第三十話 同行
「薬草を探しに来てたニャ」
森に居た理由を聞いた所、そんな答えが返ってきた。
お互いの自己紹介、というにはあまりに間抜けな言葉の応酬の後。キアラの魔力が回復するまでの時間を情報収集という名の雑談をして待つ事に。
そこで聞いたキアラの職業は、身体が資本の自由業、所謂冒険者というヤツらしい。
冒険者っ!!
異世界っぽくなってきたー。
「薬草? 買ったりとかじゃダメだったのか?」
「そんなに高いの?」
「こまごまとした物を揃えると結構な額になるニャ。経費削減だニャ」
異世界っぽくなってきたと思ったのに、いきなり現実を突きつけられた感じの答えだよ。
オレの質問に続く形でリナリーも尋ねたが、返ってきたのはお金事情の世知辛いお話。
「前回の仕事で経費が嵩んだから節約だニャー。こういう事はあたしの担当ニャ」
「担当? やっぱり誰かとチームでも組んでるのか?」
だったらなんで単独行動を?
「言いたい事はわかるニャ。まあ、今回はまともに動けるのが、あたししか居なかったっていうのが理由なんだけどニャ」
その言葉を聞いて、何かしらの理由で一人だったんだろうというのはリナリーも分かったようだ。
その理由を知りたいという空気がオレからも出ていたんだろう、隠す気も意味もないといった風に理由が告げられた。
「怪我だったり、装備が破損したりで他のメンバーは手が空かなかったのニャ。まあ、ここのところ休みもなかったし、丁度いい機会だから静養も兼ねて、各自で英気を養おうかって話になったニャ、あたしは森林浴がてら薬草採取だったニャ」
「なるほど、それで一人だったのか」
コクリと頷くキアラだったが、何か気になる事でもあるのか首を傾げている。
「それにしても変だニャー」
「何がだ?」
「油断してたのは否定できないニャ。疲れが溜まってたのかもしれないニャ。でも、いつもなら一人で充分こなせる範囲ニャ。それに街からは多少離れてるとは言っても、こんな所にガングボアがいるなんておかしいニャ。しかもあの規模の群れで。」
「そんなにおかしな事なのか?」
「今まで、こんな事なかったニャ。何かに棲みかを追われでもしない限りは、有り得ないニャ」
それを聞いて約二名の動きが止まる。
オレとリナリーだがな。
(ちょっと! やっぱり影響出てるじゃない)
(オレに言うなよ! イグニスからだって許可は出てたろう!)
(だからって、あんなに何回もやる必要はなかったでしょう!)
驚くなかれ、アイコンタクトのみで会話が成立してる!
ついにテレパシーを習得したかと思える程に、はっきりとリナリーの声が脳内再生されるのはビックリだ。
あー、悪乗りしたのがこんな所で影響してくるとは……。
『魔力の開放と威圧の指向性の確認もしておいたほうが良いかもしれんな』
最初はなんの事か分からなかったが、神域外で試して来いという意味だったらしい。
イグニス曰く、神域の中に居ては分からない感覚もあるし、イグニスとラキ相手では魔力に殺気を乗せても効果が全くないので、それを確かめておけという事のようだった。
なんでそんな事をと思ったが、無意識に全方位にそれをしてしまうと味方にまで影響が出るから。
魔力の扱いに長けていない者が近くにいた場合、最悪、生命維持に支障が出るぞと怖い事を言われたのだ。
そんな事を言われたら確認せざるを得ず、神域外の森で狩りを兼ねて実験。
開放する魔力量や威圧の方向を調整しながら何度か行い――これがまた妙に面白かったのだが――その後調子に乗って最大開放と全方位威圧を2回ばかりやったら、一定ライン以下の魔物が逃げてしまった。
ここまで言えば分かるとおり、この森の異変の原因の一端はオレにある……ように思う。
『あまりやりすぎると周辺の森に影響が出る。程々にしておくのじゃぞ。感覚さえ掴めれば良いのだからな』
そう釘を刺されていたのに、魔力が消えれば戻ってくるだろう程度に考えてたんだよな……。
申し訳御座いませんでしたー!!
でも本人を前にしたら言えない。オレたちのせいで死に掛けたなんて。
そ、そもそも? 信じてもらえるかどうかも怪しいし?
という訳で、ここは黙秘で。
やべー、二人とも目が泳いでる。
「どうしたニャ?」
「「な、なんでもないぞ(わ)!」」
アイコンタクトすらせずに、黙殺という結論のシンクロ。
リナリーだって面白がって煽ってたんだから、ある意味同罪だというのを自覚してるんだろう。意見が同調しても不思議じゃない。
「? まあいっか。ところでイズミたちはこの辺に住んでる者じゃないのニャ?」
「やっぱり分かるか……?」
そりゃあそうだろうな、見たこともない妖精を連れて、それが当たり前のように振舞っていれば。
「都会にあこがれる若者ってトコだな」
「ああ、それでニャ。回復薬系の品物の相場があやふやだったり、この森の事も詳しくなかったのは生活エリアじゃなかったせいなのニャ~」
「あっちの山を越えてきたんだよ」
そう言って親指で後方を指して説明したが、そこは取り立てて疑問にも思わなかったようだ。
ま、嘘を言ってる訳じゃないしな。
あ、ちなみに何故、キアラが木の上で遣り過ごす事をしなかったのか。
ガングボアは低級ではあるが魔法を使って攻撃も行う。木の上でじっとしていては的になってしまうし、枝を足場に移動しても完全に回避しきれるか不安があった為に、地上を走る事にしたようだ。
樹木や岩陰などを利用して攻撃を回避できるメリットもあるしそこは妥当な判断ではあると思う。
計算外だったのはやけに興奮していて、執拗に追ってきた事だろう。
棲みかを追い出された腹いせに、キアラを追い回していた、なんて事はないよな……? まさかねー。
「二人は同じ所から来たのニャ?」
これは、遠まわしに妖精とどこで遭遇して行動を共にするようになったのか、それを聞いてるんだろうなー。
「いや、オレとリナリーは出身は違うぞ。たまたま家の近くで魔獣だか魔物だかに襲われてる所を助けてな。それからなんだかんだで一緒にいる感じだな。オレと同じように都会に興味があったみたいだし、その辺りで波長が合ったんだろうなあ。リナリーの住んでいた所が気にならなかったわけじゃないけど、今はそれよりも都会だろって、なったんだよ」
微妙に真実も混じってるし、まるっきり嘘というわけでもない。
なのに、リナリーからは『よくもまあ、すらすらと出てくるわね』と言いたげな視線を向けられている。
誰かに本当の事を言ったとしても信じてもらえるか怪しいし、最悪、頭の痛いコ扱いされかねないので、事前に誤魔化す方向性だけは決めていた。しかし詳細を詰めていたわけじゃない。
その場で臨機応変にという感じで流していたんだよな。
いきあたりばったりとも言う。
『そういう時のイズミの話って、どうでもいい嘘も混じってるから真偽が判り辛いのよね』
とはリナリーの言。
嘘というよりは断定せずに憶測とか予想という形をとって、突っ込ませないように誘導してるだけなんだけどな。
オレ自身も分かってなさそうな匂いをさせておけば、仮に疑問を持たれたとしても後でどうとでもなるから。
「目的が一致してたから一緒にいるのニャ?」
ひっかかる所があったのかもしれないが、一応はオレの言った事に納得しているようだ。
と、穿った見かたをしてはみたが、色々とありすぎて気にしていられないというのが実情かも。
「まあ、そうだな。一人より二人のほうが何かと便利だしな」
「最初に言ってた、下心と関係あるニャ?」
「あー、関係なくはない……か? リナリーが言うにはオレは常識がないらしい。だからストッパー役になってもらってる」
「人間との接点がなかった妖精より常識が欠けてるってどういう事ニャ……」
「剣と魔法の事しかやってなかったからなー」
「どんな暮らしニャ……今どき、そんな仙人みたいな生活してる人間がいるとは思わなかったニャ」
「そうよねー、剣と魔法以外はまるっきりだもんね」
料理もそこそこいけるぞ? というのは今は余計な情報か。
「ド田舎と言うのもおこがましいくらいの辺境から来たから、指標になる常識もだし、情報は喉から手が出るほど欲しいんだよ」
神域なんて辺境も辺境だろう。
普通には辿り着けないし、長いあいだ人間が訪れた事すら稀なんだから。
「なるほどニャ~。それで色々とあたしに聞きたかったから『下心がある』って言ってたのニャ」
「そうなるな」
「そんな事ならいくらでも協力するニャ。金を貸して欲しいとか言われたら困るけど、それ以外なら何でも言うニャ」
「それは助か――」
「あ、でも……身体は今はちょっと待って欲しいニャ……」
「なんでそうなる!?」
顔を赤らめて身体をクネらせるな!
オレが要求してるような雰囲気を出すんじゃない!
身に覚えがないのに蔑むように睨むって非道くないか、リナリー。
そのゾクっとする目つきは……いや、なんでもない。
「違うのニャ?」
「恩を笠に着て身体を要求するってどんな外道だ!」
「そうなのニャ……」
キアラよ、何故しょんぼりしている。
まあ若干演技くさいから、冗談なんだろうけどな。
これがキアラのコミュニケーションのとり方なのかもしれない。巻き込まれた方はたまったもんじゃない気がするが。
「イズミはそっちの常識はかろうじてあるし変な要求はしないから安心してキアラ。――って、しないわよね?」
「いや、そこは信じろよ」
なに疑ってんだ。かろうじてって失礼だな。
その場のノリでオレを睨んで遊んでたくせに、おかしなトコで信憑性を持たせるなよ。
「それにしても……キアラはお人良しだって言われないか? 得体の知れないオレ達に対して無警戒が過ぎるだろう」
「ん、ん~? 命を奪うつもりなら最初から助けないほうが楽だと思うニャ。ガングボアに襲われた後で金品を奪うなりすればいいニャ。でも態々助けてから目が覚めるのを待つ以外はこれと言って何もしてない。あたしから言わせればイズミたちのほうがお人好しニャ。こう見えてもそういう事には鼻が利くニャ」
その後に続いたキアラの説明で疑問に感じていた部分が捕捉された。
あの状況で意識を手放したのは、ガングボアの接近が障壁によって阻まれていた事を、その意識の端で捕らえていたからだったという。
動物的な本能を全開にしたような状況判断で、成り行きに身を任せてもいいのでは、となったらしい。
安心したせいで意識を保つのを放棄したんだろうな。
本当かどうかは分からないが殺気に対してもある程度、反応するくらいは出来たらしい。そうであるなら、今回の行動も一つの手ではあるのかもなあ。
なんにしても行動が野生的というかなんというか。
「お人好しかどうかは置くとして、金品を奪う意味がないからなあ。オレたちには情報のほうが価値があるんだし」
金品を奪う意味がないという所で若干疑問に思ったようだが、話を遮るほどではなかったらしい。
続く、情報の価値という言葉に、興味が傾いたようだ。
「その程度の理由でガングボアの群れを一人で相手取るなんて普通はしないけどニャー。充分お人好しだニャ」
「そこは現状での価値観の違いだな。あ、それで思ったんだけどな。キアラはリナリーを捕まえようとか思わなかったのか?」
リナリーもそこの所を疑問に思っていたのか、そんな素振りを全く見せなかったキアラにオレがそう質問をぶつけると、同調の視線をオレに向けてから、キアラに向き直る。
「捕まえるニャ?」
首を傾げてリナリーとオレを交互に見る仕草は、なんとなくネコみたいだな。
「言い方は悪いけど、妖精ってのは人間にとって利用価値が高いって聞いたんだよ」
「契約の話? それとも希少種的な意味でって事かニャ?」
「その両方だな。どっちにしてもかなりのメリットがあるだろう?」
「契約が出来るっていうのは聞いた事はあるけど、その方法を知ってる人間って稀じゃないかニャ。現にあたしは知らないし、かといって捕まえて売るなんて、気分の悪い事は絶対にしないニャ。仲良くなったほうが楽しそうだしニャ~」
捕まえて売るという所で語気が荒くなったような気もするが、何か理由があるのか、または忌避する価値観の中で育ったか。どちらにしても嘘を言ってるようには聞こえない。
仮にこれが演技でリナリーを捕まえるための布石だとしたら、もしそうなった場合、逆に賞賛してもいいくらいだろう。
ま、オレの印象としては、『やっぱりお人好しだ』という所に落ち着いたわけだが。
「あたしの事を仲間と認識して力を貸してくれるのならいいけど、無理矢理従わせるのは好きくないニャ。……どっちかといえば従わされるほうが好……今のは聞かなかった事にして欲しいニャ!」
「いやいや、もうバレてるから」
「な、何故にゃ!?」
何故もなにも。
「右向け、右ッ!! 歯をくいしばれッ!」
オレが声を張り上げると、「ニャ!?」とか言いながらも反射的に従うキアラ。
尻尾を摘んで持ち上げ、
バシィッ!
「うニャッ!」
手に持った枝で尻を適度に引っ叩くと、ビックリして身体が硬直したようになっている。が、尻尾を撫でた時と同じく胸の前で拳を握り、若干頬を赤らめてふるふると震えている。
「ぜ、絶妙ニャ……」
「な?」
「な? じゃないでしょ! なんでキアラも素直に従うの!」
「いや~、なんとなく逆らえなかったニャ」
お尻をさすりながらの苦笑が、どことなく嬉しそうなのを見ると、色々と確定してくるなあ。
その空気を察したのか、キアラが反論とも言い訳ともつかない説明をし始めたのにはこちらも苦笑が漏れた。
その説明によれば、敵意や害意もなく出された命令に、何やら遊び心が刺激されたとかなんとか。
それに加えて、何故かご褒美的なものが待ってると直感が告げたらしい。
あの一瞬でか。
……どこかサイールーと同じ匂いがする。
「こういうのもアリだニャ~」
うるさいよ。
~~~~
キアラの魔力もそこそこ回復してきた。
というわけで、そろそろ移動しようかという話に。
「二人はどこに行くとか決めてたのかニャ? もし決まってなければ、あたしが拠点にしてる街とかどうかニャ~と思ってるんだけど」
「別に決まってないよね?」
「だな。最初は人が住んでる所なら何処でもいいって感じだったからなあ」
街道に向けて周囲を警戒しながら歩を進めると、おずおずといった様子でそんな事をキアラが口にする。その様子にオレとリナリーは首を傾げるが、いきあたりばったりという予定とも言えないような予定だった事を明かすとキアラの表情から緊張の気配が消えた。
「本当に成り行き任せだったのニャ……。じゃあ、あたしのいるカザックの街に行くニャ。……正直ひとりで帰るのは不安だったニャ」
なんだ、そういう事か。
一人の所をまた襲われたりでもしたら、たまらんだろうしな。無理も無い。
「魔力はある程度回復したけど、体力と集中力が心もとないニャ。数に頼まれると、ちょっとヤバいニャ~」
「色々と教えてもらえれば、こっちとしても助かるし、持ちつ持たれつ、だな。だからって担いではいかないぞ?」
スッと目を細めて背後を振り向けば、いつの間にかキアラを背負った状態に。
「ニャ?」
きょとんとして、「この人、何言ってるの?」みたいな顔してるけど、それはこっちが言いたいセリフだ。なんでいきなり背中に飛び乗ってる。
割と小柄だから負担とかは全然ないけど。
「いや、別に背負って行ってもいんだけどな。若い娘が男に身体を密着させるってのはどうなんだ?」
「そこは役得と思って堪能するニャ」
「何を!?」
「イズミは変な所でお堅いよね。お尻好きを公言してるくせにねえ」
「公言なんてしてねえっつーの! 周りが色々バラすからだろう。――って、キアラは何を平然と自分の尻にオレの手を添えようとしてんだ!」
「合法的にお尻をまさぐるチャンスだニャ。諦めて担いでくニャ」
「まさぐらねえよ!」
いまだ背負った状態のまま、至近距離でそんな事をのたまうキアラ。
何を諦めるんだ。人間としての尊厳か? それを捨てて桃源郷に踏み込めと? バカ言うな、まだ早い。
それにしても何がなんでも降りる気はないという事か。そんなに歩きたくないのかね?
「っていうか仮にこの状態で本格戦闘に入ったら、後悔するのはキアラのほうだぞ?」
「あ~、そういえばそうね……イズミの事だから振り落としはしないだろうけど、猛烈な加減速に意識が飛ぶ可能性があるよねえ」
「え、何それ……人を担いでそんな事になるなんて聞いた事ないニャ……」
「本格的な戦闘、その上に『本気の』が付くと、近くにいるのも危険過ぎて命の保障が出来ないんだけどね」
鉱石竜との事を言ってるんだろうな――いや、イグニスとの訓練時の事を思い出して言ってるのか。リナリーの言う、それが普通の事だといった風情の言葉にやや頬を引きつらせるキアラ。
「や、やっぱり止めとくニャ……」
そう言いながら、ズリズリと背中から降りるキアラの姿は、登った木から下りてくるネコを連想させた。背中で見えないから勝手に想像しただけだが。
実際、本気の戦闘になったらキアラを下ろしてからだから背負っててもいいんだけど、そこは言わなくてもいいか。
不意の戦闘に対処し易いし、歩けるのなら歩いてもらったほうがいい。
それに、どうも違う意図もありそうなんだが……。
「胸が武器にならないとか、ちょっとヘコむニャ……」
「何してくれてんの!? 自分の身体で人を試すな!」
「にゃははっ。なんかイズミにはそういう事をし易いニャ。試したつもりはないけど、良く分からない誘惑に駆られて、ついやっちゃったニャ」
確かに大きそうな感触ではあった。けど、胸に対しては思うところはあまりないんだよなこれが。
幼馴染の爆乳が身近にあった事で、大多数のお胸が『まあ、そうだよね』程度にしか感じないのはある意味弊害だ。
そんなことはどうでもいいか。
オレとしては歩いてくれれば色々と都合がいいわけで。
時々でもお尻を拝めそうなら、そっちのほうがオレ的には何かとお得。
その後、移動しながら他愛のない会話をしたが、キアラから聞く話はちょっと新鮮だった。
実物に遭遇したら是非とも確認したい事柄に、語尾の『ニャ』があったが、その事について尋ねた所、どうも方言とか訛りに近い扱いらしい。
近いというのは、老若男女問わず使うわけではなく、主に若い娘が使うからだ。
方言と女言葉、それプラス若者特有の流行言葉のようなものが混じって、一つのカテゴリーとして確立され認知されているようだ。
それを聞いて、一応納得というか安心したというか。
あまり想像したくもないが、ネコミミのオッサンが「ニャ」とか語尾につけたら、引くどころか張り倒したくなるだろう。
創作物の中では、語尾に「ニャ」をつける登場人物が相当数いるが、なんでそういった言葉を使うのか確かめようがなかったからなあ。謎が解けてちょっと得した気分だ。
他にも、キアラがやっている冒険者についても尋ねてみたが、そこは街に着いてからのお楽しみだとか言って、あまり詳しくは教えてくれなかった。
キアラの冒険者としてのキャリアはそう長くないが、駆け出しと言われるランクからはかなり前に卒業したらしい。
これでも腕はいいほうだと言われる、と自慢げに語っていた。
仲間のおかげなんだけどニャ~と付け加えていたが、自身の自慢というより仲間の自慢という色のほうが濃いのかもしれない。
街に着いたらどうするのかを聞かれ、とりあえず当面の生活資金をどうにかしたいと伝えると、だったら冒険者として活動するのがオススメだと、ある意味予想通りの答えが帰って来た。
ガングボアの群れをどうにか出来るなら、何も問題ないとの事。
というか、そこまでの腕があるなら冒険者に限らず、他の職業も考えてみてはどうかと。
他の職業ってのに興味がなくはないが、オレの目的が定住とは程遠いものだから正直考えてはいないなあ。
その事とは別に「どうするかは、色々と勉強してからだな」と言うと、それもそうかと納得したようだ。
「一人でガングボアの群れをどうにか出来る人間なんて、うちのパーティーだって誘いたいくらいだニャ」
「その言い方だとキアラのパーティーからは勧誘は無しなのか?」
キアラの一存では決められないだろうし、出来上がった連携や役割分担があるだろうから、いきなりは難しいのかもしれないな。
「うちのパーティーは男子禁制ニャ。パーティー内恋愛は厄介ニャ」
「「ああ、なるほど」」
非常に納得できる解答に、相槌がリナリーと綺麗にハモった。
予想した答えとは違ったが、より切実な理由で勧誘をしないわけね。
オレと恋愛どうこうというより今までの経験か、または周囲に反面教師でもいたのか。
そういう事なら同性だけで組むのも分からなくはない。
「パーティー内恋愛にうつつを抜かすようなヤツは死んでほしいニャ。尻尾の毛を全部引っこ抜いて、金切り声でズタズタに引き裂いてやりたいニャ!」
「なんかイヤな事でもあったのか……パーティー内で」
「ん? うちのパーティーは真っ白だニャー。ただ、周りでそういう話が結構ある上にとばっちりもあるニャ」
「あ~、そういう事もあるのか……」
そういう話は苦手だなあ。
当事者以外に周りも巻き込んで、無駄に問題を大きくする輩は何処にでもいるからな。
恋愛の経験値が著しく低いオレには対処が難しいぜ……。
「かかる火の粉は元を延焼させて消し炭にしたニャ」
怖えなあ、何したんだろ。
「ま、そんな話はいいニャ。ところでイズミは剣と魔法を使うって言ってたけど、どっちがメインなのニャ? 見た感じ魔法っぽい気がするけど。ガングボアを仕留めたのは魔法?」
いきなり話題が変わったなあ、おい。
オレも進んで続けたい話題じゃないからいいけどね。
ああ、そうか。
臨時とはいえ、組んで移動する事になったから、自分の役割を明確にしておきたいのか。
ふむ、オレの刀はズボンのベルトにぶら下がってるから、コートに隠れて見えないか。
しかも、無限収納のギミックで短刀並みに短いから余計に判り辛いよな。
「さっきのは魔法だな。どっちがメインとかは別にないぞ。状況に合わせて使い分けてる」
「まさか、その木刀ニャ?」
背負い袋からはみ出してる木刀が目につくのは当たり前か。
背負い袋を細工して、たすき掛けに背負えるようにしたけど、そこから柄が出てるもんな。
正確には、筒状の布を背負い袋に縫い付けて、そこに挿すようにして一緒に背負ってるんだけど。
なんとなく武器の重さを感じてたほうが落ち着く時もあるからねえ。
「これは鍛錬用だな。まあ、これでも大抵はなんとかなるけど。他には今の所は出番のなさそうなのがあるな。――で、そういうキアラの獲物はなんなんだ?」
「あたしはこれニャ」
そう言って腰に下げた剣――オレに見えるように服をまくり上げて、片手剣のように見えるそれに手を添えるキアラ。
それはいいんだけど、無駄に片方の腰を突き出し過ぎだな。
そういえば、剣が腰に着いてたな。腰から下にしか目が行ってなかったわ。
「あとはコレとか。で、援護、補助系の魔法かニャ」
言いながらキアラが上着の前を少しずらすと、革鎧のようなものに備え付けられたクナイのような投げナイフが数本見えた。
あ~、つまりキアラのパーティーでの役割ってのは……
「なるほど、遊撃になるのか」
「だいたい、そんな感じニャ。主役張るには火力不足なんだニャー。で、リナリーは? 妖精だから魔法主体かニャ?」
「ん~、そうね。ほぼ魔法のみかな」
「完全に後衛職なんだけど、ゴリゴリの攻撃型なんだよな」
「そうなのニャ?」
「ゴリゴリの攻撃型って何よ。回復とか補助だって使えるの知ってるでしょ」
「そりゃまあ知ってるけどさ。優先度が段違いじゃないか?」
「イズミが支援系を必要としないからでしょ?」
「まあ、修行の一環だからな――っと、くるぞ」
「ん」
「何、どうしたのニャ?」
オレの言葉にコクリと頷くリナリー。
キアラは事態が飲み込めないのか、ワタワタと周囲を見回している。
「いや、索敵範囲に何か入ってきたんだよ。距離500って所か」
この距離の単位は歩数で表してるが、大体何処でも通じるらしい。
小走りでの一歩が基準になってるようで、約1メートルとして扱って問題ない。
地球みたいに星の大きさから割り出したわけでもないのに、なんという偶然の一致。
……いや、ほんとにね。
単位を敢えて付けないのは、移動して地域が変わった時に混乱しないようにするための知恵なんだそうだ。商隊とか冒険者とかは特にそういった傾向にあるという。
あとは特定の国の単位を使うと、角が立つとかなんとか。
めんどくせえー、統一しちまえよもう。
「……そんな遠くの気配が分かるのニャ?」
目を丸くして尋ねるキアラだが、どこか信じられないといった雰囲気も。
「必要に迫られて覚えただけなんだけどな」
やや苦笑いが混じってるオレの返答にも納得しきれてないようだ。キアラの周りには同じような事が出来るヤツはいないんだろうか。
オレの場合、ラキと狩りのタイムアタックで散々鍛えたからな。
狩る頭数を決めて、よーいどん、で何回勝負したことか。
その甲斐あってか索敵魔法は、展開のスピードと範囲、省エネ具合は自分でも自信があるくらいだ。
「索敵の精度はそんなに悪くないぞ?」
「……そこに引っかかってるワケじゃないのニャー……」
「ふむ? まあいいか。そうだ、丁度いいからリナリーいっとくか?」
「いいの?」
「魔法が得意なのを理解し易いだろうからな」
「ん、了解」
標的のいる方向に向き魔力を練り上げ、魔法の構築を瞬時に行うリナリー。
いつも見てるけど相変わらず早えな。
お、水球にアレンジを加えたか?
「水流槍!」
あ、違った。
球じゃなくて槍だった。
標的の移動速度もそこそこあるけど、こちらも移動しているので割とすぐに距離が詰まるな。
圧縮して待機させていた水流槍を手の振りと共に勢いよく放つリナリー。
器用に木の間を縫って飛ばすねー。オレより上手いんじゃないか?
って、おいおい。一斉射だけじゃないの?
……やりすぎ。
確かに3匹ともトカゲ系のでかいヤツで、近寄るのが億劫だったけれども。
仕留めた獲物を確認したけど、穴だらけじゃん。
「デタラメだニャ~……」
あら、何処かで聞いたようなセリフだあね。
「え、え?」
オレに向けられたセリフじゃないぞリナリー。
「妖精族がそんなに強いなんて聞いたことないニャ……。ワッパー3匹を近寄らせもしないってどういう事ニャ……」
あ、そういえばそんな名前だったなアレ。
ワッパードラゴンとか言ったっけ。
ドラゴンとは名ばかりの、大きいだけのトカゲなんだけど。
ちなみに全長10メートル越えは当たり前。尻尾も込みだから巨大という程ではないか?
「えーっと、いつもよりちょっとだけ多めに撃っただけなんだけど……わ、分かり易かったでしょ?」
言われ慣れてない事言われたから焦ってるな。
「二人の常識の基準が余計に分からなくなったニャ~。色々と心配してるみたいだけどリナリーを捕まえるのって相当な腕でも無理だと思うニャ」
「あ~、まあリナリーを捕まえるのは難しいだろうなあ。オレだって本気で抵抗されたら捕まえる自信ないし」
とはいえ、油断してたらリナリーでも分からないからな。
一応警戒のほうは継続していくつもりだ。
「そんな事言ってるけどイズミの様子からして、今のだって二人にとってはごく普通の事だと思ってやってないかニャ?」
「多少やりすぎだとは思ったけど、引くほどじゃないだろ?」
「どん引きニャ! ワッパー3匹って熟練者でもパーティー単位で戦力が必要ニャ」
そんなもんなのか。里のみんなだってこれくらいはやってたけど一般的じゃなかったんか。
オレの考えていた事が分かったわけではないだろうが、しかし何処か理解してない節があるとキアラは思ったらしい。
「はぁ……確かに常識を学ばないと悪目立ちが確定するのニャ~」
何かを諦めたかのように肩を落として溜め息を吐くキアラ。そんなにズレてるのかオレ達。
情報を仕入れれば微調整で済むと思ってたのは楽観的過ぎたかね。
キアラの反応を参考に、色々と落とし込んでいけば大丈夫だと思ってたんだけど……ダメかこれは?
獲物を回収して移動する事になったが、回収時も「やけに容量のあるマジックバックなのニャ……」なんて言ってたな。
それはいいとして、このまま街に行かずに何処かで一泊しようという提案がキアラからされた。
どうも今のオレ達を街に連れてくのを、すげえ不安に思ったらしい。
街に着くまでに出来る限り情報を刷り合わせたいとか。主に常識の。
なので街道まであと少しという距離の山道脇にまで来ていたが、ここで野営の準備をする事になった。
さて、じゃあコテージ、コテージ。
ドスゥンッ!!
「な、なんニャ、これは……」
あ、コテージの事何にも言ってなかったわ。
いきなりデカイもの出したらビックリするよな、そりゃあ。
え、違うの?
……なんか、どこまでオッケーなのかワケが分からなくなってきたぞ。
この先の展開を非常に迷っております(´・ω・`)




