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第三十七話 ギルドにて

ブックマーク200件突破!

本当にありがたい限りです(*´∀`*)


「コホンッ! えー、まずはご登録ありがとうございます。当カザックギルドは新人育成から熟練者への手厚いサポートなど、かゆい所に手が届くをモットーに運営されている組織です。

 組織運営の効率化のために冒険者の皆さんには、その実績ごとに階級が割り当てられています。本日登録されたイズミさんは6級から1級のうち最下級の6級から、新人という扱いになりますが、そこから開始して頂きます。昇級のシステムとしまして、一定難易度の依頼を規定数達成されますと基本的には昇級されます。その他に規定外の昇級も御座いますが、これは今はいいですね。

 当ギルドには様々なルールが御座いますが、絶対のものとして掲げられるものが『他人に迷惑をかけない』というものです。依頼未達成や契約不履行などの顧客の不利益になることは、その最たるもので原則認められていません。と言っても厳罰があるわけではありません。しかし、そういった情報はカードに蓄積されるため、あまり頻繁に繰り返されると悪質とみなされ依頼を受ける事自体が出来なくなります。結果的に自分の首を絞める事になりますのでお気を付け下さい。

 厳罰はないとは言いましたが、罰則がないわけではないので、そこの所はお間違えのないようお願いします。ざっくりと大まかなルールを説明しましたが、仕事の内容はいたって簡単です。冒険者の仕事とは要するに『何でも屋』です。草むしりから戦争まで依頼料次第で何でも請負います。まあこれは極端ですけれど。依頼者が、依頼料を払っても利益があると思ったものなら何でも、という事ですね。詳細はカードと一緒にお渡しする冊子に書かれていますので、そちらでもご確認できます。またそれが面倒だなという方は窓口か直接関係職員にお尋ね下さい。ここまでで何か分からない事はございますか?」


 早い早いっ! 早口でギリギリ聞き取れるかどうかだよ!

 頬を赤らめたまま、やや俯いて一気にまくし立てる受付嬢さん。照れ隠しのつもりか分からないけど、こっちの反応も見て!

 説明が終わり、ふぅ、ふぅ、と息を吐いてこちらを伺う表情は、まだちょっと赤い。


「い、いや、特にはない、かな?」


 取り合えず冊子があるなら、それを読めばなんとかなる、のか?

 後で疑問に思っても聞けば教えてくれるようだし、今の所は問題はなさそう。


「そ、そうですか。良かったです……ちょっといきなりのカミングアウトに気が動転してしまいまして、ちゃんと説明できたか不安だったんですけど……」 


「オレそういう意味で言ってないからな!?」


「え、そうなんですか……? てっきり私も、その……答えたほうがいいのかな、なんて思って動揺してしまったんですけど……」


 そんなわけあるか!

 会っていきなり経験の有無を確認するとか聞いた事ねえよ!

 もじもじしてるのが可愛らしいけど、それが余計に生々しい。


「イズミのセリフは何故か時々、卑猥に聞こえるのニャー。なんでかニャ?」


「オレが聞きたいわ……」


「あ、ごめんなさい! また話が横道に! コホンッ! えー、あとは登録料と手数料である1万ギットのお支払いが済めば完了です」


 ふむ、生体認証付きの身分証の発行として考えれば妥当な値段?

 宿代と比べても、安くもなく高くもなくといった感じだろうか。

 使われてるテクノロジーから考えたら安過ぎるような気もするけど。


「その事なんだけど、素材の買取の代金からの支払いって可能?」


「大丈夫ですよ。素材専用の取引窓口がありますから、そちらで素材換金後にそちらにその旨を伝えて頂ければその場で手続きも可能です。またその場で換金不能だった場合でも後日の支払いも可能です。なんでしたら冒険者の活動をしながら分割の支払いでも全然問題はありません」


 ツケがきく? って大丈夫かそれ。


「それって、登録料払わずに逃げるヤツは……」


「ああ、いませんねえ。もしそのような事をする輩がいたとしても逃げ切れないですから。――そうですね、イズミさんは踏み倒す事はないだろうと思い説明は省きましたが、収入源になる事も可能性としてはありますので説明したほうが良かったですね」


「収入源?」


「なぜ、収入源かと言いますと。まず、踏み倒したと確定した者――この場合は10ヶ月全くの未納という事になりますが――そういった者は手配書が作成され『賞金首 (微)』として手配されます。当然の事ながら、カードに未納状態が記録されているので他の街に河岸を変えても意味がありません。そこで手配されるだけです。そして、これは生け捕りのみが条件です。捕縛、連行された後、1ヶ月から2ヶ月の強制労働。強制労働としてはいますが、ちゃんと賃金は支払われます。が、この賃金の半分が捕縛した者の賞金となるのです。見つけただけで、半月以上の労働賃金が手に入るのでまず見逃すということが有り得ません。とまあ、説明はしましたが実際の所、踏み倒してもリスクしかないので、ここ10年以上、うちのギルドでは賞金がかけられたという話は聞かないですけどね」


「なるほど。逃げたほうが面倒くさいわけか」


 一応、やり逃げ防止システムは完備されていたと。見つける側にとって美味しい餌を無理矢理ぶら下げるとかエグイな。

 それはいいけど、何故おれが踏み倒さないという確信を得ていたのか。

 これも詰まる所、キアラのおかげらしい。

 どうやら『白のトクサルテ』はそれなりに信用があるようで。

 そのメンバーであるキアラが終始後方で口を挟まずに傍観してるあたり、何の問題もないのだろうと。


「はー、実績がある冒険者ってのはそこまで信用されるもんなのか」


 ミミエさんも言ってたけど、実際に現場の人間から耳にすると否応なしに実感させられるな。


「そうですね、積み重ねてきた実績による評価ですね。私、個人としてもキアラさんは信頼してますしね。その中級冒険者であるキアラさんのお墨付きのような空気が感じられたので、登録に際して再考を促すような必要もないとの判断になったわけです。まあ、基本的には来るもの拒まずなんですけどね」


 キアラとオレを交互に見ながら、言葉の締めくくりにニコリと微笑む受付嬢さん。


「え~っとですね……それとは別にですね、気になる事があるんですけど……イズミさんとキアラさんって、どういった御関係なんですか?」


「ニャッ!?」


「キアラさんが男の人と一緒にいるなんて正直驚いたんですけど……ワケあって離れ離れだった恋人とか……?」


「ニャニャッ! ち、違うニャ! 恋人とかありえないニャッ!!」


 あ、そう力強く断言されるとちょっと傷つく……。


「えー、でもすごく仲良さそうに見えたんですけど……ホントにそうなんですか?」


「お、おととい、森の中で助けてもらったのニャ。そりゃあ確かにお尻とか硬い棒で刺激されたり、胸を穴が空くほど見られたり同じベッドで寝たりしたけど、それだけニャ! 痴漢してやらしい事は何もないニャ!」


 それを言うなら、誓ってやましい事、だろうが!

 肝心なとこで噛むなよ! 

 それ以前に説明がおかしい! 受付嬢さんの表情も真っ赤になっておかしな事になってる!?


「え、ええっ!? キアラさんもう普通じゃ飽き足らずそんな事まで!? まさか、お、おし……」


 おう、そのセリフからして何に食いついたか聞くまでもないけど、こっちも相当テンパってやがるな。『初体験』で照れまくってた割には強烈な事を口走ってるぞ。


「いやいやいや、二人とも落ち着け! お前らが変態プレイに興味あるかどうかはこの際どうでもいい。いや、オレも興味はあるが。とにかく落ち着いて話を聞け」


「変態じゃないニャッ!!」ですっ!!」


 お、おう。

 二人とも顔は少し赤いけど、ちょっとは落ち着いたっぽいな。

 あんまりにも暴走気味だったから、受付嬢さんも一緒に『お前ら』で呼んじゃったよ。

 変態を否定してるけど、キアラは若干素質がありそうな微Mなんだが、自覚はあるんだろうか。


 とまあ、落ち着いた所で懇切丁寧に説明。

 お尻を棒で刺激 → 木の枝でつついて様子を見ただけ

 胸を凝視 → バストアップの話題で不可抗力

 同じベッドで寝た → オレの寝床を貸した


 この部分は特に念入りに誤解の余地なきように説き伏せた。

 あとは、出会ってからこれまでの経緯をざっと話す。

 すると受付嬢さんが「えっ……」と呟き、周囲を伺いながら小声で尋ねてきた。


「……という事は、あの盗賊の生け捕りって……?」


「あー、うん、まあそうなるかな?」


「なるほど。キアラさんの態度は実力を把握しての事だったんですね。では、レノス商会の方が後日、証言の証明書を持ってイズミさんの元へという手順を挟むと思いますが、賞金はその時という事になりますね」


 昨日の今日なのに話が早いな。

 一応引き渡しの時には、オレが捕らえたというのは警備のお兄さんに顔見せもしてあるから、ちゃんと伝わってるはず。

 なので人違いでトラブルというのはなさそう。そうは思ったが、どういう流れで賞金が支払われるのかイマイチ分からなかったんだよな。


「あ、もうひとつ気になったんですけど……森の中でキアラさんが助けられた状況というのはいったい? 正直この周辺の森でキアラさんが手に負えない、逃げ切るのもままならない状況というのが腑に落ちなくて……」


 ぐっ……それについてはオレに原因らしきものがあるから申し訳ないと思ってる。


「ガングボアの群れに襲われたニャ」


「えっ!? ガングボアの群れ!? それが浅い森に? そ、そうだったんですか……それならキアラさんが手に負えなかったのも納得です。もし単独でどうにかするなら2級に足突っ込んでる3級くらいじゃないと無理ですよね……って、それを助けたのイズミさんですよね?」


「ま、まあ、そうなのかニャ?」


 いたのがオレだけじゃなく、リナリーも一緒だったから言い淀んでるな。

 受付嬢さんのニュアンスとしては、強さの信憑性を測りかねているという意味合いのほうが強そうだけど。


「盗賊の生け捕りにガングボアの群れを撃退なんて、なかなかやりますね。しかし、そうですか。森がそんな事に」


 すると受付嬢さん、何やら考え込み始め、ぶつぶつと呟いてる。聞けば「これは注意を促さないといけませんね……いえ、中級以上の人達なら稼ぎ時かもしれません……あ、腕のいい人達はローレック方面か……」などと声に出ているが、それに気付いてるのか気付いてないのか、とにかく考えを巡らしている様子。


「あっ、すみません! 取り合えず森の事は各所に通達する事にしますね」


 顔を見合わせてリアクションを待っていたオレとキアラに気がついて、慌てて我に返ったようだ。

 森の事は、オレの威圧がなくなったからそのうち元に戻るような気がするけど、念のために必要な対処ではあるか。


「それにしても……たった二日でそれだけ仲良くなってるなんて、なんか悔しいですね……」


「ん?」


 何の話? 視線の先のキアラはオレの疑問に気付いたようで。

 

「あ、あたしとジェンは、どっちが先に充実した生活を手に入れるか競い合ってるニャ。……つ、つまり! 先に恋人を見つける勝負をしてるニャ!」


 リア充自慢をしたいって事か? ネットがない世界でリア充って言い回しも変な感じだけど。


「勝負したからって、そうホイホイ見つかるもんでもないと思うけどな。自然体で自分の気持ちに素直でいれば、そのうち見つかるだろ」


「……なんニャ、その余裕の発言は……童貞のくせに」


 何を!? ボソっと余計な事言いやがって、聞こえてんぞ!


「どう切り出そうかと思っていましたが、キアラさんがジェンと紹介してくれたので気兼ねなく自己紹介ができますね。改めまして、ジェニスラッテと言います。キアラさんと同じようにジェンと呼んで下さいね」


 受付嬢改めジェンが、さっきまでの仕事モードとは違い、人懐っこい笑顔で自己紹介。

 仕事モードの笑顔はタレ目なのにキリっとした雰囲気を残したものだったけど、こういう表情も出来る人なんだな。


「なんで、そんなにグイグイ来るのニャ……ジェンにしては珍しくないかニャ?」


「だって、若くて強くて対応も紳士的。優良物件じゃないですか。それに予想以上にキアラさんと仲が良さそうだから早めに邪魔をしておこうかと」


「この女、性格が悪いニャ……」


「ふふ、冗談ですよぅ」


「……目が笑ってないニャ」


 お互い言いたい事言い合ってる所をみると、仲は良いんだろうな。


「でも仲良くなりたいというのは本当ですよ? なんというか、面白そうな気配が漂ってるとでも言いますか……とにかく、歳も近いみたいですし私とも仲良くしてもらえますか?」


「あ、ああ。それは全然構わないけど。だったら普通にしゃべらないか? というか、それが素のジェンさん?」


「ジェンだけで構わないですよ。ええ、これが素なんです」


 ニコリと首を傾げるジェンに釣られて、自然と笑顔で「そっか」と返す。

 いてっ! なんだよリナリー。後頭部を殴るなよ。「何、誑かしてんのよ」って誰もそんな事してないだろ。


「ジェン。買取所はもう開いてるのニャ?」


「今日はこの時間からでも買取可能ですよ。建物の裏側の解体所と併設ですから、場所はすぐ分かると思います」


 前半はキアラに向けて、後半はオレへの回答として買い取り場所を教えてくれたようだ。

 

「じゃあ、早速行ってみるか」


「はい、依頼を受けるようでしたらまた声をかけて下さいね。そうじゃなくても声かけてくれてもいいですけどね」


「邪魔するっていうのは口実かニャア?」


 いてッ! なんで蹴るかなリナリー。何故不機嫌。

 まあいいか。取り合えず金策だ。


 と思ってたけど、見るモノ全てが初めてという事もあって、いろんなものについ目がいってしまう。

 道具類や武器防具なんかの消耗品もある程度ここで買えるらしく、販売スペースがあったり、依頼票が壁や衝立ついたてに張り付けられていたりと、見ているだけでも創作物の登場人物になったような気分になって、なかなか感動的だ。


「なんか、案内とか必要だったのかニャ~?」


 衝立にあるマガジンラックのような所に置かれている依頼票を手に取って見ていると、キアラが首を傾げながら何処を見るでもなく声に出していた。


「ん~? 何がだ?」


 若干上の空だったが、聞けば、キアラは登録手続きの案内もしてくれるつもりのようだったのだ。

 ところが、オレが勝手にスタスタと受付まで行き、これといって問題なく手続きを済ませてしまったので、微妙な感じだったらしい。そういうことなら黙って見ててもいっかなー、と思ってたのが口を挟まなかった理由でもあるようだ。逆にその事で、ある程度の信用もしてもらえたようなので、どちらの対応が正解だったかは気にしなくてもいいだろう。


「おい、邪魔だ、どきやがれ」


 あら、こりゃいかん。換金所に向かう広めの通路の入り口で、大量の依頼票を眺めながら、うだうだしゃべってたら邪魔になっていたようだ。

 不機嫌そうな男の声は、近くにいたキアラに向けてのもの。


「おっと、ごめんなさいニャ。って、あっ……」


「チッ! テメエか……」


 えっと、キアラの知り合い? こちらどなた様?

 結構イカツイ種族の男に見えるけど。身長も2メートル近くあるし。

 なんとなく、ではなく、かなり友好的ではない感じ。

 オレの、誰? という疑問の視線に気付いたキアラが小さな溜め息をつく。


「うちのメンバーにフラレた男ニャ。それでもしつこく言い寄ってきてたニャ」


 ふむ、種族も違えば美的感覚も違うだろうし、見た目に関しては、まあ、なんだ。

 でも、さすがにちょっと野性味溢れすぎてて、女の子なんかは一歩引いちゃうんじゃないだろうか。

 だってこれ、あれだろ? ゴリラの獣人だろ?

 中身が紳士的ならだけど、見た目以上に、その中身の粗野な感じが表情や立ち居振る舞いに滲み出ちゃってるよ。種族特有のものって言い張るのは苦しいんじゃないか。

 しかしすげえなあ、今にもナックルウォーキングしそうな風貌にちょっと感動。

 あ、その種族が違い過ぎてお断りしたとか?


「オレの女になれだとか、オレたちのパーティに入ったほうがいい思いが出来るとか。かと思えば、いい返事がもらえないとなったら今度はコソコソ狩りにまで付いてきて邪魔しかしない。他にもまだあるけど、バレてないと思ったのニャ? そんなだから相手にされないニャ。身の程を知れとか言うつもりはないニャ。けどその腐った根性を先にどうにかするべきだと思うニャ。それに、そういうのはカイナより強くなってから言う事ニャ」


 どんな理由でフラれたのか知りたいと思ってたのが顔に出てたのか、キアラが言いたい事を言うついでにオレにも説明がてら事のあらましをブチまけた。

 話の流れ的に、カイナというのがお断りした本人か。

 しかし、いろいろやってるね、このおっさん。


「くッ……ミオノ族風情が調子に乗ってデカイ顔しやがって。いい気になるなよ……」


「別にデカイ顔なんてしてないニャ。自分の顔がデカイからって、ひとの顔まで勝手にデカくしないで欲しいニャ」


 すごい事言ってんな。

 ナチュラルに毒吐いてる。


「テメェッ……舐めやがって! 畜生の出来損ないが! ちやほやされて可愛いとか勘違いしてんじゃねえだろうな! ああッ!?」


 あー、暗に可愛いってのは認めてるようにも聞こえるな。

 客観的に見ても、おっさんよりキアラのほうが強いと思うけど、その辺は分かってて突っかかって来てるのかねえ。

 とは言え、いつまでも女の子を矢面に立たせておくのも、あまり気分がよろしくない。


「おっさん、おっさん」


「誰がおっさんだ、ガキがッ! オレはまだ二十五だッ!!」


「意外と若い。じゃなかった。ミオノ族になんか思う所でもあるわけ?」


「ミオノ族だけじゃねえ! 全部だ! 獣人全てが気に入らねえ! 人の縄張りにズカズカ踏み込んで荒らしやがって、獣なら獣らしく臭い巣穴にでも篭って大人しくしてりゃあいいんだよ!」


「何言ってんだ。おっさんだって獣人だろう。猿の。ああ、二十五って言ったのは人間にするとって意味か」


「「ぷッ」」


 あ、リナリーも吹き出した。けど、オレ何かウケる事言ったか?

 というか、ギルド内で会話を聞いていた人達の肩が若干震えてるような。


「て、てめえ……ガキだと思って大目に見てたが……」


 あれ、プルプルしてるけど、寒いの? そんな訳ねえか。

 何がそんなに気に障ったのか知らんけど、えらく怒ってるな。


「オレは人間だっ!!」


 え、人間? っと、いきなり殴りかかってきたぞ。

 周囲の「あっ!!」という声が聞こえた時にはオレの頭は後方に弾いたように天井を見上げる格好に。

 殴った当のおっさんはというと……。

 殴った、その余韻を感じる事もなく右手首を押さえてうずくまっていた。

 その後の周囲の「……えっ?」という声も、この一連のイベントの流れとしてセットなんじゃないかというくらいタイミングが揃っていた。


「お~、痛ぇ」


「て、てめえ……何、しやがっ……た……」


「何もしてないだろ。殴られたのはこっちだ。証拠にココがちょっと赤くなってるだろうが」


 額を指し証拠だとばかりにキアラにも見せる。

 見せたはいいが、どこが赤くなってるの? とばかりに眉をひそめて苦笑いされた。


「それ結構派手に折れてるかも知れんから、早く医者か何かに診てもらったほうがいいと思うけど」


 やや腰を曲げ覗き込むようにして、おっさんの手首を見ながらの忠告。


「それにしても、殴ったほうが怪我するってどうなんだ?」


 男は、痛みで顔が青ざめていたはずが、その指摘に一瞬紅潮する。

 傍目にはオレが派手に殴られたように見えたのに、何故か殴ったほうが怪我をしてる。

 まともに人も殴れないのか、という多少、腕に覚えがあるなら恥ずかしい状況だというのは、さすがに分かるだろう。

 というか、そこも理解出来ないようだと色々心配になるレベルだ。


「く、くそっ! 覚えてやがれ……ッ!」


 月並み。テンプレな捨て台詞。芸がない。

 と言っちまうのは痛みでそれどころじゃないだろうから酷ってもんか。

 手首を押さえフラフラと去っていく、おっさん猿。

 

「イズミ、さっき何したの? フードの中からじゃ全然分からなかったんだけど」


「あたしも分からなかったニャ……なんで相手の手首が折れるニャ」


「そんなに難しい事はしてないけどなあ」


 説明するとこんな感じになるか?

 殴りかかってきた段階で遅いと感じていたのは蛇足になるが、その時間感覚をフルに使ってみた。

 おっさんの振りかぶりからの拳打、その間合いを測り、ギリギリ拳が届く距離まで移動。

 首の筋肉を締めて固定、額から首にかけてを強化。

 腕が伸びきった所を狙い、額を当てにいく。

 瞬間的に小指側から内側に向けて衝撃を加えて手首を折る。

 その後にオレは殴られたフリをするために、衝撃の反動も利用して頭が後方に弾けたように装った。

 これが、今の一連の動きなんだけど。

 っていうか、折るところまではほとんど反射でやっちまったんだよな……。

 おっさんには悪い事しちまったかな。悪意はあったかも知れないけど、強烈な害意とか殺意は無かったからなー。

 それにしても、他人に迷惑をかけないっていうギルドの規範的には、今のはどういう扱いになるんだろうか。


「……あの一瞬で、そんな事やってたんだニャ……」


「そんな事より、あのおっさん人間だったんだな。てっきり猿の獣人だとばっかり思ってたのに」


「なかなか的確な表現だとは思うけど、一応人間ニャ」


「え? ……じゃあ、親族の誰かに猿の獣人がいるんだろ? 見事なまでの遺伝、または隔世遺伝ってやつだな」


「隔世、遺伝ニャ?」


「あれ? 言わないか? 親に似るとかその親、祖父祖母に似るってやつ」


「ああ、世代飛びで似る現象の事を言ってたのニャ」


「そうそう、きっと何世代か前にいたんだろうな」


「勘違いが凄いけど、猿の獣人はいないのニャー」


「えっ、いないのか!? 絶対そうだと思ったのに!」


 ニシローランドゴリラ。学名、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ。

 その獣人かと思って、密かにテンション上がってたのに。

 関係ないけど、どっかの通貨の単位でリラってのがあったな。

 5円、5ドル、5リラ。


「何気に一番酷い事言ってる気がするニャ」


「別に酷くはないだろ。人間なんてオレも含めて猿の獣人みたいなもんなんだから、より特徴的な人種がいるんだろうなって思っただけだって」


 人間が猿の獣人? と首を傾げていたが、そうか、この世界というかこの時代では人類の進化の歴史は周知されていない知識なのか。

 オレもイグニスから触りを聞いただけで詳しい訳じゃない。

 その他の種族の進化の過程なんかを突っ込まれても大した説明はできないから、そこに興味を持たれても困るけどな。


 そんな事より、換金、換金♪

 ギルド内から裏手にある素材の取引場所へ向かうと、そこは倉庫のような場所だった。

 様々な素材と何やら物騒な刃物類が並んでいる所を見ると、解体設備も揃った施設という事なんだろう。

 

「おーい、買取をお願いしたいのニャー!」


 見回しても誰か居そうな気配はするが、姿は見当たらない。

 日常的にそうなのか、キアラも慣れたように大きな声で呼びかけた。


「ああ? こんな朝っぱらから買取だとお!?」


 声はすれども姿は見えず。

 ああ、素材の山の奥からなんか頭にバンダナみたいに布巻いた、デカいオッちゃんが出てきたわ。

 無精ヒゲがなかなかワイルド。


「おう、キアラか! どうした、こんな朝早く。珍しいな」


「バタバタしてて昨日は来れなかったから、朝一で来てみたニャ。っていうのも理由のひとつだけど、主に金策ニャー」


「なんだ金欠か? 魔法薬か上薬草でも大量に買い込んだか?」 


「今回は違うニャー」


「そうか、だが程々にしとけよ? 無茶なサイクルで仕事なんぞしてると、今におっぬぞ。――ところでそっちの兄ちゃんは? コレか?」


 会話を眺めてたら、話題がこっち来た。

 というか『コレか?』の親指の使い方が間違ってる! 人差し指と中指の間に差し込まれてるぞ!


「……おっちゃん、下品ニャ」


「がっはっはっ! まあ、いいじゃねえか! で、見ない顔だが本当にどういう関係だ?」


「昨日、森で知り合って色々案内してるニャ」


「大きな街に来たのが初めてなんで、彼女に色々教えてもらってるんですよ。ついでに借金もしてますがね」


「それで金策か。それはいいがオレに畏まった言葉なんか使う必要ねえぞ。ここに来るヤツでそんな言葉使いのヤツは滅多にいねえからな。身体中がムズ痒くなっちまう、普通でいい普通で」


「じゃあ普通で。狩った獲物の買取を頼みたいけど、相場が分からない。それにどこまで解体していいのかも分からないから、その辺りはどうなってるのかも知りたい」


「対応早えな……まあいい。相場のほうは安心していいぞ。ここでぼったくりなんかしてたらギルド自体が機能しねえからな。解体も丸投げでもいいし自分でやっても構わん。確保しときたい素材部位があるなら、その分は引いて買い取るのも有りだ」


「結構便利だから、上手く使うといいニャ」


「みたいだな。で、どこに出せばいい?」


「なんだ、魔法袋マジックバッグ持ちか? それで金がないってのもおかしな話、って訳でもねえか。そうだな、その辺にでも出しておいてくれ」


「じゃあ、あたしのもついでにお願いするニャ。同じ獲物だからニャー」


 キアラが魔法袋マジックバッグからワッパードラゴンを取り出し、その横に同じくオレも獲物を並べていく。


「ワッパー3体か。って、こりゃあ……どうすれば、こんな有様になる。3体とも穴だらけじゃねえか……」


「出処は同じだからニャー」


「同じ……? うおっ! そりゃあガングボアか!」


 キアラとおっちゃんのやり取りを横目に、ガングボアを並べていると、目を剥きながらのおっちゃんの声。


「おいおい、何体いるんだよ……こっちはこっちで見事なくらい無傷に近いな……頭と心臓の部分か? 出処は同じって言ってたが、もしかして全部兄ちゃんが仕留めたのか?」


 ワッパーのほうはリナリーが仕留めたけど、オレも同じ事が出来るし今はオレがした事にしておいたほうが面倒がなくていいだろう。


「ん~、まあ、そんな感じかな」


 オレの返答と同じく、頷き返したキアラを見て、おっちゃんが「ほう……」と感心したような声を漏らした。


「あと受付でこっちに言えば、登録料を買い取り金でなんとか出来るって聞いたんだけど」


「ああ、それは問題ないぜ。手続きもこっちで処理しておく。査定額から1万ギット引いたのが兄ちゃんの取り分だな。それにしても登録って事は6級、ギルドは初めてか?」


「おととい、田舎から出てきた所だし、ギルドなんかなかったからなあ」


「……兄ちゃん、名前は?」


「珍しいニャ……ガルタのおっちゃんが名前聞くなんて」


「イズミだ。おっちゃんはガルタと呼ぶのが正解? それとも、あだ名?」


「二人しておっちゃん言うな……イズミか、自分にだけ名乗らしちまっちゃ不公平だったな。キアラが呼んだようにオレはガルタだ。と、さっさと査定を終わらしちまうから、ちょっと待っててくれ」


 自己紹介の後に慌しく査定に取り掛かったガルタのおっちゃん。

 ワッパー3体とガングボア10体。

 ガングボアは食材として3体は手元に残してある。美味いって言うからな。味見もしないで売るのは有り得ん。


 15分程度で査定が修了。

 

「終わったぞ。ワッパー3体で15万、ガングボア10体で60万ギットって所だな」


「おお、ホントにいきなり小金持ちになった。あれ、登録料は?」


「それは、誤差の範囲で賄えちまうな。状態や時期で値段が変動するが、その分を加味してイズミの取り分は70万になる。で、キアラは5万だな。このワッパーも傷がなければ1体10万くらいはいくんだがな」


 3,4ヶ月分の食費くらいだって話だったけど、なんか増えた。

 キアラに詳しく食費を聞いた時に、あんまり日本と変わらないんじゃないかと思ったが、それから考えると結構な金額だぞ。


「あんなにいい状態だとは思ってなかったニャー。大きいとは思ってたけど、ここまでの査定額になるなんてニャ」


 そうか、キアラは仕留めたあとのガングボアを見てなかったか。


「おう、その事なんだけどな! 状態のいい獲物は稀だからな。イズミにはそういうのが手に入ったら声をかけてもらいたくてな」


「あー、それでイズミの名前を聞いたのニャー」


「そういうこった。登録したばかりだって話だが、とてもじゃねえが最下級の腕じゃねえ、いや上級にだって滅多にいないかも知れんからな。そういうヤツとは繋ぎが欲しいんだよ」


「厄介事じゃなければなんの問題もないけど。査定に色さえつけてくれれば」


「ちゃっかりしてやがんな。だがまあ、そこは当然だな。――それにしても、オレが現役だったら、ひと当てしてえ感じだな」


 腕を組みオレを見る目は、何やら品定めでもしているかのような目。

 そして緩んだ口元を押さえるように不精ヒゲをさすってる。


「え゛……そうなのニャ? そこまで?」


「おっちゃん、脳筋だったのか」


「おう! 分かってるじゃねえか! 今になってこんな粋のいい若ぇのと知り合うとはな、少し悔しいぜ」


 うおお、引退しててよかったー!

 さっきから思ってたのは、このガルタのおっちゃん相当強そうなんだよなって事。

 魔力の流れや気の巡りが一般人と全然違う。

 一方的に負けるような事はないとは思うけど、相当面倒くさい事になりそうなんだよな。


「オレは心底ホッとしてるけど」


「まあ、そう面倒がるな! 時間が有るときに運動不足解消につきあってもらうかもしれんから、考えといてくれよな。報酬も出すからよ」


 日焼けした顔でニカッと笑うガルタのおっちゃんの顔は、ちょっと獰猛な気配が漂ってるのが気になるぞ。



 暇な時ならいいけどね。

 しっかし換金にきて、なんでこんな話になるかな。






話の進行がイモムシです(´・ω・`)

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