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第三十四話 後始末

今回、お下劣なネタがあります(´・ω・`)


「目が覚めたか。さっそくだが、いってもらおうか」


 猿ぐつわをはずし、オレの言葉に仮面の男がピクリと身体を震わせる。

 仮面の男の意識がある事を確認するためだったが、オレの声にちゃんと反応したな。

 途中で起きる可能性は高いけど、最初から意識があったほうがオレ的には都合がいい。


「……何をだ。俺達は何もしゃべらんぞ……」


 は? 何言ってんの?

 あ、アジトの場所とか構成員の情報を聞き出そうとしてると思ってるのか。


「その言って、じゃねえよ」


 訝しむ仮面の男は無視してっと。


 さて、始めようか。






 ~~~~






 トーリィさんも回復したし、これで盗賊も回復させる事が出来るな。

 盗賊を回復させるのを後回しにしたのは、被害者を差し置いて治療をするのは違うだろうという事が理由。これからやる事の為には全快させる必要があるので。

 回復させるのはいいが、目が覚めて魔法を使われると面倒なので標的を目視出来ないように目隠しと、念のために猿ぐつわで正確な発音を出来ないようにしてある。


「……イズミ君、何故あいつらを治療するんだい? 正直その必要性を感じないのだが……」


 襲われた当事者としては、それが偽らざる本音だろう。

 オレも目的が無ければ、放置推奨だ。

 ただ、何事も無駄はよくない。


「痛みが邪魔なんですよ」

  

 目的の見当が付かず、理解出来ないといった様子でオレに視線が集中する。

 わからないよな、と苦笑交じりに曖昧に流し、肩にいるリナリーに向けて。 


「ところでリナリー、オレは完成させたぞ」


「……何の事?」


「成長魔法だ!」


「な、なんですってーッ!?」


 ふふふ、ぬいぐるみの中でも動揺してるのが丸分かりだぜ。

 って、やけにノリがいいな。実際そこまで動揺してないだろう。


「ここでソレを言うって事は……まさか……」


「そうだ。魔法の効果がどの程度か確かめる。あいつ等を使ってな」


「な、なんの話ニャ……?」


「ある特殊な魔法があってな。どうしてもリナリーが教えてくれないから自分で研究したんだよ。でも完成したとは言ってもその効果の程がどこまでなのかはまだ把握してないからな」


 自分では充分なレベルに達したとは思うが、やっぱりそれだけだと実用面では充分とは言い切れない。


「つまり人体実験ニャ……?」


「人聞きが悪い。単なる確認作業だよ。実験はオレ自身で済ませてある」


「まさか完成させているとは……」


 オレの実験済みという言葉に若干引き気味のキアラだったが、凄惨なものではないと分かってどこかホッとした様子だ。ただ、ぬいぐるみリナリーとの会話の内容を聞いて何やら不穏なものは感じているらしい。

 そこまで警戒するほどのもんでもないけどな。

 リナリーはといえば、こんなに早く実用化に漕ぎ着けるとは思ってなかったんだろう。甘いわ、2ヶ月もあったんだぞ。


「盗賊を倒したのは君だから何をしようと文句はないのだが……何をするつもりだい?」


「殺しはしませんよ。しかし人間も立派な資源です。無駄にするのは勿体ないでしょう?」


 不穏に感じていたのはキアラだけではなかったようで、この場を代表するような形でカイウスさんが疑問を口にした。

 勿体無いというセリフに、どう返していいか分からない風だが納得できないわけではないといった表情。オレが魔法で何かをすると言うのは理解しているようだけど、内容が分からないので多少の不安があるといったところか。

 

「対象が男だと見世物としては詰まらない、いや、逆に見ないほうがいいかも……? まあ、そこは個人の判断に任せます。とにかく人類の夢が詰まった魔法です」


 もったいぶっても仕方ないし、そろそろ盗賊も目を覚ますだろうから実行に移そう。

 盗賊を一纏めにした場所まで行き、意識の確認。

 芋づる式に盗賊を捕まえるのを警戒しているようだが、そんな事に興味はない。


「その言って、じゃねえよ」


 訝しむ仮面の男は無視してっと。


 さて、始めようか。


「さっそくだがイッてもらおう。強制自慰行為エレクトリカル・パレード!」


 仲間はずれはよくないから、全員一緒だ。

 うん。これなら、恥ずかしくないね。みんなでイケば怖くない。


「ぐっ……うっ……、何を……した!」


 何をしたって、ナニをしてるんだよ。

 覚悟や気持ちの準備がない状態での、いきなりの全身を巡る快感は混乱をもたらす。

 

「なに、身体には一切害はない。その身をもって体験してるんだから分かってるだろう? フフフッ」


 思わず、顔にサンマ傷がある闇医者のような笑い方になってしまった。

 特上のサービスですぜ。


「ぐ……おっ……なん、だ……これは」


 おー、全員が身をよじって、もだえ始めたねえ。

 男のそういうシーンは見たくはないけど、効果の確認は必要だから仕方ない。

 でも仮面や覆面、目隠しなんかはそのままだ。

 誰が好き好んでヤローのエレクト顔を見なきゃいかんのだ。


「き、さま……淫魔か何かなのか……? くっ……!」


「淫魔? オレは普通の人間。特別なのは、この秘伝の魔法だよ」


 ウソだけどな。

 苦労して開発したんだから、存分に楽しんでくれ。

 

「イ、イズミ君……これはいったい……」


「性的な刺激を与えてるんですよ。……と、全員果てたか。まあ、最初はこんなもんか」


 出力としては、そう強くは無いはずだ。

 何故かって? 開発時と同じ魔力出力というのはこの身を以って実証済みだからです!

 ただまあ、肉体強度に依存してるっぽいから、実際にコイツらがどの程度に感じてるかは分からんけど。


「もういっちょイッてみようか」


 オレの言葉にビクリと反応した盗賊達だったが、すぐにまた悶え始めた。

 抵抗しようにも抵抗しようがないからな。

 オレの魔力が全身くまなく覆って、それ以外の魔力の動きを阻害してるから、どうにもならないはずだ。起きている時は、ほぼ弾かれてしまうが、意識のないときに魔力を潜り込ませてしまえばこういった事も出来てしまう。


「気持ちよくイケたのは、オレじゃなくアンタたちだったようだな」


 手も使わずにイケるなんてすごいぞ。


「こんな魔法があるなどと聞いたことはありませんでしたが……なぜこの者達に?」


 タットナーさんも、オレの意図がいまいち掴めないのか、眉をひそめながらの質問。

 確かに気持ちいいだけの魔法なら、そう思うだろうなあ。


「コイツらの口ぶりから、今まで自分の欲望に忠実だったのがわかりますよね? だったらその欲求を叶えてやろうかなと。そんなにイキたければ好きなだけイキまくればいい」


「イズミ、やっぱり何か怒ってる?」


「そりゃそうだろう。キアラみたいな可愛い娘を襲おうとしたんだぞ?」


「ニャニャッ!?」


「何よりこんなヤツらが経験者だってのが腹立たしい! オレだってまだなのにッ!!」


「そっちニャッ!? いきなり無関係な暴露が来たニャ!」


「最後だけ、ひどく個人的な八つ当たりのような気もするが……それより、この後の収拾は……」


 カイウスさんはモテそうだからなー、この憤りは分からないかなー。


「これで終わりじゃありませんよ? 体力が続く限り、イッてイッてイキまくって煩悩を昇華してもらうのがいいでしょう。この世のものとは思えない刺激が彼らを満足させる事請け合いです」


 自分で言うのもなんだが、今のオレって相当に意地の悪い笑い方してるんだろうな。

 みんな顔が引き攣ってるもんな。トーリィさんだけはどんな表情してるか分からないけど気まずそうに顔を逸らしてるから似たような気持ちなんだろう。

 それとは別に、みんな単なる性的刺激という所にひっかかってるのかもしれない。


「ひとつ、被害者であるカイウスさん達が納得出来る情報を。見て分かる通り、今こいつ等が味わってる快感はただの快感ではなく魔法による快感になるわけですけど。この魔法による快感って結構強烈なんですよ。それが肉体と精神の両面に延々と作用します。結果として刺激に抵抗出来ず負荷増大によって精神が壊れるほどに。理解不能な感覚が精神が崩壊するまで終わりなく続く。実に羨ましい」


 説明の内容に、ビクリと盗賊たちが身体を震わせた。

 カイウスさん達もこの魔法の意味する所が分かってきたようだ。


「最初は抑え目でしたけど徐々に制限を外しています。このまま続ければ、いずれ精神的な死に至るでしょうねえ」


 さっきまではオレの声に反応していた盗賊たちだったが、今はもう聞こえているのかどうかさえ分からない。

 朦朧としているのか、「あぁ……」だの「うぅ……」だの、中には「やめてくれ……」や「助けて……」なんて事を力なく呟いている。

 それはそうだろう。絶える事無く流れ出る体液が、尋常ならざる事態に陥ってる事をイヤでも自覚させるからな。


「付け加えるなら、肉体的に殺す事も出来ますよ。体外にでた体液を身体の構成物質を変換して強制的に再生産させて補充してやれば、理屈の上では骨と皮になるまで継続可能です」


 つまり、タマタマの部分だけを回復させてやると、あら不思議。

 出涸らし状態だったタンクが満タンに。タマタマの機能強化で身体を構成するたんぱく質を無理矢理に精子として生産させる。

 ただし、棒のほうは回復はかけてやらん。

 使いたかったんだろう? ちぎれるほど酷使してやるよ。


 ここまでくれば正しく意図を理解したようだ。

 拷問だ。通常は拷問となりえないはずの性的刺激のみによる拷問。 


「この者達を殺すのですかな……? その精神だけを」


 タットナーさんが困惑の入り混じった厳しい表情で問うが、それはオレの意図する所じゃない。


「さすがに引渡しの時に壊れてたら、不審に思われかねませんから今回はそこまではやりません。適度に人間の尊厳を破壊して反抗する気力を奪うだけです。これだけの精神と肉体の消耗に加えて、目を覆うばかりの醜態を晒したからには、しばらくは不埒は事は考えられなくなるでしょう。仮に今度悪さをしたら、どこだろうと見つけ出して今度は素っ裸にして衆人環視のなか、同じ事をやってやります」


 武士の情けで、覆面だけは着けたままにしてやるよ。

 かえって変態臭が増しそうなのは忘れる事にする。


「外道だわ……外道がここにいるわ……」


 なんとでも言いなさい。

 

「外道でも一向に構わん。リナリーもこういうヤツらは放置できないって分かってるだろう? それに! せっかく見つけたこの手の玩具は遊び倒すに限る」


 オレの言葉にやや引き気味のレノス商会の面々だが気にしない。

 クズを見つけたら、またやる。何度でもやる。

 それにしても、ちょっと見たこともないほど体液がダダ漏れになってるなあ。

 精子が絶えない、じゃなくて正視に耐えないとは正にこの事。

 どうしようこれ……いやまあオレがやったんだけどさ。


 放置でいいな。いや、砂でも被せとけ。


 しかし、ふむ、ここまで出来れば充分だな。

 とりあえずこの後の会話は聞かれたくないからコイツ等には後で耳栓詰めとこう。情報の抜き出し防止になるかね?






 ~~~~






 結局、1時間程度イカせ続けて終了。

 見る間に体力と気力が削げ落ちていくのを見て、この辺が限界だろうと。

 少なくても一日、下手をすると三日は目が覚めないかも。


「……それにしても恐ろしい魔法だね……」


「そうですな……性的な刺激と聞いた時はそれ程とは思いませんでしたが……」


 カイウスさんとタットナーさんは気絶している盗賊たちを見てそんな事を呟く。

 単一の刺激で人間を壊すってのは、よく考えれば怖いかも知れない。けど、こいつらの場合は欲望を叶えてやっただけだから、ある意味本望だろう。


「イズミ君、この魔法はいったい……秘伝と言っていたように聞こえたが、継承魔法の類かい?」


「旦那様……」


「ああ、すまない。魔法の詮索はマナーに反していたね」


 タットナーさんの言葉に、慌てて質問を撤回するカイウスさん。

 あれだけの情報だと継承魔法と間違えてもおかしくはないか。

 キアラとの会話で研究したと言ったのを、調整に時間がかかったと捉えてる節がある。

 血筋や、家系などで独自に受け継がれていく魔法というのが継承魔法と言われているが、強制自慰行為エレクトリカル・パレードをその手の魔法だと思ったわけだ。


「いや、いいですよ。そこまで重要な感じの魔法でもないんで。あの場では秘伝とか言いましたけど、元々はオレの魔法じゃないんですよ。おっとそうだ、リナリー。もうそれ脱いでいいぞ。盗賊も明日までは起きないだろうしな」


 唐突に出したリナリーへの許可に、レノス商会の面々は「脱ぐって……?」と、なんの事かわからないといった様子。


「ほんと? これ、意外と前が見え辛いのよね」


 などと言いながら、オレの肩の上で立ち上がったドルーボアのぬいぐるみが、一瞬で白いバスローブを羽織ったような姿に変化。


「「「「妖精!?」」」」


 そんな声をよそに、いそいそとバスローブを仕舞い込むリナリー。

 その姿を目にしてレノス商会のみなさんは固まっている。


「やっぱりこんな反応になるニャ」


 まあ、分かってたけどね。

 この人たちならリナリーの姿を見せても問題ないだろうというのも。

 リナリーもその辺りは、なんとなく感じていたようだ。


「まさか妖精だったとは……」


「なんと……この歳になって伝説の存在をこの目で見ようとは」


「か、かわいい……」


 三者三様のリアクション。ハイスさんは何も言えないのか口をあんぐりと開けて、ただただ驚いている。


「で~、ですね。さっきの魔法の話なんですけど」


「切り替わりの早さに着いていけないのだが……」


「リナリーが使っている魔法なんですよ」


「切り替わってなかったのか……」


 脱力したような表情のカイウスさんだったが、リナリーが姿を現した事と魔法の話の繋がりが見えてきたのか、なんとか気持ちを立て直したようだ。


「正確には妖精フェア・ルー族の魔法で、本来の使用目的とは若干違うんですよ。今回の使い方は」


「若干で済ませちゃうの? あんな使い方、誰も想定してないんだけど」


「本当の使い方は別ニャ?」


「キアラみたいなタイプには必要ない魔法かなー……」


 本来の使い方なー。キアラは充分大きい方だと思うし、職業柄あまり大きくてもメリットはないんじゃないかな。なずなも重い重いって良く言ってたし。


「ど、どこ見てるニャ……」


 おっと。

 むにゅんと音がしそうな感じで両手で胸を隠したけど、視線が胸にいってたか。

 

「構わないか? リナリー」


「はぁ……いいわよ。どうせ今更だもの。ここまできたら隠すのも意味ない気がするし」


「この魔法な。さっきも言ったけど成長魔法って言うんだよ。妖精族の中では女の人専用で、気になる部分の成長を促す魔法。何処を成長させるかというと……それは」


「それは……?」


「胸だッ!」


「ほ、本当ですか!?」


 おおう、トーリィさんがすごい勢いで食いついてきた。

 そういえばトーリィさんの胸は……いや、何でもないです。


「え、ええ……効果はあるようですよ」


「本当なのかい? それが本当なら、確かに人類の夢が詰まっている魔法だね」


「その通りですな。女性の胸には様々な希望が詰まってますからな」


 この口ぶり。カイウスさんとタットナーさん、さてはおっぱい星人か?

 何気にハイスさんもコクコク頷いてる。


「なんでもします! その魔法教えて下さい!!」


 鳥の意匠の被り物をまくし上げ、急接近してくるトーリィさん。

 目が怖い……。

 教えて下さいって……そこまで胸でお悩みでしたか。

 でもそんなに気にする必要ないと思うんだけどな~。


「ま、まあ教えてもいいですけど、完全無詠唱が出来ないと厳しいかもしれないですよ?」


「えっ……そうなんですか……?」


「おそらくは」


「そ、そんな……」


 ものすごい、がっかりしてるな。

 ちょっと気の毒な感じもするくらいの落ち込みようだ。


「一応、どんな魔法か聞いてみますか? リナリー」


 リナリーはコクリと頷き、オレの肩からトーリィさんのもとへ飛んでいく。そのリナリーを見て、トーリィさんは「本当に妖精……」と今更ながらに実感しているのが分かった。

 トーリィさんの中では胸の方が重要な案件だったか。


 耳打ちでリナリーがどんな説明をしているか分からないが、顔を赤らめたり、「えっ、え?」なんて言ってるのが聞こえる。


「あたしも、もうちょっと欲しいかニャ~」


 オレの横では自分の胸を見つめ両手で、もにゅもにゅしながらキアラが真剣な顔でそんな事をのたまう。


「それだけあれば充分だろ。何が不満なんだ」


「イズミには効果がなかったニャ。結構ヘコんだニャ」


「まだ言ってる。仕方ないだろ。オレはどっちかと言うと――」


「「「お尻だもんね」だニャ」ですもんね」


 『別の所が気になる』と言おうとしたのに、女性陣全員の声がハモったぞ。

 リナリーよ、トーリィさんに具体的に何を言った。

 こうやってオレの嗜好がバレていくのか。


「お若いのに、お尻がお好きとは、なかなかやりますなイズミ殿」


 なかなかやるって、何ッ!?

 

「確かに歳をとると視線が下がっていくけど、その歳でというのはかなりの上級者だね」


 だから何が!?


「しかし完全無詠唱か……確かにトーリィには少し荷が重いかもしれないね……というか詠唱破棄ですら、なかなかお目にかかれない。その完全無詠唱を事も無げにやってのける君は何者だい? いや、会話の内容を聞くに、君たち、と言うべきかな?」


 オレとリナリーを交互に見つめるカイウスさんの表情は警戒を滲ませ……てはいなく、どちらかというと呆れの混じった興味といった感じ。

 そこで、キアラに会うまでの生活を虚実交えてカイウスさん達に大まかに説明すると、今度は呆れの色が半分混じった納得となった。


「かなり特殊な環境で育ったようだね……その中で完全無詠唱を習得したと」


「というか、それしか出来ないんですよ。発動詠唱キースペルも、気分的なもので使ってる状態に近いですし」


「それはまた……」


 カイウスさんが目を見開いて呟くが、他のみんなも似たような表情。


「そんな感じで詠唱が出来ないオレは、他人に詠唱での魔法を教える事が難しいんじゃないかと。成長魔法がイメージのみでの発動を前提としてるのも大きいですね」


 おそらくは同調詠唱が可能じゃないと魔法の指南なんて無理なんじゃないだろうか。

 やった事はないし、詠唱に合わせてイメージを構築して相手に伝えるというのがオレには出来ないと思う。リナリーにしても基礎にあるのが妖精の言語だから、難しいのが容易に想像出来る。

 他の方法も考え付かない訳じゃないけど、それもすぐには無理だろうな。


「かと言って不可能とも言い切れないので、本当ならトーリィさん本人に覚えてもらうのが一番いいんですが。何にせよ、その前に一度体験してみるのをオススメします。体験すれば何か掴める事もあるかも知れませんし。ただ、オレが使ったのを見て警戒しているんだったら心配しなくてもいいと思いますよ?」


 続けて「だよな?」と尋ねると、人差し指をあごにあて思案するリナリー。


「ん~、そうね。人間に効果があるかは分からないけど、興味があるんだったら」


「って事です。カザックの街にしばらくはいると思うので、決心がついたら声をかけてくれればいつでも」


 トーリィさんはコクコクと頷き、表情は目でしか分からないが、心なしかキラキラしてるように思える。

 そんな祈るように手を組んで拝まんでください。






 ~~~~






「という事は、キアラ君と同じパーティーではなかったと。」


「そうですニャ。リナリーとイズミとは昨日会ったばかりで、街までの案内と同行をお互いに提案したんですニャ」


「なるほど。君達のパーティーに男性のメンバーが入ったのかと少々驚いたが、そうではなかったんだね。どうりで君の反応が我々と被る事があるはずだ」


 オレが盗賊を運ぶ為のイカダのような物を作っていると、キアラとカイウスさんの会話が弾んでいるのが聞こえる。

 助けられたという同じような立場で共感しているのかもしれない。

 リナリーもキアラの肩の上で会話に混じっているのか、または聞いているだけなのか。時折、オレのほうを見て、皆してなんともいえない表情をしているが何を話してるんだろうか。

 

「何やら面白い事をしておりますな」


 キアラたちの会話を、まあいいかと流しているとタットナーさんが、そんな事を言いながら楽しげに作業をしている場にやってきた。

 確かに見てるのも面白いかも知れない。

 神樹の刀でスパスパと材木を板に切り出しているが、やってるほうも結構楽しい。

 簡単な車輪も作ってイカダというより荷車のようなものを即席で作っているのだが、イメージに近いものに仕上がるのが、段々嬉しくなってきてる。


「なるほど。それで盗賊たちを運ぼうというわけですか。それにしても変わった剣ですな」


 それは、色か形のどっちだろう?


「使ってみますか?」


「……よろしいのですかな?」


「タットナーさんは珍しい武器に目がないのかなと」


「ほっほっ。そんなに物欲しそうな顔をしておりましたかな?」


「なんとなくですよ」


 神樹の刀をくるりと回し、柄のほうを差し出すと受け取るタットナーさん。

 手にすると見た目とは違った重量に「意外と重いですな」と目を見開いていた。

 その辺に転がっている丸太を切ってみては? と提案するも何かを気にしている様子。


「大丈夫です。刃こぼれなんかしませんから」


 その言葉で安心したのか、試し斬りをする気になったようだ。

 タットナーさんは手頃な丸太を立たせて、不安定なそれが倒れる前に一閃。

 

「恐ろしい切れ味ですな……何の抵抗もないとは」


 その派手なのか地味なのか分からない刀身を見つめる目は、どう見ても戦う者の目だ。

 刃の根元から切っ先までを様々な角度から眺めて満足したのか、先程のオレと同じように刀を返却する姿は、オレより様になっているんじゃなかろうか。ちょっと悔しい。


「自慢の一品です。それにしても救難信号が打ち上げられて結構時間が経つのに誰も来ませんね?」


 車輪の仕上げをしながら尋ねる。

 信号を見た人間がオレたちだけなんて事があるんだろうか。


「この時期、この街道、特にこの辺は人通りが少ないのですよ。腕に覚えのある冒険者は迷宮のあるローレックの方面に向かってしまう。だからこそ私との合流のために信号を打ち上げたというのもあります」


 それは……。

 オレたちが現れて、カイウスさんは相当焦ったのかも知れないなー。

 想定外の、しかもオレみたいな若造の介入で、事態が悪化したと思っても不思議じゃない。

 うーん、余計な事したかな~。


「それは違いますぞ。イズミ殿には感謝しても、し足りない。何より、貴方と知り合えたのが一番大きいですからな」


 考えてる事が顔に出てた?

 オレと知り合えたのがメリットになるかは別にして、余計な事だったかと思っていた事を否定してくれたようだ。

 柔和な表情で言うタットナーさんの、その察しの良さに少し驚いてしまった。


「そう言って頂けると、無駄な介入ではなかったと安心できますね。ところで……」


 作業が一息ついて周りを見るが、どうしても解消されていない疑問がある。


「何か気になる事でもありますかな?」


「ここに到着した時から気になっていたんですが、馬がいませんよね? キアラからは馬車だと聞いていたんですけど、実は動力が着いてるとか?」


「ああ、それは馬を逃がしたからですな。賊に襲われた時に繋がれたままでは不都合が多すぎますからな。大丈夫、戻ってきますよ。ハイスは腕のいい調教師ですからな」


 そういう事か。

 馬ごと馬車を奪われたり、馬を殺されたりといった事を防ぐために真っ先に逃がしたワケか。

 逃がしたとしても、戻ってくる保障があると。

 しかしすごいな。厩舎のほうではなく、こっちに帰ってくるのか。


「そろそろだと思うのですが、まだのようですなあ」


「あ~、なんかこっちに向かってくる生き物がいますね……」


「おや、索敵系の魔法ですかな? 色々とビックリ箱のような方ですなイズミ殿は」


 索敵の魔法の位置づけってどうなってるんだろう。

 キアラはそんなに驚いてなかった気がするけど、実は一般的じゃない?

 良く分からんから笑っとけ。

 

「いやー、ははは……あ、これって……」


 街道から伸びている別の道を遠くから近づいてくる影がある。

 馬なのか?

 

「やっと戻ってきてくれたか!」


 ハイスさんが、その影に駆け寄っていくという事は、あれがその馬なんだろう。

 でもなんか、やけにデカくね? 遠近法がおかしい。


「だんな様、戻ってきました! これで動けます!」


 馬車近くの開けた場所まで来ても、印象は変わらずデカいの一言。

 どう見ても、ばんえい競馬の馬だ。いや、それよりもデカい。

 耳の辺りから後ろに向けて小さい角みたいのが出てるけど、特大ばん馬だろうこれは。


「おっきいわね~」


 いつの間にかオレの肩にいたリナリーも、その大きさに感心している。

 空気も読まずに、ナニが? とか聞いたら引っ叩かれそうだ。

 それはともかく、リナリーの知識の中の馬と比較してもやっぱりデカいのか。


「このコはおっとりして、おとなしいので噛み付いたりはしませんから触っても大丈夫ですよ。特に鼻を撫でてあげると喜びます」


 と言いながらニコニコと馬の身体をさすっているハイスさんを見ると、本当に馬が好きなんだろうなと感じる。

 実を言うと昔から、ばんえい競馬の馬に触ってみたかったんだよな。

 まあ、デカい馬が出てくる漫画の影響なんだけどさ。

 おお、いい手触り――


 バクッ!


「「「あっ!」」」


 おー、よしよし。

 そんなにオレの手が美味しいかい? 

 って、おい!

 なんでこの世界の生き物は、オレの手をしゃぶりたがるんだ!






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