブで絡め取り、そのまま射手にお返し。

 槍のヤツらに矢をお裾分けしたあと懐に入り、至近距離で水弾デア・クルーをブチ込む。


 相手の攻撃を待って反撃ってのは、このテンポだと、どうにも噛みあわないな。

 今度はこちらから行かせてもらう。


 ヒュイーヨーッ! と口笛に似た合図をイグニス式発声法でリナリーに出し、高々度からの水流槍トー・ガルアで殲滅戦に移行。

 ちなみにリナリーには直接的な人死には出さないように念を押してある。

 乱戦による同士討ちや倒木の巻き添えなんかは仕方ないが、直接リナリーに人殺しはさせたくない。

 それに、より緻密な魔力操作を身に付けるには、こういった実戦の中で加減するというのが持ってこいだからな。


 リナリーの攻撃が加わった事で、どんどんと盗賊を処理する速度が上がっている。

 オレが投げ飛ばしたりなんかした盗賊を、弱めた水流槍トー・ガルアで空中多段ヒットをかまして戦域外まで吹き飛ばしたりと、戦闘域の掃除も兼ねていたりする。


 襲い来る盗賊もその数をだいぶ減らし、つぎの獲物は、と首を巡らすと視界の隅に膨れ上がる魔力が。

 凄まじい突進で向かい来る巨大な黒い魔力の塊。

 世界に穿たれた穴のごとき闇の塊。そこから繰り出された二条の銀光が、オレの胸と頭に突き刺さる。


 ガガキィンッ!!


「コレも止めるか」


 コートの無限収納エンドレッサーから取り出した、神樹の木刀で捌き、弾き返す。


「やはりそうか。動きが剣士のそれだったからな。しかし、やってくれたな」


 数メートル先に飛び退いたその声の主は、死の牙のトップに位置する男の声。

 纏っていた黒い魔力が、その身体に収束していき、男の肌を褐色に染め上げる。

 装備までも黒に染め、全身を漆黒の闇が這い回る、その異様。


「うちのヤツらを雑兵扱いか。……ほかのヤツらじゃあ何人居ようが相手にならんようだな。ここまでやって仕留められんとは、クックック……」


「ならどうするんだ? どんな手を使おうがオレは一向に構わんぞ? 準備が必要なら日の出までなら待ってもいい。それともさらって来た人間でも人質に使うか? 有効かも知れないぞ?」


 オレの言葉に肩をピクリとさせる、死の牙のリーダー。

 おや、戦闘要員っぽくない人間の気配があったが、やっぱりそういう事か。


「クッ……クククッ……クックックッ……舐めるなあッー!! 正面から! 丹念に! ひねり潰してくれるッ!!」


 その雄たけびに乗せたように大量のドス黒い魔力を撒き散らし、小さな金属筒を懐から出して、何やらその中身を飲み込んだ。

 なんだ? 戦闘薬系の麻薬か? 何にしても、ここで切ってきた札だ。普通の物じゃないだろう。

 その予想の通り、と言っていいかは分からないが、地面に手が着きそうなほど上半身をだらりとさせた男の身体がブルブルと震え、いや、これは……。


 筋肉と血管の脈動だ。

 まるで全身を蟲がうごめくように、薄皮一枚のその下で筋肉の繊維、そして血管が不気味に波打っている。


「ひぃッ! 」


「に、逃げろ! ここに居たら巻き添えだぞ!」


 逃がすわけないだろう。圧縮した水球クルーアを、逃げ出す盗賊たちの足元に向かって打ち込む。当たった瞬間に無理矢理の圧縮から開放された水球が爆発。霧状になって霧散する。

 そこら中で悲鳴が聞こえるがギリギリ立っていられるはずだ。

 自分達の選んだ道だ。ここでケツをまくるなんてさせない。

 しかし、この反応からして無差別に攻撃する類の状態になるのか?


「ごの技を使うのは、いづ以来が……」


 あー……これは無差別じゃないな。自分以外はどうでもよくなる感じか。

 言葉が怪しくなってるし色々と外しちゃいかんリミッターを外してる気がする。

 確認するまでもなく腕や足の太さが倍近く太くなってやがる。しかも何故か身長までデカくなってるぞ、おい。


「だっぷりど、だのしませでもらうぞ」


 顔を上げるのと同時に、バチンと止め具が外れ、仮面が落ちる。

 濃い褐色の顔には血管が浮き、筋肉の筋までもがあらわになっている。およそ人間の顔とは思えない造形。理科室の筋肉むき出し模型のようだ。

 

 待て、この顔……何処かで見た事ある気がするぞ。


 あっ! ガルゲンと一緒にいた黒スーツ!

 ほとんど別人というか別の生き物って感じだけど、わずかに面影がある。

 幾通りかの予想の中にはあったんだよな。死の牙のリーダーだったか。


「ガアァッ!!」


 ズドンッ!!

 獣の咆哮かと思うような叫びで間合いを一瞬で詰め、凶悪な速度で振り下ろされた剣。

 地面が抉れるような攻撃だったが取り敢えず回避。

 って、おい! 答え合わせさせろよ! 「あんただったのか」って確認しようと思ったのに。

 それにしても今の攻撃は速かったな。周りのヤツらで目で追えたのが何人いるやら。


「いづまで避げられるがな? 当だった時がお前の最後だッ!!」


 一旦置いた距離が男の一挙動でゼロに。

 横薙ぎの一撃を、下からすくい上げるように木刀で軌道を逸らしつつ距離をとる。

 しかし、それを切っ掛けにヤツの斬撃の速度が徐々に速くなる。

 斬撃だけじゃなくオレの移動に合わせて、その速度も増している。

 ものは試しにと、盗賊たちの居る方へと高速で駆け抜けてみたが。


「な、なんだっ!? がッ!!」


「何が起きてるッ!? ぐぁッ!!」


 速度に身体がついていってないのか、判断が大雑把になっているのか知らないが、オレが突進をかわすたびに誰かと接触事故を起こしてる。いや、突っ込んで来る時も、オレとの最短距離を優先にして、進行方向に誰が居ようがお構いなしだ。

 強制的に見物させられていた盗賊たちだったが、曲がり形にも、戦いに身を置いてきた事もあってか、一応防御らしきもので即死は免れているようだ。

 

 それはともかく、人間がこれほどの速度で移動可能になるとはね。

 身体がでかくなってパワー型になるかと思いきや、ちゃんと速度も兼ね備えた戦いをしてる。

 高速移動時の魔力の使い方もしっかり身体で覚えてるみたいだな。

 試しに緩急と切り返しで撹乱を兼ねた関節へのダメージの蓄積を狙ってみたが、無理の無い方向転換が出来ているようで、効果なし。


「いぐら逃げでも無駄だ!」


 そのようで。

 速度に振り回されての自滅を期待したけど、不発に終わったみたいだな。


「じゃあ、逃げずにいってみようか」


「何ッ!?」


 ここからはオレもギアを上げてみるか。

 強化タフ・ドライブ発動。


「ハァッ!!」


「ガッ!?」


 一定の距離をとるべく立ち回っていたのを一転、攻勢に出る。

 意表を突かれたのか、オレの斬り下ろしを剣を交差させての防御。

 男の足が地面にめり込むが、武器はオレの攻撃に耐えたか。

 そして間を置かず側面に回り込み胴薙ぎ。


「グガッ!!」


 お、衝撃を逃がすために自分から跳んだか。傍から見ると派手に地面を転がってるようにしか見えんな。手応えからしても衝撃を吸収しきれたとは思えないがね。

 それに、ここで仕切り直しはさせない。まだオレのターン。


 今度は攻守を変えてオレが突進。

 木刀を霞構えのような体制で引き絞り、突きだと丸解りの姿勢のまま突っ込む。

 起き上がりに重ねてはみたが、なかなかいい反応だ。既に避ける動作と木刀を弾くモーションに入ってる。

 

 それが解ってて、このままというのも芸がない。

 弾かれる寸前で木刀に込めた力を抜き、弾く剣の力の方向に逆らわずに滑らす。

 しかし身体の勢いは緩めずに脇をすり抜け、体勢の崩れたその背後へ。


 がら空きになった背中に向けて斬撃を放つ瞬間、違和感が襲う。


 ザシュシュシュッ!!


 剣だと!?


『イズミ!』

 

「こんのぉ!!」


 ガキイィンッ!

 羽子板障壁で防御というか、ぶっ叩いたと言った方がいいか。

 男の背中から数十本という黒い剣が伸び、それを障壁で無理矢理に回避。羽子板の攻勢防御の衝撃でお互いの距離が開く。

 これか。背中をがら空きにして誘った理由は。

 リナリーがちょっとビックリしたみたいだけど、オレもちょっとビックリ。


 どういう原理か知らないが、装備を破壊して突き出したように見えた剣は、何事も無く男の身体に戻る。

 どうなってる? 魔力で剣を具現化させたのか? 何か別のタネがあるのか?


「グッグッグッ……ごれでもまだダメが……」


 背を向けたまま肩越しに細めた目でこちらを見る男。見えない口元が歪な笑みの形なのが容易に想像出来る目だな。

 って、おいおい、それ一度に何本も飲んでいいのか?

 用法、用量を守らないと、ろくな事にならないんじゃないの?


「ご、ごろ、ごろずっ!!」


 ああ、もう、いろいろ怪しくなってきたぞ。

 『ドムンッ!』なんて訳の分からない音がしたと思ったら、また筋肉が肥大してるし身体もひと回り大きくなってる。身長に影響があるってどうなってんだ。


 ドンッ! という地響きをさせて跳び上がった男だったが、こちらに襲い掛かってくるかと思いきや、馬車のある方へと勢い良く落下していった。

 ドガシャァッ! そう派手な破壊音で馬車に突っ込んだが、何が目的だ?

 あ、人質?

 

 違った。武器を取りに行ったのか。意外と冷静?

 おお、生で見るとすごい迫力だな。恐ろしく大きな斧、所謂グレートアックスってヤツか?

 到底、人間には扱えるとは思えない超重量武器。それを小枝のように振り回し、邪魔なものを払うように馬車の残骸を吹き飛ばした。

 魔力を込めた強烈な一振りで辺り一帯に衝撃波が。

 

 それがダメ押しになったのか、衝撃波で飛ばされた盗賊たちは大多数が意識を失った。

 かろうじて意識を失わなかった者も、這いつくばりながら、いつ自分がその巨大な戦斧の一撃に巻き込まれるのかと気が気じゃない様子。


「そうは言っても、気にしてる暇はない――」


「ガアアーッ!!」


「――ワケだがなッ!!」


 ドガッ!!


 黒い巨大な砲弾と化した男の、巨大戦斧の一撃を羽子板障壁の木刀で迎え撃った。

 振り下ろされた戦斧に対し斬り上げで、その攻撃を受け止める。

 その期を狙ったかのように男の背から触手のように伸びた剣が無数に迫る。


「でかい攻撃の隙を埋める攻撃か。面倒な」


 ひとまず飛び退いて思わずそう言葉が漏れ出たが、愚痴を言う暇すら与える気はないようだ。


「グオォーーッ!!」


 ガガガガガッ!!


 魔力を込めた戦斧の連撃が次々と衝撃波を撒き散らす。

 連撃の一瞬の空白を埋めるように触手剣も襲い来る。

 その全てを弾き返してはいるが、段々追いつかなくなってきたな。


 純強化フル・ドライブに移行。

 強化だけでいけると思ってたけど甘かったか。

 それにしても盗賊のリーダー、理性残ってるか? なんか怪しくなってきたぞ。


「グルォーーーーーッ!!」


 あ、ダメだ。完全に逝っちゃったよ。

 コイツの心配する義理はないけど、そろそろ終わらせたほうが良さそうだ。

 

 ゴガガガガッ!!


 目にも留まらぬ連続攻撃で押され気味だったが、純強化フル・ドライブを使っての迎撃で押し戻す。

 こちらの攻撃に耐え切れなくなったのか、はたまた薬が切れてきたのか、徐々にだが男の速度が落ちてきた。

 触手剣の動きも精彩を欠き、明らかに先程より対処が容易になってきた。

 次第に完全に後手に回る盗賊のリーダー。


「グ、オ……!?」


 オレの攻撃を捌ききれず、その身に受ける頻度が増す。


「ば、ばけもの……!」


 意識のある盗賊たちから口々にそんな呟きが聞こえる。

 え、どっちの事言ったの? まさかオレの事じゃないよな?

 見た目的には、どう考えてもお前らのリーダーだろ? 

 おい、なんでこっち見る。


「~~~~~~見る対象が違うだろうがッ!!」


 ドガアァッ!!

 それまでの攻撃より力を込めたオレの斬撃により、大きく飛ばされた盗賊のリーダー。

 木々をなぎ倒し、奥の岩壁にブチ当たって、ようやくその動きを止めた。


 ふう……

 やっとケリがついたか。思ったより時間がかかった。

 いつの間にか太陽が顔を出している。

 岩壁にまで飛ばされ、そこでグッタリと倒れ込む盗賊のリーダーのもとまで行き、安否? じゃないな、生存確認? をするために近づいて覗き込む。

 仰向けに倒れた男の目に理性の色が戻っているように思う。


「バケ……モノめ……」


「だから化け物じゃねえっつーの」


 黒い魔力が拡散して薄れ、装備も肌も色が戻りつつあった。

 身体も進行形で魔力の煙を出しながら増大前の姿に戻りつつある。

 オレの姿を見てそんな事を言えるくらいには、精神状態も回復したのか。


「……貴様、本当に何者だ……」


 ああ、マスクをつけたままだからオレの正体はバレてなかったか。魔力とかでとっくにバレてると思ったけど、そうじゃなかったみたいだな。

 そこでオレがマスクを外し素顔を晒すと、男の目が驚愕に見開かれる。


「ない事を祈れって言っただろう?」


「っ!! 貴様か……貴様だったのか」


 最初は驚いた様子だったのに、何故か最後は納得したような諦めたような、そんな雰囲気のトーンで男が言葉を口にした。


「……答えろ……何が目的で我等の拠点に乗り込んだ……ましてや、一人で乗り込むなど正気とは思えん……」


「目的? 酷く個人的な理由だな」


「……個人的、だと……?」


「美味い物を食うためだ。それにはアンタたちが邪魔だった」


「バカ……な……」


 その言葉を残し、ガクッと、意識を手放した盗賊のリーダー。

 バカとはなんだバカとは。しかし質問の回答に驚いて意識を失ったわけじゃない、よなあ?


『やっぱり当事者でさえ信じがたい動機なんだねえ』


 う、うるさいな。



 あっ、そういえば結局、この盗賊のリーダーの名前聞かずに終わったよ。







内容がとっ散らかって、えらい事に。

それに、とんでもなく難産でした……

書かなきゃいけない事が書けてないような気も(´・ω・`)


もうちょっと盗賊を外道に書きたかったけど難しい。

誰か外道の書き方、教えてつかーさい

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