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第三十八話 今後は?


 ガルタのおっちゃんの物騒なお誘いもあったが、取り合えず金を工面するという目的は達したので素材の換金、解体所を後にした。

 正面入り口には戻らず、反対の開け放った扉をくぐり解体所から直接外に。


「依頼票を見に戻るかニャ?」


「いや、しばらくは働かずに食える身分になった」


「ダメ人間が出来上がったニャ……」


「冗談だ。市場とか屋台もありそうだったから見て回りたいとは思ったけど、取り合えず、あんまり人がいない所とかあるか? 公園みたいな感じの」


人気ひとけのない所……何するつもりニャ!?」


「何もしねえよっ!」


 何、胸隠しながら自分の身体抱いてんだ!

 そうじゃないって分かっていながら、そういうボケかますのやめてくれる!?


「ずっとフードの中じゃ、リナリーが退屈じゃねえかなと」


「ああ、なるほどニャー」


「わたしなら、それなりに楽しんでるから大丈夫よー。でも植物がいっぱいあると元気出るかも」


「じゃあ、ちょっと歩くけど、いい場所があるからソコにいくニャ」


 ギルドの裏手からそのまま、人気ひとけのなさそうな公園を目指して移動。

 目抜き通りに抜ける道とは反対側にしばらく歩けば目的地の公園のような場所にいけるらしい。


「あそこニャ」


 そこは公園というか河川敷の広場といった感じだった。

 街の近くを流れる川沿いにある開けた場所。

 樹木も適度にあり木陰の下にはベンチもある。


「ほう、ここなら誰もいなくていいな。場所によっては適度に視界を遮る所もあるし」


 取り合えず木陰のベンチに腰を下ろして一息つくことにしよう。

 ここならある程度ひとの目からは遮られて、リナリーも動ける。

 万が一のときのために広めの動体感知はかけておくけど。


「ん~っと、ふぅ。ここいい場所ね~。里の空気を思い出すわ」


 フードの中から飛び出し、伸びをして何やら感慨にふけっているリナリー。

 いざという時のために、ぬいぐるみ用白ローブを羽織っている。

 ローブの下は最近のいつもの服装とはちょっと違う。

 下半身はホットパンツとかミニパンツとか言われてるタイプのもの、上半身はへそ出しタンクトップで真夏のような格好だが、ローブを着る前提だからこの格好なんだとか。変身するバージョンによっては地味に暑いとかなんとか。

 

 そうそう、最近、里のファッションにオレの知識というか情報が流用され始めてる。

 オレが地球の情報をプリントアウト可能だとサイールーが知った事で、この前なんか紙の束がゴソっと無限収納エンドレッサーに突っ込んであった。

 特にファッション誌の要望が強くて、そればっかり印刷してた気がする。

 その影響もあってリナリーのこの格好なんだけど、サイールーとの会話を聞いてると、どうもニーソを再現するつもりでいるみたいなんだよな。

 確かにリナリーが穿いたらメチャクチャ似合うだろうけど、目立つ可能性とか考慮してるのかね?


「だな。確かに里のあの独特の空気に似てる気がする」


「へぇ~って、ちょっと待つニャ……なんでイズミが妖精の里の空気を知ってるニャ」


「「あ゛」」


 やべっ! 懐かしい感じがして、つい普通にリナリーと会話してたわ……。

 なんてあせってはみたものの、あれ? 

 別に言ってもいいんじゃないかという気が……


「なあ、リナリー……これってもう隠す必要ないんじゃないか……?」


「……なんとなく、それはわたしも思った」


 緊急の作戦会議。

 一応、小声でリナリーと会話しているけど、キアラには聞こえてると思う。


 最初は人間に知られると妖精フェア・ルー族がどうなるか分からないという事で、極力情報は漏らさないようにしていたが、キアラに対してはあまり隠していても意味がなさそう。

 

 僅かな時間しか行動を共にしてないが、お人よしが尻尾を生やして歩いてる、というのがオレの正直な印象。

 厳しい職業に従事しているのに、それでいいのかと他人事ながら不安になるくらいだ。


「あ~、キアラ。気が付いてるとは思うけど……」


 一部話をボカして妖精フェア・ルーの里で色々と世話になっていた事実を伝える。

 鉱石竜オーレスドラゴンが原因だった事は伏せて、里の地脈の流れに問題が出て、それを解決するのに手を貸したと。

 鉱石竜討伐の事を話そうかと思ったがオレ一人の手柄でもないし、自慢するようで何かこう、こっ恥ずかしくて言う気にならなかった。


「何か隠してるとは思ってたニャ。上手い事焦点はズラされてるような気がしてたからニャ。それにしても既に妖精の里を発見済みだったとはニャー」


「なりゆきではあったけどね。でもそれでうちの里は助かったの」


「誰も知らない情報がズラズラと出てくる事にはもう慣れたニャ。ん~、話を聞くと500人規模の集落で、魔法に関してはかなりの技術を持った職人集団? のように聞こえたニャ」


「確かに職人寄りかもな。このオレのコートとか、服や靴も里謹製だし、色々とすごいぞ。悪戯好きではあるけど勤勉だな」


「悪戯をする事について勤勉って意味かニャ?」


「そっちも勤勉っちゃ勤勉だけどな。とにかく興味の対象が広いんだよ。薬草なんかも詳しかったしな。あー、でも人間に対しての薬効は良く分かってなかったっぽい気もするな、そういえば」


 人間との接触を避けてたんだから、そりゃあね。

 でもサイールーとしては、人間用の魔法薬なんかもどうにかしたいって言ってたな。

 神域に来た時に、オレの顔を見て『少しくらいなら無茶しても大丈夫よね』とか、とてもいい笑顔で勝手に納得してたのには不安を覚えたけど。

 そのうち、実験台にされるんだろうか……やだ、こわい。


「キアラみたいに薬草や植物に詳しければ、妖精の技術や知識も応用して取り込めるかもな」


「イズミはどうだったニャ?」


「オレか? オレはそっちはダメだな。土台になる基礎知識もなかったし、時間的にもどうにもならなかったからな」


「ん~、ねえ。キアラにその気があるなら妖精の里に案内してもいいわよ?」


 オレの肩の上で四つんばいで身を乗り出してリナリーが何を言うのかと思えば、意外な提案。


「いいのか?」


「すぐってワケにはいかないだろうけどね。実を言うとルー姉さんが人間の知識も欲しいみたいな事言ってたのよね」


「あ~、それで本の複写は出来ないか、あれ程しつこく聞いてきてたのか」


 その話題が元で、オレの中にあるファッションの情報をプリントアウトって話になったんだよな。

 何かあるんだろうなとは思ってたけど、なぜか本題そっちのけでファッション雑誌に食いついてたんだっけ。


「願ってもない話だけどいいのかニャ? その……人間に対して随分と警戒してなかったかニャ?」


「リナリーの感覚は正しいとオレも思うから問題ないだろ。オレとリナリーが繋ぎになれば、そこまで心配するような事にはまずならんだろうし。ん、待てよ? そうなると若干問題があるか?」


「な、何ニャ?」


「いやな、しばらくはこの街にいるけど定住するつもりがないだろ? そうなるとだな、念のためにオレ達なしでも妖精の里に行けるようになってもらわなきゃいけなくなる。少なくてもキアラ単独か、キアラのパーティーで里までって事になるな」


「それをわざわざ言うって事は……今のあたしじゃ無理ニャ……?」


「うーん、ちょっと難しいかもなあ。どのルート使ってもドルーボア級以上がうじゃうじゃなんだよ」


「そ、それは……行ける気がしないニャ……。え、どのルート使っても? 複数あるのニャ?」


「そう。通常の移動と近道があるのよ。まあ近道って言ってもイズミが言った通り、結局はドルーボアの生息域は避けられないんだけどね」


「肝心な事を聞いてないけど、場所というか、そこまでどのくらいかかるニャ?」


「えーっと、この街からだと私が飛んで行ったとして、約1ヵ月。方向は……あれ、どっちだったかな」


 おいおい、大丈夫かリナリー。

 ま、オレも方角はあやふやだけどなー。


「まあいっか。近道だと、んー、どれくらい?」


 そこでオレに丸投げなワケね。

 そうだな。

 バイツの馬車で移動した距離が半日で30~40キロ? 

 で、森にはいって60キロだとすると。

 約100キロプラス古道。


「余裕を見たとして、ここから4日って所じゃないか?」


「ねえ、それってイズミの基準で、でしょう? キアラの参考になるの?」


「うっ……ってなるとだな……10万と古道の2日が目安になる感じか?」


「森も含めた10万なんて4日で行ける気がしないニャ。それに古道って何かニャ? 聞いた事がないのニャ」


「うん? そうなのか?」


 あの人間には難しい発音の呪文の事を考えれば、人間はその存在を知らないと、そういう事もあるのか。

 オレとリナリーは顔を見合わせるが、どうやって説明したもんか。


「世界中に張り巡らされた、隔離された空間にある洞窟って事らしいんだけど分かるか? 魔力を吸う洞窟でいたる所に出入り口があるっていう」


 オレの説明を聞いてもすぐには思い当たらないらしく、ウンウンと唸っているが、それからほどなくして思考が何かに行き着いたらしい。


「それはひょっとして、落命の洞穴うろあなの事を言ってるのニャ?」


「「落命の洞穴うろあな?」」


「そうニャ。稀に岩壁や木なんかに溶け込むようにして消えて、大量に魔力を奪われるって言い伝えがあるのニャ。そこに長居をしたり下手に探索しようとすれば確実に死に至るとも言われてるニャ」


 どうやら、あの呪文なしでも古道に入る事自体は可能だったようだ。

 以前、イグニスも有り得ない事はないと言っていた。

 その場所の魔力の濃度、月の満ち欠け、季節、気温、湿度と、更には迷い込む側の感情による魔力の質や揺れまでもが条件になるが、と。

 そんな奇跡のような確率でも、ゼロではなかったらしい。逸話が残ってるという事はそういう事なんだろう。


「たぶんそれだ。普通は入れないんだけどな」


「そうなのニャ?」


「合言葉が要るのよ」


「それも古い時代の言語が使われててな」


 最初リナリーに聞いた時は古い妖精の言葉だという事で納得してたけど、それだと妖精以外は使えなかったのか? と後になって疑問が沸いた。

 そこをリナリーに問い質してみたが、『あれ、そういえばそうよね。古代妖精語じゃなくて、汎用の古代語だったとか? まあ、今はイズミも使えるようになったんだし難しい事は考えなくてもよくない?』と、いい加減な答えが返ってきたので、深く追求するのも面倒になってそれっきりになったのだ。


「合言葉はいいとして、どう考えても入っちゃいけない場所のような気がするニャ……」


「それについては対策もあるから大丈夫よー」


 リナリーが言うように魔石を使えばどうとでもなるだろう。

 幸い手元にはいくらでもあるし。


「それなら、なんとかなる……のかニャ~? ところで、なんであたしなら大丈夫って思ったニャ? 問題ないって言ったけど知り合って日も浅いニャ。そこまで信用する根拠が正直分からないニャ」


「勘みたいなもんだな。いや、それも正確じゃないか。オレが接してきた人間の評価がその根拠ってのじゃ納得出来ないか?」


 オレが直接聞いた人間からの『白のトクサルテ』の評価はどれも高いものだった。

 短いながらも一緒に行動して、オレ自身もキアラは信用出来ると判断したそれが、的外れではなかったと裏付けられたとも言える。

 オレの提示した根拠に、キアラ自身としては納得しきれていないのか微妙な表情。

 というよりは、ちょっと戸惑っているという感じか。


「ま、それも大きいけど、それとは別の理由があってなあ。仮に妖精の里が人間に見つかったとしても、どうにも出来ないと思うんだよな。実を言うと、里の子供以外のほぼ全員がリナリーと同じくらいの強さなんだよ」


「え゛」


「だからな、もし数倍の人間で制圧しようとしてもまず無理だと思うんだわ。隠し札が大量に揃ってるしな。って言っても妖精は戦うのが好きじゃないみたいだけどな」


 それでも何があるのか分からないのが世の常。

 まったくの無警戒というわけにはいかないから、隠れ里の性質自体は今までと変わらずという事になっている。

 いざとなれば里ごと移動という手段もあるし。


「というわけでだな。キアラに強くなってもらうっていう目的に、ある程度の目標を設定させてもらう。漠然とやるよりは目安があったほうがやる気も違うだろ?」


「わ、分かったニャ。……でもドルーボア級をどうにか出来るまでって、気が遠くなりそうだニャ……ちなみにだけど、会った時から言ってた定住しない理由って何なのかニャ? どうにも気になるニャ」


「あっちこっちフラフラする予定があるんだよ。つまる所、観光?」


 あれ、人探しだっけ? まあいいか、そっちは期待薄だしなあ。

 

「修行の旅かと思ってたのに、観光とかワケが分からない事言ってるニャ……」


「そう思ってないとやってられないんだよ」


 サシャを探す手がかりってほとんどないんだよな。

 その代わりといってはなんだが、実を言うと祖竜の残り11柱に会うために紹介状みたいなモノを持たされている。

 捨てていいかな?

 どうしてかって?

 会ったら確実に面白い事になるって言われたからだよ!

 別にお使いを頼まれた訳でもなし、どうしても会わなきゃいけないわけじゃない。

 だけどなあ……会わなきゃ会わないで何を言われるか。または何をされるか……。


「そこまで心配しなくてもいいと思うけどねー。イズミのお師匠様だって無茶な事はしなかったじゃない」


「あれが? あれが無茶じゃないってッ!?」


 リナリーもちゃんとイグニスの事は暈して言ってるけど、そんな事はこの際どうでもいい。

 久々に頭抱えて仰け反っちまったぜ。

 思わず、うおーーっ!! なんて声も出たし。

 けど、サシャの情報があるなら素通りって訳にもいかないのか……。

 いや、だいたい祖竜がどこにいるかも定かじゃないんだから、遭遇するとは限らないはず。

 仮に何処かにいるって情報があったとしても聞かなかった事にすればいいんじゃね?

 そうだ、そうしよう!


「何を考えてるのか、だいたい想像はつくけど、バレるわよ確実に」


 うっ……。そうだった。記憶を見れば一発で分かるんだよな。

 それに祖竜のいる場所が、絶景とか神秘スポットらしいから見てみたいというのはあるんだよな。

 聞いても『その時までとっておけ』と場所も含めて具体的な事は聞かされてないから、余計に期待が膨らんでるし。

 まあ、この広い世界で会えるかどうかも分からないんだから、今は深く考えなくてもいいか。……いいよね?


「イズミがこれだけ取り乱すってどんなお師匠さんニャ……」


「ん~そうね~、一言でいうと、すごい?」


 ま、ね。

 オレにとっては、すごいっていうより非道い?

 扱いがなッ!





 ~~~~





 この河川敷の公園に来たのはリナリーの事もだけど、先程ギルドでもらった冊子に目を通したいと思ったからだ。

 この街、というかこの国では紙がそこそこ普及している。

 一般に出回っているのは、日本で目にする漂白されたように真っ白なものではないが、文字の読み書きには支障のない紙だ。

 扱いとしては、わら半紙とか新聞紙とか、そんな感じ?

 そして、その新聞が普通に売られている。

 といっても、毎日ではなく、1週に一回とかのペースで発行しているようだ。

 国内外の話題やこの街の事件事故などの時事ネタが主な記事内容。

 たまに号外が出る事があるとか。

 地球では新聞の発刊が中世以降という事を考えるとだいぶ進んでいる印象を受ける。

 キアラに話を聞くと、どうも活版印刷っぽい技術もありながら、魔法が基幹技術を担っており、それで印刷物は作られているようなのだ。

 製紙技術も同様に魔法が根幹にあり、普及に一役買っているらしい。


「あたしも聞いた話で、詳しくは知らないけど、こんな説明でよく分かるのニャ。実はイズミはインテリかニャ?」


 実はってなんだ。

 オレそんなにバカを晒してたか?

 と、オレの生活態度が痴態に満ちているかどうかは今は置くとして。


 またこれらの紙とは別の扱いになるのが獣皮紙とか樹皮紙などの、主に魔法関連で使われる皮紙系統の紙だ。

 こちらは契約なんかで使われたり、その数は少ないものの呪符や霊符、護符にも使われているようだ。

 専門的な符術師は特殊な技能が必要らしく魔法使いの中でも稀な存在だという。

 うむ、益々ファンタジー満載な感じがしてきたな。


「呪符関係はあたしに聞いてもチンプンカンプンだニャー。イズミはもしかして使えるのかニャ?」


「一応、理論というか、あるというのは聞いてはいる。試した事はないけどな」


「ふーん、ギルドの冊子の話題から結構話が膨らむもんだニャ。ところで何してるニャ?」


「いや、この冊子にサービスでお手軽呪符とか、どこかに付属してないかと思ってな」


 ページのどこを捲ってもそれらしいものはない。

 透かしの可能性も考えて陽にかざしてみだが、これもダメ。

 付いてたら面白いな~程度だったから全然いいけど。


「ちょっと物騒だけど、面白い事を考えるのニャ」


「イズミ、その冊子、袋とじとかはないの?」


「リナリー、オレがそれを真っ先に考えなかったと思うか?」


「……まあね。男だもんね」


 常識的に考えて、規約説明の冊子にそんなのがあるわけないんだが。


「袋とじって何かニャ? イズミが男なのと何か関係があるのニャ?」


 あれ? 袋とじが通じない?

 原始的な製本の方法として袋とじでの製本もあるかと持ったけど、どうやら今はないっぽい。

 魔法か、魔法で解決してるのか。

 まあ、ここで言う袋とじは全然意味が違うけどさ。


 そこで冊子を使って説明してみた。

 ページ同士の淵をつまんでくっつけて、この中に面白い情報があるって言われたらどうだ? と。

 買わなきゃ確認出来ないという前提に納得してはいたが、何故に男限定? と首をかしげている。

 しかし、隠されている事で余計に気になるというのはキアラも同意出来るらしい。

 種明かしとして、内側には過激なエッチな絵が満載だと告げると、表情がなくなり、ちょっとビクッとなってしまった。

 袋とじの中は、男の夢と欲望が詰まった小宇宙だ。


「なるほど、それで男って話になったのニャ~。にしても肉欲まっしぐらのはずなのに、有り得ない角度からの発想だニャ……でもその発想に食いつきそうなのがうちにも……」


「内容次第じゃ、男じゃなくたって有効な場合もあるわな」


「ううっ……教えるかどうか迷うニャ……」


「よく分からんけど、該当人物とは話が合いそうだな。詳しく聞きたくなったらいつでもいいぞ」


 すごい嫌そうな顔だな。

 ま、そこの判断はキアラに委ねるという事で。


 盛り上がったのかイマイチ分からない微妙な話題はさておき、冊子の内容はジェンの説明とそれほど違わないものだった。

 冒険者として活動するだけならジェンの説明で充分かもしれない。分からなければ教えてくれるようだし。

 書かれていたのはそれ以外の捕捉程度のもの。


 依頼未達成時の罰則が、違約金の発生に始まり一定期間依頼を受けられないなど、依頼主や依頼内容で異なる事などが書かれていた。


 他には施設の案内などが記されており、依頼受諾の申請と依頼達成の報告の窓口が分けられている事、ジェンの居た場所は登録申請と兼務した依頼申請窓口である事が簡単な見取り図で分かるようになっている。

 あとは、武器防具、薬品類の販売窓口か。

 最低限の装備が揃えられるというのは、助かる人間が多いだろうな。かゆい所に手が届くというのも言い過ぎではないかも。


 素材買い取り、解体所も当然ながら冊子内で紹介されている。

 大まかな買い取りの流れや、素材解体時の注意点なども書かれており、参考になりそうなレクチャー本も紹介されていた。


「ガルタのおっちゃんが書いた解体の手引き書もその中にあるニャ。『血と肉と骨と戯れる休日』がおっちゃんの本ニャ」


 すげえ題名だ。DIY感覚で人間でも解体しそうな雰囲気が漂ってる。

 どこかの家の庭で血に塗れてる笑顔のおっちゃんが浮かんできたわ。


 ちなみに、その休日だが、冒険者ギルドは基本的に年中無休で営業中。

 職員はシフト制に近い感じで持ち回りで週に1日か2日の休みをとっているようだ。 


「おっちゃんは休みの日は若い嫁とイチャイチャしてるらしいニャ。微妙に腹立つのニャー」


 なんだと!?

 あんな何人も殺ってそうな顔して、休日には若い嫁さんとヤッているというのか!

 くそう、なんて羨ま――いや、似合わない事を!


 ……まあ、休日に何をしようといいんだけどね。

 存分に乳繰り合えばいいさ! 


 そのガルタのおっちゃん、冒険者を引退した理由は足を悪くしたからなんだそうだ。

 10年ほど前から膝の不調を訴え、治癒魔法でどうにか騙し騙しやっていたそうだが、完全には治らず4年程前に完全に引退して裏方に回ったという事のようだ。

 現在50に手が届こうという所で落ち着いてきたという話だが、一線で活躍してた時は、かなりブイブイいわしてたらしい。

 というかあれで落ち着いたのか……運動不足解消にいきなり模擬戦を提案したりしてるのに。


 治癒魔法も万能というわけでもなく、やはり生まれつきの疾患や加齢による骨や筋肉の衰えは魔法では完全に治す事は出来ず、痛みや炎症の緩和などに留まっている。

 万能に思える魔法でも治療に関してはどうにもならない事もある、というのが一般的な認識のようである。


「多少制限はかかるけど、今でも短時間なら、現役の一級冒険者にもひけは取らないと思うのニャー、あのおっちゃん」


「そこまでか。感じた強さは間違いなかったわけだな。嫁も元冒険者だったりするのか?」


「それほど立ち入って聞いてはいないけど、そうみたいなのニャ。支援系に特化した相方だって言ってたような気がするニャ」


「ほう、あのおっちゃんを支援か。見てみたい気はするな。自宅で暇つぶしに連携の訓練とかしてても可笑しくなさそうだよなー」


 あ、そういえば。


「キアラも自宅があるって言ってたけど、その歳でそんなに稼いでるのか?」


「ん? 買ったわけじゃないのニャ。仲間と一緒に住んでる借家なんだニャ」


「ああ、シェアしてるのか。防犯と金銭面では合理的か。結構デカい屋敷だったりするか?」


「4人で住むには充分な広さだと思うニャ。――ハッ! まさかハーレムを狙ってるニャ!?」


「なんでそうなるッ!? 敷地の広さが知りたかったんだよッ! 庭が広ければ文句なしだなって思っただけだ!」


「庭? そこまで広くはないと思うニャー。でも庭がどうかしたのかニャ?」


「修行するにしても、なるべく邪魔が入らない所がいい。それに、ある程度の広さも必要。先の見通しが曖昧な今の状況だと、全員でキアラの修行に付き合ってもらう可能性もある。個人の適性もあるから強さはバラバラでも仕方ないけど、連携になると仲間の能力は把握してたほうが無駄は少ないからな」


「なるほど……でも、うちの庭で4人での訓練は厳しいと思うニャー」


「うーん、そっか。そうなると街の外でやるしかないか」


 その可能性も頭にはあったから、一応の代替案はあるけどね。

 そうなると細々《こまごま》とした準備が必要だな。


「まあ、それはどうにかするとして。オレ達の事は仲間には?」


「うニャッ!? は、話してないニャ……家を空けてるメンバーもいるし、昨日の今日だからタイミングがなかったニャ」


 やけにリアクションがでかいな。

 まあ、すぐに話すのは無理か。リナリーの事をどう説明するかがネックになってるんだろうな。


「そこは修行の進捗次第だから、今すぐメンバーに話す必要はないか。ま、追々だな」


「なんかイズミ楽しそうよね~。女の子に囲まれるのがそんなに嬉しい?」


「ん? それも役得ではあるだろうけど、他人を鍛えるのは楽しそうなんだよな。フッフッフ」


「あら……完全に切り替わってる。これはわたしも気を抜けない、かな?」


「益々不安になってきたニャ……」


 河川敷にきて、なんだかんだで昼近くまで話し込んでいたようだ。

 そろそろ宿に戻って代金を払ってしまおうか。

 ついでにランチもいいかも。


 あ、いけね。

 キアラに金返してなかった。







2話使って、たった半日しか時間が経ってない……(´・ω・`)




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