第二十七話 題名のない物語り
里の様子がいつもと違うと感じたのは、約二ヶ月前。
その時はまだ、いつもより草木に力がないなという程度だった。
でもその後、地脈の流れが微妙に変化している事に気付く。
事の始まりはそんな感じだった。
悪化していく状況に、その場凌ぎ的な対応では改善の見込みがないのではないか。
このまま樹園木が枯れてしまえば、里を捨てなければならない。
そうなる前に、何かできる事はないか。
そうして調査をした結果、地脈の流れが弱まったのではなく、経路自体が何者かの干渉を受けたかのように変容していた事が分かった。
ここまでくると、私たちの手には負えないのではないかという疑念が沸いてくる。
地脈の経路の変化なんて、どうにか出来るとは思えない。
しかし、流れの太さなら何とか出来るかもしれない。
そうした方法なら、複数の魔方陣で処置を行えば不可能ではないという。
そして、万が一の為、万全を帰す為にも、あるお方からお知恵をお借りしようという話になった。
それに私は志願した。
随分と久しぶりにはなるけど、神域には何度も行っているし、入り口も時間さえ掛ければ見つけられる。
でも今回は古道が使えない。
古道を使う時の基本は3人か4人で潜るのが決まりになっている。
魔力を吸収されてしまうという古道の性質を考えれば当然の安全措置だと思う。
ところが今回は人員を割く余裕がなく単独行動になるために古道は止めたほうがいいと。
「魔石が無いんだから古道を使ってもしもの事があるよりは、森を移動したほうがいいわね。魔力を隠すのも上手いし、滅多な事では野生種に見つかる事もないだろうから適任だと思う」
本当に一人で大丈夫なのかという、いささか過保護過ぎる不安視に対して、サイールー姉さんのその言葉が最後の一押しになって、私が神域へ向かう事が決まった。
私を心配してくれるのは分かるけどね。
でも、向き不向きを考えたら私が適任だと自分でも思う。
そんなこんなで、食料を魔法袋に詰め込んで里を出発。
「くれぐれも気を付けてね。さすがにこんな所まで人間は入って来ないとは思うけど、用心だけは忘れないようにね」
ルー姉さんのこの時の言葉が、何かを暗示していた訳じゃないとは思う。というか思いたい。
でも、やけにはっきりと記憶に残ってるって事は、その後の体験が強烈だったのが原因なのは間違いない。
森を移動して三週間近く。
やっと神域が目と鼻の先にある場所までやってきた。
その道程は、木々の間を縫うように飛んで極力他の生物との接触は避け、夜は木の洞なんかを利用して魔方陣で気配を誤魔化して休息という、安全第一をモットーにしたもの。
しかし、あと少しという所で気を抜いていたのが仇となった。
気が付くのが遅れて、あっという間に戦闘域に巻き込まれてしまったのだ。
そこまでだったら、急いで距離をとれば何とかなったかも知れない。
ところがそこに留まって様子を見ようとしたのがいけなかった。
連続した複数の爆発で巻き上げられた煙と、それに紛れて飛んできた石や木片を回避できずに意識を失ってしまったようなのだ。
後でラキちゃんと獲物の数を競っていたんだと聞いて、死んでたらどうするの! って怒ったけどね。
巻き込まれる直前の奇妙な魔力を深く考えなかったのが、今にしてみれば悔やまれる……。
索敵用の魔力を放射して、それで獲物をかき集めていたらしいけど……何、50頭って? あれはないわ。
まあ、結果的には死んでないんだからいいんだけど……ね。
でもイズミにそれを言われるのは、なんか釈然としない!
ホントに悪いと思ってるのかしら?
そこで気絶していた私を見つけてくれたのがラキちゃんだった。
でもその時の私はそんな事知らないから、いきなり目の前にいた人間に思考が混乱しかけたのよね。
まずい、どうしよう、人間に見つかった、と、逃げようとして逃げられない事に気付いた時には既に「放して! 放しなさいよ!」なんて自分でも知らないうちに叫んでた。
「すまん、声が高すぎて何言ってるか聞き取れない」
この言葉を聞いた時、内心で「はっ?」となったのは同じ妖精なら分かると思う。
何を言ってるのか、意味が分からなかった。
私に何をする訳でもなく、ただ目を覚ますのを待っていたというのも信じられなかった。
人間に見つかったら間違いなく捕まると聞いていたし、実際に捕まりそうになったという話をここ数年で何度か、交流のある他里から聞かされていた。
それなのに、この目の前の人間は、
(って、あーもう面倒だわ。時系列順に文章に起こしてたら、何か違和感ありまくり! 日記みたいに一応出来事や記憶を忘れないように書き留めておこうと思ったのに、全然上手く書けない……。形式を整えて分かり易く書こうとして、失敗するパターンになってるわ……まあ、取り敢えず書けるところまでは書いておこう)
それなのに、目の前にいたイズミは、第一声に「すまん」って言っただけだった。
声が聞き取れない事が重要であって、それ以外は今はどうでもいい、ただそれだけだと。
何故か飛べる事にも驚いていたけど、なんだったのか。
それを後日聞いてみたら、イズミのいた世界では妖精は空想の中の住人で、本当に飛んでいる所を見たら感動したとかなんとか。
とにかく、こっちが拍子抜けするほど私に興味がないみたいだった。
あー、違うわね……道具としての私の価値に興味がないだけで、私自身には興味はあったみたい。
なんか、すごく珍しいものを見つけたって喜んでるような感じだったし。
うん、最初のそれで警戒心が少し解けたのは確かだと思う。
それにラキちゃんがえらく懐いてたしね。
兎にも角にも普通ではない出会い。
それがイズミという人間との出会いだった。
その後、目的地の神域に到着。
到着したらしたで、そこでもまた驚かされた。
ラキちゃんとのデタラメな模擬戦。
異相結界に、異常な程の魔力量。
ここではない、違う世界から来たという事も。
信じがたい話ではあったけれど、イグニス様がそんな嘘をつく意味がない。
あとはイズミがお尻好きだっていう情報も何故か一緒に明かされた。
確かに私はお尻には自信ある。でもなんでこのタイミングで言ったんだろう?
私が緊張してるのを見かねて場を和ませるために言ったのかな?
って、興味ないってなによ!? こんないいお尻を目の前にしてそっちのほうが驚きよ!
でも何より驚いたのは、イグニス様がその事を楽しそうに話しているのが一番驚いたんだけどね。って言ったらイグニス様はどんな顔するかな?
私の話から、おおよその事を推測したイグニス様から対処法を聞き里に帰る事に。
その際イグニス様は気になる事があるとかで何処かに向かわれるようだ。
やっぱり龍脈の乱れって、うちの里だけの話じゃないのかな?
一泊して里に帰還したけど、古道の移動では酷い目にあったわ……。
もうちょっと加減してくれてもいいのに……。
でも迷っても責められなかったな、そういえば。
それさえも楽しんでいるみたいだった。
里に到着後、人間が同行してきた事に驚いてはいたけど、里に入る許可は割りとすんなりと降りた。
予想通り里の皆は興味半分、警戒半分といった感じ。
これが切っ掛けになって多少意識が変わってくれるといいんだけどな……。
難しい事だっていうのは分かってるけど、妖精だけで世界が完結しちゃってるのは、やっぱり寂しいよ……。
私の場合、最初に出会った人間がイズミだったっていうのは運が良かったのかもしれない。
最初は、いきなりだったからかなり警戒しちゃったけど、それでも害意みたいなものは全く感じなかったし。
その辺り、長老様も何か感じたのかな?
全然警戒した風じゃなかったのは、ちょっと不思議。
確かにラキちゃんがベッタリで、警戒する必要なんてないのは見れば分かるけど。
わ、私はベッタリじゃありません!
それはともかく、里の状況が思ったより芳しくなかった。
三週間が経過して、イグニス様が懸念していた状況に近づきつつある。
地脈の力を取り込んで、何かが生まれるのか、または既存の生物が変容している可能性。
最悪の場合、迷宮が誕生しているかもしれない。
そうなってしまったら、流路固定も強化も諦めるしかない。
そこの所をはっきりさせる為に、半ば騙まし討ちのような形でイズミに調査を依頼。
翌朝に事態が急変した事で、原因の調査ではなく排除に移行。即座に出発する事に。
力の流入先に近づくにつれて、どんどん嫌な感覚が増してくる。
そんな不安が顔に出てたのかも知れない。
イズミに里に帰れと言われてしまった。
でも、それは承服できない。
二人を置いてく位なら、最初から一緒に来てない。
確かに足手まといかも知れないけど、私にだって出来る事はあるはず。
それに、人間にも色々いるんだという事をみんなに分かってもらういい機会かも知れない。
無警戒になれなんて事を言うつもりはない。
でも、人間の事が好きなのに、警戒して怯えるなんて歪な感情を持ち続けるのは良くない気がするの。
イスミと出会って、その事を前にも増して感じるようになった。
どうしても一緒に行くと言って聞かない私に、結局は折れてくれた。
……もしかして心配してくれたのかな?
まだその時は、私だって役に立てる、役に立ちたい、と思っていた。
でもその考えは甘かったと言わざるを得ない。その事を否応なく理解させられた。
最悪の、遥か上をいく厄災がそこにいた。
なし崩しに戦闘に突入したけど、イズミは里の事を最優先で考えていたように思う。
私の事も足手まといなどとは考えず、極自然に当たり前のように守ってくれた。
最初の激突、突進してきた黒曜竜からの回避も、フワリと抱きかかえて移動やら何やらの衝撃も極限まで緩和して負担を全く感じさせない徹底ぶり。
思わず、何とはなしに横顔をまじまじと見つめてしまった。
宴会の席で、「イケメン?」と聞かれた時に思わず微妙と答えてしまった時も、そういえば横顔だった。
けど、偽りなく答えればイズミの顔は整ってる。
目つきは悪いけど。
受ける印象がその時々で違うから、どう言っていいか迷うけど、端正な顔立ちなのに中性的な雰囲気も漂う不思議な外見をしてると思う。
目つきは悪いけど。
ん~、でもなんで目つきが悪いと思うんだろ? 目が細いとかじゃないのに。
あ、鋭いって言い換えたほうがしっくりくるかも。
あと身体つきも太過ぎず細過ぎずバランスのいい、均整のとれた、というのが印象としては一番強いと思う。
『マッチョの一歩手前だな』なんて言ってたなー。
で、マッチョって何?
まあ、なんとなく言わんとしてることは分かる。
話が逸れちゃった。
思い返してみると、決着まではハラハラさせられっぱなしだった。
正直、何度死んでしまったと思ったか分からない。
ラキちゃんから、「大丈夫!」って意識が流れてきてたから、取り乱したり、泣き喚いたりって事はなかったけれど、それでも胸が潰れそうになる感覚は数え切れない程あった。
八つ当たり的に『尻好きバカー!』なんて叫んじゃったけど、それくらいは言っても許されると思う。里の皆にバレたのも込みでね。
それにしても、ラキちゃんはイズミが勝つって信じてたみたい。
なんで疑いもなく、そう思えたんだろう。
やっぱり模擬戦とかしてるから、そうなると信じてたのかな?
ううん、それ以上の何かを感じるのは気のせいじゃないと思う。
信頼? 絆? 種族は違うけど二人の間にはそれがある?
イズミがこの世界に来て、そんなに時間は経ってないはずだけど、そういうのに時間は関係ないって事?
それを羨ましいと思う私は、変なのかな……?
黒曜竜を倒した。
それをこの目で見ても未だに信じられない。
イグニス様のような高位の竜族でもないのに、倒してしまった。
その時はそんな事を思いながら、倒れたイズミをあたふたしながら治療をして里に戻った。
妖精の瞳の記録内容の公開(イズミ風に言うなら上映)は相当衝撃的だったみたい。
偽りの記録は不可能だからこそ、逆に現実味がないというか。
それでも時間が経てば、それが事実であると理解していったようだ。
「いろんな意味で、とんでもない人間を連れてきたわねー」
ルー姉さん、それは私が一番分かってるってば。
宴会後から、里の皆の意識が少しづつ変わってきたように感じる。
人間という括りで見られてないような気もするけど、本人は気にしないでしょ。
それから数日は里に滞在が決定したイズミ。
念のため身体の回復具合の様子も見たほうがいいという事になったはずなのに、あっという間に回復。あそこまでボロボロになったのに、一日で治っちゃうとかどうなの?
黒曜竜の素材をどうするかとか、服を新調したりとかあったから、結局は滞在期間が延びたんだけどね。
でも欲しい物が服関係の物しか思い浮かばないって言われた時には、みんな若干困ってたわね。
一応、人間の街でも使える貨幣や砂金だってあったのに、必要ないって言うし。
確かに、あれだけの大きさのドルーボアを片手間に仕留められるならお金には困らないでしょうけど。
他にも換金できそうな物も持ってたみたいなのよね。
契約して恩返ししようにも、イズミはこの世界にずっといるわけじゃないだろうから、それも難しい。
そもそも契約しても意味がないくらいの魔力量と身体能力を持ってるから前提からして成り立たない。
じゃあ、どうしようかという事になる。
当然のように依頼された物に全力を注いだわけです。
常識的に考えれば、人間には扱いきれないくらいのぶっ飛んだヤツ。
妖精の瞳の映像を見て、生産職の面々が技術の限界に挑んだらしい。
そういえば、妖精の瞳を胸に仕込めとか言ってたわね……許さん。
胸で思い出したけど、ルー姉さん、イズミの魔力を吸い取った時にチクビから吸ってたよね……。
気になったのはイズミの上着を脱がした時、やっぱりみんな私と同じ反応だったこと。
イズミって鍛錬後に、洗濯と称して上着を脱いで水魔法で一緒に身体の汗を流すんだけど、初めて間近で裸を見た時にクラっときたのよね。
わけの分からない感覚だったけど、皆同じ反応だったからちょっと安心した。
自分だけだったらどうしようかと思った。
まあ、不快ではなかったからあんまり深く考えなかったんだけどね。
「強烈ね……これは」
「ルー姉さん、何かあるの?」
「たぶんだけど……いえ、言わないほうが良さそうね。下手に意識しちゃうと厄介そうだから」
なんて会話があったのは、なんだったんだろう……気になる。
でも教えてくれなさそう。「害はないから放っておいても平気よー」とか言ってたけど、ホントに放置してもいいのかな?
普段のルー姉さんは信用できるけど、ある方面に関してだけは信用できないのよね……。
まあ、害がないならいっか。
イズミの滞在期間が延びたのは、他にも理由がある。
私たちは今回の騒動で自衛手段の乏しさと、出来る事を怠ってきたという事を痛感させられた。
その事でイズミの使っていた魔法に注目が集まり、臨時で講習会が開かれた為、滞在期間の延長になったというわけ。
いいの? と気になって聞いたら「予定なんか、有って無いようなもんだからな」と言っていたから本人的には構わないらしい。
そこは気にしないのに「ちゅうに病が……黒歴史が……」とかブツブツ言って、レーザーブレスの名前を気にしてたみたいなのは、なんだったんだろう?
レーザーブレスは私が一番早く覚えられたのはちょっと嬉しかったかな。
結果的に全員が習得できたのもホッとした。
不可能だと言われていた異相結界を習得できたのには、みんな目が点になってたなー。
その副次的効果というか、副作用というべきか。
魔力の操作が劇的に変化してレーザーブレスを簡単に覚えてしまったり、魔方陣を精密に転写出来るようになったりと感心を通り越して呆れてしまうくらいの効果に、長老様も笑顔が引きつっていたみたい。
確かにそうなっても可笑しくないと私も思った。
ルー姉さん達が、そこら中に魔方陣を書きまくったおかげで、結構みんな酷い目にあったからね。
「うん、やっぱりとんでもなかったわねー」
「今それを、このタイミングで言うとか……ルー姉さん」
色々やらかした後で言い訳にはなりません。
それにしても、イズミが来てから里の様子が随分と変わったと思う。
みんな寝てないんじゃないかってくらい精力的に動いてる。
特に素材の研究班は、寝るのが惜しいって言うくらい楽しいらしい。
鉱石竜の外殻と内側の赤い鉱石の利用法を、研究の主軸に進めているようだけど、応用範囲を考えるだけでもすごい事になりそうだと言っていた。
ただ、イズミにとっては微妙かも知れないとも言ってたかな。
だってイズミってば、無詠唱で何でも出来そうだから。
その証拠に、いきなり共鳴晶石なんて作っちゃうし。
振動系の魔法を極限まで出力を高めるなんて、すぐには思いつかないって研究班のみんなはちょっとショック受けてたよ。
石にそんな魔法を使うなんて発想は、いきなりは出てこないとも。
言われてみれば、確かに私たちの発想にはないかも。
躊躇無く高純度の魔石を、宝石のように加工するなんて事もまず考えないよね。
あっ――。
共鳴晶石の実験の時、お尻が見たいとか言われたよね、そういえば。
どう返していいか分からなかったから思わず怒っちゃった。
すごい恥ずかしかったけど、本気だったのかな……?
また言われたら、今度は見せる?
いやいやいや、そんな恥ずかしい事。
それはそうと、加工済みの魔石を渡されたのには、何か理由があったのかな?
いきなりだったから、どうしていいか分からなかったけど、ちょっと嬉しかったかも。
なんとなくって言ってたよね。もしかして里を出て行く前に、“思い出として”みたいな、そんな意味で私にくれたとか……?
だとしたら、なんかちょっと……。
ううん、それは考えても仕方ない事だよね。
とにかく、ここ数日で里の空気が変わったのはいい事かも知れない。
常識のほうも、いろいろと基準が変わっちゃった気がするけどね。
成長魔法については、しばらくは忘れたい……。
継続して使うけれども!
(ふぅ……物語っぽく書いてみたけど、どうなんだろう? どうせ書くならと思って挑戦してはみたものの、誰かに見せるっていうのはないわね……。誰かに見られたらと思うと、恥ずかしいなんてものじゃないでしょ、これ。でも……そっか、考えないようにしてたけど、里を出てっちゃうんだよね……。)
~~~~
さて、大体の事は書けたかな。
誰にも見られないように新作の無限収納に入れておこう。
もっとも、里の皆はともかく、イズミには字が小さすぎて読めないと思う。
無地のトラス布を持ち歩いてる所をイズミに見られたけど、まさか自分の事が書かれるなんて思わないよね。
このトラス布を見ても「わしに似てるな。でも恐ろしくキメが細かい」とか、素材に興味を示してた程度だったし大丈夫でしょう。
それに、今は新しい装備に夢中でそれどころじゃないだろうからね。
もう慣れてきたけど、相変わらず発想がおかしいのよ。
ローブを全身に張り付かせるのは、まあ、何とか理解出来なくはない。
どこまで可能なのか検証するためだというのは分かるから。
でも、その後のわけの分からない変身とかいうのはどうなの?
一番最初のロングコートみたいなのは結構、その……格好良かったのに。
わざわざ怖い生き物の姿を真似しなくてもいいと思う。
でも好きな事は自重しないのよね、きっと。
完全に趣味に走ってる。
色が欲しいとか言い出してるし。
いつの間にかルー姉さんが変身を便利なものとして捉え始めてる。
ルー姉さんが騙されかかってるのは、似た部分があるからなのかなあ。
それはそれとして、トクサルテの花が透明になったのには目眩を覚えそうになった。
こっちの予想を裏切らないと気が済まないの?
それと、透明になる服を着るかどうか聞いてどうする気!?
そのあと長老様に透明人間になる方法はないか聞いて、なさそうだと分かると、力なく地面を殴りつけてたわね。
そこまで落ち込むとか、何をする気だったのかしら?
覗き、とかはなさそうね。
だって、堂々と見に行きそうだし。
おおかた、自分の中の記憶物に影響されて実現可能だとか早とちりしたんでしょ。
そう一連の流れを考察していると、ふいに話題が変わった。
「それはそれとして、そろそろかのう?」
「ん? ああ、うん。そろそろ神域に戻ろうかなとは思ってるよ」
「え、もうちょっと居てもよくない? あなたがいると面白いものがいっぱい作れそうなのよね」
「確かに里を出てくのは寂しいけど、そろそろ動き出そうかなとは思ってたからな。それにイグニスから魔法の制御関係を教えてもらうのが途中だったし。」
「直接、顔を合わせる事は難しくとも共鳴晶石がある。それに、これっきりというわけではあるまい?」
「まあ、ね。しばらくは来れないかもしれないけど、必ずまた来るよ」
「朝の乳搾りがなくなるのも、何気に痛いわよねー」
直絞りが、いつの間にか乳搾りになってる?
「搾乳してたの、サイールーか!」
「ほっほっほっ」
確かに共鳴晶石で、いつでも連絡はできる。
でも……。
イズミが神域に戻る事を決めたことを受けて、盛大に送り出さなければという話になり、翌日に宴会が催させる次第となった。
黒曜竜討伐後の宴会から10日と経ってないような気もするけど、それはそれという事らしい。
明日宴会で出発はその次の日、二日後。
帰る事を決めたのに、イズミの態度はいつもと変わらない。
日課をこなし、里の中を散策がてら冷やかして周っているのも相変わらずだ。
そんな風景を遠目に見ながら木の枝の上でボーっと座っていると、更に高い枝から声が。
「一緒に行かなくていいの?」
声の主がふわりと枝に降り立ち、互い違いの方向を見るような格好で私の横に座る。
「ルー姉さん、いたんだ……さすがに私が居なくても、もう迷わないでしょ。それに私が居たら話せない事もあるかも知れないし。……あの笑い方。絶対やらしい話をしてる」
「そういう事を言ってるんじゃないって事くらい、分かってるんでしょ?」
「……」
「イズミのような人間はそうそう居ないと思う。彼は、なんていうか特別。私もそれ程人間を知ってる訳じゃないからうまく言えないんだけどね。だからこそ敢えて言うけど、彼みたいな存在には二度と巡り会えないんじゃないかな? 何が気にかかってるのか見当が付かないワケじゃないけど、案外、すんなりと片付いちゃう問題かもよ?」
「そう、なのかな……」
「まあ、どっちにしても嘘はつかない事ね。自分に」
そう言って笑顔のまま飛び去って行くルー姉さん。
しばらくその方向を見つめていた事にも気が付かないほど、頭の中でいろんな思いが浮かんでは消えを繰り返していた。
この感情が愛情なのか、単なる好意なのか、自分でも分からない。
恩義からくる錯覚でもない。
なら、この感情はなんなのだろうか。
次の日、朝から宴会の準備に追われ、余計な事を考えなくて済んだのは良かったかも知れない。
その宴会も、つつがなく終了した、と言っていいかどうか判断に迷う。
餞別の意味合いが強い贈り物の数々に、主に魔法が選ばれたのが、わやくちゃになった原因だと思う。
妖精族が独自に受け継いできた魔法や魔方陣を教えたのは単に面白がっていただけのように思える。
あれだけの魔力量があると戦闘に主眼を置いたとしても、かなりの数の付与が同時に施術できる。 ましてや戦闘時でないなら、いくらでも重ねがけが出来てしまうんじゃないだろうか。
そんな事もあって、みんなしてあれをやれ、これを付与してみろ、とイズミをオモチャにしていたようで。
どの魔法が干渉したのか定かじゃないけど、イズミを中心に極小規模の竜巻が発生したり。
その魔法を制御するどころか「神○の術だな!」とか言いながら出力を上げて、周りにいる女の子たちのスカートを標的にしていたのには、ちょっと引いた。
「おお……いいものをお持ちで」
なに、手を合わせて祈るような格好してるのよ!
これだから酔っ払いは。
その後、前回と同じように深夜まで宴会は続いて、みんなバタバタと倒れるように眠ったのを合図にというのもおかしいけど、満足しきったような空気の中、お開きになった。
明日までに決めなきゃいけないんだよね……。
その頭から離れない、迫られた決断を抱えたままで花のベッドに潜り込んだ。
結局なにも決められないまま、イズミとラキちゃんが神域に帰る日の朝になってしまった。
里の外の世界を見てみたいと思う自分がいるのは自覚している。
それを抜きにしても、イズミともう少しだけ一緒に居たいと思う自分がいる事も。
だけど、私が一緒にいても足手纏いになるだけなんじゃないだろうか。
他の人間と接触した時にどうしたらいいのかも分からないし、私がいる事でトラブルになる可能性さえある。
イズミにとっては私と一緒にいても、利点が何もないんじゃないか。
それに、私が里に帰って来た時点で、この先も一緒に行動するなんてイズミは考えてないかも知れない。ううん、その可能性のほうが高い。
そんな考えがグルグルと巡って時間が過ぎてしまい、ほぼ一睡も出来なかった。
昼前にイズミが里を離れるというので、宴会の後片付けを里の住人総出で早々にこなし、見送る為にみんな広場に集まってきていた。
大勢が見送る中、イズミが長老様と何か話している。
でも、何を話しているのか、聞こえているはずなのに全然頭に入ってこない。
(一緒にいたいけど……)
俯いたまま、そう微かな声で呟いた。
そしてその言葉とは裏腹に、このまま里に残ったほうが良いと、自分を納得させようとしたその時にイズミに呼ばれている事に気が付いた。
「――……ナリー、リナリー!」
「あ、えっ?」
「何、ボーっとしてんだよ。 行こうぜ」
イズミの言葉に、理解が追いつかなかった。
「えっ?」
「……えっ?」
なんでイズミもビックリしてるの?
いまの妙な間は何?
私が同行しない事を、考えもしなかったみたいに見える。
なに? どういう事?
「一緒に行ってもいいの……?」
「あれっ? そのつもりだったんだけど……ええっ!?」
うそ、ホントに考えてなかったみたい。
「ぷっ! あはははっ!」
これといって利点もないのに、私みたいな可愛げのない妖精と一緒に行くのが当然とか、普通思わないでしょう?
なんか、いろいろ悩んでたのがバカみたい。
「はーおかしい。行くよ、一緒に。当たり前でしょ!」
「お、おう」
「わふっ!」
ルー姉さんの言う通りだった。
あっという間に片付く問題だったよ。
彼について行けば……
イズミと一緒なら。
描く事が出来るかもしれない。
私だけの物語の続きを。
ふふっ、どんな物語になるか全く予想がつかないけどね。
ベタな展開でしたね~(´・ω・`)




