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第三十九話 案外すんなり決まる事もある

前回までのあらすじィッ!! (ここだけCV 若本 規夫)


ギルドから河川敷の公園に。

そこで下らない話をあれこれと。


あれ? あらすじが必要なほどの内容じゃなかった……(´・ω・`)


「ほいよ、これ借りてた7千ギット」


「ニャ、確かに」


 宿屋に戻り、連泊の代金の都合がついた事をミミエさんに伝え、料金を支払ったところで、丁度ランチタイムだった事もあり、そのまま食堂で食べる事にした。

 基本的には宿泊客しかこの食堂は利用出来ないが、オレと同席なら問題ないという事でキアラも一緒にという流れだ。

 昼時は他の宿泊客はチェックアウト済みか外出しており、貸し切り状態。

 なので、リナリーも白ローブは羽織ってはいるがそのままの姿で、ふよふよとフリーダムに動き回っている。

 さて、返済も済ませたし、すっきりした気分でメシが食えるぞ。


「それにしても、本当に妖精っていたのね……」


 食事を運んできたミミエさんの言葉には、なんともいえない複雑な感情が含まれてるのが、その表情でも分かった。


「えっと……リナリーさんと呼んでも?」


「普通にリナリーで。それか、リナリーちゃんで!」


「ちゃん? リナリー二等兵! でいいじゃん」


 敬礼のポーズでからかってみたけど、リナリー以外に通じるのか?


「なにおぅ? なんで二等兵なのよ! せめて軍曹にしなさいよ」


「そっちかよ」


「何言ってるか分からないけど、ふたりともホントに仲いいのね……あ、ごめんなさい。普通にしゃべってもいいかな?」 


「全然構わないですよ」


「あの、イズミくんも普通にしゃべってくれないかな。こっちだけ馴れ馴れしいのもなんだか気が引けちゃうから」


「え、そうは言っても年上の人に――了解であります!」


 年上と言った瞬間に、ミミエさんの顔が笑顔を貼り付けた能面になった!

 危ない、危ない。こんなに若い人でも年齢の事は触れちゃいかんという事か。


「キアラちゃんと仲がいいみたいだし、こうやって話すのに私だけ仲間ハズレな感じがしちゃうのが、ちょっとね~」


 能面から苦笑気味に和らいだ表情がやや子供っぽい感じだ。


「あ、それはなんとなく分かる気がする」


 テーブルの端に降りたったリナリーがそんな感想をこぼす。

 そういえば里の問題解決後に神域に来た時に、オレとラキの関係を間近で見て、似たような事を言ってたなあ。


「妖精が相棒なんていう、レアなお客さんとお近づきなりたいっていうのが大きいんだけどね。かと言って色々と詮索する気はないから安心して」


 料理を並べながら、笑顔で言うミミエさんに返せたのは苦笑が少々。


「色々聞いても理解に苦しむ事のほうが多いから、突っ込んで聞かないほうがいいっていうのは正解かも知れないニャ~。精神衛生的な意味で」


 並べられていく料理を目で追いながら、キアラはまだかまだかといった雰囲気を隠そうともしない。

 そのくせ言ってる事は、料理とは関係のない事柄についてで、やんわりとだがディスられてる気がしないでもない。


「精神衛生なんて気にならなくなる場所まで案内しようじゃないか。肉体的にも精神的にもすぐそこだ」


「うっ……せめて心の準備はしたいニャ……」


「なんの話? 何か危険なお仕事? それとも夜の運動のお話?」 


「なんで、そうなりますか……」


「イ、イズミとは、そ、そそ、そういう関係じゃないニャ!」


 動揺し過ぎだろう。

 下ネタ平気で微Mのクセしてウブな反応するとか、オモチャにして下さいって言ってるようなもんだと思うんだがなあ。

 ミミエさんだってそういう反応が楽しくて言ってるみたいだしな。


「まあ、運動っていうのは正解だけど、一緒に訓練する事になったんで、スケジュールの調整とかどうしようかなと」


「あら、そうなの?」


 3人分の配膳を終えたところで「おまたせ」と、やっとおあずけ状態から開放。

 ミミエさんは一旦厨房に戻り、飲み物を用意してくるようだ。

 とりあえず食事を前にしたら他の話はどうでもよかです。今は食い気優先だ。

 いただきます。


「ここの料理はホントに美味いよな」


「久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しいニャ」


 ランチメニューの内容は、薄切りにした大きなハムをこれでもかと並べたものにグレイビーソースかな? をかけ、それをメインに付け合せにマッシュポテトっぽいものと見慣れない温野菜。

 副菜としては葉物野菜と、色とりどりの細切りにされた根野菜、カリカリに焼いたベーコンと、そこから出た油も香味油としてドレッシングに利用して絶妙な食感と香りを楽しめるサラダとして仕上がっている。


 それとは打って変わってスープはあっさりとしたものだったが、様々な食材の味が感じられて、なかなか奥の深そうな味わいのものだった。

 小さな丸いパンもバケットにたくさん乗せられ、おかわり自由らしい。


「やっぱりプロの作る料理は違うな」


「ふふ、ありがとう。これ以上ない褒め言葉ね。うちの調理担当者が喜ぶわ」


 そろそろ食べ終わろうかという時に飲み物を持ってミミエさんが食堂に戻ってきた。

 デザート代わりのドリンクのようだ。

 何かの果汁を絞った飲み物っっぽいな。

 ミミエさんは自分の分のドリンクも用意してきたようで、隣のテーブル席に座り休憩がてらオレ達と会話の続きを、という事みたいだ。


「それにしても、妖精さんは、そうやって食べるのね……その身体のどこに入るのか、すごい不思議なんだけど……」


 いつものように、ナイフとフォークを器用に交互に使って食事をするリナリーの様子に、興味と感心の混ざった言葉を漏らすミミエさん。


「そんなに不思議かな?」


 言われた当のリナリーは、当たり前の事をしてるだけなのでピンときていないようだ。

 ふわふわと浮きながら、何を食べようかな、などと楽しみながら選んでは口に運んでいる。

 オレとしても既に当たり前の風景過ぎて、美味そうに食ってんな~くらいの感想しか浮かんでこない。


「最初に見た時はビックリしたニャ。でもイズミが何も言わなかったから、そういうものかと思って見て見ぬフリしてたんだニャ」


「ああ、あれハンバーガーに驚いてただけじゃなかったのか」


「ハンバーガー?」


 聞いた事のない料理だったかな?

 ミミエさんの表情が、何それって顔だ。


「丸いパンに、焼いて固めたひき肉と野菜、それに合わせたソースを一緒に挟んだお手軽料理、って言えば、だいたい想像つくんじゃないかなと」


「ん~、なんとなくだけど、想像はつくかしら」


「お手軽料理っていう割には結構、手が込んでたと思うニャ」


「そうか? まあ、材料に関して言えば、そうかも知れんけど。あ、そうだ。ミミエさん」


「なあに?」


「ここは食材の持込みとかは可能?」


「全然大丈夫よ。たまに新鮮な川魚とか持ってくる人とかもいるしね」


「じゃあ、ちょっと持ち込みで調理して欲しい食材があるんだけど」


「了解よ。とは言っても、ここで確認って訳にはいかないのよね?」


 その言葉に頷いて、とりあえず庭で、という流れに。

 すぐに用意しないオレを見て、食堂で確認出来る類のものではないと察したらしい。

 どこに現物があるのか何も言ってこないところを見ると、最低でもキアラと同程度の魔法袋を持っていると予想しているんだろう。

 

 ドリンクも飲み終わったところで、「さてと、それじゃあ、片付けが終わるまではゆっくりしててね。食材の確認はその後でいいかしら?」と言って食器類をテキパキと下げ、厨房の方へと戻っていった。


「何を調理してもらうの?」


「食べた事がないから、とりあえずガングボアをな」


 無限収納エンドレッサーの中には神域で狩った獲物もいくつかあるけど、そっちは神域滞在中に粗方食べたからな。

 新しい調味料を仕入れるまでは今の所は出番なしだ。


「ドルーボアって言ってたら止めるとこだったニャ」


「ん? なんでだ? ガングボアの次はドルーボアにしようと思ってたんだけど」


「他のお客さんにバレたら、多分、面倒な事になるんじゃないかニャ」


 あ~、超高級品だからか?


「匂いでバレる可能性もあるニャぁ」


 焼いたり、煮込んだりしたときの?

 こういう言い方ををするって事は、匂いの記憶の新しいキアラでなくても気がつく要素があるってことなのかね?

 そういう事なら、今はドルーボアは控えておこうか。


 ミミエさんの片付けを待って食材の確認のために裏庭へ。

 

「これを持込みで調理という事で」


 その台詞と一緒に無限収納エンドレッサーからガングボアをドスンという音とともに取り出した。


「え……解体後のブロック肉だと思ってたわ……」


 地面に何やら敷いて準備をしていたミミエさんだったが、解体前の丸々一体とは思ってなかったらしい。目を丸くして目の前のガングボアを凝視している。


「あ、そうか。解体してあったほうが良かったのか~」


「ああ、うん。解体自体はうちでも出来ない事はないけど、問題は血抜きかな。この大きさだと専門の解体業者でも結構大掛かりになるから、ちょっとすぐに食材として提供は難しい、かな? 見た感じ血抜きはまだよね?」


「そう。狩ってすぐ放り込んだから。ん~、じゃあ、血抜きだけしちまうか。リナリー、ちょっと手伝ってくれ」


「は~い」


「え?」


 なんかビックリしてるなミミエさん。

 ああ、このまま血抜きすると庭が、とか思ってるのかな?


「大丈夫、庭は汚さないんで」


「「えっ?」」


 あれ、なんでキアラも疑問符?

 いいか、今はさっさとやる事やっちまおう。


 無限収納エンドレッサーから、デカイ瓶を出して、と。

 瓶というよりカメに近いか?


「じゃあリナリー、いいか? オレが気体操作で、リナリーが流体操作な」


「りょうか~い」


 リナリーの準備が出来た事を確認したら、神樹の刀で首を落とす。

 心臓は停止してるとはいっても、多少は血が流れ出てくるので、その時点からリナリーが流体操作でカメに向かって空中を流れる小さな川を作る。


 それだけだと、全身から血を抜くのに時間もかかるし魔力も勿体無い。

 そこでオレが補助的に切り口の周りを真空に近い状態まで気体操作でもっていく。

 実はこれ、流体操作と併用しないとえらい事になる。

 気圧が低い事で、蒸発や飛散と合わせて、切り口からもの凄い勢いで血が吹き出すのだ。

 見た目で言えば、まあその……爆発するんだわ。

 一度、全身血塗れになって大変だった。

 普通に機械的なものを使ってやるなら、そうはならないと思うんだけどなあ。

 オレのやり方が悪かったのかも知れないけど、何故か魔法でやると爆発したように血が飛び散るんだよな。

 里のみんなはどっちか一方だけでも上手い事やってのに。

 流体操作と併用すれば問題ないからこの方法が定番になってるけど、結局オレは流体操作のみなら上手くやれるって感じだ。

 気体操作だけだと漏れなく爆発が付いてくる。


 リナリーもオレも一応、両方使ってひとりで出来るけど、今回は手分けしてやってみた。

 後は皮を剥いで、と。


 向こうにいた時は大きくてもせいぜい猪、たまに熊の解体を手伝った程度でここまで巨大な獲物は扱った事なかった。でも、こっちに来てからは狩るもの全てがデカいから嫌でも慣れた。

 恐ろしく切れる解体用ナイフのおかげで楽が出来てるっていうのもあるけど。

 クロリアス鋼製で、なかなかいいナイフに仕上がったと思う。

 魔法で精錬して鍛造の真似事で成形しただけだけど、イグニス曰く、まあまあ、らしい。

 見た目が錆びたような鉱石のクロリアス鋼だが、磨くと青みがかった刀身になってそれが結構綺麗。


「とりあえず、こんな感じで。と思ったけど、ここまでやったら解体しちまうか」


「そうね、そんなに手間でもないし」


 腹に刃を入れ内臓を抜き出す作業を続けて行う事に。

 ここでいろいろ便利なのが魔法。地球だとこうはいかない。

 捌くのと同時にリナリーが魔法で冷水を出して、可食部位の内臓を冷やすのと洗浄を同時に行う。

 源泉賭け流し状態で冷却、洗浄の徹底だ。

 あとは粉になるまで砕いた岩塩を混ぜた極低温の水球に、ガングボアを放り込んで後処理はとりあえず終了。


 ちょっと大き目の三又やぐらを取り出して、ロープで吊るす。

 ちなみにここまで、水球は維持の状態での作業。

 吊るし終えたら、しばらくは冷水球のまま放置。ではなく内部は循環させる。

 その後、水球は消し、まあ、維持するのをやめただけなんだけど。水風船を割ったみたいにバシャっと。一応強制乾燥と塩分の回収も。


 で、肉自体を冷やすために気体操作と合わせて物体の直接冷却魔法を発動。

 ここまでやれば、あとは大まかに解体して終わりかな?


「これで本当に終了っと。こんな感じで引渡しちゃっても?」


 ざっくりとブロックごとに切り分けて、ミミエさんの用意した敷物の上に並べてみた。

 

「えっ? ええ……これならすぐにでも調理できそうね……」


「……その血はどうするニャ? ガングボアの血って、使い道がないような……」


「まあ、そうだな。でも使い道が全くないわけじゃないから」


 言いながら、血がなみなみと入ったカメの口元に防水性の高い布をかぶせ、紐でグルグル巻きに。

 今すぐ、どうこうって話じゃないけど、血液レンガとかどうかな、なんて考えてる。

 砂と防腐剤と殺菌、抗菌剤なんかと混ぜて焼成すると良さげなレンガが出来るってのを、本で読んだかテレビで見たかして覚えてたんだよな。

 イグニスに聞いたら、防腐や殺菌、抗菌なんかは、それに近い効果の薬剤や薬草があるみたいだし、作れないことはないだろう。

 そのうち、コテージを木の家からレンガの家にバージョンアップか?


「今更だけど、信じられないものを色々と見たニャ……」


「そ、そうね。解体に惜しげもなく魔法を使う事もだけど、正直半分以上はその魔法で何をやってるか分からなかったわ……」


「恐ろしく高度な事を鼻歌まじりにやられると、反応に困るニャ」


「そう言われても、オレもリナリーも最近はずっとこれでやってきたしなあ」


「その鼻歌かどうかも分からない、微妙な音程の鼻歌も反応に困るけどニャー」


「ほっとけ」


 音楽の事を知らなそうなキアラにまで言われた。

 ミミエさんも苦笑いって事は、そう思ってたんだ……うぅっ。


「これだけあると、少なくても夕食は毎回になっちゃいそうだけど、どうする? さすがに似たような料理で誤魔化すような真似はしないけど」


「じゃあ、一週間で3回くらい夕食に出して貰えたらいいかなと。残りは好きなように使ってもらうって事で」


「明らかに貰いすぎなような……となると、7日のうち3回は夕食で出すとしてメニューは……」


「え?」


「え、何? どうかしたの?」


「7日? 宿泊1週間って7日?」


「何で、そんな事聞くニャ?」


「あーーっ!!」


 食堂の壁にカレンダーがあるッ!?

 今までカレンダー自体、気が付かなかったけど、良く見りゃ、6曜じゃなくて7曜だ!

 あれ、なんで!?


「き、急にどうしたニャ」


「カレンダーの一週間が7日になってる……ずっと一週間は6日だと思ってた……」


「……いつの時代の人間ニャ……」


「そう教えられてたんだよ……」


「お師匠さんかニャ? 違う大陸や国で時代によって6日の時もあったって話も聞いたことはあるけど、今の今までそれで生活してたって、そのお師匠さんてどんな人ニャ」


 いや、人じゃないけどな。

 それにしても、やられた! その可能性を全く考えてなかった。 

 一万年以上、下手すれば数万年は生きてるんだから、いつの時代を基準にしてるかで違うって事も有り得るんだよなー。

 本人が言ってたように、人間の生活や文化には興味がないって言ってたのを軽く考えてた。


 ちなみにリナリーは、そこのところは全く気にしてない。

 妖精族は曜日なんか関係ない生活だからってのが理由らしいけど。

 神域で生活してる時に、季節さえ分かればいいんだから、みたいな事を言ってた。


 早いうちに気が付いて良かったというべきか。

 6曜で矯正されつつあったけど、完全に慣れる前に、馴染み深い7曜に再シフトすればいいだけ、と考えられなくもない。


「確かにどんな暮らしをしてたのかちょっと気になるわね……ま、まあ、3食は確実に約束するわ。でも、それだけだとこちらが貰い過ぎてるのよね。こんないい状態のものは滅多に手に入らないから、それだけでも10日分の宿泊費にはなると思うの。それか50回分くらいのランチ代とか。商売人としては何か対価を払わないと気が済まないのが性なのよねえ」


「正直そこまでは考えてなかったけど、そういう事なら宿泊費がいいかも」


「ん、わかったわ。急な場合でも一部屋は用意できると思うから」


 お~、これで予定外の野宿ってのを減らせる可能性が。


「で、修行の予定はどうするニャ?」


「ああ、それな。一旦この宿を引き払ってからがいいか。そのタイミングで何か外せない用事とかあるか?」


「込み入った予定はないから、調整してみるニャ」


 ふむ、ざっくりと予定を組んでみたけど、ひとまずはこんな所でいいか。

 あとはこっちの準備くらいだしな。





 ~~~~





 宿泊の予約もしたし、ランチも食べ終わった。という事で午後が自由になった訳だけど。

 ギルドの用事を済ませた時に、行くか迷った街の散策に出かける事に。

 

 見たいのは、主に市場とか色々な専門店的なお店。


「何か欲しいものがあるのニャ?」


「「食べ物!!」」


「……会ってから食べ物の事ばっかりのような気がするニャ」


「美味い物を食べるのは、オレを構成する要素の大部分を占めてるからな。新しい土地に来たら何を置いても食の探訪だろ」


「食い意地はせいぜい2割でしょうよ」


「残りの8割は何なのかニャ?」


「審美眼(お尻)だと思う」


「ふっ、甘いなリナリー。割合がおかしいぞ。残りの8割は鍛錬だ」


「それもおかしい」


「だから甘いって言ってるんだよ。尻に対する欲求の割合は10割だ。全ての事柄がその上に乗っかってるだけだ」


 分かり易くいうとだ。OSの上にアプリが乗っかって動作してるのを想像してもらえればわかるだろう。

 

「オレの基本OSは尻で成り立ってる」


「いばるとこじゃない!」


 いや、だって、イグニスが切り離せないって言ったぐらいだから、あながち間違ってないと思うぞ。

 それに、オレはもうそこを突っ込むのはやめた。


「よく分からない単語が出てきたけど、イズミが変なのは納得してるから気にしない事にするニャー」


 いいけどね。豚のぬいぐるみを肩に乗せてる段階で、すれ違う人からは生温~い感じの目で見られてるし。

 でも子供の食いつきが妙にいいんだよ。

 リナリーが威嚇するみたいにビクっと動くと、すざっ! て後ずさりするけどな。

 はっはっは。……何してんの。


 そうこうしてるうちに目的の場所が近づいてきたようだ。

 この辺りの区画から人通りが多くなり、脇には屋台のような構えの店が立ち並び、様々なものを売り買いしている。

 さながら、テレビで見た築地市場のような活気に満ちた所だ。

 見た目の雰囲気も、なんとなく近いものがあるかも。


「朝のほうが活気があるけど、この時間でもなかなかの活気ニャ」


「こんなにいっぱい人間見たの、初めて」


「オレもだ」


「それもどうかと思うけど」


 しょうがないだろう、田舎だったんだから。

 まとまった人間見るのなんてテレビの中だけだ。あとは全校で集まった時くらいだな。


「とにかく! 美味そうなものは買うぞ!」


「「おー!」」


 なんだかんだいってキアラもノリがいいな。


 宣言通り、目についたものはとりあえず購入。

 肉はいいとして、魚介類が思いの他、充実してる。

 川魚だけじゃなくて、海の幸もかなりあるのは、ちょっと意外だった。

 聞けば簡単なからくり。

 そう遠くない距離の港から水揚げしたものを、魔法袋や魔法鞄、魔法箱と色んな手段を駆使して持ち込んでいるらしい。

 ちなみに一番近い漁港がここから一日といった距離のようだ。


 各種、魚介を5、6人分と肉も何種類かを同じだけ。

 野菜類は特に買い漁った感があるな。

 果物も見たこともないようなのがたくさんあってテンション上がりまくり。


「いまさら言うのも何だけど、買いすぎじゃないかニャ?」


「確かに今更だ。しかーし、やめる気はない!」


 確実に安全に食べられると分かっている食材が選び放題とは、なんと有りがたい事か。

 食って1分で腹がぶっ壊れるなんて、悪夢意外のなにものでもないからな。


「あっ!」


「ニャ? どしたニャ」


 餃子だ! 餃子がある!

 正確には餃子に似てるものだけど、かなり近い!

 

「おっちゃん! これ頂戴!」


「おう! いらっしゃい! いくつ欲しい? なんならここにあるの全部買ってくれてもいいぜ!」


 ほぼスキンヘッドのおっちゃんに声をかけたが、倍くらいの大きな声で返事が返ってきたぞ。

 ガルタのおっちゃんと同年代くらいか?

 顔の上半分には毛がないのに下半分には豪勢に生えてるぜ。


「美味かったら、それも考えようじゃないか!」


「がっはっは! 言うじゃねえか! まずは試しに一個食ってみな、絶対気にいるぜ」


「おっちゃんこそ言うねえ! 気に入られる自信があると」


 オレの言葉にニヤリと笑みを返し、木の板に何かの葉を乗せる。皿代わりにって事か。

 そこにかなり大き目の餃子を4つ乗せて、最後の仕上げをするようだ。 

 どうやら、焼きではなく茹で餃子?


 仕上げとしてのトッピング作業の様子を観察してみると。

 溶かしバターにガーリックを混ぜて、それをたらし、粉末の唐辛子、これは他にも何か混ざってるみたいだからチリパウダーに近いものか? それをお好みでふりかけて食べるみたいだ。

 何かの番組で外国の餃子の中にこんな感じのがあった気がするぞ。

 そっちはサワークリームとかヨーグルトが付け合せだったか、たしか。


「おお、美味そうなニオイ」


 そういう事で、ひとくち味見をば。

 美味い!

 中身はひき肉と野菜だとはわかるが、材料が特定出来ないのはちょっと悔しい。下味の調味料も独特の風味で食欲が増す。

 これ、結構クセになる味だな。

 それに、他のつけダレとかでも試してみたくなる。


 惜しむらくは醤油がない事か

 酢はあってもなくてもいい。使わない事も多いし。……すっぱいものが若干苦手です。


「そういえば、こっちの区画にはあんまり来た事なかったニャ。他にも結構美味しいものがありそうだニャ」


 出されたものをちゃっかり食べて、キアラがそんな事を口にした。

 はふはふと、ほお張って、その味と新しい発見に満面の笑みでぴこぴこと耳を動かしてる。


「そうなのか? もったいねえな。落ちてるもの以外は何でも食ってみるのもいいもんだぞ」


「そこまで割り切れる、イズミの今までの生活環境が怖いニャ……」


「がっはっは、おもしれえニイちゃんだな! 美味いもんが食えるのは生きてる証拠だからな、なんでも食ってみればいいのさ。腐ってたって食えるもんもあるしな! がっはっは!」


 それは発酵食品だってーの。

 おっと、オレたちだけ食べてるとリナリーが拗ねるよな。

 餃子を一つ摘み上げ、肩のぬいぐるみに手渡すと、間髪置かずに、ぬいぐるみの口の中に消えた。


「……にいちゃん、そりゃあ一体……」


 ドルーボアのぬいぐるみの挙動におっちゃんが目を見開いてるが、見なかった事にする。


「ん? なにが?」


「い、いや、何でもない……。――ところで、どうだ?」


 引き攣り笑いから、気を取り直して聞く、その表情は自信有り気だ。


「とりあえず20個!」


「がははっ! まいどあり! 20個で千ギットだ」


 一個50ギットか。大きさと味で考えたらお買い得だな。


「今食べたヤツのお代は?」


「気にするな! サービスだサービス! ま、買うと思ってたからな」


「最初からバレバレだった?」


「なんとなくだ! 20個も買うとは思わなかったがな」


 大きな葉に五つずつ入れて包んで、計4つ。

 かなりの大荷物になったが、地球でならいざ知らず、今なら無限収納エンドレッサーにぶち込めば問題ない。


「なんだ、ニイちゃん。便利なもの持ってるな。荷物に余裕があるなら、ここらの店回ってみな。ハズレなしだぞ」


「おっちゃんの舌なら信用出来そうだ。でもそんなに美味い店がいっぱいあるなら、もっと人が居てもおかしくなさそうだけどな」


「確かに他の所と比べると、人通りが少ないかも知れないニャ」


「ん? んん……まあ、そういう日もあらぁな! それに、ここいらは入り組んだ区画の更に奥だからな。人の出入りもバラつきがあるってもんだ」


 どう説明したらいいか、といった感じの困った笑顔でオレの疑問に答えてくれたが、確かに商売なんて分からない素人に、客の購買行動なんて説明しようがないよな。


「ああ、そうか。そういう事もあるのか。ごめん、素人が変な事聞いて」


「なに、気にするな」


 ニカっと笑った顔は、豪快な笑顔、と表現できそうな顔だな。


「とにかく、この辺の店はオススメだぞ」


「じゃ、さっそく! あ~、いや、このあと武器屋とかも見て回りたいんだよな~」


「なんだ、ニイちゃん。冒険者だったか」


「そうそう」


「じゃあ、稼いだら、たんまり買いに来るといい。その時はサービスするぜ?」


「よっしゃ、言質はとった」


「サービスする前に死ぬとか禁止だからな」


「死ぬ前に這ってでも買いにくる」


「がははっ! その心意気は嬉しいが、縁起でもない事言うと言葉通りになちまうぞ? まあ、ニイちゃんだったら、なんだかんだ上手いこと切り抜けそうではあるな」


 結構話も弾んだと思うが、他の客も来てオレたちとだけ会話するわけにもいかず、挨拶もそこそこにおっちゃんの屋台をあとにする事に。


「また、来るよ!」


「おう! またなっ!」


 隠れた美味い物ってのは何処にでもあるもんだな。


「長い事ここに来てるのに、知らない事ってあるニャ」


 観光地の地元民が意外と地元の事を知らない、みたいな感じかね。





 ~~~~




 市場の次に向かったのは武器屋。

 魔法薬局や魔動製品も見たかったけど、ちょっと無理だった。


 何故か。


「か、金がいつの間にかなくなってる……」


 ……残金1万ギット。


「何故にっ!?」


「5万も10万もするものを、ポンポン買うからでしょ!」


 やべえ、よく覚えてねえ。

 色んな武器を見てテンションあがったのは覚えてる。

 それらの武器を手に取って具合を確かめたりしたのも、なんとなく記憶にある。

 しかし、その先の記憶が定かじゃない。

 いや、覚えてはいる。

 覚えてはいるが、認めたくない自分もいる。

 自分を見失って衝動買いをしてしまうとは!


「とりあえず一週間は食いっぱぐれる事はない。しかし……しばらくは働かずに食えるはずだったのに……くっ!」


「「働け」」


「……はい」


 金がなくなる時って、何の前触れもなく来るんだな。


「まさかこんな事で予定が狂うとは。あー、ビックリした」


「「こっちのほうがビックリしたわ(ニャッ)!」」


 おっしゃる通りで。






今後の展開を迷いに迷って執筆が遅れてしまいました。


体調が良くないと集中力もなくなりますね(´・ω・`)



ちなみに1週間が7日の件は、6日でいくのが面倒になったからじゃないですよ?

ええ、そうですとも。 

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