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第三十二話 対峙、そして退治


「は、早いニャアァーッ!! ぶつかるニャー!」


「ぶつからねえよ! 舌かむぞ!」

 

 周囲の木々が輪郭を無くし緑のカーテンと化して背後に流れる。

 速度が上がって視界が狭くなった状態での錯覚にしても、ぶつかるなんて大げさだな。

 ほぼ全力、イグニスとの戦闘時と同じ速度で駆け、目的のものが目視できる場所までの所要時間、約5分。


「あれかっ……!」


 間に合った、か?

 減速後に気配を殺し、向こうからは見えない岩陰に身を潜める。

 そこで意見を聞くためにキアラを地面に下ろす。


 なんかブルブル震えてる。

 ブツブツと同じ事を呟いてるし。


「怖かったニャ、怖かったニャ、怖かったニャ……」


 何故3回言った。大事な事なのかな?

 とか冗談言ってる場合じゃないか。


「……大丈夫か?」


「怖かったニャーッ!!」


 オレの服を両手でガッシと掴んで、オレの身体を揺さぶりながら涙目で訴えてきた。


「やーめーろーよう」


 精神的に壊れたようにも見えるけど、一応キアラの声のボリュームは壊れてなかったようだ。

 ちゃんと気を使って、それなりの音量でしゃべってるのにちょっと感心。


「女の子としてヤバイ状態になるとこだったニャ……」


 どんな状態かはあえて聞くまい……。


「まあそれで、だな……あれは見た目通りに判断していいのか?」


「あ、そういう事ね」


 リナリーはオレの言いたい事が分かったらしい。

 隠し事一切なしで2ヶ月一緒にいたのは伊達じゃない。

 雑談の際に、こんな可能性もありそうだ等と小説の物語を例に出してファンタジー世界のあれこれを話していたのだ。


「……どういう事ニャ?」


「普通に見たら世間知らずのオレでも、顔を半分以上隠してるヤツらのほうが盗賊だとは思ってる。だけど、他の可能性も捨てきれずにいる」


 オレのその言葉に、疑問だらけだというキアラの表情も分からなくはない。

 やはり説明しておくべきだろう。

 悠長に話してる場合じゃないというのは分かってるが、いきなり介入して、どちらからも攻撃されるなんて間抜けな事態は避けたい。

 それに、ここで判断を間違うと後々問題が起きそうだというのも懸念としてある。

 現場の様子を見た感じ、予想していたほど最悪ではなさそう。

 そうはいっても状況が動けば即座に介入するつもりではいるが。


「つまりな。あの襲われてるほうが実は悪者で、覆面集団のほうが何かしらの被害者だったって可能性だ。襲われてるほうはどう見ても裕福。もしかしたら権力者関係の人間かも知れない。で、その権力で不当な扱いを受けた人間が、それに立ち向かっている。とか、裏では人身売買をしていて、それを救う為にやむ無く顔を隠しての行動、とかな。他にも色々と考えられるんだよ」


「その発想に行き着くのが驚きニャ……。どうしてその考えになったのか知るのが怖い気はするけど……」


 あぁ……オレがその手の復讐者、それも経験者だとでも思ってる?

 まあ、そこまで穿った見方はしてないか。


「言いたい事はわかったニャ……心配しなくても間違いなく覆面集団が盗賊ニャ。断言は出来ないけど、襲撃されてるのは恐らくレノス商会の馬車だと思うニャ」


「なら、見た目通りの判断で動いていいわけだな?」


 そう確認すると、力強く頷き「そうニャ」と言葉が返ってきた。

 そうと分かれば、さっさと片付けようか。

 その前にひとつ問題があるけど……。


「リナリー。正直アイツ等の前にリナリーの姿は晒したくないんだけど、ここで待つって言うのは……」


「ないわ!」


 こういう時にイケイケになっちまうのは誰の影響なんだろうなあ。


「イズミの言いたい事も分かるから、こういうのはどう?」


 キアラの後ろに隠れて何やらゴソゴソとやり始めた。

 途轍もなく下らない予感がする。

 ヒョコッとキアラの肩の上に現れたのは、


「何で、ぬいぐるみなんだよ……」


 リナリーより一回り大き目の、デフォルメされたドルーボアのぬいぐるみだった。

 いや、この場合、着ぐるみになるのか。激しくどうでもいい。

 これか。

 自分でどうにかすると言っていたのは。


「はぁ……わかったよ。それなら正体はバレないだろうし、万が一被弾しても問題ないもんな」


 サイールーとコソコソやっていたのは、これを作る為だったのか。

 見た感じ、オレのコートと同系統の素材のようだ。余った生地でも使ったか?

 被弾しても問題ないというセリフに、キアラが「えっ?」と言っていたが今はスルー。


「じゃあ、そのままキアラの肩に乗っててくれ。キアラにはとりあえず後衛をまかせていいか?」


「わ、わかったニャ」


 いきなり後衛を任された事で若干緊張しているのか、今までにない真剣な表情だ。

 こんなやり取りをしてて大丈夫なのかと思うかもしれないが、そこには理由がある。

 実は馬車側の陣営が物理結界を展開していたので、様子を伺う事が出来ていた。

 とはいっても、そろそろその結果も限界が近いんじゃないだろうか。

 結界内にいるのは3人。

 一人は剣をもっているからこれが護衛だろう。

 二人目は若い男性で服装からして御者っぽい。

 最後が、商会の関係者だと思われる紳士。しかし護衛らしき人物は傷を負っているらしく、地面に力なくへたり込み、それを紳士が片膝立ちで支えている。

 推測になるが、最後の最後という段階にまで追い詰められ強力な物理結界を展開したようだ。

 どれだけの魔力が込められた結界か分からないが、これが消えてしまったら事態が動くのは確実。

 言ってしまえば、もう後がない状態。


 対して盗賊側はというと、全部で6人。全員が顔を何かしらの方法で隠している。

 顔の上半分を目の部分だけ穴あきの布で覆うだけの物、逆に鼻から下だけを隠す者、中にはのっぺりとした上半分だけの仮面をつけてるのもいる。

 結界の周りに4人、馬車の上に乗っているのが1人、やや後方に一人。

 後方にいるのが仮面をつけてるヤツだけど、立場的に上のヤツっぽいな。

 こいつ以外は結界に好き勝手に斬りつけたり、魔法を放ったりしている。


 ふむ、どうするか……。


「普通に出て行ってみるかねっと」


「え?」


 そう言って、すくっと立ち上がったオレに戸惑ってるようだ。

 キョトンとした顔をしている。

 

「あー……諦めてキアラ。いろいろと実際に体験してみたいらしいよ」


「こ、この状況でニャ?」


「この状況だからだ。実地研修」


 いきなりこんなレアケースに遭遇したんだ。

 要救助者も無事だし、レッツトライ!


「……ふ、不謹慎過ぎないかニャ?」


 キアラの不安と困惑が混じったような声と表情が、本来なら深刻な事態だというのを現しているんだろう。


「イズミが到着した時点で、救助成功は確定だから大丈夫よ。あとはどれだけイズミの経験の足しになるかだけね」 


 そう、肩に乗ったぬいぐるみリナリーが言うとキアラの表情がやや和らぐ。

 まあリナリーのいう通り、結界が切れる前には片がつくだろう。


「本当にリナリーはイズミの事を信用してるのニャ……」


「散々、でたらめなとこ見てるから、信用というより事実?」


「誰がでたらめだ。それより行くぞ。キアラは少し離れてついて来てくれ」


「わかったニャ」


 オレが岩陰から出て、しばらくしてからキアラもその場を離れる。

 もしもの事があってもリナリーが異相結界で守るだろうから、こちらはこれで良し。

 普通に歩いて近づいてるけど、こっちに攻撃が飛んでくる気配はない。


 お、仮面のヤツが気が付いた。

 他のヤツは気が付いてないけど、大丈夫か? コイツら。


「あのーッ! 救助要請されたのはこちらで間違いないですかあーッ!?」


 その声で、やたらめったら結界に斬りつけていたヤツらも気が付いたようだ。

 後ろでは「普通に声かけたニャ……信じられないニャ……」とか「でしょう?」とか言ってる。

 これでいいの。奇襲だと収穫がなくなっちゃうでしょうが。


「ああッ!? なんだてめえはッ! ガキが何しに来やがったッ!!」


「来ちゃいかんっ! 逃げるんだ! 私たちならだい――」


「うるせえッ! てめえは黙ってろ!」


 結界をガシィッと斬りつけて、結界の中の紳士の言葉を遮る盗賊A。

 ふむ、結界はまだ持ちそうかな?

 しかし、自分たちもジリ貧なのにオレの心配をするのか。

 うーん、そんなに頼りなく見えるかねえ?


「すみませーん! 救難信号を見まして、こちらにクズがいると伺ったのですが!」


 オレがそう言うと「煽ってるニャ……」「煽ってるわね……」などと後ろで呟いてるのが聞こえた。

 正解! 煽ってるんです!


「てめえ、殺されてえらしいなッ!」


 煽り耐性のねえヤツだな。

 それにしても大丈夫かコイツら。こういう所で介入してくるヤツは、会話などせずに有無を言わせず切り捨てるのが常套だろうに。素人に毛も生えてねえぞ。


 そんな事を考えていると盗賊Aが、その大柄な身体を揺らしながらゆっくりとした足取りでこちらに歩いてきた。

 

「なめた口利きやがってガキが! 後悔しても遅え――」


 担いだ剣をトントンと肩で弾ませながら斬り込みの動作にはいる寸前。

 

「あぁ? おいッ! 女がいるぜ!」


 後ろにいたキアラに気が付いたようだ。

 先程、フードを被るか迷っていたようだが、リナリーの大丈夫だと言う言葉で何かを察したらしく、顔を晒したままで来ていたのだ。


「何だとッ! 本当か!?」


「結構上玉連れてやがるぜッ!」


「ヒャハッ! 路地物は久しぶりだぜ!」


「男は殺って、女は犯って楽しんでヤる!」


「いや、男は動けなくして、目の前で女を犯すのも面白そうだ」


「で、おっ勃ったアレと首を落とすのか? 趣味が悪ぃな、クックック。まあ、オレも好きだがな」


「カカッ! 程ほどにしておけよ。本命はこっちなんだからな」


「わかったよお! しょうがねえ、男はさっさと殺すとするか」


 うわぁ、絵に描いたようなクズどもだ。

 一人もまともなヤツがいねえ。何処に出しても恥ずかしくないゴミどもです。

 キアラ以外にまともに会話した人間がこれってどうよ。しかも大人で。

 どうしてくれようかと思案していると、そこへ別の声が割って入る。


「やめろ! お前たちの目的は私たちだろう! 関係ない子供にまで手を出すな!」


「だまれ。態々首を突っ込んできた者に子供も大人も関係があるか。そもそも救難信号を上げたのはお前だ」


「ぐっ……」


 リーダーらしき仮面の男に言われ言葉に詰まる紳士。

 それにしても子供子供って、オレ何歳に見えてんだろ。

 遠くて聞こえないと思ってるのかな?

 紳士のほうは「早まったか……巻き込む事になるとは……」とか呟いてる。

 おや? 意図した結果とは違う……?

 何はともあれ。さっさと不安要素を消したほうがいいかな?


「女は俺たちがたっぷりと可愛がってやる! お前は運が悪かったと思って、いや、運が良かったのか? 気持ちよくイケるんだからな! ギャハハハッ!! ってわけだ、安心して今すぐ死ねやッ!!」


 まともに聞くのもバカらしくなるようなセリフを吐きながら、肩に担いだ大きめの剣をオレに向けて片手で荒っぽく振り下ろす盗賊A。

 それ程力を入れたようには見えなかったのに、なかなか強烈な斬撃がオレを真っ二つにする勢いで迫る。


 んー、遅い。


 振り下ろされた斬撃を右前の半身になり避ける。

 同時に一歩踏み込んで、剣を握った盗賊Aの右手首の内側――手首の腱を手刀で切り裂く。肌と同色で手の甲部分までを覆っていた服を一瞬だけ伸ばし硬化させた結果である。

 剣を落とした事で次の目標が無防備な状態で晒される。

 盗賊Aの眼前で背を見せるように身体を入れ、オレを斬るために踏み込んだ右足の膝を足刀で斜め上から踏み抜く。


「ぐがあぁぁあーーーーーッ!!」


 絶叫とともに崩れ落ち、のた打ち回る盗賊A。


「そこで大人しく寝てろ。お前らには使い道がある」


「ぎ、ぎざまぁ~」


 血の吹き出る手首を押さえながら驚愕と怒りに満ちた目を向ける盗賊A。

 おーお、怖い目で睨んでるねえ。

 これは、もうちょっと折っとくか、心と骨の両方を。

 残った左足の足首も踏み抜く。


「がっ……あ……!」


「てめえ! ぶっ殺してやるッ!!」


 オレの足元で白目を剥いて痙攣する盗賊Aを見て、呆気に取られていた他の4人が漸く事態を理解したのか、やっとこちらに警戒を向けたようだ。

 本当にコイツら盗賊を生業にしてんのか?

 なにもかもが雑過ぎる。

 などという評価を下していても後ろの声も聞き逃さない。「見えなかったニャ……」「もしかして結構怒ってる?」とか言ってるのが聞こえた。

 そうだなあ、ちょっと怒ってるかな。

 でも、そうかキアラには見えなかったか……まだ強化は使ってないんだけどな。

 加減の具合が分からなかったから、ほとんど素の状態でやりあってみたんだけど。


 4人の盗賊の反応を見て、キアラが応戦の気配を見せたので手で制止し、まずは向かってくる二人の相手をすべく距離を詰める。

 シミターのような形の粗雑な刀剣を手に、盗賊Bが踊りかかってくる。

 が、感知可能な手前ギリギリであろうという一瞬の制動でタイミングと間合いをずらして初手をすかし、更に間合いを詰める。

 予想外に距離を詰められたせいで、焦ってこの場を凌ごうとした結果、次手は無様な横薙ぎに。


 それを掻い潜り、正確には横薙ぎの動作に入った瞬間、技の起点側に超低空ですり抜けていたんだけど。


「なっ!? 消え――ギャッ!」


 当然何もせずにすり抜けるなんて事はない訳で。

 すり抜けると同時に、木刀で両足を砕いている。


「くそっ! よくもッ!」


 お、こいつはスピードが自慢のタイプか?

 両手にダガー、いや片方はやや長めのショートソードとかに近いか。

 あと3人いるし、いちいち相手するのも面倒だな。


 あ、よいしょーっと!

 

 この袈裟切りで勝負がつくか?

 あら、防御するの? できるかなあ?

 

 ほらダメだった。

 もうちょっといい剣買わないと。


 粉々とまではいかないけど、交差で受け止めようとした剣はぽっきり。

 ついでにそのまま肩口から手前に引くように振り抜き、無理矢理な形で前のめりに地面に叩き付けた。

 肩の辺りに相当めり込んだな。痛そうだ。

 まあ、身体の前面から叩き付けたから呼吸困難でそれどころじゃないだろうけど。


 うん? まだ黙って様子を見ているかと思った仮面以外の二人もやる気のようだ。

 結界の前で魔力を溜めてるからコイツは魔法がメインっぽいな。

 で、相変わらず馬車の上にいるヤツは遠距離が専門か。小型のクロスボウを手甲に装着している。

 面白いものを付けてるな。


 弓使いのほうが先行して矢を放とうとするが、足元にあった小石を木刀で幾つか弾いて牽制。

 その間に魔法が完成したらしく、力ある言葉で発動。


火炎球レム・フー!!」


 火炎球か。

 しかし魔法を放った瞬間に驚愕に目が見開かれていた。

 それはそうだろう。

 オレが転がっていたスピードファイターを掴み上げ肉壁にしようとしているんだから。


「きさまッ!」


 その可能性も考えとけよ。

 なーんてね、避けちゃおう。

 

 オレの横を通り過ぎ背後でドガッ! という音とともに炸裂したが、射線はキアラとは重なっていないので問題ない。


「貴様……動けない人間を盾にするなどと……」


 自分で撃っといてその言い草はないだろう。

 言葉の続きは人間じゃない、とか卑怯者が、とかかな?

 だったら聞かなくてもいいな。面白い返しをするなら聞くのもやぶさかではないが。


 掴み上げたヤツは顔面蒼白だ。

 息が出来なくて、そうなってる可能性もあるけど、この際はどうでもいい。


 この間、矢はオレには届いていない。

 肉壁があっては思うように狙いがつかないと悟ったか、今は様子を伺っている。


 オレは掴み上げた盗賊を放り投げ、魔法使いに対して左手でクイッっと手招きをする。

 さりげなく弓使いへの視線の挑発も忘れない。


「なめやがって……!」


 いきり立つ魔法使い。

 先程より魔力を込めて練り上げた魔法を、怒りに満ちた起動詠唱キー・スペルで発動。


火炎球レム・フー!!」


 案の定、このタイミングを狙って矢が迫る。

 上方にも矢を放ったか? 時間差での攻撃を狙ったか。

 やっとそれらしい攻撃がきたな。

 ならば、それなりの返礼をば。


「しゃあッ!」


 気合一閃。魔法障壁を接触展開させた木刀で火炎球と矢を薙ぎ払う。木刀の刀身を覆う障壁を瞬間的に拡大して団扇みたいにしてぶん回したのだ。芭蕉扇かな?

 火炎球は術者にそのまま跳ね返したが、矢は周辺に弾き飛んだだけだった。

 矢も跳ね返したかったけど、そこまで望むのは欲張りだったか。


「なっ!?」


 自らの魔法が跳ね返され驚愕の表情のまま爆発で吹き飛ばされる魔法使い。

 ほう、障壁らしきものを薄っすらと展開してたな。なら即死という事もないだろう。


 ここで攻撃が終わるかと思いきや、まだ諦めない頑張り屋さんがいた。

 上方から時間差の矢が降り注ぐ。矢の着弾とほぼ同時になるように本人も馬車から飛び、上方からの奇襲を仕掛けてきた。

 

 漸く作ったものの出番がきたなあ。


「飛び道具ってのはこう使うんだよ」


 胸の内ポケットから取り出した、ダンゴの串のような木の針の束を、弓使いに向けて放つ。

 その場でクルリとコマのように身体を回転。その挙動から放たれた大量の針は、ドッ! という音と共に弓使いの全身に刺さり、勢いそのままで弓使いの身体を馬車の向こうまで跳ね飛ばした。


“飛連穿孔”

 同時に複数の飛び道具を飛ばす技。


 あー、結構ハズレたなあ。

 ハリネズミのようにトゲだらけにしてやるつもりだったのに。

 こう使うんだって偉そうに言ってみたけど、要するに物量にものを言わせただけ。

 残るはあとひとりと。


「貴様、何者だ……」


 結界からやや離れた場所に立つ仮面の男が低いトーンで問いかける。

 歩いて近づくオレに、更に警戒した様子だが、投げかける質問としては予想の範疇のもの。


「答える義理があるとでも? ――強いて言うなら田舎モノだな」


 オレの返答に後ろでは「答えたわ……」「答えたニャ……」「しかも意味のない答えよ」などとヒソヒソ話しているのが聞こえたが、聞こえなかった事にした。


「ふざけたヤツだ……」


「アンタのその仮面ほどは、ふざけてないと思うけどな」


「クククッ……いい度胸だ。おおかた、最後の一人になって勝負がついたとでも思っているのだろう? だが、オレはそいつらとは違うぞ」


 ここに来て、まだこの余裕があるという事は、転がってる4人合わせたより自分は強いとかそういう事か?

 うーん、何がどう違うんだろう。ビックリ箱から何が飛び出してくるか、ちょっと期待しちまうぞ。


「しかしその若さで、その強さ。それをここで散らせるのは惜しい。どうだ? オレ達の所に来ないか? その強さがあれば、望むものが手に入るぞ?」


 おおっとぉ? こんなセリフがリアルで聞けるとは。

 ちょっと考えたフリでもしてみるか?

 オレの反応を確かめるように近づいてくる仮面の男。


「気をつけろッ! その男はマドクを使う!」


 今まで黙って事の成り行きを見ていた紳士が焦ったように叫ぶ。


「もう遅い! 終わりだッ!」


 男の握ったレイピアがオレの腹部に突き刺さる。


「ニャッ! イズミッ!!」


 腹部に剣を刺したまま膝をつくとキアラの叫びが聞こえた。

 男は剣の柄を握ったまま勝ち誇ったような顔でオレを見下ろしている。


「カッカッカッ! 油断したな。強いと言っても所詮はガキ。こんな単純な手に引っかかるとは! クカカカッ!」


 オレは力なくうな垂れて意識を反芻した。

 紳士は何と言った? オレは何を言われた?


 あ、ダメだ……。


 シリアスが続かない。

 うーん、確かマドクとか言ってたなあ。

 マドク、マドク……ああ、魔毒か! 魔法の毒の事ね!

 あー、すっきりした。

 そういえばイグニスが、そんな魔法だか技だかがあるとか言ってたな。

 魔法で毒物を模倣したり再現したりして相手を行動不能にする技術。

 オレには必要ないだろうと、詳しくは講義されなかったヤツだ。

 興味が湧いたら、その時にでも勝手に覚えろって感じで放置プレイ続行中だ。


「さて、そろそろ止めを刺してやるとするか。毒で長く苦しむのは不憫だからなあ! ひと思いにイカせてやる優しいオレに感謝するんだな!」


 狂人の戯言にしか聞こえない事を叫び、細身の剣を引き抜く仮面の男。

 その次のモーション。これは首を落とすつもりかね?

 首を落とされるつもりなんか、さらさら無いからネタばらしといこうか。


「いや、感謝したい人は別にいるからアンタはいいわ」


 近づいた所を斬ってやろうかとも思ったけど、とことんまで観察させてもらおう。


「なっ!?」


 何事もなかったようにスッと立ち上がったオレに驚き、飛び退る仮面。


「ぶ、無事だったニャ……?」


 ありゃ、こっちも驚かせちゃったか。

 でもリナリーが「ね、無事だったでしょ?」と小声で言ってるから、下手に動かないように宥めていてくれたようだ。


「貴様ッ! 何故動けるッ!!」


「そ、そうニャ……イズミ、なんで……」


「ああ、これだよ」


 そう言って服の下から出したのは、大き目のブロック肉。高級品のドルーボアの肉です。

 っていうか仮面、お前はオレが無事な事に気がつけよ! 剣に血が着いてないだろうが!


「「肉ゥ!?」」


 あ、馬車の方からも声が。

 証拠の肉をキアラに放り投げ、「ニャニャ!?」とか言って受け取ったのを確認したら馬車の方に向き直る。

 感謝したい人とは、こっちの人なんだよな。


「いやー、ありがとう御座いました。忠告が無ければどうなっていた事かッ!」


『いやいや、忠告とか関係なかっただろう……』


 あれ? 馬車と背後の両方から、そんな事を言われたような気がするぞ?

 心なしか仮面からも、そんな気配が漂ってるし。

 と、とにかく。異相結界で防いでも良かったけど、それだと突き刺す感覚がないからな。

 だから肉を使った。


「ふ……ざけやがって!! ぶっ殺してやる!」


 鋭い踏み込みで接近してくる仮面。

 怒りで剣筋が乱れるかと思ったら、なかなか理に適った攻撃を仕掛けてくる。

 その事如くを木刀で捌いているが、余裕があるように見える。何かあるんだろうか。


 幾度かの剣戟の後、それまでと同じようにレイピアを弾くと仮面が大きく体勢を崩した。

 いや、崩したと見せかけて、弾かれた勢いに逆らわず身体を回転。

 同時に、剣を握る手とは逆の手から投げナイフが飛ぶ。


 面白い攻撃だ。恐らくこのナイフにも毒が塗られているか付与されているんだろう。

 ふーむ、なかなかどうして。精神的には追い詰められてるはずなのに結構タフだ。

 褒めたからといって、ナイフに当たってやったりはしないが。


「チッ!」


 隙を突いた筈の投げなナイフを弾かれ、舌打ちし顔を歪める仮面。

 下半分と目くらいしか見えないから、そこは予想で。

 

 最初は互角に打ち合っているつもりだったんだろうが、徐々にオレのペースについて来れなくなってるな。少しずつスピードを吊り上げてきたが、そろそろ限界か?

 こちらもただ受けに回ってるわけじゃない。

 当てるべき時には当てている。スプラッタを見るのが目的じゃないから肉ごと消し飛ばすような攻撃はしてないがね。

 

 ジリジリと追い詰められてるのが理解出来ているようなのに諦める気配がない。

 かすりさえすれば確かに形勢は逆転するかも知れない――と思ってるだろうと予想してみるが、どうにも腑に落ちない。


 そんな疑問が頭をもたげてきた、その時。


 フッ!


 っとぉ! こういう事か。

 含み針ときたか。

 目を狙ってきたそれを木刀の柄で防ぎつつ、妙な所で納得してしまう。


「くそがッ!」


 奥の手に近かったようだな。

 毒を口に含むなんて、と思ったが、自分の魔力で合成してるのなら自分だけは例外に出来るのか。

 なるほど、魔法ってのは奥が深い。


「ネタ切れか?」


「くっ!」


 図星だったらしい。

 剣がかすりもしない状況で、確実に当たる機を待っていたのだろう。

 しかし当たらなかった。

 その事が焦りになり、攻撃が単調になり刺突の精度も目に見えて落ちている。


 そろそろだな。

 レイピア使いは突きも自慢の一つだろう。

 ならばこちらも、うちに伝わる突き技のひとつをお見せしよう。


 仮面から繰り出された突きのひとつを選び、左に体をかわし、同時に剣を下から大きく斬り上げる。

 斬り上げた木刀をそのまま顔の横、口元で水平に構え――右前の変形の霞構えとか言ったような言わないような――そこから渾身の突きを繰り出す。

 最終的には左足を前にして踏み込み、左手のみの突きとして完成される。


「がふッ!」


 大きく仰け反った仮面の腹部に吸い込まれた剣先は、これでもかというくらい仮面を突き飛ばした。

 剣先に魔法障壁を展開して接触面を大きくしたからこその結果だが。

 でなければ、木刀でも普通に貫通ですわ。


 この技、どう説明したもんか。

 近い表現として、無手による左の中段打突が一番それっぽいんだけど。

 あ、中国拳法の崩拳と言えばイメージしやすいかも?

 崩拳の手に突き出した刀が握られていれば、そっくりだ。


「ふぅ、漸く片付いたな」






 ~~~~






 盗賊どもを二人一組で後ろ手に縛り上げ、やっと一息つける。

 しばらくは目を覚まさないだろうな。

 起きたらちょっと用事があるから、それまでは放置。


「途中、どうなるかと思ったニャ……本当に刺されたと思ったニャ……」


 若干目が潤んでるのも無理ないかも知れん。

 オレがあそこで死んでたら、キアラがどんな目に合ってたか、その可能性が分かり過ぎるくらい分かるからな。

 実際はリナリーがいるから、例えオレがやられたとしても100%有り得ないんだけど、あの驚きようじゃ頭から抜けてるわな。

 

「それはないな。あんな剣じゃ、この服に傷ひとつつかない」


「え? なら、なんで言わなかったニャ~」


 肉を抱えたまま、キアラが涙目で服を掴んでオレを揺する。

 や、やめ、酔う!


「あー、すまん……リナリーが説明してくれてると思ってたもんで」


「え、わたし?」


「いや、あの程度なら剣が当たっても問題ないからって、一人目の盗賊の時に言い含めてるかなと」


「そもそも剣が当たると思ってなかったから、全然説明してなかったってば」


 そうか、ラキとの戦闘を見てるから自然とそういう結論になったか。

 そういう事なら仕方ない、か?

 しかし結果的に騙した事になってしまったので、キアラさんはえらくご立腹のようで。


「まだ言ってない事があるなら言うニャ! 何も知らずにあんな気持ちになるのは二度とご免ニャ!」


「「ごめんなさい」」


 取りあえず謝る。超謝る。


「あー、お取り込み中、申し訳ないんだが……」


 馬車近くで、未だ結界内にいる紳士から声をかけられ、ハッとする。


「「「あっ……」」」


 ごめんなさい、忘れてました!






一応、1話で片がつきましたね。

後始末などは次話以降で(´・ω・`)


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